京都便利堂は美術の分野で印刷、出版に携わってきた創業135年になる美術工房。ここには19世紀のフランスで生まれた世界最古といわれる写真印刷技術、コロタイプの技術が継承され文化財の複製などに使われています。同社製作のミュージアムグッズも欲しくなるものばかり。アッキーこと坂口明子編集長は今回、この会社に注目。魅力を探ろうと株式会社便利堂の代表取締役社長の鈴木巧さんに、取材スタッフがうかがいました。
美術工房「京都便利堂」が製作するコロタイプの絵はがきとグッズ。アートを身近に楽しむことができます。
2022/05/25
株式会社便利堂 代表取締役社長 鈴木巧氏
—便利堂という社名はどのようについたのですか?
鈴木 明治維新前まで、錫屋として茶器や酒器を製造し、京都御所の御用を承っていた中村家が当社の始祖です。明治維新後、世の中が一変すると同時に、中村家の次男、中村弥二郎は貸本、売本、出版、新聞の取次、広告デザインなどの事業を行うようになり屋号を「便利堂」としました。文明開化の気風の中、新しい文化事業を幅広く手掛けたいという思いがこの社名に込められていると思います。
—コロタイプを始めたのはいつですか?
鈴木 明治38年(1905年)、弥二郎から事業を引き継いた中村家の長兄、弥左衛門がコロタイプ工房を開設しました。日露戦争の頃で戦況を伝える絵はがきが発行されると人々はこぞって買い求めたといいます。当社では京都の風景などを絵はがきにして人気を得、「絵はがきの便利堂」と言われるようになりました。この絵はがきを製作するにあたって導入したのがコロタイプと呼ばれる技法です。
—コロタイプとはどういう印刷ですか?
鈴木 写真術が生まれてすぐの19世紀にフランスで発明された顔料を使った写真のプリント技法です。濃淡を精巧に表現でき、質感がなめらかで色に深みがあり、耐久性に優れています。現在では世界でも稀少な技術として当社が継承、多くの工程を熟練の職人が手作業で行っています。この、人が関わって作る温かみが感じられるのがコロタイプの魅力だと思います。
—法隆寺金堂の壁画もコロタイプで修復されたそうですね。
鈴木 法隆寺金堂壁画は昭和24年(1949年)に残念ながら火事で焼損してしまいましたが、当社が原寸大で撮影した写真原版が残されていたので、これをコロタイプ印刷したプリントを下絵に使い彩色を施し、焼損して20年後に再現されました。また、最近では2021年に国宝に指定された伊藤若沖の「動植綵絵」全30幅(宮内庁三の丸尚蔵館)をコロタイプで複製する仕事などもしています。
《季趣五題》シリーズ、上から、「はるうらら〈日本橋 小村雪岱〉」、
「なつさかり〈奉祝の夜 山村耕花〉」、「あきみのる〈秋晴 金島桂華〉」、「ふゆこもり〈散華 小倉遊亀〉」
すべて¥385(税込)
《季趣五題》シリーズ「はるうらら〈惜春 池田遥邨〉」。
桜の季節、東寺の池に映った五重塔を描いた作品。¥385(税込)
—コロタイプ印刷で私たちにも身近な製品はありますか?
鈴木 コロタイプを一般の方にもしたしんでいただこうと、コロタイプが普及した明治時代から大正時代頃を中心とした絵画作品から小さな作品を選んでコロタイプで絵はがきにした40種類の《季趣五題》というシリーズがあります。最近はメールやSNSでのコニュニケーションが主流になりつつありますが、そんな時代だからこそ、美術作品の絵はがきを使って便りを出してはどうでしょうか。もらった方はきっと喜ぶと思いますよ。
「コロフル」(https://collo-full.com/)でオリジナル名詞、はがき、作品がウェブで発注できる。
名詞片面印刷100枚で¥29,700~(税込・送料別)。
—コロタイプを発注することはできますか?
鈴木 名刺やポストカード、8×10インチの額装作品などのアート作品をウェブ上で発注できる「コロフル」というサービスを2021年から始めています。工程を簡素にして低価格で短期の納品が可能です。コロタイプ印刷でプリントを作ってみたいという方にご利用いただいています。
「京都便利堂」のコロタイプ工房の様子。
—世界で希少となったコロタイプを広める取り組みをしているとか。
鈴木 コロタイプの見学会をコロナ禍でもオンラインで行ってきました。2014年から優賞者はコロタイプで作品が作ることができる写真コンテスト「ハリバン・アワード」(https://www.benrido.co.jp/haribanaward/)を創設し国内外の作品を公募し、世界に向けて発信しています。
また、コロタイプを学んでいただく場として「コロタイプアカデミー」(https://www.benrido.co.jp/academy/)を不定期で運営しています。アーティストから一般の方まで幅広い参加で、すぐに予約が埋まるほど好評をいただいています。工房を貸切って作品製作したり、当社の職人によるプライベート講習を実施しているので興味がある方はぜひ参加してください。
紙巻筆ペン〈重文・源氏物語絵色紙帖 野分 土佐光吉筆〉は
奈良の筆の老舗「あかしや」とコラボレーションして製作した。¥550(税込)
—私たちが最も身近な御社の製品はミュージアムショップのグッズです。
鈴木 展覧会で美術作品を見た感動の余韻を持ち帰りたい、また美術作品を身近に暮らしの中で使いたいという気持ちをグッズにして楽しんでいただくようにしています。製品化にあたってはその作品、文化財に込められた思いを忠実に受け止め、高い品質の製品として再現するようにしています。クリアケースやシールなどの文具、扇子、食器、手ぬぐいなど生活雑貨もありますので、ぜひ京都本店、ミュージアムショップやオンラインショップを覗いてみてください。
—今後の御社の方針をお聞かせください。
鈴木 コロタイプではデジタル技術を取り入れることで、アナログ印刷では難しかったサイズ変更が可能になるなど、日々新しい試みがされています。このように新しい技法を取り入れながら、美術作品や文化財の印刷、出版、保護、複製また、製品企画など広い分野での事業を通して、日本文化を継承、発信していきたいと思っています。
—本日は有意義なお話で勉強になりました。ありがとうございました。
右・紙巻筆ペン、
左・コロタイプ絵はがき
「《季趣五題》 はるうらら〈惜春 池田遥邨〉」
コロタイプ絵はがき「《季趣五題》 はるうらら〈惜春 池田遥邨〉」
価格:¥385(税込)
会社名:株式会社便利堂
店名:京都便利堂
電話:075-231-4351(10:00~18:00 土日祝除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品ページ:https://www.kyotobenrido.com/shopdetail/000000000331/
オンラインショップ:https://www.kyotobenrido.com/
右・紙巻筆ペン、
左・コロタイプ絵はがき
「《季趣五題》 はるうらら〈惜春 池田遥邨〉」
「紙巻筆ペン 〈重文・源氏御物語絵色紙帖 野分 土佐光吉筆〉 」
価格:¥550(税込)
会社名:株式会社便利堂
店名:京都便利堂
電話:075-231-4351(10:00~18:00 土日祝除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品ページ:https://www.kyotobenrido.com/shopdetail/000000000271/
オンラインショップ:https://www.kyotobenrido.com/
<Guest’s profile>
鈴木巧氏(株式会社便利堂 代表取締役社長)
1966年 滋賀県生まれ。同志社大学卒業後、株式会社便利堂に入社、営業部配属となる。2012年同社代表取締役に就任。2004年頃より海外展開にも力を入れ、特にコア技術であるコロタイプは近年多くの海外アーティストから「古くて新しい技術」として注目されている。
<文・撮影/今津朋子 MC/鯨井綾乃 画像協力/便利堂>