金沢に残る花街の一角、女性的で繊細な洋食に古都を感じる
石川県金沢市「自由軒」のカツ丼
金沢、という言葉だけで日本人はすでにワンランク上のイメージを持つ。
ただ、その昔はメインのアクセスが飛行機。かなり離れた小松に飛行場があり、少々面倒だった。
日本国内の飛行場は、どのような過程で場所が決まるのか。きっと計り知れない利権が渦巻いていることは分かるものの、やはり腑に落ちない。
札幌や広島のように都心からずいぶん離れているケースもあれば、福岡のごとく、あっという間の好立地も存在する。乗客の気持ちになれば、どうせ行くならぎりぎりまで都心で飲んでいられる福岡に軍配があがるというものだ。
金沢も飛行場からのアクセスが悪く、飛行機を降りて、さてどうやって金沢まで行こうかと、いつも思案していた。ところが北陸新幹線が開通し様相は一変。移動時間は飛行機も新幹線もあまり変わらないと聞くが、乗り換えなしで金沢駅にドカンと止まる新幹線が圧倒的に優れ、素人目にも金沢への旅行者、特に外国人は激増しているように感じる。
まして北陸新幹線は、改良に改良を重ねた新型車両。九州新幹線でも乗り心地がいいなあと驚いたものだが、北陸はさらにその上をいく快適さだった。
そんな大賑わいの金沢だが、現地でタクシーに乗るとドライバーからのぼやきが聞こえてくる。大量に金沢を訪れる観光客は、徒歩やバスでアクセスしやすい、近江町市場、兼六園、ひがし茶屋街に集中。それ以外にもたくさん素晴らしい所があるのに、なかなかそこまで観光客は行かない。まして団体はバスを止める場所がないのでさらに訪れない。ゆえ、観光名所に大きな格差が生じて、文化遺産として維持できなくなってきているところもあるとか。
そんな話が気になりつつも、タクシードライバーが言う三大名所の一つ、ひがし茶屋街の洋食店「自由軒」を目指す。ひがし茶屋街は、典型的な日本古来のお茶屋風情を残す、極論すればテーマパークの様相である。歴史的な街並みをノスタルジックに感じつつも、どちらかというと「商売」が目につくストリートだ。
目指す「自由軒」はメインストリートの出発地点にある。ところが、ひがし茶屋街に到着してすぐに店に入ってしまうと、ここを歩くシーンが撮れないので、番組ディレクターの指示により、終点から逆に進むことになった。大勢の人がそぞろ歩く中、人の切れ目を縫って少しずつ動く。逆行するので違和感のないよう、あくまで人のいない空間を狙っての撮影は、歩くシーンだけでへとへとだ。
ようやく「自由軒」の前まで到着。
多くの地方都市で観光名所となってる旧銀行跡、みたいな表現がぴったりのモダンな建物である。入口横に置かれた昔ながらの食品サンプルは、今までの苦労も吹っ飛び、食いしん坊のモチベーションは高まるばかり。
渋い入口から入ると様相は一変。視界は純和風となる。カウンター席と小上がり、昔ながらの法被などもディスプレイされていて、調理のスタッフがコックコートを着ていないと、ここは小料理屋?と思ってしまう。そしてメニューはステキなイラスト入り。これまた外観とも内装とも違うカフェ風。食事をする前から、すでに満腹状態の楽しさだ。もう一点付け加えると化粧室は完全バリアフリー。とても広く快適で利用する価値ありだ。
「自由軒」の名物として名高いのはオムライス。ここで詳しく書くと本番での楽しみが半減するゆえ紹介のみにとどめるが、これは、オムライスというよりチャーハンかな。
何より特筆したいのは「昔のカツ丼」なるメニュー。「昔の」と銘打たれるものの、普通に知っているカツ丼よりモダンな印象すら持つ逸品。しかも、いかにも花街の女性が好みそうなヘルシーさと彩り、食べやすさが相まって幾層にも重なっている。個人的には、ビーフカツにウスターソースをかけてどうぞと勧められる「西」らしいアプローチに、最大の拍手を送りたい。
どちらかというと男性的な外観や内装に比して、実際の料理は繊細で美しく、女性的といえようか。このコントラストが、金沢らしさをさらに醸し出しているのかもしれない。
SHOP INFORMATION
▶ 店名 自由軒
▶ 住所 石川県金沢市東山1-6-6
▶ 営業時間
【昼】 11:30-15:00 ラストオーダー
【夜】 17:00-21:00 ラストオーダー(月〜金)/16:30-21:00 ラストオーダー(土日祝)
▶ 定休日 毎週火曜日/毎月第3月曜日
▶ TEL 076-252-1996