プラスチック製品を捨てるとき、「これは地球には還らないのね」と胸がチクリと痛むことはありませんか?今回、編集長アッキーが注目したのは、どうしても使い捨てになってしまう「歯ブラシ」です。竹を原材料とし、土に分解される歯ブラシがあるということで、製造元のファイン株式会社 社長・清水直子氏に伺いました。
だれにとっても使いやすく、自然に還るプラスチック製。人と地球に優しい、竹の歯ブラシ「MEGURU」
2023/03/16
ファイン株式会社 代表取締役社長の清水直子氏
―歯ブラシメーカーとして、創業50年と伺いました。
清水 元々は1948年からある会社で、ロウソクの会社だったのですが、歯ブラシ、そして病院、不動産などにも事業を拡大していたそうです。
私の父が、歯ブラシ部門「ファイン」のブランドと製造を引き受け、1977年に独立しました。「清潔をお届けする会社」として、ラボ用洗剤などを扱い、歯ブラシ専門メーカーとして歩んできました。
私は三姉妹の末娘なので、会社を継ぐとは思っていませんでしたが、父が亡くなり母が社長になった時に、私だけがずっと務めていたこともあって、そのまま継ぐ形になりました。
―環境に優しい商品を開発することになったきっかけは?
清水 環境問題に興味が湧いたのは、姪っ子がアトピー性皮膚炎だったことがあります。食品にアレルギー成分が入っていないか気にするようになった時に、思ったより色々なものが入っていることに気づき、環境を意識するようになりました。
また、22歳でファインに入ってから、私は営業をしていて、売れ行きは順調ではあったのですが、逆にいうと、これだけ大量の歯ブラシが毎月ゴミになっているんだ、ということにも気づかされました。歯ブラシのプラスチックが土に分解されることなく埋め立てられているのかと思うと、後ろめたさすら覚えました。
それらのことがきっかけになって、環境に配慮した商品開発をしたいと思い始めました。
―1998年にバイオプラスチックの歯ブラシ「エコット」を発売しています。
清水 そのころ業界では、生分解性樹脂(バイオプラスチック)が盛り上がっていました。国の後押しもあるだろうと期待したのですが、その時点ではなくて。一般の方も、関心を持ってくださる方もいたのですが、やはりなかなか浸透はしませんでした。
その上、「エパック:21」という新ブランドも、1~2年で割れてしまったり折れてしまったりと、トラブルが多かったのです。バイオプラスチックのイメージダウンにもなってしまい、2006年に断念して、発売を中止しました。
―それでも、2008年には「FINEeco41 竹の歯ブラシ」を発売されました。
清水 「エパック:21」をやめたとき、「ある分だけ全部買いたい」という化学物質過敏症のお客様からの電話が何本かあり、切実にこの商品を必要としている人がいることがわかりました。
ある時、竹の樹脂があることを知り、試作をしてみたら、これが意外と丈夫だったんです。表面が凹んでしまうこともなく、耐熱も十分、割れたり折れたりのトラブルもなくなったので、これなら!と採用しました。
2008年、「FINEeco41 竹の歯ブラシ」が完成。当時は、化学物質過敏症の方向けの商品として発売しました。化学物質に反応してしまい、普通のプラスチックの歯ブラシが握れない方たちに、大変ご好評いただきました。
―ちなみに、竹そのものの歯ブラシではない理由は?
清水 竹そのものでできた歯ブラシだと、カビが生えたり、表面が荒いので使い心地も通常とはちがいます。
竹そのものを歯ブラシにする機械も保有していますが、思った以上に竹のゴミが出るんです。なので、竹を1度粒子にしたものと、環境負荷の少ない1年で育つ植物(トウモロコシやサトウダイコン)のデンプンとで作られたプラスチック製の歯ブラシを採用しています。プラスチックなので、ふだん使っている歯ブラシと使い勝手が変わらず、ストレスもありません。
そして、実は生分解速度も竹そのものよりも早いのでは、と思っています。
「MEGURU」を1年間土に埋めると、この状態に。
自然に還っていくことがわかる。
―なるほど。その後、「MEGURU」としてリニューアルされました。
清水 2019年にはSDGsも浸透してきて、やっと環境に優しい歯ブラシがメジャーになってきたと感じました。化学物質過敏症の方たちだけでなく、一般の方にも使っていただく想定ができ、パッケージもリニューアルしました。
パッケージもOP袋から竹の紙製に変更。
放置竹林の活用にもつながり、ますますエコ仕様に。
毛の種類も4種類に拡充。
―リニューアルのポイントは?
清水 毛のラインナップを、ニーズに合わせて4種類に拡充しました。
まずは天然毛の豚毛。かためなので、歯の表面の汚れをしっかり落としてくれます。
宗教上の理由などで豚毛を使えない方のために、花馬毛もご用意しました。柔らかいので歯茎を傷つけにくく、歯茎マッサージにも適しています。
歯周病などが気になる方は歯間や歯周ポケットにも入りやすい超極細毛が良いかと思います。実はこれは石油由来の毛ですが長持ちするという点でも環境に良いですね。
ひまし樹脂毛は、世界に先駆けてひまし100%の植物性ナイロンを採用しました。汚れ落ちがよいので、虫歯になりやすい方や歯垢が残りやすい方におすすめです。ビーガンの方にも喜ばれています。
―「MEGURU」には品質保持期限がありますね。
清水 柄の素材は自然の原料を使用しています。そのため長い期間が経つと分解が進んで強度が落ち、どうしても折れたりすることがあります。安心して使っていただくために、樹脂を成型した時点から2年の品質保持期限を設けました。生分解する特性上、このような背景をご理解頂ければと思います。
―介護用の歯ブラシも扱っていらっしゃいます。
「吸ty(キューティー)ロングS(白)」。
お手持ちの吸引器のチューブにつなぐだけで
汚れを吸い取りながら楽々ブラッシングができる。
清水 2009年に発売した吸引歯ブラシ「吸ty(キューティー)」です。吸引機さえあれば介護経験のない人にも使いやすいのでおすすめです。
人様の口腔ケアは怖くてドキドキするものです。誤飲で肺炎になったり、ご自身の唾液で溺れてしまう人もいるからです。そういった懸念から、歯磨きは諦めてガーゼで拭くだけという方も多いと思います。ですが、それだと汚れが取りきれず、ニオイの元にもなってしまいます。
「吸ty(キューティー)」は動かすだけで汚れを吸い取ってくれますから、ビクビクしなくても、初心者の方でも簡単に大人の口腔ケアができます。使ってみた方は、「こんなにニオイがなくなるの?」と驚かれます。
口の中がさっぱりしてニオイも解消されると、コミュニケーションも取りやすくなりますよね。
―評価の高い理由は?
清水 吸引口の位置と形に特長があります。安価なものだと、チューブが根元にあったり切りっぱなしだったりして、吸引力が弱くて使いづらいものが多いのです。
「吸ty(キューティー)」は、毛先にチューブがあるので、吸引力が高く、誤飲などの危険性が少ないです。また、吸引口がラッパ型になっているので、真空になって粘膜に張り付いたりすることもなく、チューブ自体がブラシになっているので汚れを落としながら吸いあげることができます。介護スタッフの方から「おお〜」と声が出るくらい吸ってくれて、全然違うと言われます。リピーターも当然多い商品です。
ご家族がご使用する場合は、研修なども必要ありません。ただし、介護スタッフの方が使う場合には研修が必要です。
毛先に吸引口があり、チューブ自体がブラシになっているため、
磨きながら吸引ができる。
―誰にとっても使いやすい商品づくりですね。
清水 私たちの企業理念は「真ん中にアイがある」です。それは、私たちのお客様は社会的弱者の方が多く、私たちの会社の商品でないと使えない人たちがいらっしゃるということです。無駄なものは作りませんが、多様性に対応した商品開発をこれからも頑張っていきたいと思っています。
―困難のある方に優しい、環境にも優しい、素敵なご商品をご紹介いただき、ありがとうございました!
「MEGURU 竹の歯ブラシ(ひまし樹脂毛)」
価格:¥715(税込)
店名:ファイン
電話:03-3761-5147(9:00〜17:00 土日祝日、定休日を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.fine-revolution.co.jp/commodity_category/eco/
オンラインショップ:https://shop.fine-revolution.co.jp/products/detail/339
「吸ty吸引歯ブラシ ロング やわらかめ」
価格:¥825(税込)
店名:ファイン
電話:03-3761-5147(9:00〜17:00 土日祝日、定休日を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.fine-revolution.co.jp/commodity/qt-tlm/
オンラインショップ:https://shop.fine-revolution.co.jp/products/detail/276
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
清水直子(ファイン株式会社 代表取締役社長)
1967年東京・品川区出身。短期大学卒業後、都内貿易会社に入社。2年後、実家の事業を手伝うことになり、1989年ファインに入社。2010年に同社代表取締役に就任。
発売から25年来のエコ素材の歯ブラシに注力している。
<文・撮影/尾崎真佐子 MC/橋本小波 画像協力/ファイン>