北海道小樽で作られ、高価ながら根強いファンに長年愛さる長靴があるという話をキャッチ。天然ゴムを使って熟練工が丁寧につくるそれは、使うほどに魅了される不朽の名品でした。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった第一ゴム株式会社 代表取締役社長の藤本雅彦氏に、取材陣が伺いました。
1度履いたら手放せない逸品。雪国の熟練者も納得品質の長靴「フィールドブーツ#1308」
2022/09/15
第一ゴム株式会社 代表取締役社長の藤本雅彦氏
―銀行から長靴製造会社へと、異色ともいえるご経歴の藤本社長。
藤本 妻が小樽出身、私が最初に配属になった支店も小樽と、多少地縁があった程度でしょうか。銀行に就職し、転職先のカード会社を経て、縁をいただいたのが第一ゴムです。いろいろな方の後押しをいただき、歴史ある会社で自分の力を試そうと、社長をお引き受けすることになりました。
―社外から見ていた会社に入られていかがでしたか?
藤本 2022年で創業87年。根強いファンがいてくださるとはいえ、この先、長靴だけではなく、世の流れに対応した挑戦も必要ではないかと、常々思っていました。実際に入社してみると、改善点が多く、社内施設の劣化や営業管理の未整備等、銀行とかけ離れた体質に、胃が痛くなるほどの責任感を感じました。銀行員時代の失敗、成功、出会い、すべての経験を新しい世界に役立てよう!そういう使命感も生まれましたね。
―1935年創業。第一ゴムとしてのあゆみをお聞かせください。
藤本 かつて小樽は北海道経済の要所として、良質な天然ゴムが運ばれる港でした。長靴製造会社も多く、当時は北海道で使用されるゴム長靴の半分を小樽でつくっていたと言われています。1970年代後半から安価な外国産に押されて随分淘汰されてしまいました。弊社も、最盛期は年間50万足ほど製造していましたが、今は1/5ほど。それでも続けていられるのは、滑らない、本当に良い長靴を誠実に作っていることを評価いただいているのではないでしょうか。
―「第一ゴムの長靴は本当に滑りづらい!」との評判ですね。
藤本 小樽を始めとする雪国では、雪やアイスバーンでの転倒事故が深刻です。命に関わることなので、滑らないことが重要課題なのです。うちの靴底は、天然ゴムに砂状のセラミックを混ぜ込んだ靴底。凍結面と多くの摩擦を起こすことで滑りにくくします。さらにスチールピンを埋め込んだダブルスパイク底の商品もあります。
札幌の雪まつりに来ている道外の人を見ると、やはり滑らないよう足元に注意しながら歩く姿を見かけますが、おかげ様でうちの長靴を履いていると、ほとんど足元に気を取られず安心して歩けるんですよね。
柔らかい天然ゴムにセラミックを混ぜ込んだ「ゴールド底」。
―履きやすさや耐久性にも定評がありますね。
藤本 天然ゴムならではというところでしょうか。ほどよい硬さを出し、型崩れを防ぐために、3割程度合成ゴムを加えていますが、7割は天然ゴム。動きやすく、割れにくい長靴となります。長靴は消耗品とお考えの方にぜひ試していただきたいです。寒すぎてゴムが硬くなって割れたり穴が開いたりということはほとんどありません。さらに、柔らかいゴムは地面にしっかり食いつき、雪や氷の上で滑るのを防ぎます。
―長靴の製造工程を簡単に教えてください。
藤本 まず、天然ゴムと合成ゴムを練り合わせるところから始まります。しっかり混ぜ合わせたら細長いシート状にします。それから金型で型抜きをしてパーツを作ります。その後、長靴の立体型にパーツを貼り合わせていきます。全部で13枚ほどでしょうかね。靴底まですべて貼り合わせたら「加硫」という作業に移ります。150℃の釜に入れて熱と圧力を加え、粘りや輝き、伸縮性のある丈夫な長靴になります。最後は中の金型を抜き、余分なゴムを切り落として仕上げます。
このすべての工程は機械任せにすることができず、手作業です。熟練の職人がゴムを1枚ずつ丁寧に貼り合わせ、1足1足心を込めて作り上げます。80年以上、同じ製法なんですよ。
―履き心地の良い、滑りづらい長靴を手作りで80年以上作り続けた英知の結晶が「フィールドブーツ#1308」でしょうか?
藤本 これは、スキーパトロールの方に2シーズンにわたって履いてもらい、耐久性や防寒性のテストを行った2021年の新商品です。スキーパトロールの仕事は雪の中を漕いで歩く、とにかく寒さとの闘いですし、過酷な環境下で滑ることも許されない。本物を求める人が納得できる製品になっていると思います。
ニセコで働くスキーパトロールの意見を取り入れながら開発。
―ポイントを教えてください。
藤本 暖かさに関していえば、取り外しの可能なインナーが特徴でしょう。フェルトの密度を表す、目付量が1200g/㎡と非常に高密度な10㎜のフェルトインナーに加えて、ゴムの内側にボア・5㎜ウレタンの三層構造になっています。
とにかく暖かいと評判の秘密はこのインナー。
滑りにくさや履き心地に関しては、天然ゴムならではの柔らかさを最大限に生かしてあります。靴底は先述の「ゴールド底」を採用し、地面をしっかりつかんでグリップすることで滑りづらくなっています。履いたときのフィット感や、雪が入りづらくなるようなカバーの絞りなど、使い勝手を細かくこだわって完成しました。
耐久性も、2シーズン履いてシワやひび割れ1つできなかったと、スキーパトロールの太鼓判をいただいたんですよ。
履き心地や実用性など、細かく改良を重ねてようやく完成。
―雪国のエキスパートも納得するプロ仕様ですね!
藤本 そのクオリティをキープした、一般の方にも街で履いていただきたいブーツです。さすがに雪のシーズンにはなると思いますが、フィット感、歩きやすさ、そして滑りにくさをぜひ体感していただきたい。アイスバーンの転倒事故は本当に危険で、1度でもその怖さを体験した人にはわかると思います。異常気象で時季外れの寒波や九州で雪が降ったりもする昨今。決して安くはありませんが、1度試していただくと、それ以上の価値を体感していただけると自信を持っています。
―今後の展望をお聞かせください。
藤本 今や小樽で天然ゴムの長靴を作っているのはうちだけになってしまいました。これからも変わらず、天然ゴムを使って、動きやすく割れにくい長靴を、履く人を想いながら丁寧に作っていきます。いつか小樽が長靴の聖地となり、「小樽土産に長靴を買って帰ろう」となるほどの認知をいただけたら嬉しいですね。
その一方で、冬や雪道のイメージにとどまらず、全国で年間通してお求めいただける工夫をしていかねばと思っています。雨靴のほか、アウトドアブーツやワーキングブーツ、ファッションブーツなど、実は幅広いラインナップをご用意しています。そのどれもが第一ゴム品質。おかげさまで一度履いた方からは、「もう他の製品は履けない」「ほかのシリーズも試したい」などありがたい反応もいただいています。第一ゴムの長靴を知る、手に取る、試す機会を増やしていくつもりです。
―素晴らしいお話をありがとうございました!
「フィールドブーツ#1308」
価格:¥22,000(税込)
店名:長靴屋 北のマルシャン
商品URL:https://www.kita-marchand.com/shop/shopdetail.html?brandcode=000000000284&search=%A5%D5%A5%A3%A1%BC%A5%EB%A5%C9&sort=
オンラインショップ:https://www.kita-marchand.com/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
藤本雅彦(第一ゴム株式会社 代表取締役社長)
1959年北海道生まれ。1982年北海道拓殖銀行 小樽支店入行。1998年北海道拓殖銀行 営業譲渡により北洋銀行へ。2016年北洋銀行退職後、第一ゴム株式会社へ出向。2020年同社代表取締役社長に就任。
1935年創業以来、「人に永く愛される靴づくり」の精神を大切に、国内生産にこだわり、安定した品質と坂の街小樽の厳しい気候に密着した防寒性、高い靴づくりを心掛けている。
<文/植松由紀子 MC/隅倉さくら 画像協力/第一ゴム>