今回、編集長アッキーこと坂口明子が気になったのは、香川県善通寺市でオリジナルタオル製作を行っている株式会社ユタカ。世界でたった1枚、自分だけのタオルや手ぬぐいが1枚からオーダーできるといいます。しかもこちらの会社には、パン工房もあるとか。いったいどんな会社なの?アッキーに代わって取材陣が、代表取締役社長の大西日出機氏にお話をうかがいました。
自分だけのオリジナルタオルが1枚からオーダーでき、当日発送OK!フルカラー印刷も可能な「たおる本舗」
2022/10/27
株式会社ユタカ 代表取締役社長の大西日出機氏
―自分好みのオリジナルなタオルや手ぬぐいが1枚からオーダーできるなんて、驚きです。なぜ、それが可能なのでしょうか。
大西 タオルができるまでには多くの工程があるのですが、弊社では全行程を自社で運営、一貫生産しています。それによって、枚数だけでなくデザインなどについてもお客様がお望みのタオルや手ぬぐいを1枚からご提供できるようになりました。
名入れタオルを始めとするオリジナルタオルの生産には、営業ー編集ー製版ー色調合ー印刷ー裁断ー縫製ー加工ー出荷という工程があります。通常、これらは分業で行われ、工場が海外にある場合もあるので、1枚のタオルができるまでにはどうしても時間がかかってしまいますし、そうなると1度に大量に製造しないと割に合わないのです。
―分業制から自社一貫生産への転向は、難しくありませんでしたか?
大西 そうですね、構想から5年かかりました。近年、タオル製造の技術革新も進んでいるので、一貫生産は可能なのです。問題は、名入れタオル業界の仕組みにありました。
日本のビジネスの仕方として、当業界に限らず多くの業界で、代理店や問屋がメーカーに代わって顧客に対する販売活動を行うスタイルがとられていました。弊社の場合、具体的にいうと、代理店がエンドユーザーと話をして、その案件が成立したら弊社に発注されるわけです。私どもとしては、お客様にはより満足していただきたいので、デザインや生地などを選ぶ際にもアドバイスやご提案をしたいのですが、間に代理店が入るため、お客様とはいっさいお話ができない。それが、長くこの業界の常識でした。
ですから、私どもは一生懸命、代理店に営業をかけて注文を取っていたのですが、次第に疑問を感じるようになったのです。代理店といくら仲良くしても、エンドユーザーの意思がこちらに伝わってこないし、こちらからも何のご提案もできない。私どもとしては、自分たちが作ったタオルがお客様に本当にご満足いただけているのかわからないという、ジレンマに陥りました。そこで、2005年に思い切って代理店と決別したのです。
「顧客第一」の精神で、世界に1つだけ、
オンリーワンのオリジナルタオル製作が可能に。
―古い慣例を打ち破るには、相当な覚悟が必要ですね。
大西 はい。代理店と決別することのデメリットはいろいろありました。でも、私どもが仲良くしないといけないのはお客様たちです。お客様たちと直接コミュニケーションをとることで、オリジナル性が高く品質のよいタオルができるはずだ。そう考えて、まずはECサイトを立ち上げました。単なるインフォメーション的なホームページではなく、お客様が色やデザイン、数量を選んだり指定することができ、最終金額がわかった上で直接注文・購入ができるサイトです。このシステム自体が業界のタブーでした。
さらに、お客様にとって何が必要なのかを考えたとき、オリジナル性はもちろんのこと「小ロット」と「短納期」、さらに価格も抑えたい。となると、内製化した、一貫生産ができる工場を作らないといけません。代理店主導スタイルでは、工程ごとに外注するのが常識でしたが、先にもお話ししたとおり、それが「時間がかかる」「小ロットの注文は受けられない」という状況を生んでいたのです。
工場の内製化には5年かかりました。新たに工場を建てるには資金が必要ですが、それまで融資をしてくれていた銀行を説得するのに時間がかかったのです。銀行は、しっかりした代理店と取り引きがあるからこそ弊社に融資をしてくれていたわけですが、代理店と決別したとなれば、なかなか首を縦に振ってくれません。実は、ほかの銀行から融資の話があったのですが、私としては、創業以来つきあっている銀行を説得しなければ、よい経営はできないと考えていました。そこで本店に出向き、本当にお客様のことを考えれば内製化した新工場を建てる必要があるのだと説明し、ようやく融資が受けられることに。その結果、ほぼパーフェクトな内製化が実現したのです。5年……自分でも、よく辛抱したと思います。社員たちにも苦労をかけました。
フルカラープリント・縫製工場。
縫製部では、ミシン加工のほか刺繍(文字)、
タグ付け、オーダーメードTシャツの製造も行っています。
―そのご苦労のおかげで、私たちは「自分だけのオリジナルなタオル」を1枚から、作れるようになったのですね。では、タオルや手ぬぐいについては、どのような点にこだわっていらっしゃいますか?
大西 まずは生地に関して、タオルも手ぬぐいも綿100%にこだわっています。化学繊維は比較的安価で生産安定性も高いのですが、自然環境のことを考えれば天然繊維の綿一択です。綿は循環繊維とも言われ、土に還りますから。また、綿は静電気が起こりませんし、摩擦によって皮膚が黒ずむということもないと聞いています。
プリントに関しては、基本的に名入れタオルの類は1色、せいぜい2色使いです。そこを、弊社では6色まで使える機械を導入、表現力が豊かになりました。現在、タオルに関しては写真をもとにしたカラープリントも可能です。
フルカラープリントのフェイスタオル。
色鮮やかで、グラデーションも美しいこと!
手ぬぐい。これは「枠あり」タイプ
(手ぬぐいの端を印刷しないタイプ)の見本です。
―オーダーの流れについて、教えていただけますか?
大西 「オリジナルタオル・名入れタオルのたおる本舗」というECサイトを立ち上げていますので、そこを開いていただきます。「価格」という項目をクリックし、まずはタオルと手ぬぐい、どちらかを選択。次に印刷方法を選んでいただくと「自動見積り」ページが開きますので、そこでデザインを決め、生地の色や数量、プリントの色数、ネーム刺繍、納期などを入力していただくと、自動的に見積もり金額が表示されます。そこでご納得いただいた場合、「注文」に進み、配送先情報やお支払い方法などをお選びいただきます。その後、お客様からいただいたイメージをもとに、出来上がりのイメージ図をメールでご連絡します。そこで修正があれば修正し、最終的にOKをいただき次第、最終的な金額を正式にご連絡し、お支払い手続きが済んだところで製作開始、納期どおりにお届けする。以上が、ざっとした流れです。これによって、お好きなデザインのタオルや手ぬぐいが1枚から、ご注文いただけます。
―タオルや手ぬぐいのほか、オリジナルTシャツも作れると伺っています。
大西 はい、「オリジナルTシャツ製作のTシャツ本舗」というECサイトがございます。基本的なご注文の流れはたおる本舗と同様で、こちらも1枚からオーダー可能です。
Tシャツ本舗の特長はまず、Tシャツも自社で製造していること。現在、Tシャツプリントは海外製の既成品Tシャツにプリントするのが主流ですが、そうするとプリントできる範囲限られ、個性的なTシャツをつくることができません。しかし、弊社のTシャツはプリント範囲が無制限。肩から裾、または背面まで360度、自由にプリントできるので、デザイン重視でオリジナル性の高いTシャツをつくることができます。色数は20色、生地の素材はもちろん綿100%です。
360度プリント可能で、
より個性豊かなTシャツが作れます。
―工場の内製化によって「短納期」「小ロット」「高品質」さらに価格が抑えられ、消費者にとってはいいことづくめですね!
大西 苦労もありましたが、思い切ってこのやり方にしてよかったと思ったエピソードがあります。新型コロナの感染拡大によって弊社も大打撃を受けましたが、そうしたなか、勇気づけられたのが「『たおる本舗』では、いまもタオルを作ってもらえるのか?」というお客様からのお問い合わせです。緊急事態宣言だったり、自粛生活を強いられたりするなかでも、オリジナルタオルのニーズはあったのです。ただ、初めての方からのお問い合わせが続いたのでどうしたのかな?と思ってお尋ねしたところ、ほかで注文しようと思ったら「海外の工場がストップしているので注文を受けられない」と言われたそうです。そこで調べてみたところ、自社一貫製造をしている弊社にたどり着いた。もちろん、弊社は受注できます。注文はすべてECサイト上で行えますし、工場も感染防止に気をつけながら稼働していましたから。お客様にはとても喜んでいただけましたし、自社一貫製造だからこそコロナ禍においてもお客様のご要望にお応えできたことを、嬉しく思いました。あのとき、ひるまずに内製化に踏み切ってよかった、自分たちの選択は間違っていなかったのだと、誇らしい気持ちになりました。
―コロナ禍という危機が、勝機に繋がったのですね。
大西 もう1つ、私にとって嬉しいことがありました。コロナ禍が始まった当初、マスクが店頭から消えて多くの方が困りましたよね。朝早くからドラッグストアに並んでも、買えない。そんなある日、縫製担当の従業員が「これでマスクをつくったらどうでしょう」と言うのです。ただ、マスクにつけるゴムひもが手に入らない。ほとんどが中国製だからです。すると、Tシャツ担当の従業員が「Tシャツの生地を縦に細く切れば、伸縮性のある耳ひもができる」ということで、マスクができたのです。お恥ずかしながら、私にはその発想はまったくありませんでした。
弊社はマスク屋さんではないので、お金をいただくことはできません。そこでパン工房にお買い物にお越しいただいたお客様に1枚ずつ差し上げていたところ、たくさんの方がいらして、「駐車場待ちの渋滞が出来て困る」と警察から叱られてしまって(笑)。ならば、地元の善通寺市に寄贈しようと相談にうかがったところ、とりあえず1万枚くらい必要だとのことで、従業員たちががんばって、1週間後に1万枚のマスクを納品することができました。
弊社はインクを使いますから周囲にはインクのにおいが漂いますし、車も1日に300〜400台は出入りするので、その音や排気ガスでも近隣の方たちにはご迷惑をおかけしているんですね。にもかかわらず、みなさん、何もおっしゃらずに我慢してくださっている。その恩返しを、何かの形でしたいとつねづね思っていました。ですから、ほんの少しですが、手ぬぐいマスクで地域の方々のお役に立つことができて、よかったなあと。経営というのは、単に売り買いをして儲かった、ということだけではなく、地域の方々にどれだけ貢献できるかということが非常に大切なのだということが、よくわかりました。社員たちのおかげです。
―社長も従業員の方も一丸となって「顧客第一」「地域貢献」を考えていらっしゃる。素晴らしいですね。今後は、どのような展開をお考えですか?
大西 お客様のニーズにお応えするのは当たり前のこと。今後も、より細かなご要望に応じられるよう努力してまいりたいと思います。ただ、それだけでは地域への貢献度は限られます。そこで弊社は、5年前にパン屋を開業しました。たおる屋がパン屋を?と思われるかもしれませんが、まずは従業員たちを守るためです。最近、地震や水害など大きな災害や不況に、人や企業は苦しめられています。コロナ禍もそうですね。弊社はお客様はもちろん「社員も大切にする」がモットーですが、自然災害の前では無力です。その自然と戦うため、食品であるパンを選びました。食品事業は、災害で大きなダメージを受けたとしても比較的復活が速く、従業員の雇用を守ることができます。そして、地域の皆様にも貢献できる業種だと考えました。
地方のご多分にもれず、善通寺市でも過疎化が進み、若い世代の市外への流出が止まりません。でも、1社でも2社でも働きやすく、やりがいのある会社が増えれば愛する地元に留まって、あるいは戻って暮らそうと考える若者たちも増えるのではないか。弊社は小さな会社ですが、若い人たちが地元で暮らすきっかけになれたら、それが本当の意味での地域貢献になるのではないかと思うのです。パン屋にはイートインスペースやテラス席もあります。コロナ禍はまだ続いていますが、パンを食べながら少しホッとしていただけたら、私としてはこんなに嬉しいことはありません。
敷地内にパン工房を設立。
テラス席も設けられ、安心してくつろげます。
パンは、国産小麦100%無添加生地にこだわっています。
自社のLED水耕栽培で育てた野菜と、
地元の農家さんから仕入れた野菜をミックスさせた野菜サラダは健康志向の方に人気!
―胸が熱くなる、すばらしいお話をありがとうございました!
「オリジナルフェイスタオル」1色刷り(1枚:約34cm✕84cm)
価格:¥8,024~(税込)
店名:たおる本舗
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.yutaka-towel.com/estimate
オンラインショップ:https://www.yutaka-towel.com
「オリジナル手ぬぐい」1色刷り(1枚:約33cm✕90cm)
価格:¥8,033~(税込)
店名:たおる本舗
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.yutaka-towel.com/products/list?category_id=4
オンラインショップ:https://www.yutaka-towel.com
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
大西日出機(株式会社ユタカ 代表取締役社長)
1943年香川県善通寺市生まれ。1977年、前身の豊産業創業。1989年、株式会社ユタカに社名変更。2005年、オリジナルタオルWEB販売店「たおる本舗」スタート。2017年、敷地内に「焼きたてパン工房ゆたか」をオープン、2018年、LED水耕栽培施設を設置。地域貢献、働き方改革、商品に対しては小ロット・短納期を実現。健康経営優良法人2022(中小規模法人部門)認定。
<文・撮影/鈴木裕子 画像協力/ユタカ>