溜まりに溜まった汚れも、シュッとひと吹きすれば、ゴシゴシこすることなく分解するという夢のような専用洗剤。その秘密は、とある企業の長年の経験に基づく根拠と、社長の気質にありました。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった株式会社允・セサミ（インセサミ）代表取締役の山口隆史氏に、取材陣が伺いました。

株式会社允・セサミ 代表取締役の山口隆史氏

―「技職人魂シリーズ」というインパクトの強いネーミングに込められた想いは？

山口　ミュージシャンや大工など、様々な職業を経験してきた私は、あるときハウスクリーニング業で起業しました。紆余曲折を経て、作業の効率化や時間の短縮化がいかに大切かを知り、そのためには画期的な洗剤を開発することが必要だと確信しました。いろいろな職業を経験してたどり着いたハウスクリーニング業で、もともと凝り性の私が掃除職人となり、効率化を突き詰めた結果できた商品なのです。

―まず社長の経歴から伺う必要がありそうですね。

山口　山梨甲府で生まれ育った私は、1つのことに夢中になる性質でした。ブルースに魅せられ、ミュージシャンを目指して上京。いろいろなアルバイトをしながらスタジオミュージシャンとして活動していました。しかし、9歳年上の女性と恋に落ち、結婚しましたが、連れ子がいたので、生計を立てるため、稼ぎの少ないミュージシャンの道を断念。土木作業やとび職を経て、大工見習となりました。多くの現場を任されるようになると、仕事に時間を取られて家庭内がギクシャク。過去のアルバイト経験を生かして成功できそうな仕事を思案した結果、ハウスクリーニング業を思い立ちました。

―どこに勝機を見出されたのですか？

山口　当時ハウスクリーニング業は、専門家というより、主婦がパートタイマーとして家事の延長のように作業することが多かったのです。私はスタジオミュージシャン時代にビルクリーニングのアルバイト経験があり、それなりに打ち込んでやりましたので、もう少し本格的な施工ができるのではないかと考えました。最初の1件を受注するまでは相当な苦労がありましたが、幸運な出会いがあり、なんとかスタートすることができたのです。

―業務拡大はどのように？

山口　当初、今なら数時間で終えられる作業にも2日3日を費やしていました。案外それが良かったのか、早朝から遅くまで一生懸命掃除をするスタートアップの私を信頼して、最初のクライアントが大きなリフォームの仕事を発注してくれたのです。ただの掃除屋では途方に暮れたかもしれませんが、元大工ですから、業界にコネクションがあり、なんとか満足してもらう仕事になりました。

―これまでの経歴が役に立ったのですね。

山口　退去後物件の原状復帰を主業務として少しずつクライアントを増やす中、気づいた点をどんどん改善していきました。例えば、賃貸物件は退去後ハウスクリーニングとリフォームの両方を施工することが多いのですが、業者が違うのでスケジュール管理に無駄が出る。そこでリフォーム業者のアテンドを私の方で行う提案をしました。ハウスクリーニング中に、修繕が必要となりそうな箇所をチェックリストにして提出していたこともあり、クリーニングとリフォームをセットで受注することも増えていきました。

―「技職人魂シリーズ」開発のきっかけは？

山口　ある時期、業界全体の価格競争に巻き込まれてしまいました。単価が下がり、会社を維持するためには数をこなす必要が出てきたのです。深夜まで作業をして早朝から出かけ、時には会社で仮眠を取る過酷な日々。ある夜、高速道路を運転中、突然大きな音がして車が止まってしまいました。過労で居眠り運転をしてしまっていたのです。幸いけが人は出ませんでしたが、車が大破し代車が来るまで休業に。その3～4日が、働き方を考える良い機会になったんですよね。

現場数を維持しながら働き手の負担を減らすには、効率だと考えました。作業効率、移動効率、とにかく効率、段取り。そして行きついたのが、汚れを効率的に落とす洗剤があれば作業時間が短縮できるという考えです。当時使っていた洗剤は、業務用と謳ってあるものの大容量なだけで、洗浄力に関しては家庭用洗剤と大差ない。とにかくこする、道具を工夫する、時間をかけるなどの方法で洗浄力を上げていました。洗剤の洗浄力を上げさえすればもっと効率が上がるんじゃないかと確信しました。

―掃除のプロでも、洗剤づくりは素人だったのでは？

山口　それが良かったのです。何も知らなかったから、常識にとらわれない成分や配合を採用できました。さらには、実験室で人工的に作られた汚れでなく、何年もかかってできた本物の汚れをサンプルにしながら改良を重ねられたのです。

―ほかの洗剤との決定的な製法の違いは？

山口　洗剤には界面活性剤を使うというような基本がありますが、界面活性剤にも種類はいろいろ。浴室やキッチンなど場所によって汚れの種類が違いますから、汚れを分析してより効果的な成分と配合を見つけていくことが大切です。最初に作ったのは「風呂職人」ですが、水アカや人の皮脂だと思っていた汚れが、実は、水道水や皮脂に含まれるマグネシウムと石鹸成分の脂肪酸が混ざってできた金属石鹸だとわかりました。

汚れの正体がわかれば、アプローチできる成分が絞り込めます。それからは、どの成分をどの配合にすれば最も効果的か、実際の現場で試しながら決めていくという工程。机上の理論でもなく、実験室で作られた汚れが相手でもなく、蓄積された汚れを相手に戦ってきた結果、現場で最も役立つ洗剤ができたというわけなのです。

風呂でできてしまう汚れには専用洗剤「風呂職人」でアプローチ。

―製品が完成してからの清掃現場に変化はありましたか？

山口　それはもう。場所別専用洗剤を吹き付けておき、汚れを分解する時間に別の作業ができるわけですから。それまでは作業する側のスキルによってかかる時間が違いましたが、誰が作業をしても同じ時間で同じクオリティに仕上がるようになりました。さらに、1日中使っても人体に害のないものにしましたから、スタッフの負担はかなり軽減されたのではないでしょうか。

―それほど素晴らしい洗剤だからこそ小売りを？

山口　Web販売を経て、大手ホームセンター・雑貨店の1店舗で販売してもらうことになったのが始まりです。当時赤字だったハウスケア部門の売り上げをひっくり返すのに貢献できました。

一般的な住居洗剤の約3～4倍する高価格で、「焼肉弁当より高いじゃないか」と言われることもありましたが、その実績をもって全国販売できるようになったのが2010年。以来売り上げは年々上がっています。リーズナブルな日常用洗剤と、しっかり落としたいときに使う高機能洗剤というように住み分けができてきたように思います。

―商品展開は？

山口　換気扇やガス台の油汚れ専用の「油職人」を始め、「トイレ職人」「硝子職人」「壁汚れ職人」「畳汚れ職人」「万能職人」「カビ取り職人」「水垢職人」といった専用洗剤、コーティング剤、お掃除ツールなど展開しています。商品だけでなく、掃除ノウハウの啓蒙も進めていきたいと思っています。

ガリガリに固まった五徳の油汚れも、「油職人」をシュッシュとしてしばらく置くと、じんわり分解されてくる。

魚焼きグリルのギトギト油も「油職人」の力でこの通り。

―具体的には？

山口　料理にレシピ共有サイトがたくさんあるように、掃除にもスキルを共有できる場所があれば……と、おそうじ情報サイト「おそうじHack」を立ち上げました。動画共有プラットフォームにも「おそうじHack」チャンネルをもち、プロとしてのハウツーを発信しています。また、モバイルメッセンジャーアプリの専用アカウントでは、チャット方式でお掃除相談に乗っています。すべては、プロとしてのノウハウを出し惜しみしないことで、家庭での掃除がより効率的になればとの想いです。

―今後の展望をもう少しお聞かせください。

山口　ハウスクリーニング業の立場で言えば、まだ職業カーストで下の方であるのを押し上げたい。そのためには、やりがいをもって働ける環境を整えたいと思うのです。例えば、ろう者の方はこの仕事にとても向いていますから、障がい者雇用の間口をもっと広げたいですし、文字の読み書きができない方や色弱者にも認識しやすいよう、洗剤はわかりやすい色を使っています。

一般家庭における掃除に関する情報はまだまだ不足していて、それが掃除に関する市場の成熟を阻んでいると思っています。ですから施工業者と洗剤開発者の両観点からどんどん情報を発信し、お掃除業界の活性化と発展に貢献していきたいと思っています。

―素晴らしいお話をありがとうございました！

「風呂職人」（500ml）
価格：¥1,100（税込）
店名：允・セサミ 技職人魂シリーズ直営店
定休日：インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL：http://www.syokunin-waza.jp/shopdetail/001000000001/001/O/page2/order/
オンラインショップ：http://www.syokunin-waza.jp/

「油職人」（500ml）
価格：¥1,551（税込）
店名：允・セサミ 技職人魂シリーズ直営店
定休日：インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL：http://www.syokunin-waza.jp/shopdetail/000000000003/
オンラインショップ：http://www.syokunin-waza.jp/

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

＜Guest’s profile＞
山口隆史（株式会社允・セサミ 代表取締役）

1974年山梨県生まれ。ミュージシャンを目指し上京。後に子連れの女性と出会い結婚。若くして父親になり生活が困難になり建築現場やビルクリーニングを経てハウスクリーニング会社を起業。「洗剤は調味料。使い手により結果が変わる。誰がやっても結果が同じになる洗剤を現場で本物の汚れで実際に使い込めば良い洗剤が作れる」と考えお掃除のプロが現場で開発した洗剤「技職人魂シリーズ」を開発。全国のホームセンターやドラッグストアで販売拡販中。現在はお掃除のコンサルティングや若手指導を務める。

＜文・撮影／植松由紀子　画像協力／允・セサミ＞