日本三大刃物産地の1つ大阪堺市。「堺打刃物」は伝統的工芸品に指定され、和包丁を中心にプロの料理人に愛用されています。そんな堺市で、自社ブランドを確立し、堺刃物600年の伝統と技術を、世界で高い評価を受ける製品に仕立て上げた刃物問屋があります。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった株式会社青木刃物製作所 代表取締役社長の青木孝浩氏に、取材陣が伺いました。
堺の職人技で抜群の切れ味と高いデザイン性を誇る「堺孝行」の包丁
2022/12/07
株式会社青木刃物製作所 代表取締役社長の青木孝浩氏
―堺打刃物のあらましを教えてください。
青木 戦国時代に火縄銃を作った鍛冶の技術を、タバコの葉を切る「タバコ包丁」に応用したのが始まりとされています。堺の特徴としては、分業制が確立している点ではないでしょうか。鍛造、刃研ぎ、柄付など、それぞれのスペシャリストが技を極めています。種類でいえば、柳刃、出刃、薄刃といった片刃の和包丁が主流。うちは片刃も両刃も、洋包丁から中華包丁、特殊なものまで幅広く取り揃えています。
―青木刃物製作所さんのあゆみをお聞かせください。
青木 1947年に祖父が創業しました。戦後和菓子屋に就職し、羊羹包丁やカステラ包丁など特殊で専用の包丁があることを知り、和菓子職人として最適な包丁を販売したいと、堺打刃物の卸売り問屋を始めました。父の代になって、和菓子用以外にも和包丁や、岐阜県関市から洋包丁を仕入れて商品ラインナップを広げました。
もともと堺はOEM商品の製造販売が多かったのですが、父は自分の名を冠した「堺孝行」ブランドを創設。1965年当時、フランチャイズの飲食店がどんどんできるなど、外食産業の黎明期で、そういうところで使ってもらうようになりました。父は全国どの料理道具店にも「堺孝行」ブランドを扱ってもらうのを夢見て、全国営業に歩いたそうです。
―青木社長のご入社までの歩みは?
青木 幼いころから包丁屋を継ぐんだぞと言われ続けてきましたから、当たり前のようにそう思ってきました(笑)。大学3年生くらいで改めて仕事について考えたとき、就職活動をする同級生たちに比べて、すでに売り上げ4~5億円規模の会社を将来継ぐという立場が、人より1歩進んだスタートである幸運に気が付いたのです。2年ほど車のセールスという修業をしてから入社しました。飛び込み営業や粘り勝ち営業など、今に生きる経験ができたと思います。
―社長ご就任は?
青木 2011年、突然父に「社長を継ぐように」と言われ現職に就きました。就任当時「堺孝行」ブランドはまだあまり知られていませんでしたから、ブランド力、知名度を上げることに注力。特に日本料理ブームを受けて、国内外へのアプローチを強化しました。先日訪れたイタリアの寿司店で「堺孝行」の包丁が使われているのを見て、改めてブランディングが成功したことを実感しました。
―海外にはどのような方法でアプローチをされたのですか?
青木 初海外営業はアメリカ、カンザスシティの商社でした。社長に就任する少し前、リーマンショック直後でしたでしょうか。その商談はうまくいかなかったのですが、5年10年先を見据えたら海外進出は必須と確信する良い経験になりました。当時社内では「海外出張など経費の無駄」とも言われましたが、外国語カタログを作ったり展示会に出たりなど、大きな投資をしたからこそ、今があると思っています。外食産業に大きな影響のあったコロナ禍でも変わらず、売り上げは毎年1割ずつ増えていますし、そのうち約7割は海外なんですよ。シカゴ、サンディエゴ、NY……世界中いろいろなところを回りました。英語がほとんどできなくて、現地の人に助けてもらいながら(笑)。おかげさまで今は20か国以上で使ってもらっています。
―国内外多くの料理人に評価の高い「堺孝行」ブランドの強みは?
青木 すべての包丁に青木刃物70年の歴史と技術の蓄積が発揮されている点でしょうか。機械製でなく、すべて1本1本、職人による手作りなのです。血の通った技術、包丁への愛情、使い手への想いが込められています。
今でこそ職人とも良い関係ですが、入社当時は個性の強い職人たちと信頼関係を築くのに苦労しました。お客様からのリクエストやクレームを職人にフィードバックするのですが、言い方によっては答えてもらえなかったり怒られたり……。「堺孝行」ブランドのクオリティは、職人にとっても売り手にとっても誇りですからね。
職人の手仕事で1本1本大切に作られる「堺孝行」の包丁。
―ご紹介商品についてお聞かせください。
青木 ダマスカス33層シリーズは、鋼材メーカーが生み出したステンレス鋼材「VG-10」を芯材に使用しているのが特徴です。切れ味が良いのに刃こぼれはしづらく錆びにくい、高性能な鋼材を、見た目スタイリッシュに、使いやすく仕上げています。ブレード(刀身)には槌目模様を施し、ハンドル(柄)にはスペイン産のマホガニーを使用。日本らしい機能美ですよね。製造は岐阜県関市で行われていますが、「堺孝行」の刃物で蓄積された技術と経験が盛り込まれた包丁です。
独特の美しい模様が魅力的なダマスカス鋼の包丁。
三徳包丁の先を鋭くした剣型三徳。肉や野菜など万能に対応し、鋭い先端を使って細造りもできる。
子供包丁は、切れ味を多少落としてはありますが、プロ仕様と同じグレードの素材を使っています。料理人の中には、栗など小物の皮をむくのに使う人もいて、「本職子供包丁」とでもいいましょうか。かれこれ20年くらい前に私がパッケージデザインをしたのをよく覚えています。ケースをつけるのも珍しくて。百貨店やホームセンターなどでは扱いがなく、東京でいえば合羽橋にあるような、マニアックな調理道具専門店にしか置いてありません。
初めの1本にこそふさわしい、ハイクオリティな子ども包丁。
刃体がハンドル(柄)と同じ形状で柄尻まで通っている「本通し」。本格仕様で耐久性も十分。
子どもの手にしっくりなじむサイズ。
抜群の切れ味で料理を楽しくスタートできそう。
―料理界で評価の高い「堺孝行」ブランドの包丁を、一般家庭で選ぶポイントは?
青木 会社の歴史からして、和包丁に定評がありますし菓子用のラインナップが充実しているのも特徴ですが、洋包丁も同じくプロ仕様のクオリティをキープしています。選ぶポイントは、ネットの時代ではありますが、本来、手に取ってフィットする包丁を見つけるのが大事だと思います。
1つ基準をお伝えするならば、包丁は、食材より長い方が切りやすいですよ。極端に言えば、スイカをペティナイフで切るのが無理なように。刃渡り21cmが使いやすいと思いますが、長すぎて怖いと感じるなら18cmが良いかもしれません。
洋服選びと同じように、最低限の機能を確保したらあとはデザイン、重さ、握り心地などの好みではないでしょうか。「堺孝行」はすべて、「よく切れる」「さびにくい」という機能はきちんと果たしますから、フィット感を大切にしてください。
―手に取ってフィット感を試せる場所を作られましたね。
青木 これまで、Webなどで調べて会社へ来てくださる堺孝行ファンがいたのですが、小売りをしておらずお断りをしていたのです。それが申し訳なくて心苦しくて「ナイフギャラリー」を作りました。海外のギャラリーにインスパイアされ、プラネタリウムをコンセプトにした神秘的な雰囲気に。包丁たちを美しくディスプレイしてあります。今後はこのスペースに寿司職人を呼んだり、工場見学後にトークセッションをしたりなど、職人と料理人の交流の場ともなったらいいなと思っています。
―今後の展望をもう少しお聞かせください。
青木 私は社長ですが、実は計画的に動くのがあまり好きではありません。先行き不透明な未来を予測してそれ通りに進んでも、歪が出ると思ってしまうのです。包丁作りに関して言えば、真面目に仕事をしていれば売り上げは上がっていくはずだと思っています。小さな問題が起きたら、その都度最善へと変化すればいい。
「堺孝行」ブランドがある程度確立した今、次のステップは、料理人には「使ってよかった」と思ってもらい、社員や職人は「この仕事に就いてよかった」と感じられることだと思っています。関わるすべての人が幸せになるブランドであるべく、さらに育てていきたいですね。我々は、一生懸命に包丁を作り、高いクオリティをキープしています。それをいかにわかってもらうかが課題。SNSやナイフギャラリーなどを活用して、広く周知していきたいと思っています。
ワンドリンク付きで入場料2,000円のナイフギャラリー。
―素晴らしいお話をありがとうございました!
「ダマスカス33層 剣型三徳」
価格:¥17,900(税込)
店名:清助刃物
電話:072-229-3737(9:00~17:30 土日祝日除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://aoki-hamono.co.jp/item/%E3%83%80%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%82%B933%E5%B1%A4/
オンラインショップ:https://seisukehamono.com/products/sakai-takayuki-vg10-damascus33-layer-damascus-kiritsuke-santoku-japanese-chef-knife-160mm?_pos=12&_sid=6a720b171&_ss=r
「子供包丁」(黒・ピンク・ブルー)
価格:¥6,190(税込)
店名:清助刃物
電話:072-229-3737(9:00~17:30 土日祝日除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://aoki-hamono.co.jp/item/%E5%AD%90%E4%BE%9B%E5%8C%85%E4%B8%81/
オンラインショップ:https://seisukehamono.com/products/sakai-takayuki-molybdenum-kitchen-knife-for-kids-pink?_pos=2&_sid=345235220&_ss=r
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
青木孝浩(株式会社青木刃物製作所 代表取締役社長)
1971年大阪府生まれ。自動車販売ディーラーに入社し、2年の修業期間を経て1998年に株式会社青木刃物製作所へ入社。2011年に同社代表取締役社長に就任。堺の包丁業界において、先駆けて海外でのこれからの需要に着目し、和包丁の魅力を世界へ広める営業活動に従事。高級刃物ブランド「堺孝行」としての地位を確立させ、今や、全国はもちろん、世界約40か国以上の海外の代理店へと卸売りを行う企業へと成長させた。
〈文・撮影/植松由紀子 MC/和田英利 画像協力/青木刃物製作所〉