目が合うと思わず笑みが零れそうな愛らしい顔立ちの節句人形。現代風な顔立ちながら、伝統職人が丁寧に手作りする本格派の日本人形で、まさに伝統と時代のニーズが融合した新しい形です。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった株式会社ふらここ 代表取締役の原英洋氏に、取材陣が伺いました。
あどけない赤ちゃんの顔をした可愛らしい「ふらここの節句人形」
2022/12/16
株式会社ふらここ 代表取締役の原英洋氏
―まずは原社長がふらここを立ち上げられる背景をお聞かせください。
原 国の無形文化財(人間国宝)に指定された人形師である祖父が創業した人形専門店に生まれました。しかし私自身は作家になりたくて、大学卒業後は出版社に入社したのです。
ところがわずか1年10か月後に、2代目である父が逝去し、家業に入ることを決意しました。
生まれたときから人形に囲まれて育ったものの、それを扱うビジネスの在り方を模索する日々。後継者として経営を学ぶ傍ら、店頭にも立ちお客様と接する中で、時代の流れに伴う人形ニーズの変化も感じていました。
私の入社当時は、大きな家での三世代同居が珍しくなく、節句人形が大きくても不都合はありませんでした。
節句人形を孫への贈り物として祖父母が購入されるケースは今も昔も変わらず多く、当時は特に、愛情の大きさを豪華さで表される方も多くいらっしゃいました。
時代が変わるにつれて核家族化が進み、来店される方は、主に祖父母だったのが、おばあ様とお母様というペアになり、お母様だけとかご両親のみとかに変わっていきました。つまり、お好みが、祖父母目線から両親目線へと変わっていったのです。
―具体的にニーズはどのように変化したのですか?
原 まずはサイズですね。核家族の現代住宅やマンションにも飾れるようコンパクト化が求められるようになったので、真っ先に実践しました。最小サイズでも横幅が90cmだったものを、横幅50cmにしたところ、数年後には売り上げの8割がコンパクトタイプとなりました。
次に感じたのは「かわいい」というキーワードです。選ぶのが赤ちゃんのお母様という若い世代中心になり、童(わらべ)顔が好まれるようになりました。伝統的な日本人形は、それでもどこか大人びた部分を残すので、さらに幼い赤ちゃん顔にしてはどうかと思い立ちました。
ふらここの人形は、あどけなさの残る赤ちゃん顔が特徴。
―新商品ではなく、起業して商品化されたのですね。
原 人形師は、顔の造形をいかに作り込むかを極めることが技術を磨くこと。しかし赤ちゃん顔の人形というのは彫が深くなく、平坦な顔立ちにしなくてはならない、真逆なのです。
ですから、これまでお付き合いのあった職人さんがプライドを傷つけられた気持ちにならないためにも、まったく新しいところで始める必要があると考えたのです。
―製品化まではどのような道のりでしたか?
原 まずは、志をともにする職人探しからでした。日本人形の伝統製法で、本物の人形を作りたかったので……。知り合いの伝手もたどりながら文字通り全国を探し歩き、口説きました。
職人が揃ってからは製品化に向けて試行錯誤。私の思い描く赤ちゃん顔のかわいらしい人形と、職人が良しとする表情のせめぎ合いというところもありましたが、時間をかけていくつも試作をしました。
赤ちゃんをもつお母さん世代の女性の目線を1番大切にして完成しました。
生まれたばかりのわが子の姿に重なるようなかわいらしい人形。
―材料や製法に関してはいかがですか?
原 確かな技術を持つ日本人形の職人たちが1体1体作っています。お顔に関して言えば、ガラス製の目を入れて素地をつくり、上質な貝の殻を細かくした胡粉(ごふん)を塗って美しく仕上げます。
目や口も、熟練職人の細やかな手仕事によるものです。材料にも妥協はありません。例えば衣装に使う西陣織、赤ちゃんがまとうようなパステルカラーの織物がありませんでしたので、オリジナルで織ってもらうことにしました。
伝統的な手法を守りつつ、顔つきや丸みを帯びたボディなど
赤ちゃんらしい新しい意匠を生み出す。
―お客様の反応はいかがですか?
原 第1号は、2009年のひな祭りに向けて作った200セットの雛人形。店舗を持たずデパート等への出店もなく、黎明期だったネット販売のみで、広告費もなかったので恐る恐るのスタートでした。忘れもしません、正月休みが明けた1月5日から売れ始めてわずか3週間で完売したのです!
続く五月人形100セットも完売。かわいらしい赤ちゃん顔をした節句人形を求める人は確実にいるのだと自信を持ちました。
翌年は2倍、その翌年はさらに2倍と生産量を増やし、バリエーションもつけながら展開していきました。
―セット商品だけでなく自分好みにカスタマイズできる点も魅力ですね。
原 すべてがセットになった商品もありますし、人形のお顔、飾り台や屏風を組み合わせて自分好みにコーディネートすることもできます。
また後から人形や道具を買い足して増やすことも可能です。親王飾に三人官女を足し、さらに五人囃子を足すという具合に。
子どもの成長や住環境の変化に対応する点も、現代に受け入れられているのかなと思います。
―商品の開発や展開の発想はどのように?
原 もちろん私も携わりますが、基本的にはお客様と同じ世代の女性社員が主体となっています。
うちの社員は35人中34人が女性。言葉を連ねなくても、お客様の求めるものが感性で分かり合え、ものづくりがスムーズに運んでいると思います。
ライフステージが変わっても働きやすいよう、子連れ出勤を可能にしたり家族参加のイベントを開催したりなど、工夫をしています。
結婚を機に、両親に万感の想いを込めて贈るブライダルドール。
―今後の商品展開は?
原 節句人形を飾る床の間が非日常だった時代は終わり。赤ちゃんのご両親が気負いなく飾れるもの、子ども本人が自分の物として愛着の持てるもの、そんな商品でありたいですね。
根底には、人形で、親と子の絆を深めるお手伝いをしたいという思いがあり、ブライダルドールも始めました。結婚を機に、両親への感謝やこれからの幸せを願う気持ちを込めて贈る人形。自分の幼少期を思い出させる佇まいのお人形をご両親に贈る方が少しずつ増えています。
会社としては、東京日本橋にショールームを開設しました。これまではSNSへの投稿などでしか知ることのなかったお客様のお声も、ダイレクトに聞くことができます。
節句人形は、1000年以上続く日本の伝統文化です。その伝統を大切に守りながら、時代に沿った流行や、変わりゆくお客様の好みにいち早く対応していきたいと思っています。
―素晴らしいお話をありがとうございました!
「ことこと 琳派名物裂」(サイズ-飾りつけ時:横幅42.5×奥行25×高さ25cm)
価格:¥87,945(税込)
店名:東京 日本橋 人形工房 ふらここ
電話:0120‐352‐613(9:30~17:00 日曜を除く)
定休日:日曜 インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.furacoco.co.jp/hina/product/CT-01124400
オンラインショップ:https://www.furacoco.co.jp/hina/
「夢」(サイズ-飾りつけ時:横幅35×奥行27×高さ29cm)
価格:¥99,550(税込)
店名:東京 日本橋 人形工房 ふらここ
電話:0120‐352‐613(9:30~17:00 日曜を除く)
定休日:日曜 インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.furacoco.co.jp/gogatsu/product/T-000011100
オンラインショップ:https://www.furacoco.co.jp/gogatsu/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
原英洋(株式会社ふらここ 代表取締役)
1963年東京生まれ。人間国宝である原米洲を祖父に、女流人形師である原孝洲を母にもつ。慶応義塾大学経済学部卒業後、大手出版社・集英社に入社。1987年父親の急逝により、家業である人形専門店に入社。1988年専務取締役就任。2008年に独立して株式会社ふらここを創業。女性活躍推進活動に注力し、2015年に経済産業省『ダイバーシティ経営企業100選』の認定を受ける。
<取材・文/植松由紀子 MC/橋本小波 画像協力/ふらここ>