今回、編集長アッキーが気になったのは、「HADO」ブランドの包丁を製造・販売する「福井」。株式会社福井・代表取締役の福井基成氏に、商品が支持される魅力を取材陣がうかがいました。
切れ味抜群で料理が楽しくなる ヨーロッパで人気の一生モノの包丁 「刃道 銀三シリーズ 切付三徳包丁 木地呂塗柄」
2023/06/30
株式会社福井 代表取締役 福井基成氏
―創業の経緯を教えてください。
福井 創業者の福井杢次郎は京都の亀岡で生まれました。縁あって大阪の金物問屋に奉公。その後、堺の金物問屋の一番番頭として入り、のれん分けとして独立したのが始まりです。1912年(明治45年)創業で、私が6代目になります。
すべての人に持つ感動を与える包丁を。
―社長になられたのは2019年ですね。
福井 大学を卒業後、ブリヂストンに就職して働いていましたが、現会長である父が60歳間近になったときに戻ってくるように言われ、跡継ぎとしてこの会社に入りました。当時は包丁の売上は全体の数%程度で、園芸や工具といった商品が9割を占めている状態でした。事業はうまくいっていたのですが、当社の元祖の商品である包丁の製造・販売に力をいれなければという思いがありました。
そんなときに大きな転機が訪れます。営業担当の社員・丸山忠孝くんが「包丁研ぎの職人になりたいから辞めたい」と言うのです。ちょうど当社の包丁を復活させたいと考えていたときだったので、「会社が給料を出すので3年ほど修行に行ったあと、職人として働いてほしい」と伝えました。
彼が修行に行っている間に、設備を整え、販路を探し、自社ブランドのリブランディングをはかりました。海外で包丁が売れるのはアメリカが主力市場ですが、競合も激しいので、今後、市場が伸びそうで、同業者がまだ進出されていないヨーロッパに狙いを定めました。営業に行ったところ、ちょうど日本食がブームになってきた時期で、10軒ほど取引先ができ、本格的に製造を始められる状況が整いました。丸山くんを呼び戻して、2019年から包丁の内製化をスタートさせました。
修業を経て職人として包丁を製作する丸山忠孝氏。シンボリックな存在に。
―ヨーロッパではどういったお客様に支持されているのでしょうか。
福井 日本の文化が好きな人やナイフマニアの人、シェフなどに買っていただいています。日本料理が西洋料理と決定的に違うのは、カウンターごしに作っているところが見える点です。最近はイタリアンやフレンチでもそういったお店が増えてきて、包丁は料理人にとって舞台道具の一つと言えます。そんな場所で日本のクラフトマンシップが垣間見えるような美しい包丁が使われるようになり、支持されるようになりました。
一つ一つの工程に先人の知恵がつまった堺の包丁。
―御社の包丁の魅力を教えてください。
福井 堺の包丁の伝統的な作り方は分業制度で、鍛冶を専門に行う人、ハンドル部分を作る人と別れていて、品質が高いのが特徴です。当社の包丁はすごくシンプルなのですが、神は細部に宿ると言います。ぱっと見て派手さはないのですが、シンプルな美しさ、もっていただいたときのなじみのよさ、研ぎやすさ、切れやすさに感動される方が多いです。ヨーロッパの刃物店のスタッフの方がファンになってくださり、お客様に薦めてくださったり、口コミサイトでも支持されています。当社は販売店ではないのですが、海外のお客様が「会社見学に行きたい」とご連絡くださることもあります。
伝統工芸士の山塚尚剛氏。
―包丁の内製化で難しかった点はございますか。
福井 丸山くんは片刃の和包丁の修行をしていましたが、ブランドとしては家庭で使うような両刃の包丁を作ろうという話になり、教えてくれる職人さんを探して、大急ぎで両刃の修行をしてもらい形にしました。それを持って海外で営業したところ、たくさん注文をいただき、そこからさらに品質を向上していきました。2021年から「HADO」(刃道)というブランドとして販売がスタートしています。
―「HADO」の特徴を教えてください。
福井 包丁は商品の特性や機能自体で差別化を訴えることが難しいので、箱を作って商品を陳列してもらうという差別化を考えました。ブランディングチームを作って、作り手の顔が見えるよう、海外の人に認知してもらえるよう、1年くらいかけてしっかりコンセプトを固めて始まったのが「HADO」です。「モノづくりの魂」をコンセプトにし、プロジェクトとしても活動しています。包丁だけでなく、堺の伝統の染物「注染」による、葵・フーバーさんの手ぬぐいも作っています。
パッケージの隅々にまで「モノづくりの魂」というHADOのコンセプトを表現。
―今回ご紹介させていただく、「刃道 銀三シリーズ 切付三徳包丁 木地呂塗柄」について教えてください。
福井 家庭用に使いやすいサビにくい銀三鋼(ステンレス)の包丁です。堺の鍛冶師、刃付け師が1本1本丁寧に仕上げ、木柄は山桜に漆を塗り重ねています。水に塗れても滑りにくく、見た目にも美しいハンドルです。
日本古来の和鋼の産地、島根県安来市で製造される銀紙三号鋼を使用。
―使い方で注意する点はございますか。
福井 食洗機は対応していないのと、切れ味がいい分、欠けやすいということです。冷凍食品や半解凍の食品は切らないようにしていただきたいです。樹脂系のまな板ではなく、ヒノキやイチョウの木のまな板を使っていただいたほうが、当たったときにやわらかく、欠けにくくなります。欠けた場合も送っていただければ、こちらで研ぎ直します。当社の包丁は、一生モノで、人生で使い切るのが難しく、次の世代に受け継がれることも多いです。
キレ味の良さとサビにくさを兼ね備えている。
―プレゼントにされる方も多いのでしょうか。
福井 日本では刃物を送ることを「縁が切れる」と敬遠される方もいますが、海外ではプレゼントの需要が高いのです。包丁が海外で一番売れるのはクリスマスシーズンで、ギフトに使われています。こういった実績を積み上げて、日本でも包丁を送ることが一般的になることを願っています。
―初代から大事にされている理念はございますか。
福井 社是は「ともに喜ぶ」です。お客さんだけが喜んでもダメで、職人さん、仕入先、社員の皆さんがウィンウィンになることを大事にしています。
―最後に今後のビジョン、展望を教えてください。
福井 まだ量的にお客さまのニーズに答え切れておらず、納期をお待ちいただくことが多いので、タイムリーにお客さまの手元に届けていくことが課題です。職人が3名にまで増えたので、スピードを上げつつ、細部までこだわったものづくりの大切さは失わずに続けていきます。今後、生産性を上げていくことによって、国内のお客様にも手にとっていただき、厳しい意見をいただき、品質向上していきたいです。
また、古くからものづくりに対して真摯に取り組まれている企業とのコラボも、今後進めていきたいです。
若手の職人さんも頑張っています。
―貴重なお話をありがとうございました。
「刃道 銀三シリーズ 切付三徳包丁 木地呂塗柄」
価格:¥59,180(税込)
店名:堺の刃物屋さんこかじ
電話:072-227-0003(9:00~17:00 土日祝を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://sakai-fukui.shop-pro.jp/?pid=159706976
オンラインショップ: https://sakai-fukui.shop-pro.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
福井基成(株式会社福井 代表取締役)
1978年、大阪府堺市生まれ。早稲田大学商学部卒業。株式会社ブリヂストンを経て、2006年に株式会社福井に入社。既存事業拡大に取り組む一方、包丁内製化に向け2016年より職人の育成をスタート。2019年、修行を終えた職人とともに工房での内製をスタート。2021年には包丁の自社商標を刃道(Hado)へとリブランディング。現在は欧米を中心に20ヶ国以上へと輸出を行っている。
<文・MC/垣内栄 画像協力/福井>