コロナ禍を機に、世界的に手芸人気が高まっているそうです。「手を動かすことで心が癒やされるのかしら。私も久々に何か作ってみようかな。」という編集長アッキーのアンテナに引っかかったのは、京都の老舗生地店「ノムラテーラー」。初心者でも簡単に作ることができるオリジナルキットが販売されているといいます。株式会社ノムラテーラー代表取締役社長の野村拓麻氏にお話を伺いました。
手芸初心者でも簡単&素敵なポーチが作れる「はじめてさんにおススメのシンプルポーチキット」「コロンとワイヤーポーチキット」
2023/10/10
株式会社ノムラテーラー 代表取締役社長 野村拓麻氏
―1932年の創業と伺っています。長い歴史をお持ちですね。
野村 この商いを始めて今年で91年になりますが、京都には創業200年、300年という会社さんが少なくありませんから、弊社はまだまだ。ただ、生地屋としては古いほうだと思います。
創業当初は、布や生地を主に扱い、そのうち紳士服の仕立ても行っていました。会社の名前に「テーラー」とあるのは、そのためです。ところが、戦後、着るものがなくなり困っている人が増えました。そこで、私の祖父である初代が反物をかき集めて販売し始めました。その頃は、洋服は「自分で作るもの」「仕立てるもの」で、生地があれば洋服が作れる時代だったのです。それをきっかけに生地を商いのメインとするようになり、1952年に株式会社ノムラテーラーを設立、現在に至ります。今では、生地だけでなくボタンやファスナーなどの手芸材料や小物、雑貨、インテリア用の生地なども扱っています。
京都のメインストリート、四条通に面した「ノムラテーラー四条店」。
1階は人気のコットン生地を始め、京都ならではの和柄生地も豊富。
2階はおもに「服飾布地」を扱うフロア。ウール生地や上質なコットン生地、化繊生地のほか、
インポート生地や衣装系の生地まで、ソーイング上級者も満足の品揃え。
3階は、針や糸、ハサミ、ファスナー、芯地など手作りを支える道具や材料、
毛糸やフェルト羊毛なども扱っている。
「ノムラテーラーハウス寺町店」は、1フロアで生地と小物を一緒に購入でき、
「ベビーカーでも入りやすく、見やすい」と好評。
インテリアや雑貨に使える柄物の生地を中心に扱っている。
四条店1階のコットン生地コーナーにはさまざまな柄の生地がずらり。
デニム生地の種類も豊富に揃っています。
―お祖父様が創業者ということは、野村社長は3代目でいらっしゃいますね。やはり幼い頃から「自分はこの会社を継ぐのだ」という意識をお持ちだったのでしょうか?
野村 祖父母や父親からは「おまえが継ぐんだよ」と暗示をかけられていたように思いますが(笑)、成長するにつれ「自分はそれでいいのかな?」と思うようになりまして。社会人としてのスタートは、アパレル会社の営業職です。やはり洋服が好きだったんですね。その後、求人広告の会社に転職し、広告主新規開拓の営業をやりました。知らない人のところへの飛び込み営業です。もともと、売り込みは得意ではないのですが、営業先に足を運ぶうち徐々に信頼関係ができていく、というのが好きで、やりがいを感じながら仕事をしていました。
―その時の経験は、現在の社長業に通じるものがありますか?
野村 昔は、社長さんにアポイントメントを取る仕事でしたが、今はアポを取られる側なので、立場としては逆ですね(笑)。でも、いただいたご縁を大切にする、信頼関係を重んじるというところは、お取引先だけでなく弊社で働いてくれている人たちに対しても常に心がけていることではあります。
―同業他社さんとは違う、御社ならではの特徴がありましたら教えてください。
野村 まず、創業以来ずっと京都で、地域密着型の商いをしてきたので「チェーン展開をしていない」ということがあります。次に、さまざまな生地を扱っていること。近年、生地屋といってもコットンやホビー材料を扱っている会社さんが多いのですが、弊社では、コットンだけでなくポリエステル、シルク、ウールといった上質な生地を扱っています。実は、既製服があふれる中、コットン以外の生地の需要はさほど多くありません。ただ、弊社では昔からそれらを仕入れていますし、そうこうするうち「ノムラテーラーには服地が揃っている」という噂が口コミで広がって、おかげさまで皆様に愛していただいております。
四条店の3階には、毛糸やフェルト羊毛など生地以外の手芸材料も。
ボタンも色とりどり、形もさまざまで、お目当てのものがきっと見つかるはず。
もう1つ特徴を挙げるとすれば、「従業員が若い」ということでしょうか。生地や手芸用品を扱っているお店というと、ベテランの方が働いているイメージがあるのですが、弊社は20代、30代の社員も多いんです。お店にいらっしゃるお客様にも「活気があるね」「どうして若い人たちが集まってくるの?」というお声を頂戴します。手芸や裁縫をされるお客様の年代も段々下がってきていますので、同じ目線、同じ感覚で対応できる従業員がいたらと思って、若い人を積極的に採用しているんです。それに、生地屋というのは肉体労働なんです。生地の多くはロールの状態で店頭に並んでいて、お客様が「あれを」とおっしゃるものを棚から抜きます。下の方にある反物を抜き出したりなど、立ったり座ったりの連続です。そして、抜き出した生地をカット台まで運びます。重いものだと1ロール1キロぐらいあって、それを5、6本一気に担いで運ぶわけですから、足腰に相当負荷がかかるんです。生地屋、手芸店で働いているというと女性をイメージされるかと思いますが、弊社には男性従業員もいて、彼らも頑張ってくれています。
―今回、ご紹介させていただく「はじめてさんにおススメのシンプルポーチキット」「コロンとワイヤーポーチキット」には、まさに若手の方のセンスが感じられますね。
野村 ありがとうございます。近年、手芸に関心を持つ若い方たちが増えています。昔は、ちょっとした小物や袋物は自分で作られる方が多く、手芸や裁縫がとても身近だったように思いますが、今の若い世代にとって手芸や裁縫は少しハードルが高く感じられるかもしれません。でも、せっかく関心を持ってくださっているのだから、そのハードルを下げたい。初心者でも「これさえあれば◯◯が作れる」というキットがあればいいなあと思ったんです。何か1つ作ろうとすれば、生地以外にもあれこれ必要です。慣れている方やもともとの手芸愛好家の方は「何が必要か」がすぐおわかりになりますが、初心者にはなかなかわかりませんよね。そこで、手芸や裁縫初心者の方に対して従業員に「君のセンスで、キットを考えてくれないか」と頼んだのです。2点ともオンラインショップ限定商品ですが、ご好評いただいています。
―「はじめてさんにおススメのシンプルポーチキット」は、ミシンがなくても作れるとか。
野村 はい。自分も手芸を始めてみたい、という方に試していただきたくて。ミシンを使えば1時間ほどで、手縫いでも2、3時間で作れると思います。「買ったほうが早い」という方もいらっしゃると思いますが、簡単で、出来上がった感じがよければ「ちょっとやってみようかな」と思っていただけるんじゃないかということで、人気の高い生地を採用しています。これで「自分にもできる!」と作るよろこびを味わっていただけたら、うれしいです。
手芸は初めて、という人におすすめのシンプルポーチのキット
「はじめてさんにおススメのシンプルポーチキット」ネイビー。
表地:ウィリアム・モリスの中でも一番人気の柄「いちご泥棒」(縦25cm✕横50cm)、
裏地:ブロード無地(縦25cm✕横50cm)、接着芯(縦20cm✕横50cm)、
ファスナー20cm1本、レシピ(作り方説明書)のセット。
別途で必要な糸やアイロン、ハサミ、チャコペンなどもすべて、
オンラインショップで購入可。
出来上がりサイズは、横20.5cm✕縦13cm✕マチ6cm。
接着芯が入っているので、くたっとせず自立します。
化粧道具や小物入れにおすすめ。
―シンプルポーチからステップを1段上がって、「コロンとワイヤーポーチキット」にトライということでしょうか?
野村 そうですね。シンプルポーチと違い、こちらはミシンが必要です。ワイヤーポーチというと「難しい」と思われがちですが、ミシンを使ったことのある方でしたら2時間ほどで作れると思います。見た感じよりも物が入るので、化粧ポーチとして、また「バッグインバッグとして重宝してる」というお声もいただいています。
この2点のほかにも、弊社ではいろいろとオリジナルキットを揃えています。ワイヤーポーチで少し自信がついたら、次はトートバッグあたりがよいのではないでしょうか。「これができたら次、また次……と、手芸にハマってしまった」「自分の技術が上がったことを肌で感じることができてうれしい」というお声を聞くことも多いんですよ。
「コロンとワイヤーポーチキット」マリンフラワー。
つや無しのビニールコーティング生地なので家庭用のミシンでもラクに縫えます。
表地:ビニールコーティング生地(縦約110cm✕横25cm)、
裏地:シーチング(縦約90cm✕横25cm)、接着芯(縦60cm✕横25cm)。
金属ファスナー:40cm✕1本、ワイヤー口金:15cm✕1セット、レシピ(作り方説明書)のセット。
別途で必要な糸やアイロン、ハサミ、チャコペンなどもすべて、オンラインショップで購入可。
出来上がりサイズは横15.0cm✕縦13.5cm✕マチ12.5cm。
出来上がりイメージ(柄は、ピンクフラワー)。口が大きく開くので、物の出し入れが便利。
容量が大きいので、化粧品ポーチはもちろん、バッグインバッグとしても活躍してくれます。
―お金を出せば何でもすぐに手に入る時代ですが、「自分で作るよろこび」は格別なのですね。今後の展開としては、どのようなことを考えていらっしゃいますか?
野村 2012年から始めた「てづくり広場」を今後もますます充実させて、続けていきたいと考えています。「てづくり広場」というのは、毎年夏に2日間にわたって開催している子どもさん向けのワークショップで、手作り作家さんや手芸用品を扱う会社様などにご協力いただいて、針や糸を使ったものから、ボンドなどを使ったものまで、さまざまな種類の手作りを体験していただく、というものです。娘が生まれた時、先代である父親が「何か子ども向けのイベントができたらいいね」と言うので、軽い感じで「できるよ!」と答えたのがきっかけです。「できるよ」とは言ったものの、さてどうしようかと思いましたが、どうにかこうにか開催にこぎつけました。作品が出来上がった時のお子さんたちのキラキラ輝く表情や「楽しかった」と言ってスキップしてお帰りになる姿を見たら、感動してしまって。ただ物を販売するだけではなく、お売りした物をお客様がどのように使って、どのような気持ちになってくださるのか。それを直接目にできる、私どもにとってはこの上なく幸せな瞬間です。親御さんたちもとてもよろこんでくださって、従業員たちと「このイベントは絶対に続けていこう」と。正直なところ、利益にはならないのですが、それ以上に得られるものがあると思っています。
また、海外の方に向けてのオンラインショップを立ち上げる予定です。海外の方からのお問い合わせやご注文も増えてきているんです。多くは香港、台湾から、ほかにタイやインドネシア、オーストラリア、アメリカのお客様もいらっしゃいます。現在のオンラインショップを英語に翻訳するだけでなく、決済方法などについても海外の方が利用しやすいようなサイトにしようと考えています。
―手作りの輪が世界に広がっていきますね。素敵なお話を、ありがとうございました。
「はじめてさんにおススメのシンプルポーチキット」ネイビー(オンラインショップ限定オリジナルキット)
価格:¥580(税込)
店名:ノムラテーラー
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.nomura-tailor.co.jp/fs/tailorshop/kit-4
オンラインショップ:https://www.nomura-tailor.co.jp/
「コロンとワイヤーポーチキット」マリンフラワー(オンラインショップ限定オリジナルキット)
価格:¥1,380(税込)
店名:ノムラテーラー
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.nomura-tailor.co.jp/fs/tailorshop/gr385/kit-25
オンラインショップ:https://www.nomura-tailor.co.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
野村拓麻(株式会社ノムラテーラー 代表取締役社長)
1979年京都府生まれ。新卒で株式会社アスティに入社し、量販店アパレル営業を経験。
その後、株式会社インテリジェンスオフィスに入社し、リクルートの求人広告の新規開拓営業で実績を上げる。2005年、株式会社ノムラテーラー入社。2021年に代表取締役社長に就任。子ども向けワークショップイベント『てづくり広場』の開催や、生地のオンラインショップの販路拡大に注力している。
<文・撮影/鈴木裕子 MC/橋本小波 画像協力/ノムラテーラー>