大ナマズ伝説の鹿島神宮門前で、ナマズ料理に舌鼓。
第14回 「鈴章」
鹿島(正確には鹿嶋市)と聞いて、今や一番ピンと来るのは、サッカーチーム 鹿島アントラーズだろう。都心ではなくアクセスの少々悪い土地にても、常に優勝を争うチームを作り上げ、鹿島の名を全国区にした。
少しだけ解説をしておくと、鹿島郡鹿島町が市制を施行した際、鹿島市はすでに佐賀県に存在したので、鹿嶋市としたそうだ。ではその鹿嶋ってどこにあるの、と聞かれて、正確に答えられる人はどの程度おられるのだろうか。
ぼくも、行ってみるまではもっと内陸にあるのかと勘違いをしていた。鹿嶋は鹿島灘という太平洋に面した海域にあり、鹿島臨海工業地帯が形成される一大工業都市なのだ。JRを利用すると意外と時間がかかると聞き、高速バスで向かった。
この高速バスには世界中の老若男女が乗っていて、いったいこれからどこに連れていかれるのだろうかと不思議な感覚だ。実は東京駅発着の高速バスとしては、便数・利用者数が最も多いらしい。バス停には大量の客が待っているものの、乗り切れなくてもすぐに次のバスがやってくるといった具合なのだ。
こんな人たちが吸い込まれていく工業地帯にも多少興味はあったが、ここに着いたらまずは鹿島神宮への参拝が筋道だ。というより、今回訪問する店と鹿島神宮とは密接な意味合いがあるそうなので、まずはそれを確かめに行くことにした。
鹿島神宮に残る言い伝えとして、地中にいる大ナマズが暴れて地震は引き起こされるものと、江戸時代の庶民の間では信じられていた。 そこで、地震が起きないよう大ナマズを地中深く押さえ込むための「要石」が、今でも鹿島神宮に祀られている。
今回ご紹介をする「鈴章」最大の楽しみはナマズ。鹿島神宮と大ナマズとの言い伝えをもとに、この地の名物とすべくナマズ料理のフルコースを独自に考案したという。
「鈴章」は、鹿島神宮の参道にあり、料亭と表現しても過言ではない立派な建物だ。食事処以外にホテルも経営し、鹿嶋の老舗として地元で深く愛されている様子がうかがえる。
さらに、鹿島神宮参拝客のオアシスとしても重要な存在。様々な料理を提供していく中、進取の気性あふれる店主がナマズ料理と取り組んだ。なによりまず驚くのは、店内にはナマズ専用の大きな生け簀があること。そこにコイが泳いでいてもおかしくない美しい大きな生け簀で、店舗をわざわざ改装し特別のスペースを設けて、万全の態勢を整えた。
過去に断片的にナマズを食した経験はあるが、刺身、天ぷら、煮物、蒲焼、唐揚、酢の物、お寿司と、あらゆる和食の技術が駆使されたコース仕立ては初めて。そして嬉しいことに、どちらかというと大味の印象しかなかったナマズのイメージを一気に刷新したのだ。
生け簀からすくいあげ実際にさばくところを見せていだたいた。
地中で暴れてそれが地震になったとの言い伝えがあるように、さすがに獰猛である。それを慣れた手つきで瞬く間に解体していく。
そんな活け造りともいえる状態の刺身を口にすると、同じ淡水魚なコイと比較してもナマズの方がしっとりとして味わいが濃い。結果、寿司となっても十分に寿司タネとしてのポジションを全うする。
珍しい食材バラエティ豊かなコース料理ではあるものの、「鈴章」では比較的安価で提供されており、懐に優しくコストパフォーマンスも高い。
ナマズ料理が未経験の方、そして鹿島神宮参拝を予定されるなら、ぜひとも、先入観なくトライしていただきたい。
というか、なにしろこれだけ大量の高速バスが、ピストンで東京~鹿嶋間を動いているのだ。鹿嶋市を訪れる人はこれからも後を絶たないはず。しかも、鹿嶋側のバスの発着所にも「鈴章」は比較的近いので、東京~鹿嶋の往復ルートにナマズ料理体験を組み込むなら、たとえ社用であっても楽しい旅の思い出となろう。
かくしてぼくはまた、世界中の人たちと相乗りな高速バスにて、夜遅くに東京駅まで戻ったのだった。
SHOP INFORMATION
▶ 店名 お食事処 鈴章
▶ 住所 茨城県鹿嶋市宮中1-4-27
▶ 営業時間 昼 11:00 ~ 14:00 / 夜 17:00 ~
▶ 定休日 月曜日
▶ TEL 0120-28-1417