北陸新幹線開通で注目される石川県金沢市。この地で受け継がれてきた伝統工芸の中でも代表的なのが国内生産の100%を占める金箔で、その伝統的技法はユネスコの無形文化遺産にも登録されています。株式会社今井金箔は、金箔のトップシェアを誇る老舗企業。宗教用具関係を中心とした金箔の製造卸から、金箔関連商品の製造・販売まで幅広く金箔を扱い、最近は金箔を暮らしに取り入れた多彩な商品を提案するなど、金箔の普及に努めています。今回編集長アッキーこと坂口明子が気になった4代目で代表取締役社長の今井康弘氏に、商品開発の経緯や商品の特徴、こだわり、金箔への思いなどを伺いました。
伝統の技で織りなす金箔の上品な輝きが日々の暮らしを華やかに彩る「箔ガラス 四角トレー」「お吸物最中 こてまり」
2023/12/08
株式会社今井金箔 代表取締役社長の今井康弘氏
―ご創業は明治31年。今井社長は何代目になりますか?
今井 私で4代目です。家業に入った頃に、父が今の社屋を建てて小売部門を設け、工場も新たに立ち上げました。私は製造部門を任されて社内で金箔の一貫生産をスタートさせ、今に至っています。
金箔作りは分業制で各工程に専門の職人がいます。当社はそれぞれの職人さんに作ってもらい、完成した金箔を宗教用具関係のメーカーなどに販売するのが、もともとの仕事でした。そこからより安定した良いものを作ろうと内製化の体制を整え、今では全工程できるようになっています。
もちろん当社は代々職人さんを大事にしていますから9割は外注です。
約30年前に建てられた本社ビル。
1階のショップでは、工芸品、食品、美容などお土産やギフトにも使える箔関連の商品が豊富に揃うほか、
金箔貼り体験や金箔ソフトの販売、金箔作りの道具の展示なども行われ、
金箔の魅力に触れられるようになっている。
―一貫生産を行う強みは?
今井 一番は技術を今後に残していけること。社内で育成ができますから。それと、外注の職人さんには頼めないような特殊な商品もできるということですね。
―金箔作り=金沢金箔の技術になるのですか?
今井 そうですね。金沢の金箔が途絶えると国内の金箔の製造が終わってしまうので、それをなんとか次世代につなげようと業界全体で取り組んでいます。
金箔の作り方には、昔ながらの縁付金箔と、工程を簡略化した断切金箔の2つがあります。縁付金箔はユネスコの無形文化遺産に登録された技法ですが、今は断切金箔が全体の9割です。縁付は作るのにすごく手間がかかり、手すき和紙を加工して半年かけて箔が打てる状態にしますが、グラシン紙を使う断切だと1日ほどで箔が打てる。コストの問題や職人が減っていることもあり、断切に変わってきています。
ただ、店頭で販売している食用金箔アイテムの多くは縁付の工程で仕上げていますし、本店の箔貼り体験でも縁付金箔を使用するなど、縁付金箔に触れてもらえる機会を増やす取り組みを行っています。
高価で、主に有名寺社などの建築物に用いられている縁付金箔。
金箔を打ちのばす打紙は、和紙に柿渋や卵、灰汁汁などを含んだ液をしみこませ、
叩きしめるという作業を繰り返して作られる。
金箔の需要が増していた時代、短期間での量産が可能になるものとして考案された断切金箔。
グラシン紙にカーボンを塗って約2千枚重ね、箔打機で空叩きしたものを打紙に用いる。
―金箔の魅力は?
今井 金の塊にはない風合いが出て、物に貼ることにより面白い光り方をするのが一番の魅力。金箔でしか出せない落ち着いた上品さがあります。
―「箔ガラス 四角トレー」を開発されたのは?
今井 これは約10年前に母が手掛けたものです。合わせガラスの中にフィルムで挟んだ金箔を入れて熱圧着させると、金箔が割れる。その割れ方が非常に面白く金箔の素材感も残るので、何かに使えないかということで始めました。ガラスに金箔を使う場合、高温で圧着させると金箔が見えなくなるため金箔より厚い材料で行うのですが、合わせガラスに挟む工程だとそれほど高温にする必要がないので金箔が使えるんです。こういう商品はなかなかないと思います。
また、金箔の柄も一つひとつ違います。熱や圧力のかけ方、フィルムの選定などによって箔の割れ方も違ってくるので、よりよい見栄えの割れ方にするために試行錯誤しました。
2色の金箔を市松模様に配し、合わせガラスに閉じ込めた美しい「箔ガラス 四角トレー 市松 金」。
金箔独特の風合いと世界に二つとない模様が魅力で、お皿やトレーに使うほかインテリアとして飾っても。
なお、この合わせガラスの技術は、北陸新幹線・金沢駅待合室のガラスなどにも応用されているという。
―料理を盛っても映えますね。「お吸物最中 こてまり」については?
今井 最中を作っている友人から提案されたのが開発のきっかけです。加賀手まりをイメージしたデザインをうちの店のスタッフが考えて、デザインごとに味が違う4パターンの最中を作ってくれました。中に縁付金箔が入っていて、お湯を注ぐと中から金箔が浮かんでくるようになっています。
こういう柄つきの最中のお吸物はなかったので非常に人気が出て、特に女性のお客様が買っていかれます。
加賀手まりをイメージしたデザインが愛らしい、ギフトやお土産にも大人気の商品「お吸物最中 こてまり 4個入り」。
製造技術がユネスコ無形文化遺産に登録されている縁付金箔入りで、お湯を注ぐと中から具材と共に金箔が浮かび、
お祝いの席にもおすすめ。豆腐、湯葉、とろろ昆布、海苔の4種類の味が楽しめるのもうれしい。
―開発で苦労された点は?
今井 最中にどういうデザインでうちらしさを表現するか苦労しました。最中の柄だけでなく容器、包装もかなりこだわっています。
上品さ、可愛らしさに加え、金沢らしさを落とし込めるよう細部までこだわったというデザインは、パッケージも好評。
フードセレクトショップや県内宿泊施設などでも販売しており、人気を集めている。
―とても可愛らしいですね。
今井 今食用金箔の需要が増えていて、初めての方でも簡単に金箔を扱える商品を増やしていきたいと考えています。若い女性スタッフが新しい発想の面白い商品をどんどん作ってくれているので、私も楽しみにしています。
需要が伸びているという食用金箔。同社ではイベントなどを通して
新しい楽しみ方の提案も行っているそうで、今後の展開が期待される。
―今後の展望を教えて下さい。
今井 基本的には金箔のメーカーだというこだわりを持っていますので、金箔の素材を生かした商品を展開していきたいですね。そのためにもいろいろなアイデアを入れて新しい販路を考えていきたいと思っています。
―本日は貴重なお話をありがとうございました!
「箔ガラス 四角トレー 市松 金」(幅180×奥行き180×高さ10(mm))
価格:¥14,300(税込)
会社名:今井金箔オンラインショップ
電話:076-221-1990(9:00~17:00 日祝を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kinpaku-imai.jp/SHOP/74.html
オンラインショップ:https://www.kinpaku-imai.jp/
「お吸物最中 こてまり 4個入」(外箱サイズ 幅130×奥行き130×高さ45(mm))
価格:¥1,566(税込)
会社名:今井金箔オンラインショップ
電話:076-221-1990(9:00~17:00 日祝を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kinpaku-imai.jp/SHOP/186.html
オンラインショップ:https://www.kinpaku-imai.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
今井康弘(株式会社今井金箔 代表取締役社長)
1967年石川県金沢市生まれ。甲南大学理学部化学科卒業後、株式会社神戸鋳鉄所に入社。
1992年に株式会社今井金箔に入社し、金箔を製造する自社工場の立ち上げを行う。2014年に代表取締役社長に就任。
石川県箔商工業協同組合の副理事長・金沢箔みらい研究会の会長も務め、金沢箔の技術を繋いでいくための取り組みに尽力している。
<取材・文・撮影/山本真由美 画像協力/今井金箔>