キッチングッズ好きのファンも多いのではないでしょうか。真っ白でシンプルな見た目と実用性の高さを両立した、琺瑯素材のキッチン用品。琺瑯製品一筋の歴史に隠れた、ヒット商品誕生秘話や、何度か訪れたブームの裏側を聞いてみたい! 今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった野田琺瑯株式会社 代表取締役社長の野田靖智氏に、取材陣が伺いました。
あふれるホーロー愛から生まれた使い勝手抜群の容器「White Seriesレクタングル深型」
2022/10/21
野田琺瑯株式会社 代表取締役社長の野田靖智氏
―全ての工程を自社で一貫生産する国内唯一の琺瑯メーカーとして消費者の信頼も高い野田琺瑯さん。創業からのあゆみをお聞かせください。
野田 1934年に、琺瑯メーカーに勤めていた祖父が独立して開業しました。私が小学3年生の時に他界しましたので、創業当時のことを本人から詳しく聞くことはできませんでしたが、輸出用のボウル、皿やコップ、続いて業務用のバットやタンク・バケツ等の生産をしていたようです。ステンレスやアルミなどの素材が出てきて琺瑯製品が売れなくなった時代も、割と長い期間ありました。
1976年には料理家の先生と共同開発した漬物容器が主力商品となり、家庭用品の種類を広げていきました。その後、雑貨ブームがありインテリアとしての琺瑯が人気だった時代を経て、OEMで長く製造を手掛けているコーヒーポットが人気雑誌の表紙になったり、今も主力商品であるWhiteSeriesを発売したりしたことで、問い合わせがぐっと増えました。
―当時から真っ白の無地だったのですか?
野田 いえ、琺瑯といえば文字や花柄が入っていたり、色とりどりだったりというのが主流で、人気もありました。私は高校時代からアルバイトをしており、1994年、24歳で入社。工場や企画などいろいろな経験をし、2003年のWhite Series発売時は営業をしていました。それまで白い琺瑯は衛生用品のイメージが強く、ましてや文字や絵のないものは売れないというのが業界の常識で、発売には最後まで反対しました。
琺瑯製品はカントリー雑貨のイメージが強い時代だった。
―では、White Seriesはどなたが?
野田 母です。母は琺瑯メーカーに嫁いできた立場ながら、製品を使い倒し心から愛しています。実家のキッチンは琺瑯製品であふれかえっていました。琺瑯がなくてはならない暮らしを送っていた母ならではの感覚だったのでしょう。いろいろな食材を入れるものとして柄や色はいらないと言いました。使い勝手の良いシンプルなフォルムと、潔い真っ白を製品化したいという強い気持ちでしたね。
当時社長だった父も半信半疑だったようですが、母の気持ちを大事にしたい、琺瑯製品をもっと広く周知できるきっかけになるかもしれない、White Seriesの可能性を信じたなど、いろいろな思いからGoを出したのではないでしょうか。少量生産から始めました。
―どのような販売戦略を?
野田 はじめは取引先の感触も良くなかったのですが、長いお付き合いのある取引先が数店置いてくださることになりました。
その傍ら、琺瑯製品のあまり知られていない使い方を改めて知っていただけるよう、イラスト入りの「取り扱いのしおり」を付けました。下ごしらえ、調理、保存と調理におけるすべての課程で便利に使えることを記す中に、おそらく、直火にかけられるということを公に謳ったのはそれが初めてだったと思います。
―White Seriesが大ブームを起こしたきっかけは?
野田 テーブルや暮らしのスタイリストさんが、自著でご紹介くださったのです。数少ない取扱店で見つけて愛用くださったようです。時代は、ブログやSNSが始まった頃。自分のライフスタイルを見せる人が増える中で、ナチュラル、シンプルというキーワードが注目されてきた時流にもマッチしたようです。それから問い合わせが急激に増え、百貨店や雑貨店、ギャラリーなどにも置いてもらえるようになりました。
潔い白、スタイリッシュなフォルムがブームに。
―改めて、White Seriesの特長をお聞かせください。
野田 琺瑯製品の特長からお伝えすると、表面がガラス質でコーティングされているので、食材や料理のにおい移りが少ない、酸や塩にも強い、保温性・冷却性に優れる、高温にも低温にも強いなどが挙げられます。
特にWhite Seriesレクタングル深型の工夫点は、使いやすさを追求した3サイズ、用途に応じた3種類の蓋、適度な深さなどでしょうか。
形、大きさ、深さなど計算しつくされた形状。
―実際の調理への取り入れ方は?
野田 調理の過程すべてに役立ちます。野菜を洗う、乾物を戻す、衣をつけるなどの下ごしらえはもちろん、途中で蓋をして保存をすることも可能。スタッキングできる蓋の形状なので、スペースの無駄がありません。
調理で言えば、直火もオーブン調理も可能です。先述しましたが、直火調理が可能なことはまだあまり知られていないかもしれません。琺瑯は熱伝導率が良いので調理時間も効率的。下味をつけた肉をそのままオーブンで焼き、残った分は蓋をして保存し、再度オーブンで温め直すという一連が(蓋の種類を変える必要はありますが)レクタングル深型1つでできます。
保存にも重宝しますよ。カレーやだしを小分けにして冷凍してもそのまま蒸し器や直火で温められます。
作り置き料理の保存に便利。
そのまま温め直しができ、カレーも器に香りが残りにくい。
下味をつけた食材を蒸し焼きに。
蓋を取ってチーズを乗せて仕上げることもできる。
酸に強いのでピクルスも安心。
ピクルス液を煮立てて漬けて保存するまでこれ1つ。
―蓋の使い分けは?
野田 作り置きなど日常的な保存にはシール蓋、液体の保存や持ち運び時など密閉性が必要な場合は密閉蓋、調理を伴ったりにおい移りを防ぎたい場合は琺瑯蓋といった具合でしょうか。どの蓋も、冷蔵にも冷凍にも対応しています。
用途に応じてシール蓋(上)、密閉蓋(中)、琺瑯蓋(下)の3種類。
―あえて、琺瑯製品のデメリットを挙げていただくなら?
野田 電子レンジにかけられない点と、欠けることがある点でしょうか。琺瑯は、鋼の素地にガラス質の釉薬をかけ、850℃の高温で焼成したものです。表面がガラス質なので、落下や衝撃で欠けてしまうことがあるんですよね。また、工程上鋼板のすべてをガラス質で覆うことができないため、水分や塩分等によるサビが生じることがありますから、手入れも必要です。
釉薬をかけた後、吊り金具に引っ掛けて1つずつ乾かす。
―一連の製作をすべて、国内の自社工場で行っているのは野田琺瑯さんだけ。
野田 そうですね。職人が1つ1つ手仕事で造っています。材料は主に鉄とガラスですが、使う喜びを感じられる機能美を大切にしながら、用途により適した重さにすることや、発色、そしてなんといっても品質を落とさないという信念で技術の向上と製法の工夫をしてきました。
職人技で手早く正確に釉薬をかける。
―商品開発にも製造にも、琺瑯への愛着をたっぷり感じます。
野田 強いけれどさびやすい鉄、美しく非吸着性に優れる反面割れやすいガラス、双方の特長を併せ持つのが琺瑯です。こんなに素晴らしい素材、使いやすい製品はほかにないと、ずっと思っています(笑)。祖父の代から琺瑯一筋、最近やっと、本当に琺瑯の良さを知ってくださる人が増えてきたと感じますし、そのような方々に支えられていることを痛感します。
―野田社長のお気に入りの商品やユニークな使い方があったら教えてください。
野田 私は釣りが好きなのですが、釣った魚を捌いて保存するのに便利だとつくづく感じます。保冷性が高いので傷みにくい気がしますし、生臭さが移ることもない。汚れが吸着しづらいので、洗うときも楽です。
おうち時間が増えてさらに人気が出た商品に、「ぬか漬け美人」というのがあります。冷蔵庫で気軽にぬか漬けを楽しめるサイズ感にこだわった商品です。
―今後の展望をお聞かせください。
野田 琺瑯製品の良さは、使って初めてわかる、使うほどに実感するものだと思います。もっと琺瑯製品の認知度を上げる努力をし、多くの方に使っていただきたいですね。そのためには、価格面での努力や、より使いやすく品質の高い商品開発にも力を入れていかなくては。個人的には、野田琺瑯のあらゆる商品を手に取っていただけるような場所を作りたいという、野望にも近い気持ちを持っています。
―素晴らしいお話をありがとうございました!
「White Seriesレクタングル深型」
S(0.5L)・M(0.85L)・L(1.5L)各シール蓋付・密閉蓋付・琺瑯蓋付 ※蓋のみの単品販売もあり
・電子レンジ・IH:×
・オーブン:本体、琺瑯蓋のみ◯
・食器洗浄機:本体、密閉蓋、琺瑯蓋〇
・直火:本体、琺瑯蓋のみ◯
価格:¥1,540~3,465(税込)
店名:日本の手仕事・暮らしの道具店cotogoto
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
問い合わせフォーム:https://www.nodahoro.com/company
商品URL:https://www.nodahoro.com/itemseries/whiteseries
オンラインショップ:
https://www.cotogoto.jp/view/item/000000000121?category_page_id=hozon
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
野田靖智(野田琺瑯株式会社 代表取締役社長)
1970年東京都生まれ。祖父である野田悦司氏が1934年に創業した野田琺瑯へ1994年に入社。工場、営業、企画の経験を積み2018年に同社代表取締役社長に就任。
<文・撮影/植松由紀子 画像協力/野田琺瑯>