製造業のあらゆる分野で「メイド・イン・ジャパン」が見直されつつある今、編集長アッキーこと坂口明子が気になったのは、埼玉県川口市に本社を置く太陽毛絲紡績株式会社。自社で、紡績だけでなく毛織物や編物の製造販売も行う国産メーカーです。これからの季節に活躍しそうなユニークな商品があるとの噂を聞きつけ、代表取締役社長・内山正治氏に取材陣がお話を伺いました。

太陽毛絲紡績株式会社代表取締役社長 内山正治氏

―もうすぐ創業から90年を迎えられますね。

内山　1937年3月、私の義理の祖父である渡辺平八郎が東京の日本橋で創業、翌年には本社を現在の埼玉県川口市に移転し、紡毛糸（ぼうもうし）の製造を始めました。
平八郎は、この世になくてはならない「太陽」のような存在に、そして太陽のように温かいものをお届けしたいということで、社名を「太陽毛絲紡績」としたと聞いています。

―紡毛糸の製造ということですが、具体的にはどのようなことを行なっているのでしょうか。

内山　紡毛糸というのは、羊毛紡績の一種で、ウールやカシミヤなどの動物繊維から化学繊維まで多岐にわたる原料を紡いで作られる、比較的太い糸のことです。ニットセーター、コート織物や毛布などの用途があります。特に、紡毛紡績は産毛された羊毛などの原料すべてを余すことなく利用でき、さらに回収衣料からのリサイクル紡績にも活用される工程です。他に、糸の形状を楽しんでいただく意匠糸も生産しています。
さらに、弊社の糸の特徴や魅力を生かし、国内の協力工場でニット製品を製造したり（ニットOEM）、カシミヤなど弊社の素材を使った織物でコートやショールの国内生産も行なったりしています（毛織物OEM）。原料の調達から紡績、テキスタイルの製造まで社内で一貫して行なっているというのが、弊社の大きな特徴です。

手芸用糸やカシミヤ糸、ウールの原毛などハンドメイド用の糸が豊富。
発色の良さに定評があります。オンラインショップをのぞいてみて！

―社長は3代目とのこと。就任されるまでの経緯を教えてください。

内山　私は、いわゆる娘婿なのですが、結婚する時には太陽毛絲紡績に入るとは全く思っていませんでした。先代・渡辺義郎が「これからは毛糸業界にも化学の知識が必要だ」と考えていた時、「そういえば」と、大学院で化学を専攻していた私に白羽の矢が立ったのです。

入社したのは40年ほど前のことになりますが、当時は国内外で「洗えるウール」が勃興していて、「乗り遅れるわけにはいかない」と先代は洗えるウールの開発を開始しました。洗えるウールにするために原料、糸、あるいは製品に化学的処理を施すのですが、その「化学」の部分で私の知識と経験が重宝された、というところでしょうか（笑）。

自分が社長になるなんて考えてもみなかったのですが、ある日、先代に「ちょっと挨拶に行くから、一緒に来い」と言われて、お取引先の商社に連れていかれました。すると先代は商社の社長さんに「今度の株式総会で、コイツを社長にするつもりでいるんですけど、どう思いますか？」と聞いたんです。そこで初めて、自分が次の社長になることを知ったというわけです。

―社長に就任してから、力を入れられたことや新たに始められたことはありますか？

内山　まず、先代がしてきた事業を受け継ぐということです。先代は、紡績工場のなかでいち早く中国・天津市に合弁会社を設立したり、洋服はヨーロッパ生まれだから「糸にヨーロッパの匂いを吹き込もう」と、イタリアの名門紡績メーカーであるゼニア・バルファー社と業務提携したりなど、世界市場を視野に入れた事業展開を行なっていました。

自社の糸を使ってニット製品を作り始めたのも、先代です。当初、周囲には「紡績屋がアパレル会社の真似なんかするな」と言われました。そこで先代は、アパレル会社を別に立ち上げたのです。

私の代になって、アメリカのお客様に直接、糸をご提案したり、ヨーロッパの手芸メーカーとの取引を始めたり、ということができたのは、先代が築いた土台があったからこそです。また、1983年にニットブランド「ビアセリカ」を立ち上げましたが、これも先代のアパレルへの挑戦がなければ、叶わなかったと思います。

―今回ご紹介する「コットン3Dニットカーディガン（巾着付き）」「コットン3Dニット半袖プルオーバー」は、「ビアセリカ」の商品ですね。開発のきっかけや経緯について教えてください。

内山　まず、「ビアセリカ」というブランドについて。ビアセリカとは、ラテン語でシルクロードを意味します。高級素材のカシミヤやアンゴラなどは、シルクロード経由で日本に伝わってきました。弊社がそれらを使って製品を作れるのは、シルクロードのおかげ。そこでブランド名を「ビアセリカ」とし、カシミヤを中心としたセーターやマフラーといった、秋冬物の製品を作ってきました。

2017年、創業80周年を迎えたのを機にリブランディングし、ファクトリーブランド「ビアセリカ」として、自社のオリジナル製品をお客様に直接お届けできるように。するとお客様から「太陽さんの目利きで選んだ素材で春夏物はないの？」というお声をいただきまして、コットン100％の製品も作るようになりました。「コットン3Dニットカーディガン（巾着付き）「コットン3Dニット半袖プルオーバー」は、そのなかの製品です。

「コットン3Dニットカーディガン（巾着付き）」は綿100％。
M～Lサイズ対応で、伸縮性が高いため体型をあまり選びません。
巾着は、カーディガンを持ち歩く際に便利なほか、
単体で小物入れとして使っても。こちらのホワイトのほか、
ライトグレー、チャコール、サーモン、ミント、ブルーの全6色。

「コットン3Dニット半袖プルオーバー」。
カーディガンと同素材のプルオーバー、全6色。M〜Lサイズ対応。
生地に立体感があるので体型を拾わないのがGOOD。
気になる二の腕をカバーしてくれる袖丈もうれしい。
カーディガンとアンサンブルで着ても。

―「3Dニット」というのが最大の特徴になるかと思いますが、具体的にはどのようなものなのでしょう？

内山　「3D」というのは、生地を平面ではなく立体的に編み上げたものですが、この製品は単に立体的というだけでなく、糸の特性を生かし、その特性に合わせて編み方を工夫することで凸凹感のある生地に仕上げています。それによって生地が縦横斜めに伸縮し、製品として仕上げた時に、いろいろな体型にフィットできる、つまり多くの方にお召しいただけるのです。

さらに、伸縮性があるのでシワにならないというのも、大きな特徴です。生地が薄いのでくるくるっと丸めて、そのままバッグやカバンの中に入れていただいても大丈夫。旅行や出張の際、きっとお役に立てると思います。

糸の性質を生かし、編み方に工夫することで、
絞りのような立体的な生地に。

綿100％なのにこの伸縮性。
縦に横に、斜めに伸びます。
そして、伸びても凹凸がつぶれないので、
ふくよかな方が着ても“パツパツ”な感じに見えません。

カーディガンの前立てやプルオーバーの襟ぐりが波のようになっているのは、
バイアスの特性。ふわっとしているので肌への当たりがやさしく、
見た目もソフトな印象に。

―シワにならない、かさばらないとなると、夏の冷房対策や飛行機に乗る際などに大活躍しますね。

内山　カーディガンは長めの着丈ですが、生地が薄いのでとても軽いんです。
そして、乾きも速いです。旅先や出張先でも、バスルーム等に干しておいていただければ半日くらいで乾きます。

小さくたたんで、（あるいはくるくるっと丸めて）巾着に入れれば、
持ち運びに便利。これだけコンパクトにしてもシワになりません。
羽織ものを持って出かけたい、という時に重宝しそう！

バッグやカバンに、巾着ごとポンと入れて。
これはA4サイズの書類が入る通勤バッグ。
巾着（カーディガン）が縮むのでもっと荷物を入れても大丈夫。

―生地にシャリ感があって、肌触りがサラリとしていますね。風通しもよくて、梅雨のじめっとした季節にも重宝しそうです。

内山　清涼感というのは、始めから狙っていたわけではありません。生地に凹凸があるために肌にまとわりつかず、風通しもよくなるので、着ている時に涼しく感じていただけるのです。

―女性にとって、うれしいこと尽くしの製品ですね。では最後に、今後の展望についてお聞かせください。

内山　100周年に向けて、お客様にもっともっと喜んでいただける製品、サービスを提供させていただきたいと考えています。

そして、「メイド・イン・ジャパン」ということを大切にしていきたい。日本は原材料の品質も技術も非常に高く、それを絶やしてしまうのは非常に残念なことですから。
2015年に一般社団法人日本アパレル・ファッション産業協会が「J∞QUALITY（ジェイクオリティ）という企業認証を制定しました。さまざまなカテゴリーがあるのですが、弊社では「織物・編物」と「企画・販売」という2つのカテゴリーで認証を取得。「ビアセリカ」のほとんどの商品は「J∞QUALITY」の認証を受けています。

「メイド・イン・ジャパン」は最終工程の「縫製」を国内で行なったものを呼びますが「Jクオリティー」は、
「企画・販売」「織り・編み」「染色整理加工」「縫製」のすべてを国内で行い、
日本ファション産業協会の厳しい基準をクリアした商品のみが認証されます。
「Jクオリティー」商品にはその証として、このオリジナルタグが付いています。

社長としては、才能と可能性にあふれる若い人たちに「ここで働きたい」と思ってもらえるような会社にしたい。それが、お客様に喜んでいただける商品づくりにつながるからです。社員が楽しく働いて、みんなで会社を盛り立てていってくれたら、こんなにうれしいことはありません。

弊社の行動規範の一つに、「お天道様（太陽）に恥ずかしくない仕事をしていこう」とあるのですが、私自身、このことを肝に銘じ、日々、精進してまいりたいと思います。

―日本は世界有数のテキスタイル産地。その誇りをあらため感じられるお話でした。ありがとうございました。

「コットン3Dニットカーディガン（巾着付き）」（ホワイト／ライトグレー／チャコール／サーモン／ミント／ブルー）
価格：¥17,600（税込）
店名：太陽毛絲紡績
定休日：インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL：https://taiyo-keito.stores.jp/items/648ac23b717fd9002de63fd7
オンラインショップ：https://taiyo-keito.stores.jp

「コットン3Dニット半袖プルオーバー」（ホワイト／ライトグレー／チャコール／サーモン／ミント／ブルー）
価格：¥15,400（税込）
店名：太陽毛絲紡績
定休日：インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL：https://taiyo-keito.stores.jp/items/6285a851f3de5c1b42c81d48
オンラインショップ：https://taiyo-keito.stores.jp

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

＜Guest’s profile＞
内山正治（太陽毛絲紡績株式会社 代表取締役社長）

1956年東京都生まれ。1984年東京都立大学大学院博士課程修了（工学博士）。同年太陽毛絲紡績株式会社入社。原料部、研究開発部、事業開発部などの管掌役員、常務取締役を経て、1996年代表取締役社長就任。現在、出身大学の応援団として、東京都立大学同窓会評議員及び同大学アイスホッケー部OB会会長を務めている。

＜文・撮影／鈴木裕子　MC／木村沙織　画像協力／太陽毛絲紡績＞