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「源氏物語絵巻」の風呂敷が日常を雅に。京の老舗が発信するきもの文化の豊かさ

2024/05/29

今回、編集長アッキーが気になったのは、なんと着物!「お取り寄せで着物?」と意外に思われるかもしれませんが、着物に関連したモノを通して、日本の伝統、着物文化の一端に触れることができれば、お取り寄せの新たな楽しみも広がります。慌ただしい現代にこそ着物の魅力や価値を知ってもらえたらと発信を続けるのが、京都の老舗、株式会社ゑり善の代表取締役社長、亀井彬氏。大河ドラマでも話題の源氏物語の風呂敷をお作りと聞き、スタッフがお話を伺いました。

株式会社ゑり善 代表取締役社長の亀井彬氏
株式会社ゑり善 代表取締役社長の亀井彬氏

―創業はあの本能寺の変の頃だそうですね。

亀井 1584(天正12)年と伝わっており、今年は創業440年目にあたります。会社化は戦後ですが、亀井家が継承してから5代目、屋号は半襟の「ゑり」と当主善助の「善」に由来します。

―代々商いのバトンをつないで来られた秘訣は何でしょう?

亀井 京都は専門性を大切にするところです。一時的な利益を求めて商いを広げるよりも、着物ひとすじで、プロとして切磋琢磨し続けることで、お客様の信頼を得てきたのではないでしょうか。他の企業さんでも、そういうところが多いんです。専門性を貫いて来られたところが今も残っているし、その店の強みだと思います。地元の方に見守られながら、後継者が育つ土壌でもありますし、地域社会から支えられていると実感します。地域として、この店を残していこうという想いに支えられてきたのだと思います。

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京都一賑わう四条河原町に位置する京都本店。
祇園祭の山鉾も店の前を通る。

―半襟に始まり、着物や小物全般を扱われるようになったのはいつですか?

亀井 もともと半襟を専門的に取り扱っており、着物に移行したのは、戦後生活が豊かになっていくなかで着物を探すお客様が増えた頃ですね。それと並行して半襟が果たす役割が変化してきたという事情もあり、その時に事業として転換していきました。白無地の半襟を基本とした茶の湯の世界のルールが広まったり、半襟をゆったりと見せるような着方は時代のスピード感に合わなくなってしまったのです。昔の人は数枚の着物を大事に着回すかわりに、半襟だけでも替えるという楽しみがあったのですが…。刺繍の半襟を作るには、緻密で繊細な技術を必要とします。ゑり善ではその細かな仕事とセンスを半襟から着物へと生かしていきました。

―お店で販売するだけでなく、お客様のお家も回られているとか?

亀井 風呂敷をかついでお客様のお家に伺うのは古くから行っていることで、外商と店舗のどちらも大切に商売の両輪として励んでいます。京都以外にも、東京、名古屋に店舗がありますし、そこからさらにお客様のご縁が全国各地へと広がっています。風呂敷をかついで行くという光景は、今も残っているんですよ。

―令和の今も変わらず?

亀井 ええ、お家ではお客様がお持ちのお着物を拝見することができるので、お好みを伺いコーディネートやTPOのご提案もできますから。でも、初めての方も気軽にお越しいただけるのはやはり店舗。京都本店には東京からお越しくださる方も多く、国内外からご旅行で京都にいらっしゃって、着物の文化に触れたいと立ち寄ってくださる方も増えています。

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「ゑり善」は創業440年の呉服の老舗。
四季を感じ取る京都の美意識が品物や接客に生きている。

―社長就任後、着物の裾野を広げる取り組みをされていますね。

亀井 私がすべきことの一つは、着物の価値の再定義だと思います。着物を所有することに価値を持たれる方、受け継ぐこと、洋服とは異なる機能性、着物を着た時のゆったりとした時間の流れなど、人によってさまざまな価値の感じ方があると思いますが、それを一つ一つ刺さるキーワードにして発信する、それが重要ではないかなと思います。そのうえで大事なのは、相談のしやすさ。ゑり善でなんでもご相談くださいとなれば、背中を押すことができると思うのです。かつては着物好きのお母さんやおばあさんになんでも聞けたのですが、今はそれが難しくなりました。着物の価値の再定義をすることと、親しくなんでも相談できるパートナーであることが大事だと思いますね。

―以前は「こんな時にはこんな着物」と身近な人に教えてもらえましたね。

亀井 ご相談にお答えした結果、「安心して着られたよ」というお言葉をいただくと、うれしいですし、今その役割が求められているのかなと思います。お客様にきちんと伝わるように、発信の仕方もまだまだ考えていきたいですね。

―昭和、平成、令和と、ライフスタイルや住空間等が変わるなかで、着物の楽しみ方をどのように提案されますか?

亀井 今のスピードの速い世の中を止める力が着物にはあると思います。着物でしたら準備して着る、風呂敷なら包んで渡す、ひと手間をかけています。時間が消費されるような現代でも、着物の世界ではその1日を自分がコントロールできる。着物を着ると歩幅が狭くなり歩き方もゆっくりになって、ふだん目に入らないものも見えて、気づきがあります。着物は自分を大切にできるアイテムだとお伝えしたいですね。文化に触れるということは自分に向き合う時間を持つということ。お能やお茶、お花も同じ意味合い。もちろん着物を着てお散歩するだけでもいいわけです。このシーンだからこの柄の着物、帯を選ぶという心遣いにも、相手に対する敬意や自分に向けての敬意があります。さらにそこにはTPOの意味もある。だからこそ現代に発信できることは多くありますし、初めてお聞きになる若い世代にも伝えたいことは多いですね。

―今回ご紹介いただく風呂敷も、場面に沿って選ぶものですね。

亀井 とっておきの1枚をお持ちいただくのもいいのですが、やはりシーンや季節などで風呂敷を替えるとそれが話題の一つになります。

―今なら源氏物語の風呂敷で包むと話題も広がりますね。受ける側も知識が必要です。(笑)

亀井 私も受け取る時には、こういう意味で包んでくださったのかと気づけるようになりたいですね。押し付けではなく、言葉にせずにコミュニケーションができたら素敵ですね。

―包む側の心配りがあって、受け手が気づけて…。やさしい気持ちのやりとりですね。今回の源氏物語の風呂敷には驚きました。いつ頃商品化されたのですか?

亀井 定かではないのですが、約半世紀前かと思います。曽祖父の時代に、徳川美術館様とのご縁があって、そのつながりのなかで生まれたものです。源氏物語の一場面などを絵画に起こした国宝の「源氏物語絵巻」は全4巻からなり、現存は19場面。ほとんどが宇治十帖と呼ばれる帖の場面です。ゑり善ではそのうち、徳川美術館収蔵の4場面を綿風呂敷にてご紹介しています。絵を手仕事で風呂敷のサイズに伸ばした型を作り、染めています。時を経て剝落した部分も忠実に再現しています。

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美術風呂敷「源氏物語絵巻 竹河二絵」。
現存するもののうち色が最もきれいに残っている帖を再現した風呂敷。
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「源氏物語絵巻」は現在、徳川美術館に3点、五島美術館に1点収蔵されており、
徳川美術館収蔵の4場面を風呂敷にした。
「竹河」のほか「東屋」「橋姫」「宿木」がある。

―美しい絵柄で再現性も高く、また、とても丈夫。どのような使い方をしていただきたいですか?

亀井 風呂敷なので使い方は多岐にわたると思います。私たちは着物を包みますし、かつて役所でも使われていたように、書類を包んでもいいと思います。105cm四方という大きなサイズですから、テーブルクロスやタペストリーなど、インテリアとして用いていただいてもいいですね。木綿ですから洗えますしアイロンもかけられます。実際の絵は長方形ですから、上下に絵に合う色を入れて、美術館と相談しながら自社でデザインしました。

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大切な着物を運ぶ時に風呂敷が役に立つ。包みながら優雅な気持ちに。
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風呂敷をソファカバーとして使い、華やかなインテリアに。
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引き出しに入れた着物を風呂敷でカバー。
引き出しを開けるごとに美しい絵が目に飛び込む。
ほこり除けや着物の種類分けの目印にも。
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テーブルに広げてクロス代わりに。洋間でも和の雰囲気を演出できる。
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フィットネス用のストレッチポールも風呂敷と帯締めでイメージチェンジ。
和室に立てかけてもなじむ。
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タペストリーのように本棚に掛けて、本の日焼け防止にも。

―「竹河」の柄の特徴は?

亀井 現存する絵巻のなかでも最も彩色の保存がきれいとされているもので、平安の雅な様子がうかがえます。中央の桜や碁を打つ指使いも繊細に描かれています。柄が多くなく余白があり、結んだ時に絵が出てくるようになっています。桜は日本のシンボルですのでもちろん秋にも使えますし、春に使えばなお良しですね。

―どのような方にお届けしたいと?

亀井 着物を包むのに便利なサイズなので、着物をお召しになる方にお使いいただけたらと思いますし、また、日本語と英語の説明書きとともにたとう紙に入っており、名入れもできますのでご進物にもよいかと。工夫のある楽しい使い方を教えていただきたいですね。

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風呂敷は解説とともに1点ずつたとう紙に包まれている。
風雅さ漂う贈り物としてもおすすめ。

―美術品のような風呂敷は多いのですか?

亀井 実は減少しており、廃番もあるのですが、京の三大祭など大事なものは残していきたいと考えています。記念品など別注もできますし、1枚から作れるものもあります。こういう機会に何かできないかとお尋ねいただければ…。自分だけの風呂敷でなんでも包んでください。

―今後の展望としてどんなことをお考えですか?

亀井 風呂敷に関しては、風呂敷特集のような店内催事をできればと考えています。京都の四条通りのいろいろなお店の箱を包んでお見せするのも楽しいのではないかと…。呉服店はふだん入りにくいお店と思われがちですので、待ち合わせができるようなお店にしたいですね。中に入っていただくと、ゆったりできるんです。「ゑり善で待ち合わせね」と皆さんが言ってくださったら、うれしいですね。気軽にお寄りいただけたらと思っています。

―ふらりとお訪ねしたくなりました。本日はありがとうございました。

美術風呂敷『源氏物語絵巻 竹河二絵』
美術風呂敷『源氏物語絵巻 竹河二絵』

「美術風呂敷『源氏物語絵巻 竹河二絵』」
価格:¥5,500(税込)
店名:ゑり善 きょうとwel.com店
電話:075-221-1618(10:00~18:00 月曜・年末年始除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kyoto-wel.com/item/IS81003N00010.html
オンラインショップURL:https://www.kyoto-wel.com/shop/S81003/index.html

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>
亀井彬(株式会社ゑり善 代表取締役社長)

1987年京都府生まれ。大学卒業後、日本ユニシス(現 BIPROGY株式会社)入社。2013年株式会社ゑり善に入社。銀座店勤務、専務取締役を経て、2021年9月同社代表取締役社長就任。風呂敷を担ぎ全国のお客様と着物談義を重ねながら、日本文化の奥深い魅力を再認識する日々。経営理念の「正商」を胸に、本店、銀座店、名古屋店から全国に「着物を装う喜び」を発信し続けている。

<文・撮影/大喜多明子 MC/三好彩子 画像協力/ゑり善>

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