暮らしの中に花があるだけで、ほっと和み心を潤すことができます。戦後すぐの殺伐とした時代から美しい花を商ってきた「ちきりやガーデン」。当時は珍しかった洋花の専門店としてスタートし、欧米スタイルのデザインを取り入れ、時代にそった生花デザインやギフト商品を生み出してきました。その歩みと注目商品について、代表取締役の吉野由利子氏にお聞きしました。
暮らしや心を豊かにする特別感ある花ギフト
2023/03/06
株式会社ちきりやガーデン 代表取締役 吉野由利子氏
―御社のこれまでの歩みをお教えください。
吉野 初代の吉野徳光が、1940年に大阪で事業を始めましたが、戦争が起こったこともあり、戦後の1946年に京都の地に改めて創業し、鉢植えの花や観葉植物を中心に商うようになりました。当時から観葉植物のレンタルなども行なっていたようです。その後、1950年には、中京区河原町に生花専門店を構え、1952年には、蘭やバラなど洋花を専門に扱う「有限会社ちきりや洋花専門店」を設立しました。1961年になると、造園業も手掛けるようになり、「株式会社ちきりやガーデン」を設立。個人邸の洋式庭園から、公共・民間各庭園工事、維持管理まで幅広くご用命をいただいております。
1950年河原町に開業した店舗と1991年に移転建築した本社。
―当時、珍しい洋花にチャレンジされたきっかけは?
吉野 創業者の徳光はハイカラ好きで、進駐軍の方からの洋花需要に対応するかたちで、洋花専門店を始めたそうです。当時の京都は、仏花やお稽古花を扱われるお花屋さんが主流で、洋花を扱う花屋は珍しかったようです。戦後の復興経済と共に開店開業のスタンド花や各種イベントでも洋花は重宝されました。
また、自宅や料亭などで行われていた婚礼が、戦後はホテルで開かれることも増え、1965年以降には、ホテル内にフラワーショップを開業し、婚礼装花なども手掛けるようになりました。ご自宅用というよりは、ギフトやお祝いの場の装花といった、どちらかというとハレのお花が多かったようです。
そもそも京都という場所は、伝統や歴史に根差すなかでも革新にも取り組み、新しいことに挑戦する土壌があります。弊社は洋花からスタートいたしましたが、京都の持つ歴史と伝統の要素も織り込んだ「和モダン」という新しい魅力を創造・発信したいと思っております。
―吉野様が社長になられたのは?
吉野 「ちきりや洋花専門店」は母方の祖父母が創業し、父が1961年に株式会社として設立しまして、その後を継いだ私の夫が7年前まで社長を務めていました。その夫が他界し、2017年に私が引き継いだのです。生まれながらに花のある環境で育ち、暮らしのなかに花があることは、私にとってはあたりまえのことでしたが、自分が経営者になることは全く想定していませんでした。
―フラワーデザインをはじめられたきっかけは?
吉野 母の時代の話になりますが、日本のフラワーデザインはまだまだ認知度も低かったようです。当時は、アメリカンスタイルの先駆者が日本で5、6人くらいしかいらっしゃらなくて母も最初はそのうちの1人の方の下で学びました。日本代表として初めてワールドカップに出場した時に、ヨーロッパスタイルに出会って衝撃を受け、当時入手が簡単ではなかったフラワーデザインの洋書を取り寄せ、ヨーロッパに出向いてスイスやフランスなどのアーティストに直接指導を受けるなど勉強し、3回目の出場時には、銀メダルを獲得しました。母が、新しいスタイルを貪欲に学ぶ人だったことが弊社のブランドとしての価値を高めてくれたと感じます。
私は、そのような才は全く持ち合わせていませんが、母が海外のアーティストの方を招いてフラワーショーなどのイベントを開催する中で交流し、多くの方から刺激を受けてきました。オランダやスイス、ドイツでは、生活の中に自然がある。ヨーロッパのトップデザイナーの方から自然と共生することを学び、改めて日常に花や緑があることの大切さやありがたさを知りました。
―現在のデザインスタイルは?
吉野 1980年代では日本のいけばながヨーロッパで人気となり、花をふんだんに飾るという生活文化の中で、わずか数本活けられたお花が表現する世界観からインスピレーションを受けたデザイナーも多かったようです。いけばなの要素を取り入れたヨーロッパのフラワーデザインが時代のトレンドとして日本に逆輸入されていました。私達が交流していたヨーロッパのデザイナー達はSDGsが注目される以前から、ごく当たり前の事として環境に配慮していました。例えば吸水性スポンジを使う代わりに伐採した枝や端材などを組み込んで花を固定させながらもデザインの一部として組み入れるなどの手法は当時大変印象的でした。かつてはデザイン性を磨くことが主流でしたが、元来競技会やイベントで扱う花のデザインと、お客様が購入される商品に求められるデザインは大きく異なります。
その点でいえば弊社の商品のスタイル自体が大きく変わったということはありませんが、資材であるラッピングペーパーで変化を付ける工夫はありました。薄手のセロハンに店名が印字されたものに花を包み、ピンクか赤のリボンが花束ギフトの定番スタイルであった約40年前に、現在では一般的な厚みとなっている厚みのある透明のOPPに和紙を合わせてラッピングした花束を販売して、大好評となりその後弊社のオリジナルでピンクやブラック、ラベンダーの各色展開で、それぞれ一色刷りとその裏面に白地に同色のドット柄になったリバーシブルペーパーを花の色に合わせて使用した花束も大変好評でした。特にその当時、花のギフトに「喪」をイメージさせる黒を使う発想はなかったようですが、フランスでは使われていたようです。
そこからメーカーさんも沢山のラッピングペーパーを商品化されたと聞きます。ラッピングペーパーが多種多様になった頃には、花束のラッピング資材をシーナマイロールというマニラ麻のシートで包みヤシの繊維であるラフィアをリボンの代わりにしたこともあります。色味は地味ですが逆に花の色が引き立ちました。
1周回って現在はカラフルなペーパーに戻っていますが、花束のリボンも通常のギフトはシンプルな蝶結びにして、できるだけお花を活かすようにしています。吸水性スポンジは、現在はメーカーさんも土に還るなど環境に配慮した商品を出されていますので、私共では現在も主流の資材として使用しています。これからも環境に配慮しながらも、お客様の多様なご要望にお応えできるように商品の魅力を出せるようにブラッシュアップに取り組んでまいります。
12か月の誕生石と誕生日のイメージをテーマにした
プリザーブドフラワー
「コフレ・オ・フルール~花の宝石箱~7月ルビー」。
―そんな研鑽が「コフレ・オ・フルール」につながったのでしょうか。
吉野 「コフレ・オ・フルール」の販売を開始したのは、2000年頃だったでしょうか。新しいお花のギフトスタイルを模索するなかで、スタッフからもアイデアを採用し、オリジナルボックスを特注して、つくりあげました。当時はまだ生花を宅配で送ることが少なく、ボックスに入れることで、コンパクトに生花を配送できる商品でした。12か月の誕生石をテーマにして、生花のときは、オリジナルのスワロフスキーのペンダントトップをつくってアクセサリーとして入れていました。オンラインで好評をいただき、発売から5、6年後には、店頭販売用にプリザーブドフラワーでつくったところ反響が大きく、よく売れるようになりました。
―商品開発のご苦労や工夫は?
吉野 現在はいずれもキラキラしたラインストーンを組み込んでいますが、石の色味とテクスチャーをどのように花で表現するかに苦心しました。ダイヤとパールはどちらも白ですが、透明感やマット感などは違います。ダイヤならば白にグリーンを合わせることで、透明感ある輝きを表現するといった工夫をこらしました。同様に、ルビーとガーネットも同じ赤ですが、ルビーはブルーベースの赤、ガーネットは深紅と、誕生石に近い輝きを、花で表現するよう心掛けています。
また、ボックスは四角や丸型は既製品で多くありましたが、正三角タイプにするというのは母の発案です。母が指導してきたスタッフの技術と経験値から生まれた商品といっても過言ではありません。全員が色味やテクスチャーの組み合わせを迷わずにアレンジできる。スタッフのスキルの高さが開発の大きな力になっています。
―長く楽しむための注意点は?
吉野 プリザーブドフラワーは、日本で紹介された頃は永久にもつといわれていましたが、日光が直接当たると色が褪せてしまいます。直射日光があたるところや湿気のあるところは避けて飾っていただければと思います。ドライフラワーは生花をそのまま乾燥させたものですが、プリザーブドフラワーは生の花を1度脱色してその後専用の溶液で着色したものです。つまり、生花の瑞々しさと自然の花では見られない色味も楽しめ、ドライフラワーのように長く鑑賞できる魅力を合わせもつお花なんですね。
美しい生花を木製の枡に盛り込んだ「花桝シリーズ」。
―「花枡シリーズ」はどのように生まれたのでしょう?
吉野 2006年頃からボックスアレンジメントが増えるなか、弊社でもブック型などいろいろな商品を開発し、そこで生まれたのが「花枡シリーズ」です。社員のひとりが2008年頃に発案し、ブラッシュアップして2010年には商品化しました。枡に花を盛り込むスタイルは、当時は斬新でした。特に二升五合の枡は、「升、升(ますます)五合=半升(はんじょう)」、つまり「益々繁盛」という言葉に繋げた粋な商品。京都はお酒の街でもありますので、枡を使ったこのギフトは法人のお祝い花にピッタリです。一升からさまざまなサイズで展開しております。
―1番の工夫は?
吉野 枡は一升、二升と大きさが決まっているうえ、高さがありません。胡蝶蘭や根のある観葉植物などは厚みがあるので、植えこみが難しい。胡蝶蘭には苔をはって繊細な仕上がりにするなど高度なスキルがもとめられます。生花やプリザーブドフラワーの方では「コフレ・オ・フルール」で培ったアイデアや技術があり、そのノウハウが生かされました。
―反響が大きかったようですね。
吉野 1度ギフトとして利用してくださった方が「贈り先から喜んでいただいた」と、リピートしてくださいます。関東圏など他府県の方からも、「日本らしい」と言っていただくほか、酒造関係の方からもリピートしていただいています。
―これらのお花はどのように使ってほしいですか?
吉野 お祝い品などギフトとして贈るお花は、贈る人が先様に対して想いを込めて届けるお花です。贈る方の気持ちに寄り添ったもの、気持ちを乗せられるような商品にしたいと心掛けてまいりました。また、パンデミックや情勢不安など激変する日々を過ごすなかで、お花のある生活が、より多くの方の気持ちを癒すものになればと思います。日常に花のある平和を感じていただきたいですね。
―今後の展望をお聞かせください。
吉野 若い方のなかには、お花に触れる機会が少ない方もいらっしゃいます。お花の扱いに慣れていない方に、気軽に楽しんでいただける機会や企画を考えていきたいと努めています。ロスになりそうなお花を活用し、小さなお子さんを対象に花に触っていただく機会も設けています。触ることで、花の良さを感じ、成長後も花のある暮らしやプレゼントができる方になっていただければ嬉しいですね。お花に関心を持つ人がひとりでも増えるよう、これからもさまざまな商品や試みを模索してまいります。
―お花のある暮らしの大切さを改めて感じました。ありがとうございました。
「コフレ・オ・フルール~花の宝石~」(RUBY【7月 ルビー】)
価格:¥8,800(税込)
店名:ちきりやガーデン
電話:075-571-1500
Mail:web@chikiriya-garden.co.jp
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.chikiriya-garden.com/?pid=26632648
オンラインショップ:https://www.chikiriya-garden.com/
「花桝シリーズ・枡花」(生花)
価格:一升 ¥8,030(税込)
店名:ちきりやガーデン
電話:075-571-1500
Mail:web@chikiriya-garden.co.jp
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.chikiriya-garden.com/?pid=16543324
オンラインショップ:https://www.chikiriya-garden.com/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
吉野由利子(株式会社ちきりやガーデン 代表取締役)
1960年京都市生まれ。同志社大学文学部を卒業後、1983年ちきりやガーデン入社。本社店店長等販売部門、総合企画室長を経て2017年代表取締役に就任。現在に至る。
<文・撮影/中井シノブ MC/ 和田英利 画像提供/株式会社ちきりやガーデン>