香りのインテリアとして大人気のディフューザー。さまざまなデザインやカラーがありますが、今回、編集長アッキーこと坂口明子が気になったのは、お花が開くように色も姿も変わり、香りが広がる「カラーチェンジング・フラワー」。フレグランスを一から学び商品を開発した、株式会社アート・ラボの髙木哲代表取締役社長に、取材陣がお話をうかがいました。
お花が咲くみたい!2段階に変わる色と香りが楽しめる、心ときめくフレグランス
2023/06/27
株式会社アート・ラボ 代表取締役社長 髙木哲氏
―現在の事業を始められるまでの道のりは、波乱に富んでいたとか。
髙木 そもそも脱サラが出発点。最初は東京の外資系商社でスポーツ用品等の企画を担当していたのですが、ある時倉庫内の作業をしていたときに、私がデザインした商品がトラックに積み上げられていたのを見たんです。尋ねると「夢の島に行く」と。夢の島とは埋立地で、かつてはごみの処理場として知られる場所でした。
―それはショッキングですね。
髙木 25、6歳のときで、それまで寝袋で寝泊まりするくらい楽しく夢中で働いていましたが、考え方が一変しました。自分はゴミを作るために頑張っていたのかと。1980年代の大量生産大量廃棄の現実を目の当たりにし、将来子どもにパパの仕事はゴミを作る仕事だよなんて絶対に言いたくないと思いました。退社を決心しましたが許してもらえず、退職のためのプレゼンまでしたんです。廃棄があるということは物の需要が下がり、それと反比例する需要が出てくるはずだと考えていました。モノではない、心を満たすようなビジネス。そのとき、心の事業、ハートビジネスをしようと決めたんです。
大量生産の時代に疑問を持ち、モノよりも心に響くビジネスを目指すことに。
起業後、香りと姿で人を癒す商品を開発。
―ゼロからの出発ですね。
髙木 商社マンの肩書きがなくなり取引先には相手にされなくなりましたし、お金もない。でも、物に込める思いを表現していかないといけないと思いました。有名な建築家の方から、とあるビーチの近くにきれいな石が落ちていると聞き、そこで石拾いをして行商をしたり、輸入雑貨の会社、広告代理店などでアルバイトをしたりした後、新宿でラボを立ち上げました。最初は、日本で輸出用に作られたユニークな陶磁器を発掘するなどして、テーブルウエアを扱っていましたが、阪神淡路大震災が起こって、取引先が厳しい状況になり、これは一巻の終わりだと思いました。ところが、地震で器が割れてしまったお店からたくさん注文が来て、半年くらいバーンと売り上げが上がった。ただ、人が苦しんでいるときに儲かる商売は続かないとも思い、ビジネスモデルを考え直すことにしたんです。
―何を目指すことに?
髙木 人間の五感、視・聴・嗅・味・触の5つのうち、当時嗅覚だけがビジネスモデルがほぼなかった。まだアロマセラピーも普及していませんでした。震災以前から動き始めてはいたのですが、震災を経て、香りのビジネスを本格化させました。後付けになりますが、これこそがハートビジネスだなと気づいて…。ちょうど百貨店でフレグランスの自主編集の売場を作ろうと動きがあって、私が監修をさせていただき、香りの教室も開くようになりました。私は香りのビジネスに一生を賭けますとずっと言っていたら、紹介してくださる方が広がっていきました。
さまざまな仕事を経験した後、フレグランスを一から学び事業をスタート。
白いお花が染まりながら香りを拡散するカラーチェンジング・フラワー「ソラフラワーディフューザー」。
―ご自身もフレグランスの勉強を一からなさってご苦労があったと思いますが、創業後一番苦労されたことは?
髙木 それが苦労続きで、カラーチェンジング・フラワーの第1弾はまさに私と会社を救ってくれた商品です。商品開発をするとき、人とは違うこと、ほかにはないものを作りたいというポリシーがあります。カラーチェンジング・フラワーという商品は、扇子の中骨はオイルにつけると繊維の毛細管現象でオイルを吸い上げるというイメージから発想したもので、完成前に実用新案を先行して取っていました。その後バンコクで、ソラという自然の植物を大根の桂剥きのようにシートにして、花びらに見立てて作った造花を見せてもらい、それをディフューザーに用いることを思い付きました。現地で普段販売している造花ではなくて、手間のかかる加工をお願いしようとすると、6、7社回って全部断られました。ただ1社だけ、面白いからと協力してくれて、当時借金だらけでしたが、第一歩が踏み出せました。その会社とは今もつきあいがあります。ほんとうに赤字続きだったのですが、この商品が完成すればV字回復できると信じ、実際できたんです。現在は、発売当初ほど爆発的ではないですが、通算180万個以上売れて、会社がつながっています。
―この素材を使われたのは、やはり先見の明ですね。コピー商品も出たそうですが。
髙木 当時は香り雑貨というカテゴリがなかったので、結果として競合会社が増えてマーケットが広がって、今となってはよかったと思っています。
ソラフラワーと2種のオイルが入っています。
タイ原産のマメ科の低木ソラを、薄くスライスし乾燥させたものを使って花の形に。
パウチオイルをゆっくりと注ぎ、お花をボトルに挿します。わずか1日で中央が色づいてきます。
―色が変わるとかオイルが混ざり合わないとか、花が開くとか、開発の背景は?
髙木 試行錯誤の連続でした。比重の異なるオイルを使うと、混ざり合わず2段階に色が変わります。また、一般にディフューザーはアルコールなど揮発性の高い溶剤を入れますが、そうすると花びらが乾燥したり落ちたり。保湿剤のような成分を入れることで潤いをキープし、いつまでもしっとりさせることで花弁が開くということになりました。蕾のように形を作っておくと、だんだん開いてくる。発売当初、あるOLの方から「仕事がつらいときに、一人暮らしの部屋に帰ってきたら、玄関先でお花が開いて私を迎えてくれ、とても癒されました」というお声をいただきました。私はビジネスにこれを求めていたんだと思いましたね。このお声を忘れずにものづくりをしていきたい、そう思うきっかけにもなりました。
―ほのかに長く香るのもいいですね。
髙木 そこが人気の秘密なのかなと、作ってみてわかりました。こだわりは持ちたいけれど、コストが高くなるのもダメですから葛藤はある。でも諦めなければ失敗ではないと、開発を続けています。
ヒヤシンスの爽やかな香りで気分があがるENJOY。
HAPPYはジャスミンの奥深い香りで思わず笑顔に。
華やかなロータスの香りのLUCKY。
シトラスフローラルの豊かな香りのFUNNY。
―ENJOY、HAPPY、LUCKY、FUNNYとラインナップもおもしろい……。
髙木 色とイメージですね。香りのレシピには独自のカラーが付いています。私にとって香りの師匠のような方がおられて、その師匠が「香りは見て取れる」と。今当社のフィロソフィーになっていますし、主催するアカデミーでも、白いキャンバスに絵を描くように、カラーのパールビーズで香りの情景描写を行い、レシピを作るレッスンを行っています。配合比を変えると無限に紫ができるように、色の世界クロマティックも無限、アロマティックも無限ということで、アクロマティックシステムと呼んでいます。コロナ禍が発端となり、それを自宅で学べるキットを作り、動画と組み合わせた講座も始めています。今後は、対面の教室も広げていきたいですね。
―ところで「カラフェ・ディフューザー」というワインにちなんだ商品の開発の経緯は?
髙木 これは香港で営んでいた会社で開発したんです。向こうではおしゃれなお店でみんな毎日ワインを楽しんでいます。それを見ながら、カラフェのような大容量のディフューザーがあればいいなという発想が生まれました。最初は売れないだろうと思っていたのですが、展示会でヨーロッパや日本からも反響があり、需要も広がりました。容器は仕入れですが、中身は自社で調合し充填しています。
香港で人々がワインを楽しむシーンからヒントを得て生まれた「カラフェ・ディフューザー」。
香りのイメージは、シャンパーニュ、ブルゴーニュ、ロゼの3種。
―ブルゴーニュ、シャンパーニュなど香りのイメージもおしゃれです。
髙木 新築や結婚のお祝い、ギフトによく出ています。私はどっしりしたフルボディのブルゴーニュの香りが好み。これをきっかけに、フードフレグランスも考えていて、嗅覚に始まり五感を制覇したいとも考えています。
―楽しみです。今後の展望は?
髙木 フレグランスはインフォメーションツールでもありますから、ハンディキャップがあって嗅覚情報が必要な方のために、たとえば横断歩道で香りが出るとか、ガスに匂いが付けてあるように危険を察知できる香りがあるとか、そういう社会的インフラに使われたらいいなとも思います。また、映画や舞台などエンターテインメントの世界を香りで盛り上げることもできればと思います。
―香りにはいろいろな可能性があるんですね。貴重なお話をありがとうございました。
「カラーチェンジング・フラワー」
価格:¥5,280(税込、送料無料)
店名:アート・ラボ
電話:075-595-9051(9:00~17:00 土日・祝日除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://item.rakuten.co.jp/201lab-kyoto/ccf/
オンラインショップ:https://www.rakuten.ne.jp/gold/201lab-kyoto/
「カラフェディフューザー」
価格:¥12,100(税込、送料無料)
店名:アート・ラボ
電話:075-595-9051(9:00~17:00 土日・祝日除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://item.rakuten.co.jp/201lab-kyoto/cd/
オンラインショップ:https://www.rakuten.ne.jp/gold/201lab-kyoto/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
髙木哲(株式会社アート・ラボ 代表取締役社長)
1956年京都市生まれ。大学卒業後、リーベルマン・ウェルシュリー&CO.,SA勤務後、輸入雑貨商社、広告制作会社を経て、1987年アート・ラボを東京にて独立創業。その後、地元京都に拠点を移す。
<文・撮影/大喜多明子 MC/石井みなみ 画像協力/アート・ラボ>