新型コロナウイルスの後遺症でにわかに注目されている嗅覚障害。今まで鼻の健康にあまり注意していなかった人にも身近な関心事になりました。今回ご紹介する「かぐや姫の嗅トレ」は、手軽に「匂う力」を訓練できる家庭用キットです。医学的にも研究が目覚ましい分野のお話を、編集長アッキーと取材班がお伺いしました。
ウィルス感冒後の後遺症にも有効性あり。「かぐや姫」の嗅覚トレーニングを、毎日の健康習慣に。
2023/03/08
第一薬品産業株式会社 専務取締役 深澤雄二郎氏
―嗅覚事業を始めるまでの経緯は?
深澤 弊社の創業は戦後すぐ、当時の不衛生な環境をなんとかしたいと、祖父が寄生虫駆除剤を扱ったのが始まりです。大きく変わったのはその後の第二期で、東京医科歯科大学の柳金太郎先生が開発したヨウレイチンという医療用内服薬の製造販売を担いました。ヨウレイチンは小児喘息や甲状腺疾患にも使われていた薬ですが、現在は眼科領域で広く使われています。国内では60年ほど販売をしていますが、現在は中国での使用量が伸びてきており売上も大きくなっています。
嗅覚事業を始めたのは、その後の第三期です。2代目となる父・深澤修が香料の会社に勤めていた頃に、「T&Tオルファクトメーター」という嗅覚検査キットを医薬品にしたいという話が持ち上がり、弊社が承継したというのが経緯です。
―「T&Tオルファクトメーター」とは?
深澤 日本で唯一、基準嗅覚検査として提供されている検査キットです。学校などで検査が行われないのであまり知られていないのですが、嗅覚測定用基準臭というのを使って嗅覚を調べるためのキットになります。
嗅覚検査には2種類あって、1つは「閾値検査」です。これは、「どのくらい臭いが嗅げるか」の鼻の能力テストです。もう1つは「同定検査」といって、臭いと脳の記憶を結び付けられているかを調べる検査です。「その臭いがなんの臭いかわかるか」の検査ですね。認知症やパーキンソン病の検査でも使われています。
T&Tオルファクトメーター。
嗅覚障害の程度判定など、耳鼻咽喉科領域で広く使用されている。
―どんな人が利用しているのですか?
深澤 「T&Tオルファクトメーター」は医薬品のため、基本的には耳鼻咽喉科などを受診する患者様が対象です。この「T&Tオルファクトメーター」を基礎に完成され、主に嗅覚検査や嗅覚トレーニングなどに用いられているのが「パネル選定用基準臭」で、こちらは一般向けに販売されています。「臭気判定士試験」というものがあるのですが、「パネル選定用基準臭」を使っての実地試験があり、国家資格を取得することが出来ます。主に臭気測定業務従事者がとる資格で、その方達の鼻が正常かを測ります。その他でも、食品・飲料メーカーや化粧品メーカー、自動車会社の商品開発や品質管理をしているパネラー(官能検査員)の選定などにも採用されています。
ただ、一般には、嗅覚の検査は生まれてこの方したことがない、という人の方が多いですよね。そのため、たとえ嗅覚障害があっても自覚できていないことが多いです。
私の知る限りですが、26歳の時に初めてテストをして障害がわかったという人もいました。その方は嗅覚トレーニングをしてやっとご飯が炊ける匂いがわかったそうです。もちろん、先天性で治らない方もいらっしゃるのですが。
―嗅覚は訓練もできるのですね。
深澤 弊社では訓練を重要視して「嗅覚トレーニングキット80」を自社開発しました。80の香料を集めたもので、それを匂いの表現と結びつけるというものです。匂いを仕事にするパネラーが主な顧客でしたが、コロナ禍以後、後遺症で嗅覚障害になってしまった人からの問い合わせが増えました。ただ、10万円ほどする高価なキットなので気軽に試せるものではないですよね。
―一般向けに簡易版を作ったきっかけは?
深澤 新型コロナウイルスの初期症状を簡単にチェックする「簡易嗅覚確認キット」を作ったのがきっかけです。新型コロナウイルスは嗅覚に異常が出る疾患だったので、順天堂大学耳鼻咽喉科の池田勝久先生の発案で、自分で嗅いで罹患しているかの簡易チェックができるものを共同で開発しました。2021年1月7日に最初にお話をいただいてから、3ヶ月後の4月に発売しました。
簡易嗅覚確認キット。
青リンゴとカラメルの2種類の匂いでチェックする。
―ちなみに、青リンゴとカラメルの匂いだった理由は?
深澤 ハッカやキンカンのようなツンとした匂いというのは、実は嗅覚だけではなくて三叉神経も反応しているんです。新型コロナウイルスの場合は、純粋に嗅覚だけをテストする必要があったので、ツンとしない2種の匂いでスタートしました。
当初は検査の需要があったのですが、その後は後遺症が問題になりました。そこで社内で検討して、嗅覚トレーニングを目的にしたキットを考案しようということになりました。
―嗅覚刺激法というトレーニングですね?
深澤 嗅覚トレーニングが重要であることは、医学の世界では以前から言われていました。
嗅覚異常はステロイド投薬による治療が行われていましたが、あまり効果がありませんでした。1980年代から、ヨーロッパでは嗅覚トレーニングが嗅覚の回復に良いと報告されていました。日本でも、高知大学で注目されていて、臨床研究もやっているところです。
ウィルスによって嗅覚の細胞が害され再生される時に、匂いの刺激を与えるか、与えないかで実験したところ、与えた方が細胞の再生が早まったというデータが出ています。
東京バイオテクノロジー専門学校との共同研究では、学生さんたちに3ヶ月間匂いを嗅ぐトレーニングをしてもらいました。その結果、閾値(どこまで匂いがわかるか)において、薄い匂いまでわかるようになったり、匂いを表現するワード数が増えたり、不快な匂いの有無を当てるマッチング法の正解率が高くなったりと、健常者にも効果があることが確認できました。
―それで一般の方にもトレーニングキットを発売?
深澤 はい。手軽に自宅でトレーニングできるキットを発売しました。それが「かぐや姫の嗅トレ(シトラス)」です。
新型コロナウイルスの患者さんからは毎日のようにお問い合わせがきています。もともと感冒後の嗅覚異常は前からあって、以前はインフルエンザによるものが主でした。特に中高年の女性に多く、人によっては治るまでに2~3年かかってしまうこともあります。
症状としては、常に焦げた匂いがするとか、カレーの匂いがドブの匂いに感じられたりという異嗅症が多いです。
―辛い症状ですね。
深澤 嗅覚障害は早期発見しないと治りが悪いです。2年放置したりすると、残念ながら治らない可能性もあります。
嗅覚には保障を受けるための障害の基準もありませんが、匂い疾患はQOLが著しく下がってしまいます。そればかりか、匂いがしないと、腐敗に気づかずに食中毒を起こしたり、煙の匂いがわからずにガス中毒や火災の危険、食欲がなくなって栄養低下、塩分糖分の過剰摂取など、命の危険にもつながりかねません。
―訓練が大切なのですね。キットの使い方は?
深澤 朝晩2回、3つのシトラスの香りを嗅いでください。ボトルをグッと押すだけなので簡単です。嗅ぐ前に、そのものを連想してから嗅ぐようにしてください。「レモンを思い浮かべながらレモンの匂いを嗅ぐ」とかですね。時間は、お昼ご飯の前が1番嗅覚が鋭敏と言われています。日々コツコツやってみてください。頻度は多い方が効果があります。
ボトルを押すだけでにおいを嗅ぐことができ(特許出願中)、
嗅ぐために別の容器に移す必要もなし。
家族みなさんでおこなって、どんな香りがするのか言葉にするのもおすすめです。あえてシトラス系の似たような匂いを嗅ぐことで、表現力や感性も同時に鍛えると面白いのでは?と発想しました。お子さんはすごく感性豊かなので、そういったところでご家族みんなで楽しんでもらうといいと思います。家族のコミュニケーションにもなりますよね。
どんな感覚でもいいので、自分の感覚を大切にしてもらいたいです。香りとそのイメージをつなぎ合わせることで、認知機能の低下を予防、向上させるという研究もされています。
ボトルを押すだけでレモンの爽やかな香りが。
嗅ぐトレーニングで、頭も活性化されそう。
―嗅覚を研ぎ澄ます経験が楽しそうです。
深澤 嗅覚は五感の中でも重視されていませんが、教育歴でも変わると言われていたり、嗅覚の低下が死亡率を高めるといった発表もあるくらい、今後重要性が増していくと考えています。
嗅覚検査やトレーニングがもっと身近になるように啓蒙していきたいですね。
―家族も一緒に試してみたいと思います。貴重なお話をありがとうございました!
「【嗅覚トレーニング専用】かぐや姫の嗅覚トレーニング~シトラス編~」
価格:¥1,980(税込)
店名:第一薬品産業 楽天市場店
電話:03-3666-6773(9:00~17:00 土日祝日除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://item.rakuten.co.jp/olfactory/training-citrus/
オンラインショップ:https://www.rakuten.co.jp/olfactory/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
深澤雄二郎(第一薬品産業株式会社 専務取締役)
1982年千葉県生まれ。2011年に第一薬品産業株式会社に入社、2014年1月より嗅覚検査関連製品の専任営業担当と学術担当を兼任、2017年1月より事業推進室長として製品改良や新製品の開発を担当、2022年1月より専務取締役就任。
嗅覚障害の啓発や嗅覚検査の普及を目指して日々活動を行っている。
<文・撮影/尾崎真佐子 MC/隅倉さくら 画像協力/第一薬品産業>