日本の雑誌を支えてきた製本技術と「わくわくものづくり」から生まれた、アートな「マスクケース・ブック」 

2024/09/30

創業71年、『週刊少年ジャンプ』など、漫画雑誌の製本で日本の出版を支えてきた中島製本株式会社。その歴史と伝統、高い技術を活かして、今、新たなものづくりに挑戦していることに、アッキーこと坂口編集長が注目。美しいマスクケース・ブックと製本屋さんが作ったユニークならくがきちょうについて、中島製本株式会社 代表取締役社長 中島伊都子氏に編集部がお話を伺いました。

中島製本株式会社 代表取締役社長 中島伊都子氏

−創業70周年とのことで、これまでの歴史を教えていただけますか?

中島 弊社は父の中島鑛一が始めた会社で、今年で71年目になります。父は現在の文京区の生まれで、銀行に勤めていたのですが、若くして一家を養わなければならない身の上になり、当時お給料が倍だった製本所に転職しました。毎日朝8時から夜10時まで、休みは月に2回という忙しさでしたが、一心不乱に働いたと聞いています。
21歳の時に技術を身につけて独立し、講談社さんの前に工場を持ちました。すでに製本会社としては後発でしたから、ハードカバーではなく、今だと無線綴じと呼ばれる週刊誌などの製本を中心にお引き受けしました。その後、場所が手狭になったことから、板橋、戸田を経て、1980年(昭和55年)に、現在の川口市に工場を建設しました。

大ロットの製本を行うことができる工場を埼玉県川口市に新設。

−『週刊少年ジャンプ』など、大部数の製本をご担当されていたのですね。

中島 はい。『週刊少年ジャンプ』は発行部数が650万部もありました。ですから、弊社は今でも大ロットの製本が得意です。
ですが、1995年(平成7年)をピークに、週刊誌の売上げは右肩下がりになってきます。弊社の売上もピーク時の1/3に、120名いた社員も65名ほどとなり、規模を縮小せざるをえませんでした。

『週刊少年ジャンプ』をはじめ、日本の漫画雑誌の製本を多く引き受けてきた。

―中島社長の就任の経緯は?

中島 私は出版社に勤めていたのですが、27歳の頃に、結婚までのお手伝いのつもりで父の会社に就職しました。ところが、兄が辞めてしまったり、父も80代となり病気もあって、交代することになりました。11年前のことで、ちょうど経営が厳しくなった頃のことです。

−厳しい環境の中で引き継がれることに?

中島 もう不安でいっぱいでした。子どもの頃から親しんできた社員さんたちもたくさんいましたし、この方たちの雇用を守らなければという気持ちが大きかったです。
製本は下請けの仕事がほとんどですが、下請けだと自分たちで値段が決められない。自社で何か新しいことを始めなければと考えていました。
ところがその矢先、新型コロナウィルスが流行。仕事がぐっと減ってしまったんです。旅行本や食べ歩きの本のお仕事も多かったのですが、それもぴたりと止まってしまいました。

−大ピンチと言えますが、そこから新しい企画が?

中島 今までは何十年も下請けだったのですが、時代に対応して変革しなければいけない。今までの技術を活かして、ワクワクするような、思いを形にする何かを発信しようと考えました。
弊社には元漫画部だったり、絵が好きな社員も多いんです。そこで、オリジナルマンガのマスクケースをお年賀に作って配ったところ好評だったので、はがし製本の技術を活かした「マスクケース・ブック」を企画しました。
どんなデザインがいいかと考えているとき、紹介いただいた川口市にある福祉施設「工房集」さんのホームページに目が止まりました。障がいのある人たちのアートなのですが、あまりにも素敵すぎて、4時間くらい見入ってしまいました。絵の持っているエネルギーがすごくて、細かいものなどは、その集中力に驚かされました。こんなに素敵なアーティストさん達がいるところが川口市にあったんだと知り、わくわくしました。

はがし製本の技術を使った「癒しのマスクケース・ブック」。
心踊るような色鮮やかなアートがいっぱいで、明るい気持ちに!デザインや印刷も地元川口市の企業に依頼している。
使い捨てではもったいないと、ブックカバーやポチ袋にする人も多いそう。

−ロゴのデザインも「工房集」さんとのコラボなのですね。

中島 2023年4月から、新ロゴマークを採用しています。これは、製本の際に出る扇型の「三方断裁紙片の罫下落とし」をモチーフに、「工房集」アーティスト・羽生田優氏のデザインを採用させていただきました。「太陽」のような力強いマークです。
「工房集」さんでは、自分の好きなことをのびのびと幸せそうに作業しています。一人ひとりの能力を最大限に引き出す、安心して自分が持っている能力を発揮しているのを見て、自社もそうありたいと感じました。

製本の最終工程「三方断裁」で発生する紙片をモチーフにしたロゴ。
色とりどりなカラーを社員に見立て、一人ひとりが自分の得意や好きなことを活かし、
自由に力を発揮して活躍し、扇のように広がっていける会社になりたい。そんな願いが込められている。

―「製本屋が作ったらくがきちょう」は社員の方たちからの発案ですか?

中島 はい。自分たちのやりたいこと、ワクワクすることをやろうという中で、出てきたのが、弊社の技術を使った「落書き帳」でした。製本屋ならではの工夫がいっぱいあります。例えば、広げるとA3やA2になる4ページ折りや8ページ折りの紙もついているのですが、これは雑誌にポスターをつける技術を活かしています。自由な発想で、例えばすごろくやコラージュなど好きなように使いこなしていただけたらと思います。

カラー紙がふんだんに使われた「製本屋が作ったらくがきちょう」。
もちろんはがし製本で、中にはポスター状に折り畳まれた紙などが綴じられていたりと、遊びごころたっぷり。

−今後の展開を教えてください。

中島 一つは、資源の循環です。製本工程ではほとんどゴミが出ないんです。100%近くリサイクルができています。ただ、エネルギーを多く使っているので、今後は自然エネルギーなどを取り入れたいと研究を始めております。また、落ち葉を集めて腐葉土にしてゴミを削減するなど、循環型の工場経営を目指しています。

製本の文化も残していきたいと思っています。手触りの良さやあたたかみ、大事なものを形で残したい、大事な本はさらに大事に扱いたいといったご要望はあると思います。自分で作る手製本講座なども今後やっていきたいなあと考えています。例えば、自分が大事にしている本を自分で改装し革表紙をつける、といった講座です。革の手触りがよく、重厚で、さらに大切な1冊になります。
そのように、文化も資源も思いも循環できるような会社づくり、社会を目指しています。

−改めて製本の可能性を感じ、ワクワクしました。本日はありがとうございました。

「癒しのマスクケース・ブック」
価格:1,650円(税込)
店名:中島製本じぶんいろショップ
電話:048-256-6121(平日8:00~16:45)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://nkseihon.base.shop/items/54159542
オンラインショップ:https://nkseihon.base.shop/

「製本屋が作ったらくがきちょう」
価格:1,000円(税込)
店名:中島製本じぶんいろショップ
電話:048-256-6121(平日8:00~16:45)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://nkseihon.base.shop/items/78121268
オンラインショップ:https://nkseihon.base.shop/

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>
中島 伊都子(中島製本株式会社 代表取締役社長)
1974年埼玉県生まれ。成城大学卒業後、出版社に勤務し、2001年に中島製本に入社。2013年に同社代表取締役社長に就任。パーマカルチャーに興味を持ち、資源やエネルギー循環型の工場を目指している。

<文・撮影/尾崎真佐子 M C/伊藤マヤ 画像協力/中島製本>

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