世界が2030年までに達成すべき目標を定めたSDGs。持続可能な社会の実現のため、企業や個人でSDGsに取り組む人たちが増えています。今回、編集長アッキーが気になったのは、ゴミとなってしまう革の端材と使われなくなった着物の帯から生み出される巾着袋。株式会社VOCCA の商品企画管理 山村尚芳氏に企業の取り組みや商品の魅力について伺いました。
いらないものから「一点もの」へ!革の端材と帯地で作る個性豊かな「巾着袋」
2024/05/13
株式会社VOCCA 商品企画管理の山村尚芳氏
―御社の沿革を教えてください。
山村 弊社の母体は曽祖父が設立した山村鞄製作所を継ぐ会社でして、創業から105年ほどになります。現在はOEMの工場を管理している会社なのですが、自社の正規の職人に加えて、会社から独立された職人さんが東京都墨田区や千葉県、埼玉県、茨城県で工場を経営されているので、そちらにも依頼して大手ブランドのバッグをはじめとしたファッションアイテムの製造をしています。弊社は山村鞄製作所の系譜を継ぐ形で、私の母が約20年前に立ち上げました。
―この商品を開発したきっかけは?
山村 OEMで皮革を使用したバッグや財布などのファッションアイテムを製造しているため革の端材が大量に出るのですが、SDGsを推進する一企業としては、ただのゴミとして捨てるのはもったいないと思っていました。それらは産業廃棄物として処理をしなければならず、全世界で産業廃棄物を減らそう、CO2の排出を0にしようという流れもSDGsとしてありますし、どうにかしたいと考えていました。
そんな時に妻の祖母が亡くなり、遺品としてたくさんの着物と帯を引き継ぎました。妻も普段から着物を着ることがあるのですが、引き継いだ着物の中にはサイズが合わなかったり、汚れてしまって着られなかったりするものもありました。しかし、生前祖母が大切にされてきたものですので、ただ捨てるのは忍びないというものがあって、その着物を使って何か作れないかと妻から相談を受けたのがきっかけです。
バッグなどの製造には革の端材がどうしてもたくさん出てしまう。
―革と帯地の組み合わせが斬新ですね!
山村 帯地に革を合わせるメリットはデザイン性だけではありません。帯地はとても丈夫なのですが、以前に帯地だけを使った「巾着袋」も試作品として作ってみたところ、底面の角がすぐに擦れて駄目になってしまいました。
「長く愛用していただく」というのも弊社の製品のコンセプトであるため、長く培ってきた鞄づくりの知識や技術を活かして痛みやすい箇所には革を用いることで、長く使えるだけでなく、ロスが生じる革を無駄にせずにデザイン的にもより良いものとした商品に仕上がりました。
擦れやすい底面をしっかりと補強して強度とデザイン性をアップ。
―セットで持つことも?
山村 「巾着袋」を試作した際に、弊社が長年培ってきたファッションアイテムを製造するノウハウを用いて、裁断した残りの帯からさらに小さなアイテムが作れるのではないかと思い立ちました。帯地はデザイン的にもとても優れており、帯の端切れから「長財布」や「キーケース」、「名刺入れ」などの小物の発想がどんどん生まれてきました。帯にはいろいろな絵柄が描かれていることが多く、帯1本から様々な表情のアイテムを作ることができます。シリーズ展開しているため、お気に入りの柄の小物をお揃いでお使いいただくこともできます。
1本の帯でも裁断する部分によって絵柄の印象が変わる。
―帯の仕入れ先はどちらですか?
山村 妻の祖母の遺品として引き継いだ帯だけでなく、現在は遺品整理の仕事をしている私の友人が引き取った帯を弊社で買い取るようにしています。私も知らなかったのですが、遺品整理で出てきた帯はサイズもバラバラで売っても少額なので捨ててしまうそうなのです。
遺品整理と同様に、日本全国には使われなくなった帯をどうしようか困っている方がいらっしゃると思います。ご自身にとって大切な方の思い入れがある帯を使い、新たなファッションアイテムとして作り変えて提供したいという想いがありますので、今後は個人のお客様からのご依頼も受けていきたいと考えております。
和装をする人が減り、使われなくなった帯に新たな命を吹き込む。
―製造工程を教えてください。
山村 まず帯を洗浄してからほどいていき、絹地を痛めないようにしわをなくしていきます。織の帯は糸がほつれていってしまうため、裏側に糊置きをし、その後に裁断をするのですが、現在はそこまでの工程を私が担当しています。それ以降の縫製や革を巻いて丈夫な造りにしていく工程などは、職人さんが一つひとつ手仕事で行っております。
帯地の絵柄と革の色などを合わせながら熟練の職人が手仕事で生み出す。
―どんなシーンにおすすめ?
山村 私自身和装が好きで、普段から曽祖父が着用していた着流しで出かけることもあるのですが、弊社の「巾着袋」はとてもよく合います。購入された方からは、お子さんの成人式や様々な式典などに着物で出席する際に使ったと伺いました。
「巾着袋」の絵柄や表情にもよりますが、私が今使っているお財布やバッグは喪服の帯を使った黒地のものなので、スーツや普段着にも合わせやすいです。そのように、「巾着袋」は和装の時だけではなく普段使いとしても楽しんでいただけると思います。 また、帯として使用されていた頃は使えるシーンが柄によって限られていましたが、帯からリメイクされたアイテムというストーリーにより、ご自身で新たなシーンでのスタンダードを作り出す楽しみもあると思います。
特別な装いはもちろん、普段着に合わせて持ち歩いてもおしゃれにキマる。
―海外からの反応は?
山村 以前、フランスの方から弊社の商品をフランスで売りたいというお話をいただきました。そのような機会があれば、今後は海外展開もしたいと考えております。海外向けの窓口も整えていくつもりです。
―今後の展望をお聞かせください。
山村 ものづくりに携わる者として、お客様に「この品物に出合えて良かった」と思っていただける商品と、「こんなものがあったらいいな」という思いを形にした商品を提供したいという想いがあります。和服に触れる機会が減ると、着物文化が廃れて、着物を作る職人さんたちの仕事がどんどんなくなってしまいます。弊社の製品をきっかけに着物文化をもっと身近に感じていただけたり、古いものに関心を持ってくださる方が増えたりすると嬉しいです。そのため、これから少しずつ新しいデザインも増やしていきたいですし、個人の思い出の品としてオーダーメイドもやっていきたいと考えています。
また、弊社のある墨田区は昔から皮革産業が盛んな地域になりますので、今後は墨田区で作られた革を使って、「メイドイン墨田区」をブランディングしていきたいです。
―貴重なお話をありがとうございました!
「巾着袋」(幅20cm×高さ27cm×マチ4.5cm、各一点物)
価格:¥11,000(税込)
店名:VOCCA
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://vocca.jp/collections/%E5%B7%BE%E7%9D%80
オンラインショップ:https://vocca.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
山村尚芳(株式会社VOCCA 商品企画管理)
1985年東京都墨田区生まれ。22歳で有限会社山忠へ入社。27歳で退社後はギタリストとして全国をさすらい、30歳で株式会社VOCCAへ入社。33歳で同社の運営統括責任者となる。SDGsの推進運動に注力。
<文/ウツギナオコ MC/三好彩子 画像協力/VOCCA>