日本の美しい暮らしとお客様を思うおもてなしの心に出会える伝統旅館。歴史ある宿のなかから、今回編集長アッキーが注目したのは、京都屈指の名旅館、柊家。愛着を持って使える旅館謹製の商品を集めたオンラインショップが好評です。柊家七代目の西村舞氏に、宿の思いやオリジナル商品について取材陣が伺いました。
京都の老舗旅館が伝える日本の心と技。優しさに満ちた「美容ジェル」とパート・ド・ヴェールの「帯留め」
2023/02/08
200年余の歴史を誇る京の名宿柊家。
―ご創業は幕末1818年と伺いました。
西村 初代が福井から青雲の志を抱いて京に上り、現在の地に居を構えたのが始まりです。当初は海産物商を営み、知り合いに請われた時に宿を提供するといった程度だったようです。二代目は海産物商の傍ら、趣味の刀の鍔作りに専念し、そちらのほうで名が通っていたそうです。初代と同じく請われるまま宿を貸していましたが、鍔の技に長じていたこともあり、海産物商をやめ、1864年に宿を本業にしました。
―柊家というお名前は?
西村 京都市左京区の下鴨神社の境内に比良木(ひらぎ)神社という末社があり、初代はこの比良木神社に深い信仰がありました。下鴨神社の七不思議の1つで、比良木神社に植えた木はトゲが出てきて柊に変わるとされ、トゲは邪気を祓う厄除けの意味もあることから、そこから柊家の名前をいただきました。現在、宿では柊をあしらったさまざまな物をあつらえています。屋号であり、みなさまに邪気を祓い安らいでいただきたいという意味も込めています。
邪気を祓う意味もある柊がさりげなく織り込まれている。
―他社にお勤めの時からいずれ家業を継ごうと?
西村 宿を家業としている家に生まれ、祖父母や父母が毎日店に出かけていましたから店は身近な存在でしたので、継ぐ継がないよりも、何らかの形でこの仕事を伝える役割ができればと、いつの頃からか思っていました。
―今の時代において、歴史ある宿として大切にされていることは?
西村 私どもが大事にしているのは、京都であることの意味。京都の風土、歴史の中で育んでいただいて今があるということです。京都では200年の歴史といってもまだまだこれから。今後も多くの方に訪れていただくために、時代に沿った形で、残すべきものは残し、変えていくべきものは変え新旧の調和を大切にしたいと思っています。初代が構えたこの地は、京の街中ですから今はさまざまな変化や消防法などの規制もありますが、続いてきた木造の建物や雰囲気、中で働く人の思いやお客様とのご縁を、繋ぎ広げなから進んでいきたいと思います。
幕末の志士や明治時代からの皇族方、文人墨客たちが訪れた旧館。
― 一般の旅館では既存のブランドのアメニティを使われますが、オリジナルというのは?
西村 旅をされる方はその土地のものを楽しみにされます。旅館ではくつろいでいただくことが大切で、アメニティに限らず、日本のものや和を感じて頂く素材や香りなどを大切にしています。偶然さまざまなご縁がつながっていき、化粧品やシャンプー類等それぞれ私たちの思いを理解してくださる作り手の方に協力していただいて作りました。
―オンラインショップを始められたのは?
西村 「ひいらぎ」という名前を付けて、2021年5月にオープンしました。ご宿泊の際にシャンプーやリンスなど購入くださる方もいらっしゃるのですが、コロナ禍で来られない方も多くいらっしゃいました。「送ってもらえないですか」というお声もあって、コロナ禍で旅に出られなくてもお家で気軽に私どもの空気感を楽しんでいただけるようにしたいと思い始めました。
アメニティに限らず、いろいろなものを作ってくださる職人さんの作品をもっと広く知っていただきたいという思いもあります。旅館は伝統工芸士さんや職人さんのおかげで建物、空間が成り立っていますので、そういう方々とお客様とのご縁つなぎができればと思います。
旅館に宿泊した際に買って帰る人も多いアメニティ。
それぞれ宿とご縁のあるメーカーで作られている。
―思いを持って作られたものばかりですね。
西村 高度経済成長期などは、使い捨てやいつでも簡単に手に入るという贅沢さもあったかと思いますが、現代の忙しい時代にお客様が求められる贅沢感の1つには、時を経て長い間愛着を持って使えるという豊かさもあると思います。誂えるというのも、そんな贅沢さ。私どもは昔から引き継いできたものを大事にしたいと考えており、それには手間もかかりますし、職人さんの協力が必要です。お客様にはひとつのものを愛着を持って直しながら使い育てていくことを楽しんでいただければうれしく思います。そんなご縁つなぎができる場所の1つがオンラインショップなんです。
―オールインワン美容ジェル「美ようえき」について教えてください。
西村 もとは女将である母の友人の方が敏感肌で、自分の肌に合う化粧品をと開発されたんです。絹を紡ぐ人の手が美しいというところから、繭の成分が人間の肌のアミノ酸に近い成分を持っていると知り、絹で化粧品ができないかと思われたそうです。
開発には相当なご苦労があり、長い時間をかけてやっとの思いで完成されました。その思いを伺っていましたし、肌あたりもやさしくて、これはお客様に喜んでいただけると館内に置かせていただくことになりました。開発者ご本人が体調を崩されて辞められることになり、私どもがその思いを継ぎ、メーカーさんのご協力を経てラインナップを増やして現在の形になりました。
するすると肌に浸透。
香りにも癒される。
エレガントな巾着付き。
旅やスポーツクラブに出かける時にも便利。
―浸透が早くて、香りもとて もいいですね。
西村 イランイランやパチョリの香りです。リラックスできる香りで作られました。性別や年代、肌タイプは関係なく、心地よいと感じて使っていただけると思います。シルクプロティンが持つセリシンという成分にはバリア機能もあるそうです。繭の力ですね。
―もう1つの商品、帯留めは光の当たり方で豊かな表情が出ますね。
西村 パート・ド・ヴェールというガラス製法で作られたガラス工芸作家石田知史(さとし)さんの作品で、なんともいえないやわらかなで繊細な表情があって美しいものです。光によって、透け方や見え方、色の質感が変わってきます。手作りですから、まったく同じものはありません。世界に1つだけのものですから、プレゼントにしても喜んでくださると思います。以前、私も母のために作っていただき、今も大切に母は使ってくれています。
パート・ド・ヴェール(鋳込み硝子)の技法を使った帯留め。
京都の作家、石田知史氏作。
光によってさまざまに変わる、なんとも美しい彩り、表情。
金彩の柊の葉も。
―製作のきっかけは?
西村 石田知史さんのお父様で伝統工芸士の亘さんとのご縁がきっかけです。パート・ド・ヴェールは、古代エジプトで行われたガラスの製法で、鋳型を作って繊細な模様を彫り、そこに色ガラスを流し込んで作ります。できあがったら鋳型を割って取り出します。
石田さんはご家族でそれぞれ作品づくりをされています。やわらかい繊細な雰囲気が素敵で、お客さまにもお伝えしたいという思いで、オンラインショップを立ち上げた際に、石田さんにお願いをして柊をあしらって作っていただきました。その他石田さんの作品は館内にも飾らせていただいていて、すてきですねというお声をいただいています。上品な輝き、繊細な文様が特徴です。
―今後の展望は?
西村 昨年99歳を迎えた祖母、母、私、と、「来者如帰」(来たるもの帰るが如し)お客さまには我が家に帰られたようにおくつろぎいただきたいという思いを世代を超えて共有しています。いまは旅館自体が以前とは違う使命も帯びてきているように感じます。日本文化といわれるものも、私たちの生活から身近でなくなりつつあり、あたりまえであったものがあたりまえでなくなってきていると思いますが、旅館には日本文化、衣食住の生活文化全部が詰まっています。
たたみや床の間等、かつてあたり前だったことがなくなり、もう旅館にしか残っていないとも言えます。季節の移り変わりとともにしつらいをかえて楽しむ。自然とともに暮らすこともだんだん薄れてきているように感じます。旅館に日本文化や生活スタイルを勉強に来たい、体験したいという方もいらっしゃいます。人のぬくもり思いやりを大切にし、伝統工芸や職人さんの力を借りながら目に見えるもの建物等を残し、型としての空間を残しながら、その奥にある日本人の心の部分も押し付けにならないように磨いて伝えていきたいと思っています。
ご縁をつなぎながら、お客様に心地よいと感じていただく、そのために日々努力と勉強を続けたいと思います。
―本日は、素敵なお話をありがとうございました。
「美ようえき(オールインワンジェル美容液)」
価格:¥6,200(税込)
店名:ひいらぎ
電話:075-221-1136(8:00~20:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://shop.hiiragiya.co.jp/collections/silk-skin-care/products/%E7%BE%8E%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%88%E3%81%8D-%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AB
オンラインショップ:https://shop.hiiragiya.co.jp
「帯留め『櫛に柊』」
価格:¥77,000(税込)
店名:ひいらぎ
電話:075-221-1136(8:00~20:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://shop.hiiragiya.co.jp/collections/%E9%99%90%E5%AE%9A%E5%95%86%E5%93%81/products/%E5%B8%AF%E7%95%99%E3%82%81-%E6%AB%9B%E3%81%AB%E6%9F%8A
オンラインショップ:https://shop.hiiragiya.co.jp
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
西村 舞(柊家株式会社 代表取締役)
1974年京都市生まれ。神戸女学院大学卒業後、株式会社堀場製作所 広報を3年務める。子育てをしながら2007年より家業の柊家に入る。2019年取締役就任、2021年代表取締役に就任。
<文・撮影/大喜多明子 MC/橋本小波 画像協力/柊家>