ありそうでなかった、「あったらいいな」を具現化した商品です。シンプルな構造ですが、子どもから年配者まで、幅広い世代に喜ばれる紐靴(靴紐タイプの靴)の脱ぎ履きサポートグッズ。OEMを長年続けてきたプラスチックメーカーの3代目による新たな挑戦でした。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった、株式会社カワキタ 代表取締役社長 河北一朗氏に、取材陣が伺いました。
靴ひもタイプのスニーカーの脱ぎ履きが格段に楽になるアイデアグッズ「Shoe Pit(シューピット)」
2024/01/09
株式会社カワキタ 代表取締役社長 河北一朗氏
―創業からの歩みをお聞かせください。
河北 1946年の創業で、私が3代目です。祖父がセルロイド(プラスチックの先駆け)の金型作りを始め、父の代になってインジェクション成形(熱で溶かしたプラスチックを金型内に射出し成型する加工法)もするようになりました。本社を置く布施市(現東大阪市)は昔からモノづくりが盛んで、歯ブラシ、ヘアブラシなどを作る企業の下請けとして、セルロイドのインジェクション成形をしていました。
1984年にファブレスメーカー(自社工場を持たない製造会社)となり、その後、中国など海外と取引しながらOEMを続けてきました。
―自社ブランド設立のきっかけは?
河北 私が社長に就任したのが2007年、40歳のときでした。そのときにいろいろと考えさせられたんですね。日本は敗戦後に見事な復興を遂げたものの、オイルショックにバブル崩壊、リーマンショックと、様々な困難が起きていました。時代の変化に適応できるものが生き残ってきたというダーウィンの進化論は、会社にもいえること。それなりに社歴はありましたが、残すものとやめていくものの仕分けをしました。これからの時代にも通用するものは残し、あかんと感じるものはやめよう、と。
そのときに、経営理念も策定して、クレドカードも作りました。気持ちは第2創業のつもりでした。
それから時代は本当に混沌とした難しい世の中になりました。これまでやってきたOEMやプラスチック製造は、10年後もこのままでいいんだろうかという気持ちが湧いてきました。OEMには、在庫を持たないとか、ある程度の数を見込めるなどメリットもありますが、価格決定権が自社にないというデメリットがあります。販路開拓や在庫を持つことへのリスクヘッジも含めて、自社ブランドを立ち上げようと決めたのです。
自社製品は実績を生かした歯ブラシからスタート。
―自社ブランドの変遷は?
河北 プラスチック製造というこれまでの延長で歯ブラシなどを作っていましたが、マーケティングや広告費用などの点で大企業に太刀打ちできない中小企業として、大手と差別化したニッチなマーケットがないかと模索することにしました。日本だけでなく海外も視野に入れたとき、子育て市場だと思ったのです。
ギャルママ向けの雑誌を見つけてこれだと確信し、編集長に会いに行きました。そこで、自分の物はあっても子どもに身に付けさせたいファッションアイテムがないと悩むギャルママのニーズがあると聞き、子ども向け商品を開発することとしました。ギャルママたちと一緒に0から商品を作り上げる、その名も「ギャルママ商品開発部」。自社だけでは商品数も販路も限られてしまうので、中小企業ならではの連携ビジネスを模索し、近隣のメーカーにも声をかけ、6社で連携することにしました。
ギャルママが子どもに持たせたい商品をラインナップ。
滑り出しは上々でしたが、違う会社が連携して1つのプロジェクトを進めるのは難しいですね。とん挫しました。しかし、得たものも大きかった。その1つに、メディア戦略があります。「ギャルママ商品開発部」はマスメディアからの注目度が高く、たびたび取り上げてもらったんですね。我々はタレントさんを起用したりテレビCMを打ったりということは到底できませんが、話題性の高い物や時代に合った面白い商品は、メディアの方から取り上げてくれることを学びました。
次に、新しい連携ビジネスのカタチとして誕生したのが「daccolino(ダッコリーノ)」という、抱っこ紐になるバッグです。もともとアイデアを持っていた方を紹介して頂き、その方がテレビ番組の年間大賞を取るかもしれないからと、番組から取材を受けました。放送を見ていると、見事受賞され、私のコメントとともに「商品化決定!」と流れてしまったんですね。
テレビに出てしまったからには商品化せざるを得ないと、プラスチックとはかけ離れたカバンで、安全性にも配慮が必要とハードルは高かったですが、なんとか商品化できました。その後ブラッシュアップを重ね、現在は第3弾まで出ており、東大阪ブランドOnly1製品に認定もされたんですよ。歯ブラシをやめて、daccolino1本で行くことにしました。
歩き始めた子どもの「疲れた、抱っこ!」に答えるちょい抱きができるバッグdaccolino。
自身も2児の父である河北社長が安全性、機能性、そしてデザイン性にこだわって開発。
―という中で「Shoe Pit(シューピット)」が誕生したのは?
河北 うち、結構、街の発明家が全国からアイデアを寄せてくれるんですよ。商品化できませんか?こんなの考えてみたから見てもらえませんか?と……。あるとき、おじいさんから電話がかかってきて、電話だけではよくわからず、近かったのでおいでいただいたところ、試作品を見せてくださって。かなり面白い、いいぞ!と直感しました。
手持ちの紐靴に取り付けるだけで面ファスナーの靴に早変わり。
片手でピッと留めるだけと、靴の脱ぎ履きが格段に楽になる。
自社ブランドは抱っこバッグ1本に絞ろうとした矢先ではありましたが、これを商品化したら、多くの人の役に立てると思いました。例えばお子さん。20センチくらいまでは面ファスナーの靴が主流ですが、それより大きくなると圧倒的に紐靴(靴紐を結ぶタイプの靴)が増えますよね。けれど、まだ上手に結べなかったり、塾や習い事で忙しくて紐がほどけたまま出かけてしまったり、面倒くさいからと紐がゆるいまま履いていたり。次に年配の方。立ったり座ったりという動作が億劫になったり、紐を結ぶという細かい作業が苦手になったり。
そんな可能性を感じながら、なかなか大変な道のりではありましたが、なんとか商品化にこぎつけ、2023年春の展示会に出してみました。すると、予想を上回る大きな反響があったのです。想定していた子どもの親御さんや高齢者の家族からの好評はもちろん、様々なところにニーズがあると実感しました。
―具体的には?
河北 手足に障がいのある方にとっては、紐靴の脱ぎ履きは切実な悩みだったようです。また、脱ぎ履きしやすい靴や高齢者向けの靴って、デザイン性が後回しにされがちで残念な思いをしていることもあって、Shoe Pitをつけることで自分らしくカスタマイズできると喜ばれました。
あとは、スポーツをする人ですね。着替えの時間が短縮されますし、試合や練習の途中に紐がほどけてちょっとタイム!なんてことも起こりづらくなる。それから、daccolinoのお客様にもニーズがありました。目が離せない子どもたちを遊びに連れて行くのに、自分の靴の脱ぎ履きに時間をかけていられないという……。Shoe Pitのターゲット層はとても幅広いことがわかりました。
【BASIC】は全8色。自分好みの靴にカスタマイズしたり、スポーツチームの色で統一したり、ラケットシューズのペアリングをしたりと、ファッション面での使い方も広がる。
【Reflector】は反射材を兼ねており、夜間のウォーキングや犬の散歩、通塾などにも◎。
―発売後の反響はいかがですか?
河北 自社のECサイトで少しずつ販売は初めていますが、実は、抱っこバッグの方にマンパワーが取られていて、思うように販売活動ができていないのが現状です。抱っこバッグとは売り場が違うので、販路も1から開拓しなければならない……。今はとにかく商品自体を周知してもらわねばと頑張っています。そんな中、展示会で興味を持っていただいたり、サイトを見てくださったりと、少しずつ認知されているのを感じています。
一番上の穴から紐を抜き、Shoe Pitを差し込むだけ。長くなった紐は2回蝶結びをすると良い。
合わせる色によって靴の印象が変わり、自分だけの1足が完成。
―今後の展開は?
河北 現在は、8色の【BASIC(ベーシック)】とレインボーカラーの【AUROLA(オーロラ)】、反射材つき2色の【Reflector(リフレクター)】という商品展開です。耐久性に関しては、エンジニアリングプラスチックという非常に強度に優れた素材を使っていますし、面ファスナーは2万回の耐久試験をクリアしています。しかし、穴を1つ通さず長くなった紐の処理や、価格の見直しなども含め、ブラッシュアップの余地はあると思っています。まずはより多くの皆様に使っていただき、その使用感などをフィードバックしていけたらいいですね。
サッカーやテニスのような動きの激しいスポーツにも対応。
爆発的に売れるものを作りたいというよりは、弊社の商品がより多くの方の役に立てればという想いです。脱ぎ履きのたびに靴紐を結ぶのが面倒で、ゆるくしたままという人も多いかもしれません。しかし、靴ずれができやすいとか歩きづらいとか、子どもなら足の成長に影響があるとか、好ましい状態ではありません。老若男女、障がいの有無にも関わらず、皆様の足の健康や、健やかな暮らしの一助になれたら嬉しいです。
―素晴らしいお話をありがとうございました!
「Shoe Pit(シューピット)」(BASIC 全8色、AURORA,Reflector全2色)
価格:¥1,980~2,200(税込)
店名:Shoe Pit official online store
電話:06-6723-0002 月曜~金曜(祝日を除く)9:00~17:00
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.shoepit.jp/
オンラインショップ:https://shoepit.theshop.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
河北一朗(株式会社カワキタ 代表取締役社長)
1967年大阪府東大阪市生まれ。近畿大学卒業後、アメリカ、オーストラリアで様々な経験をした後、1993年に株式会社カワキタに入社。2007年三代目社長に就任。第二創業のつもりでクレドを策定し、新しいことにも積極的にチャレンジ。自社ブランド事業にも力を注ぐ。人生わくわく夢創造企業の実現を目指し、日々、仕事もプライベートも全力投球。休日は、テニス、パデルに加え、オトンオカンチアリーダーズとして活動中。
〈取材・文・撮影/植松由紀子 MC/石井みなみ 画像協力/カワキタ〉