コロナ禍でのお家時間、簡単なルールのミニ謎解きゲームがひそかに流行しました。紙と鉛筆さえあればできる謎解き&宝探しゲーム。伝統ある印刷会社の新たな取り組みによる、本格的な冒険ゲーム気分を味わえる気軽なキットを見つけました。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった株式会社中川紙宗 代表取締役の中川謙治氏に、取材陣が伺いました。
シンプルなゲームが格上げされる魔法のペーパーアイテム「お家で宝探しセット」
2023/10/13
株式会社中川紙宗 代表取締役の中川謙治氏
―創業からのあゆみをお聞かせください。
中川 1874年、京都は四条で木版の技術を使った、和紙を中心とする紙製品の卸・小売業を創業しました。場所柄、室町の呉服問屋さんに向けて、着物を包む畳紙(たとうし)や大福帳、下げ札などの帳票類を扱っていたようです。
昭和に入って本格的な印刷機を導入し、印刷業がメインになり、チラシや広告、パッケージなどを手掛けるように。糸を入れる箱や靴箱、衣類の値札など、アパレル関係の間接資材を中心に、最近では京都の土産物の菓子箱や包装紙なども作っています。
―社長のご入社は?
中川 実は教師をしていましたが、急遽会社を継ぐことになりました。2年ほど別会社で修業をさせてもらい、自社の工場を経て本社で営業職に就いていたとき、先代である母が病に倒れたのをきっかけに社長に就任しました。
当時は業績が不振で、立て直しを求められての就任。時代を見据え、機械の更新、小ロット商品への対応、多品種対応への生産体制の変革などをしながら、販売ツールの多様化に向けて取り組みました。
―自社商品の開発はその一環ですか?
中川 弊社は、お客さんがデザインされたものを印刷することもしますが、デザインから注文を受けることも多く、社内にデザイナーがいます。人材を生かすために、受注だけでなく自ら発信していくことが大切だと思ったのです。
第1号は、簡易ふくさの「ふところ袋」という商品です。ちょっとした御礼、お月謝などにも使えるおしゃれで手軽な包み。京都らしい心遣いを表せるものとして、祇園の文房具店に置いてもらうところから始めました。
その後は御朱印帳とか、それをアレンジした鉄道駅スタンプ帳も作りました。
自社開発商品第1号は簡易ふくさ「ふところ袋」。
オンラインショップ開設のきっかけとなった鉄道駅スタンプ帳。
―流れの中で誕生したのが「お家で宝探しセット」ですか?
中川 ボードゲームのアニメを見て、アニメになるほどならば、一定のニーズがあるのではないかと感じました。
そこからは企画部にお任せです。デザイナーがリサーチを重ねたところ、謎解きが流行って、それを簡略化した家遊びが面白そうだ、プラスアルファ、ペーパーアイテムがあったら本格的に遊んでもらえるのでは? という流れで出来上がっていきました。
―プラスアルファのペーパーアイテムとは?
中川 もとになったのは、「〇〇へ行け!」というような指示書があり、そこに行くとまた次の指示書があり、家の中をめぐるうち、最後宝にたどり着くというものでした。家庭でするゲームですから、メモ帳を折り曲げてどこかに挟んで……という簡易的なものが多そうだったので、アイテムの1つ1つがデザインされたものだったら、本格度が増して、なりきれるんじゃないかとなったわけです。
謎を解きながら宝にたどり着くゲーム。
宝箱に宝探しの地図、探検カバン、そういう子どもの好きそうなものを紙で作ってセットにしました。
探検バッグ、宝箱、指令を書く宝の地図柄メモ用紙(ナゾメモ)、ヒントカードがセットに。
―紙製品であるメリットは?
中川 プラスチックや布製品に比べて、軽い、折りたためるのでかさばらない、コストを抑えることができるなどたくさんあります。気軽な遊びなので気楽に購入できる価格帯であるべきだと考えているので、まさにうちの得意分野である紙製品がうってつけというわけです。
ペタンコに折りたたまれたものを組み立てると立体的な宝箱に。
―遊び方を教えてください。
中川 探す人と隠す人に分かれます。隠す人は宝箱に好きな宝を入れて隠し、隠し場所のヒントをクイズや謎解きのような文章にしてナゾメモに書き、次の場所に隠します。その場所のヒントを書いてそのまた次の場所に隠すというのを数枚繰り返します。
隠し場所を考え、謎に包んで指令書を書く……隠す人も楽しめる。
一方で探す人は、最初のメモを読んで場所を考え、次のナゾメモを探し出し……を繰り返し、最終的に宝を見つけます。途中、謎が解けない時は、ヒントがもらえるヒントカードを3回まで使えます。
探す人はヒントカードを入れた探検バッグを携え、最初のメモをもらってゲームスタート。
ナゾメモは18枚あるので、探す人と隠す人を交代したりして何度か楽しめます。
探す側も隠す側も違った楽しみがあり、どちらも体験したくなる。
―完成までにどのくらいを要しましたか?
中川 クライアントや納期のある通常業務の合間を縫っての作業ですからね。ただ、パッケージの印刷や制作をしている弊社なので、サンプルを作る機械が身近にあり、デザイナーも制作スタッフも社内にいるので、デザインや仕様の微調整や修正がしやすい環境は強みだと思います。
コロナ禍や長期休みに有効活用してもらいたいと思って、2021年の夏に発売しました。
―自社商品に関して、社長のお立場は?
中川 この商品に関しては、「紙製品でゲームのようなものを作ったらどうや?」と、提案というか無茶ぶりというか、現場に投げた後はお任せです(笑)。
今、自社製品をどんどん増やして育てていこうと考え、社員にも伝えています。ただやれやれ言うだけではよくないので、自分でも企画を考えたり持ち込んだりしなくては、と思っています。紙製品にしても、ウェブデザインにしても、「こんなもん作れへんか?」「こんなのはどうや?」と、アイデアというか、企画の乱れ打ちをしているような感じです。
―皆さんはどのような気持ちで開発に臨まれているのでしょうか?
中川 クライアントがある仕事と違うのは、エンドユーザーに向けて、自分の好きなデザインで作れる点ではないでしょうか。
自分で作った商品が売れたり、直接お客様から感想をいただけたり、そういう面白さは感じてくれていると思います。
私は先代から、とにかく社員を大切にということを教わってきました。従業員に愛してもらえるような会社でありたい、みんなの力があってこその会社であるし、力を生かせる会社でありたいと思っています。お陰様で、離職率は低い方ですし、自社商品のアイデアは、企画部からの提案も増えています。
―今後の商品展開は?
中川 ゲームに限らず、家族で楽しめるもの、家で気軽に使えるものを作っていきたいと思います。私にも子どもがいますから、子どもの喜ぶようなものを作りたいといとも考えています。
おもちゃにしても雑貨にしても、水に弱いなどの制限がありますが、やはり、紙製品にこだわっていきたいですね。ちょっとした工夫で紙雑貨がより面白いものになると試行錯誤することこそ、長く紙を扱ってきたうちの仕事じゃないかと……。
―紙製品の魅力をお聞かせください。
中川 プラスチックに比べて温かみがありますよね。手触りの違いが楽しい面もあります。
私は、家でごみ出し担当としてごみの分別をする中で感じることがあります。紙はリサイクルができますし、廃棄した場合も生分解性が良い。一方でプラスチックごみは世界的な問題にもなっていますよね。サスティナブルの意味でも、プラスチックの代わりになるような紙製品を開発して社会に貢献したいなという想いです。
―今後の展望をもう少し。
中川 現状、まだ間接資材やパッケージなどのBtoB商品が売り上げのほとんどを占めていますが、自社商品が1割でも2割でも上がっていくように手掛けていきたいと思っています。そのためには開発力はもちろんのこと、こうやって取材を受けるなど、これまでとは違った取り組みやPRにも積極的に踏み込んでいこうと考えています。
―素晴らしいお話をありがとうございました!
「お家で宝探しセット/探検家になりきる お家時間 ゲーム」
価格:¥1,500(税込)
店名:オリジナル雑貨制作e-KAMISO
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.creema.jp/item/13715092/detail
オンラインショップ:https://www.creema.jp/creator/4641675
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
中川謙治(株式会社中川紙宗 代表取締役)
1972年京都府生まれ。1996年龍谷大学卒業後、京都市で中学校教員を経てから静岡県の東京製紙で修行後、2001年に株式会社中川紙宗に入社。2012年代表取締役就任。以後新しい取り組みを積極的に取り入れて既存の印刷会社からの脱却を模索中。趣味は整理整頓とごみの分別。
<取材・文・撮影/植松由紀子 画像協力/中川紙宗>