「そろそろ、夜眠るときに毛布がほしいかも」。そう思っていた編集長アッキーこと坂口明子の目に止まったのは、大阪・泉大津の森弥毛織株式会社。温かくて軽く、ソフトな肌ざわりが特徴のマイヤー毛布を自社で一貫生産している日本で唯一の会社です。そもそも日本における毛布の歴史は? 日本製の毛布の魅力とは……? アッキーに代わって取材陣が、森弥毛織株式会社 代表取締役社長の森口和信氏にお話をうかがいました。
温かい、軽い、肌ざわり最高!の 純国産マイヤー毛布。森弥毛織の「赤富士」、 「オーガニックコットン綿毛布」に注目!
2022/11/28
森弥毛織株式会社 代表取締役社長の森口和信氏
―御社のある泉大津市は「毛布のまち」とのこと。どのような経緯で、そう呼ばれるようになったのですか?
森口 日本における毛布の歴史は明治時代から始まりました。毛布が日本で生産されるようになった背景としては、一時期、和歌山に幽閉されていた真田幸村が何とか生計を立てようと紐状の織物、「真田紐」を作っていたことがあります。その技術と、このあたりに古くからあった木綿織の技術が合わさったことで、泉大津に毛布づくりの下地ができたのです。
―その当時、日本に羊毛の糸はあったのですか?
森口 いえ、ありませんでした。泉大津の先人が東京に出かけた折、銀座に赤い起毛のスカーフを巻いている人がたくさんいたそうです。その様子を見て、泉大津でも起毛のスカーフ地が作れないかと考え、パイオニア精神あふれる5人で「真盛社」という会社を興しました。羊毛は手に入らず、牛の短い毛を買い受けて糸にし、スカーフを作ったところゴワゴワしている上、独特の強い臭いがして、さっぱり売れなかったそうです。それでも、先人たちはあきらめませんでした。当時、おもな交通機関は人力車でしたが、その俥夫や乗客のひざ掛けにしたらどうだろうと考えたのです。そして1887年、日本における毛布第1号が誕生しました。以来、泉大津は毛布産業の町となったのです。
日本で初めて作られた「牛」毛布。今でもたった1枚残っている貴重な毛布です。
135年も経つのに朱色は鮮やか!
―御社も、その当時に創業を?
森口 いえいえ、弊社の創業は1916年、毛布業としては後発組です。毛布第1号が作られてからも寝具としてのメインは綿で織られた毛布で、弊社も綿毛布を作っていました。しかし、羊毛が輸入され、紡績工場も増えてきたことで泉大津の毛布産業は羊毛の毛布に移行していきました。その流れの中で、弊社も羊毛の毛布を作るようになったのです。「森弥毛織」という社名は、創業者である祖父の名が弥三郎だったことから、その「弥」と森口の「森」を取ってつけられました。毛布業として本格的に乗り出したのは父の代から。私は父の姿を見ていましたし、幼少期の遊び場といえば家の横にあった工場でしたからごく自然に、自分もこの仕事に携わるものと思っていました。泉大津の毛布産業は、大阪万博が開催された1970年頃にピークを迎え、当時、毛布工場は1600社。年間3200万枚の毛布が作られていたという記録が残っています。しかし、毛布はそうそう買い替えるものではありません。広く普及した後は、需要が減っていきました。
―生き残りをかけて、御社ではどのような策を講じられたのでしょう?
森口 もともと毛布作りは分業制で、糸を染める、織る、加工、縫製する……などの工程それぞれ、担当する工場が異なっていました。ただ、父とその弟である叔父は1955年代から、分業に頼らず自社で一貫生産をしようと考え始めました。すべての工程を自社で行ったほうが、品質管理がしやすいからです。たとえば、仕上がった毛布に何か不具合があった場合、どの工程に問題が生じたのかすぐに発見できます。また、納期管理もしやすいというメリットがあります。毛布は寒い時期に使うものなので、6〜8月に注文が集中し、実は12〜3、4月くらいまでは閑散期なんです。でも、その間に追加の注文が入ることがあります。そうしたときも、自社ですべての工程を行っていれば迅速に対応できます。自分のところで全工程を行おうとすれば従業員が多く必要で、そのぶん人件費はかかりますが、先代は「お客さまのご要望にいち早く、そして最大限お応えする」ということを第一に考え、1965年代にかけて自社一貫生産のシステムを構築したのです。
1枚の毛布ができるまで、数多くの工程があります。
これは、マイヤー毛布の染色、「スクリーンプリント」。
カットされた生地の上にスクリーンを乗せ、その上に染料を入れていきます。
スクリーン内のスケージ(金属の棒)が動き、版画のように生地へ染料が刷り込まれていきます。
マイヤー毛布には「合わせ毛布」と「ニューマイヤー毛布」があり、
こちらニューマイヤー毛布は加工の際に「起毛」の工程が加わります。
1枚の基布(メッシュ状の生地)の裏面を毛羽立たせるためのものです。
―現在の主力商品は「マイヤー毛布」とうかがいました。マイヤー毛布とは、どのようなものなのでしょう?
森口 毛布には大きく分けて「織毛布」と「マイヤー毛布」があります。織毛布はウール毛布で代表される伝統的な織り方で、細い縦糸と太い横糸を使って二重に織り、それを起毛して仕上げます。一方、マイヤー毛布は、毛足が長く肌ざわりがやわらかなニット毛布のこと。毛足になるパイル糸に極細の糸を編み上げていきます。マイヤー毛布は、極めて細い糸を使うため非常にソフトな感触を生み出すことができます。現在、日本製の毛布の80%強はマイヤー毛布です。
―今回、ご紹介いただいた「赤富士」も「オーガニックコットン綿毛布」もマイヤー毛布ですね。まずは「赤富士」について、商品の特徴やこだわりについて教えてください。
森口 「赤富士」は弊社が得意とする、世界の名画を再現した「アートブランケット」シリーズの1つです。毛の長さは7〜8mmなのですが、それだけ長い毛に精緻なプリントを施す技術は泉大津にしかなく、しかも、現在行っているのは弊社のみです。
―色も忠実に再現できるのですね。
森口 最大の染色は10色ですが、色と色を重ね合わせることで最大16色くらいの表現は可能です。たとえば、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」はご存知のようにとても複雑な色使いで、見本刷りだけでも20回くらい試しましたが、発色性に非常に優れるアクリル繊維を使うことで繊細な表現が叶いました。
「ニューマイヤー毛布 葛飾北斎『赤富士』」素材はアクリル100%。
2021年には、泉大津市在住で米寿(88歳)を迎えた方たちに、市からお祝い品として贈られ、大好評!
泉大津市ふるさと応援寄付(ふるさと納税)の返礼品にもなっています。
https://www.satofull.jp/products/detail.php?product_id=1098551
サイズは約140cm✕100cm。
フルサイズのちょうど半分で、大人がソファに横たわってテレビを観たり、本を読んだりするとき、
うとうとして「ちょっと寒いな」と感じたときに掛けると、胸元から足先まで収まるサイズです。
―「オーガニックコットン綿毛布」については、いかがですか?
森口 毛布というと寒い季節のものというイメージが強いかもしれませんが、綿毛布はオールシーズン使っていただけると思うんです。春や秋の、ちょっと肌寒いなと感じるときはもちろん、真夏でもいまは多くの方が、夜にエアコンをつけたままおやすみになりますよね。そういうときにも重宝していただけるはずです。こちらもマイヤー毛布なのでソフトな肌ざわり。お客さまからは「こんなやわらかな綿毛布に、初めて出会った」というお声をちょうだいしています。オーガニックコットンにしたのは、お客さまに安心・安全をお届けしたいという理由から。綿糸は世界のあちこちで生産されていますが、綿花には虫がつきやすいため薬剤を使用することがほとんどなんです。でも、毛布は直接肌にふれるものですから、できることなら薬剤を使ったものを避けたいなあと。弊社ではインド北部産のコットンを使用しています。インド北部の山岳地帯は気候がよく、虫がつきにくいので薬剤を使わなくてもすむんです。さらに、機械化されておらず、普通の農家が育てて綿花の1つ1つを手摘みをしているので、結果的に質の高い綿糸ができます。弊社ではそれを輸入し、この「オーガニックコットン綿毛布」を作っています。
「ニューマイヤー綿毛布 オーガニックコットン綿毛布」。
綿毛布にして、このフカフカ感。肌ざわりはソフト、かつサラリとしてとても快適です。
こちらも泉大津市ふるさと応援寄付(ふるさと納税)の返礼品として人気。
https://furunavi.jp/product_detail.aspx?pid=198059
毛布に裏・表があるのをご存知でしたか?
ラベルのついているほうが裏と思いきや、実は表。
そして、表を肌側にして眠るのがスタンダードな毛布の使い方なのです。
―どちらの毛布にも「Q」の字をかたどったマークのラベルがついていますが、こちらは何を意味しているのですか?
森口 「Qマーク」ですね。これは、泉大津日本毛布工業組合が「日本製の生地を使用し、染色管理、縫製などの全てが国内で行われ、しかも、別に定めた品質基準に合格した製品」のみに使用を認めている、安心・安全の品質保証マークです。ひとことで言うと、「人に害を与えるような薬剤はいっさい使っていません」ということ。ラベルにはシリアル番号が印字されていて、このマークの発給日、発給先、そしてその製品内容の管理を行っています。
―「日本製」にこだわるのは、なぜなのでしょう?
森口 現在、外国製の安価な毛布が多く出回っていますが、泉大津で毛布作りに携わっている人間は、日本の毛布産業を支えてきたという自負がありますから、価格はできるだけ抑えつつも、やはり毛布としてクオリティの高いものをお客さまにお届けしたいという思いが強いのです。まずは商品の企画段階から、日本の気候に合うよう、繊維を選んだり組み合わせたり、編み方を工夫したりします。また、時代によってお客さまのニーズは変わりますから、つねに動向をチェックし、お客さまに喜んでいただけるような商品を考えます。製造段階では、機械化されているといっても工程ひとつひとつ職人たちが関わり、たとえば染色にしても、色ムラや柄のズレがないか、縫製だったら糸のほつれがないか、目が飛んでいないかなど非常に細かくチェックし、すべて問題なし、となったものだけを製品として出荷しています。
こちらが「Qマーク」。
―それほどていねいな仕事をされていれば、必然的にクオリティの高い毛布ができますね。日本製の毛布の魅力を1人でも多くの人に伝えたいです。
森口 たしかに、価格としては日本製の毛布は外国製のものにくらべて「高め」ですが、実際に使ってみると納得いただけるはずです。質のよいものは長く使えますから、結果的にお得ではないかと思います。ただ昨今、これは毛布に限ったことではありませんが、消費者の方たちの多くがECサイトでお買い物をされるようになりました。とくに毛布は、風合いや肌ざわりが命ですから、ECサイトに掲載されている写真だけでは商品のよさが十分に伝わりません。見た目で何となく商品を選び、届いたものを使ってみると、あまり温かくなかったり肌ざわりが今ひとつでも「毛布は、こういうものだ」と思ってしまうでしょう。ですから、本当は毛布を実際に見て、手で触れて風合いや肌ざわり、色の染具合などを確かめてから、選んでいただきたいのです。
―そうした「日本の毛布のよさ」を伝えていくために、今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか?
森口 まず、私が理事長を務めている日本毛布工業組合としては、日本製の毛布の宣伝・普及のために、消費者のみなさんが実際に手に触れ、肌ざわりや風合いを確かめられるようなイベントを企画、実施していこうと考えています。その1つが、毎年11月20日の「毛布の日」。コロナ禍でここ2年ほどは行っていませんが、その前は、大阪梅田の乗降客数がもっとも多い駅の広場で毛布を展示し、アンケートを取ったり、抽選をして1等の方にはカシミヤ毛布をプレゼントする、といようなイベントを行いました。今度も、さらにおもしろい企画を考えていきます。そして、弊社としてはより一層、お客さまのニーズにお応えできるよう、時代に合った商品を企画・製造していくつもりです。たとえば、難燃毛布です。近年、とくにコロナ禍以降、キャンプの人気が高まっていますね。いまは冬場にキャンプされる方も多く、とくにキャンプファイアーのときには毛布が欠かせません。それで、火の粉が飛んできても燃えにくい毛布の需要が高まっているのです。キャンプをきっかけに、若い世代の方たちに日本の毛布のよさを知っていただけたらと願っています。
―もうすぐ「毛布の日」がやってきますね。このタイミングでお話をうかがうことができて、うれしいです。ありがとうございました!
「ニューマイヤー毛布 葛飾北斎『赤富士』」
価格:¥4,000(税込)
店名:森弥毛織
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.amazon.co.jp/dp/B07X2F3KX3?ref=myi_title_dp
オンラインショップ:https://www.foresta.co.jp/akafuji
「ニューマイヤー綿毛布 オーガニックコットン綿毛布」
価格:¥7,700(税込)
店名:森弥毛織
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.amazon.co.jp/dp/B07N69K5H9?ref=myi_title_dp
オンラインショップ:https://www.foresta.co.jp/organiccotton
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森口和信(森弥毛織株式会社 代表取締役社長)
1956年大阪府生まれ 大学卒業後アメリカ留学を経て、1982年森弥毛織株式会社に入社。2001年代表取締役社長に就任。2010年より、日本毛布工業組合理事長を歴任。日本の住環境の変化を常に捉えながら商品開発に取り組み、ウール、綿、化学繊維に至るまで如何に素材のよさを出せるか、生地の生産から染色、プリント、最終加工、縫製の一貫生産をしている。
<文・撮影/鈴木裕子 MC/石井みなみ 画像協力/森弥毛織>