おしゃれで用途が広く、エコにもつながるアイテムとして、愛用者が増え続けている手ぬぐい。なかでも、舞妓さんや京都の風物を描いた永楽屋の手ぬぐいには、アッキーこと坂口明子編集長も目を奪われています。長い歴史を受け継ぎながら、店舗展開や異業種コラボ、美術館設立など挑戦を続ける株式会社永楽屋 代表取締役社長の十四世 細辻伊兵衛氏に、取材陣がお話をうかがいました。
粋でモダン!江戸初期創業の京の老舗が作る、季節感あふれる「手ぬぐい」
2022/11/10
株式会社永楽屋 代表取締役社長の十四世 細辻伊兵衛氏
―創業から400年以上、老舗中の老舗ですね。
細辻 家としては約1200年、綿布商としては京都で14代、江戸初期の1615年の創業ですから、2022年で408年目です。創業以前は絹を扱い、織田信長公の御用商人として活躍したようで、信長公から「永楽屋」の屋号と細辻の姓を拝領したという歴史があります。商人だったのですが、刀をいただき帯刀も許されたようです。創業後の初代は、忠臣蔵で知られる大石内蔵助とご一緒するなど、交遊は広く芸術にも造詣が深かったと聞いています。400年の間には、天明の大火や蛤御門の変に始まり、さまざまな危機がありましたが、それを乗り越えて今に至ります。
―歴史を感じるお話ですね。その中で代々大切にされてきたことは?
細辻 「一族仲良く」「両親に孝行」「衣食住を贅沢するな」など10の家訓があり、代々受け継いでいます。この通りにすれば商売を長く続けていくことができるはずですが、疫病や戦争など大変なことが起きて、続けられない会社もある。その中で困難を乗り越えてきた先祖のおかげで、400年の歴史があると思っています。
創業は1615年。
現在、日本最古の綿布商として商売を続けている。
―手ぬぐいを扱われるようになったのは?
細辻 当社は太物(ふともの)商といって木綿の着物を扱っていたのですが、明治時代になって洋装化が進み、木綿の着物が売れなくなってきました。そこで、タオルの製造を始めて危機を乗り越え、その後も第二次大戦中の強制疎開など危機はありましたが、進物用などのタオル製造を続け、私が社長に就任後、自社のブランディングに踏み出したんです。そして、京都、老舗という自社の強みを見つめる中で、たどり着いたのが手ぬぐいでした。
―もともと手ぬぐいにご興味が?
細辻 入社した時からご先祖が遺した手ぬぐいを見て、いつか事業に生かせるのではないかと思っていました。ただ、それらはご先祖が趣味の世界で採算度外視で作っていたものですから、事業にしようと思っても社内で賛同はされにくかったですね。
―そこを説得して店舗での販売まで?
細辻 今までにない市場を切り拓くために、安価なイメージだった手ぬぐいを高品質なものに仕上げ、安定して製造するというふうに替えていきました。すべての工程を見直すことから始めて、全国で一番の織機で製造することにし、以来20年以上オリジナルの生地を作っています。きれいに染色し、繊細でシャープな柄ができるように、目を詰めて打ち込んだ生地。染色は、染料と糊を撹拌して使っています。ここまで多色のものを、何百柄も一から作るというのは、実際に大変なんです。でも、すべての工程にこだわり、一からみんなで作ったものは自分たちの手で届けたい、そういう思いで小売も手がけるようになりました。
国内トップレベルの織機を探し、
高品質の生地から製造。美しい染色が実現。
1931年に製作した手ぬぐいを復刻した「よーすべりますなぁ」。
日本にスキーが普及しはじめた頃のデザイン。
―舞妓さんがスキーをする絵柄など、昭和初期のデザインが新鮮でした。
細辻 手ぬぐいは世相を表しているから、おもしろいんですね。そういったものの復刻から考えました。下絵を含めると12工程ほどあって、手間がかかるものですが、現在は、毎月新柄を製作し販売しています。2018年には、祇園祭の柄の手ぬぐいが「てぬぐいオリンピック」の金メダルをいただきました。祇園に店を出し、その上階にはカフェ、ほかにも宇治平等院や京都駅八条口、四条河原町などに店を出していますし、京都×京都のコラボレーションも増え、退蔵院さん所蔵の国宝「瓢鮎図」、伊藤若冲の「南瓜」などの手ぬぐいも手がけています。また私の個展として、祇園祭山鉾の鉾頭から屋根まで原寸大で表した14m以上もある手ぬぐいや、魔除の意味を込めたハート型に和の紋様を染めた手ぬぐいなどさまざまな作品を発表しています。
―今年発売されて人気の「竹林に雀」について教えてください。
細辻 「竹林に雀」は11枚の型を使っているので、深みがあります。時間と手間がかかりますが、手ぬぐいの多くは1枚2,200円です。中央の雀から放射状になっていて、3Dぽく仕上げています。お店やバーに飾られることも多く、テレビ画面で偶然うちの手ぬぐいを見つけることも多いですね。
十四世細辻伊兵衛氏考案の「竹林に雀」。
グラデーションや細線などを使い、奥行き感を染色でリアルに再現。
荷物隠しに使えば、バッグの中に美しい景色が。
―「ねこダンス」は復刻柄ですか?
細辻 昭和初期の復刻で、デザインはそのまま。文字とデザインがあって理解しやすい柄です。調べてみたら、昔の流行歌で歌われた「猫じゃ猫じゃ」の歌詞の一部が書かれています。実はこのグレーの色を出すのはとても難しいんですよ。デザインについて、もともと復刻は私のアイデアですし、他の手ぬぐいもデザインは社内で考えています。季節のうつろいが大きなヒントになっています。
昭和初期の柄を復刻。
「ねこじゃ ねこじゃとおっしゃいますが ねこが」と、
昔の流行歌の一節を入れたデザイン。
手ぬぐいをインテリアに応用。
打ちっぱなしの壁にも映えて、毎日楽しい気分に。
―今後の展望をお聞かせください。
細辻 商売は何本立てというふうに考えないと難しい時代です。通販でより見やすくするとか、リモートで販売するとかも必要ですが、それ以外に、学んでもらうという柱も必要だと思います。2022年に美術館をオープンしましたが、美術館ではものは売れません。どういう意図で作られたかという解説を見て、学んでいただく場所です。そうやって知っていただく必要があると思います。
美術館のチケットは手ぬぐいで、ナンバリングもしているので、世界に一つだけのチケットです。手ぬぐいは拭う以外に包帯がわりにしたり鼻緒にしたり、昔から使っていた便利道具。そこにアートを加えたのがご先祖なんです。ゆくゆくは海外で展覧会も行なって、多くの方に知って学んでいただけたらと思います。
―奥が深いですね。本日はありがとうございました。
「手ぬぐい【竹林に雀】」
価格:¥2,200(税込)
店名:永楽屋
電話:075-256-7881
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.eirakuya.jp/view/item/000000000136
オンラインショップ:https://www.eirakuya.jp
「手ぬぐい【ねこダンス】」
価格:¥2,200(税込)
店名:永楽屋
電話:075-256-7881
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.eirakuya.jp/view/item/000000000110
オンラインショップ:https://www.eirakuya.jp
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
十四世 細辻伊兵衛(株式会社永楽屋 代表取締役社長)
1964年生まれ。1994年株式会社永楽屋に入社し、1999年代表取締役社長就任。2000年に十四世 細辻伊兵衛を襲名し、同社初の店舗展開を開始。精力的に改革を行い、京都の老舗型SPAを確立。2015年、創業400年を機に自身初の個展「十四世・細辻伊兵衛手ぬぐいアート展」を開催(東京、京都)。翌16年には九州でも開催し以降毎年個展を開催。2022年4月、一般財団法人細辻伊兵衛美術館を発足し開館。館長を務める。
<文・撮影/大喜多明子 MC/橋本小波 画像協力/永楽屋>