金沢観光ではお馴染みになっている金箔。工芸品からソフトクリームまで、ざまざまな形で楽しめるようになったのは、ある女性アントレプレナー(起業家)がいたおかげだと知っていますか?今回、編集長アッキーが注目したのは、その革新的な企業「箔一」です。金沢のみならず、世界の一流品、アート作品までも手掛けている、2代目社長の浅野達也氏にお話をお伺いしました。
金箔の「美」を日常へ。金沢のアントレプレナー「箔一」がつくる化粧水「KINKA」
2023/12/27
株式会社箔一 代表取締役 浅野達也氏
―浅野様のお母様が創業されたとお伺いしました。
浅野 母の浅野邦子が創業者です。母は京都の出身なのですが、金属関係の会社の秘書をしていたところを、私の父が見初めて、金沢へ嫁いできました。
父の家は100年以上続く箔屋でしたが、なにしろ六男坊ですから、思ったより裕福な暮らしができたわけではありませんでした。そのような中でオイルショックを契機に、金箔そのものといった材料が売れなくなり生活が苦しくなったことで、母がなんとかしなくてはと見ようみまねで、箔を茶托や皿などに貼り工芸品を自宅で作り出しました。
そもそも金沢では、金箔の需要はほぼ仏具しかありませんでした。それが段々と売れなくなってきていて、周囲は嘆き悲しむばかりだったそうですが、母はそうではなくて、「金箔を日常でもっと楽しんでもらい魅力を知ってほしい」と提案し日用品に箔を貼って販売を始めたのです。それが、「箔一」の始まりでした。
創業者の浅野邦子氏。工芸品を自ら製作し、販売も行なった。金沢の金箔業界に革命を起こした。
―金箔の新しい使い方は、最初から受け入れられたのでしょうか?
浅野 金沢では、金箔は仏具以外には使ってはいけないという不文律もありましたから、箔屋がこれまで作ってこなかったか金箔工芸品といったものは、当時存在もしておらず、地元では全く振り向いてもらえませんでした。
そこで母は東京まで自分で持って行って、まずは見てもらおうと、JAの前にゴザをひいて売ったりしていたと言います。
数年後に百貨店の中から扱ってくれるところが出てきて、そこから逆輸入のような形で、金沢の金箔は、現在の工芸品ジャンルにまで広がりました。
金沢箔の伝統を守りながら、日常生活で使えるように改善をかさねてきた工芸品の数々。
―金箔の新たな使い道を提案される中で、大ヒットしたのが「あぶらとり紙」ですね。
浅野 そうですね。金箔を作るには1,800枚の和紙の間に金箔を挟んで叩いて伸ばしていくのですが、その和紙は、何回か金箔を打つと、薄くなり金箔の製造には使えなくなります。京都ではそれを、舞妓さんや太秦の俳優さんらが化粧時にお使いになっていました。それが、「あぶらとり紙」のルーツです。いわば、金箔の副産物です。
ただ、母は、箔の副産物としての品質に満足がいきませんでした。「肌に使うものだから最高級のものにしたい」という女性らしい感性から、しっかり品質の良い和紙を「あぶらとり紙」用として打ち、安定供給できるようにしました。
その後、ブームとなりたくさんのメーカーから発売されましたが、実は当時の雑誌に掲載されていた「あぶらとり紙」ランキング上位の製品は、私たちがOEMで承っていたものも多く掲載されていました。
パルプ紙の安価な製品もあるなか、和紙を使って丁寧にたたき上げた金箔打紙製法のあぶらとり紙は、
最高品質のものとして評価されている。これまで累計2億冊ものあぶらとり紙を出荷。
―その頃から「美」というものが一つのコンセプトになっていったのですね?
浅野 80年代から90年代という時代の中で、朝シャンであったりとか、もっとみんな身ぎれいにしていこうという流れがありました。「あぶらとり紙」もその流れの中でのブームだったかと思います。
その頃から、女性の「美」への取り組みが始まり、化粧品開発へとつながります。
―「あぶらとり紙」という化粧雑貨から、化粧品そのものを手掛けることになったわけですね。
浅野 母は、やはり女性としての経験上、「実際にいいものにしたい、自分で使いたいものにしたい」と考えていました。例えば、この見えている金が入っていなくてもいいくらい、化粧品そのものとしていいものにしたいということです。そうしてできたのが、「KINKA」シリーズです。
ただ、化粧品を製造するとなると、今度はその業界の知識も求められるようになります。「金箔の会社が化粧品の知識はあるの?」とおっしゃる方もいました。
金の特性をを調べたところ、美容成分を浸透させて封じ込める力があることがわかってきました。金箔のあるなしで、皮膚水分量は10%、皮膚弾力性は5%アップしたというデータもあります。
専門機関の研究によって「金箔※」に肌の弾力性や保湿性をアップさせる効果があることがわかってきている。※整肌成分
―それに、このキラキラした金が、やはり気持ちを上げてくれますね。
浅野 金が入っているから、ぐっと角質層まで浸透させよう、というような意識の面でも良い効果があるのかもしれませんね。
30代、40代の方がメインターゲットの商品ですが、20代の方もお試しくださったり、リピーターの方は70代、80代の方もいて、幅広い年代からご支持いただいています。保湿力が高く、無香料で使いやすいというのも人気です。
化粧水「KINKA」。金箔がたっぷりと含まれていて、ゴージャスな気持ちに。
テクスチャーはとろりとしているが、すぐにサラサラと肌に馴染んでいくので使いやすい。
―金箔マスクも話題です。
浅野 これは、私としては慎重になった商品です。いわゆるエステ業界からの引き合いは以前からあったのですが、アレルギーやかぶれがあると困りますから。
それでも、金に、肌に化粧品の成分を閉じ込める作用などがあることが科学的に証明することができたので、作らせてもらいました。
発売当初は、食用金箔をふんだんに使用。
現在も口にしても全く問題がない最高レベルの金箔を使用している。
自宅用パックも通販にて購入可能。
―食用の金箔を使った清酒もあるとか?
浅野 実は食品用に使い勝手の良い金箔を初めて売り出したのも当社です。食用金箔というジャンルを確立するため、ISO2200やHACCPといった食品の国際管理基準に準じた工場を建てて、販売を本格化したのです。
金箔を食する風習は古くからあり、主に正月などのハレの日に、日本酒に入れて楽しまれていました。かつては、金箔を揃える際に出る余分な切れ端が使われており、いわば余りものの有効利用という意味もあったようです。
明確に食用金箔が生まれたのは1987年のこと。箔一が生み出した「料理用金箔」が初めてです。パッケージなども工夫し、気軽で使いやすい形状にしたこともあって、食用金箔の文化は大きく広がりました。
食用金箔を使用した「金華 清酒」。金箔がグラスの中で舞い上がる様に、心も浮き立つ。
お正月はもちろん、記念日のプレゼントにも喜ばれること間違いなし。
―今後の展望を教えてください。
浅野 アーティストの方の世界観を具現化するお手伝いをしていきたいと思っています。
最近では現代アーティスト・小松美羽氏の大作『ネクストマンダラ – 大調和』では箔加工を担当いたしました。2023年は、真言宗総本山東寺が嵯峨天皇より空海へ下賜され真言密教の根本道場となってから1200年という節目で、これを記念して制作された作品です。
東京大学先端技術センターとの共同研究プロジェクトにより、現代アーティスト吉本英樹氏による金沢箔のアート作品「DAWN」の制作にも協力しています。
現代アーティストの方との協業、作品作りという点で、金沢箔の新しい可能性を広げるものであり、現代では希少な伝統技術の保存・継承という面でも価値のあるものだったと考えています。
箔一第五工房での『ネクストマンダラ – 大調和』制作風景。礬砂による箔押しという、伝統的な技法を採用した。
浅野 また、オーストラリアのグラスメーカー「リーデル」とのコラボ商品など、海外デザイナーやブランドへの協力も積極的に行なっています。
「リーデル」と製作したワイングラス「HAKU<ソムリエ・ブラック・タイ>」。好評により、第2弾も販売された。
浅野 これからも、ものづくりをする人、アーティストやデザイナーといった方々と共に、伝統の箔、日本のデザイン、素材を、世界の人々に広めていきたいですね。
―美しい伝統を日常で味わえる機会を、これからも期待しています。本日はありがとうございました。
「金華ゴールド ナノローション N」
価格:¥3,850(税込)
店名:BIHAKU CLUB 箔一の金箔コスメ公式オンラインストア
電話:0120-009-891(9:00〜17:00 日曜日・年末年始を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://bihaku-club.jp/products/detail.php?product_id=187
オンラインショップ:https://bihaku-club.jp
「金華 清酒」(金箔入)
価格:¥2,200(税込)
会社名:HAKUICHI STYLE
電話:0120-009-891(9:00〜17:00 日曜日・年末年始を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://hakuichi.jp/products/detail.php?product_id=3470
オンラインショップ:https://hakuichi.jp/
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浅野達也(株式会社箔一 代表取締役)
昭和43年8月7日生。金沢市出身。法政大工学部卒業後、米・ワシントン州立大学国際経営学科卒業。1995年箔一に入社。2009年5月から箔一社長に就任。「金沢箔」という地域ブランドを築き上げた創業者の想いを引き継ぎ、さらに「金沢箔」の新しい価値を創り続けている。
<文・撮影/尾崎真佐子 画像協力/株式会社箔一>