山形県米沢市では、強い撚りの糸で織る縮(ちぢみ)という技術を使った「米沢織」が江戸時代に始まりました。また、米沢市はレーヨンやアセテートなどの人造絹糸の発祥の地でもある繊維産地です。その地で70年以上、繊維の精錬(繊維から余分なものを除くこと)や染色、整理(仕上げ)を行う東北整練株式会社が、2019年にファクトリーブランド「C-irrinD(シリンド)」を立ち上げました。高い技術力を使った履き心地の良いスカートを企画製作・販売しています。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった、東北整練株式会社・代表取締役社長の柴崎秀之氏に、取材陣が伺いました。
米沢織の活性化と独自技術を盛り込んだ自社ブランド「C-irrinD(シリンド)」のリバーシブルスカート
2024/02/16
東北整練株式会社 代表取締役社長の柴崎秀之氏
―御社の成り立ちを教えてください。
柴崎 実家が染色業をしておりましたので、物心ついた頃からハンカチや手袋を染めて遊んだり、日常の中に染色がありました。高校も色染めを学べる学科に入学し、そこで基礎的な知識を得て卒業後は他県にある繊維会社で染色職人としてキャリアをスタートさせました。30代で製品染めに特化した会社を設立し、2009年に東北整練と合併、2021年に代表取締役社長に就任しました。
創業以来、米沢市の地で織りから生地の精練、染色、
仕上げ加工、縫製と一貫体制で製造している。
―織物の産地における、御社の強みは何でしょうか。
柴崎 日本一の黒、黒の中の黒であるフォーマルブラックをつくる技術・濃染(のうせん)加工を1970年代に開発したのが当社です。おそらく今も、レディースのフォーマルブラックの8割は当社の加工製品だと思います。
もう1つの強みとしては、2021年に特許を申請した再生セルロース繊維の改質技術「MVA(R)(ミヴァージュ)」加工です。再生セルロース繊維は、たとえばキュプラやレーヨン、リヨセルなどの生地のことで、木材など自然由来のセルロース(繊維の主成分)を再生して繊維化しています。洗濯すると縮んだり、色落ちするなどの弱点がありましたが、それらを克服する技術を開発しました。その「MVA(R)」加工技術によって、石油由来の化学繊維を減らし、地球環境に優しい繊維を推し進めるかたちになっていると思います。
―染色工場でありながら、自社ブランドを立ち上げた理由は何でしょうか?
柴崎 米沢産地は、今でも非常に繊細な織物をつくっている企業が多いです。この素晴らしい織物や米沢産地をもっと世の中の人に広めたい、産地全体を盛り上げたいと長らく考えていました。アパレルなどに卸すと価格面で折り合いがつかないし、だからといって技術面で妥協することは避けたい……。ということで、「自分たちで商品をつくろう」と自社ブランドを立ち上げることに挑戦したというわけです。BtoBの卸がメインの工場ですので、BtoCのアパレルにノウハウがなく、立ち上げ当初は苦労しましたが、外部のデザイナーさんと協業して、高いデザイン性を実現させました。そこに我々の熟練の技術と知恵が合わさり、多くの大人の女性に長く着ていただけるオンリーワンのアイテムが続々と生まれています。
―今回紹介する「シリンド」のリバーシブルスカートの特徴を教えてください。
柴崎 リバーシブルのスカートというのは、通常違う種類の生地を縫い合わせてつくるのですが、「シリンド」のリバーシブルスカートは、1枚の生地でつくりあげています。柄の違いは、専用のジャガード織機を使って、織り方で変えているんです。染色については、たとえば黒と白の柄でしたら、織りのあと、黒の染めと白の染め、2回行います。表現したい色によって、調合を変えてつくっていきます。
表は花柄とボーダーを掛け合わせた華やかな柄。
裏は透け感のある黒で、織りのドット柄が入っている。
―とても手の込んだ技術だと思うのですが、1着のスカートが完成するまでにどれくらいの期間を要するのでしょうか。
柴崎 織るのに2カ月、染色で3週間くらいでしょうか。
―生地が1枚なので縫い目がありませんが、その特徴とは?
柴崎 着心地がいいんです。お客様からは、ウエストのゴム部分の着用感が非常に良いとおしゃっていただいております。
ウエストのゴムシャーリング部分に米沢織の技術を取り入れており、通常はテープ状のゴムを生地に縫製することがほとんどですが、私どもの技術ではゴムを糸として織っています。そうすると、ゴムを生地に縫い合わせるよりもすっきりとした仕上がりになり、身体を締め付けることがありません。
また、たとえば旅行先に持っていくと大変便利だというお声もいただいております。リバーシブルスカートは、1着で2日分のコーディネイトができ、かつ、かばんの中に折りたたんでも、しわになりません。
サイズはフリーサイズで、ウエスト位置を自由に変えられる。
―最後に、御社の今後の展望についてお聞かせください。
柴崎 先ほどお伝えした特許技術の「MVA(R)」加工について。現在世の中は、石油由来の素材を使った洋服が主流になっていますが、キュプラやレーヨンなどの再生セルロース繊維がご家庭の洗濯機でも洗えるようになるなど、わたくしどもの「MVA(R)」の加工技術をさらに上げていくことで、再生セルロース繊維が主流になることを目指しています。
そしてそれが、当社だけではなく、米沢市全体として、サステナブル素材の産地になることにつながればいいなと考えています。そのためにも、ファクトリーブランド「シリンド」をもっともっと洗練させていきたい。リバーシブルスカートのシリーズは、シーズンごとに新作を楽しみにしてくださっているお客様もいるので、どんどん増やしていきたいです。いつか、ご購入後の商品を、別カラーにリメイクできる「染め直しサービス」にも挑戦してみたい。あとは、再生セルロース繊維を使ったフォーマルブラックをつくり、より環境にやさしいものがつくれたらいいなと思っています。
―貴重なお話をありがとうございました!
ブルー×ホワイト
ブルー×グレー
「『C-irrinD シリンド』のスカート〈リバーシブル〉」
価格:¥25,300(税込)
店名:工場十貨店
お問い合わせ:工場十貨店 EC-SHOP (stores.jp)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://kobajukkaten.stores.jp/items/5fa10cc98a4572024535e2bd
オンラインショップ:https://kobajukkaten.stores.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<展示会情報>
2024東北整練サステナブルテキスタイル展示会
「紙糸テキスタイル~繊維産地間の連携」
環境に優しい素材として、日本独自のテキスタイル「紙糸」にフォーカス。国内繊維産地4カ所(山形、福井、群馬、新潟)が集結しておくる、日本のサステナブルテキスタイルの提案。各産地がそれぞれの強みを生かした新しいテキスタイルを開発し、世界への応用を目指す。
日時:2024年2月21日、22日 10:30~17:00
場所:原宿OMビル(東京都渋谷区千駄ヶ谷3-13-7)
問い合わせ先:東北整練株式会社 MVA戦略担当 髙橋 電話:0238-37-6600
<Guest’s profile>
柴崎秀之(東北整練株式会社 代表取締役社長)
1964年 山形県生まれ。米沢工業高校 色染化学課 卒業後、大貫繊維株式会社に入社し、染色職人としてのキャリアをスタート。1996年、製品染めに特化した株式会社プレストを設立。パリコレブランドなど著名デザイナーとの協業を重ね、2021年東北整練株式会社 代表取締役社長に就任。
<文・撮影/よしおかまさこ MC/山口優花 画像協力/東北整練>