今回、編集長アッキーが気になったのは、節句を祝う雛人形と兜です。株式会社祐月本店・代表取締役の和田幾久郎氏に商品の魅力を取材陣が伺いました。
茨城・水戸 伝統の技と心 現代の節句を祝う「偕楽園雛」「水戸黒兜」
2024/11/11
株式会社祐月本店 代表取締役の和田幾久郎氏
―創業の経緯を教えてください。
和田 曾祖父が雛人形を飾る家庭がこれから増えると目をつけ、埼玉県に人形作りの修行に行き、その技術を持ち帰って水戸で創業しました。1890年の創業で、今年で134年目です。私が4代目になります。
2代目の祖父が商才がある人で、販路を伸ばし、全国卸しをスタートしました。ロサンゼルスのリトル東京にまで行って取引するようなバイタリティがある人でした。さらに車のディーラーをやったり、スーパーマーケットをやったりして、人形以外にも事業を拡大しました。
3代目の父は「人形は伝統的なものだが、革新の連続。伝統を守りつつ毎年違うものを出すことを続けてきた」とよく言っています。父の代で雛人形の売上が国内トップクラスになり、その後、時代とともに需要は減ってきましたが、限られた商品数の中でいろんな工夫をしてきて今があります。
男の子のお祝い「水戸黒兜」。
―小さい頃から家業を継がれるつもりだったのでしょうか。
和田 小さい頃から会社が身近にあり、働いている人の活気を感じていいなあと思っていました。ただ、少子化や節句への意識の希薄化で需要が減っていく中、父は私が家業をそのまま継ぐことは望んでいませんでした。東京の大学を出た後は、商社に就職しました。
一方、父も私もアウトドアが好きで「いつかビジネスにできたら」と話していました。すると90年代にアウトドアブームが起こったので、私は商社を辞め、家業の中でアウトドア事業を立ち上げることになったのです。そこから7年くらいはアウトドア事業にかかりっきりで、人形のビジネスに関わったのはそのあとです。
創業当時の祐月本店と働く人々。
―会社として大切にしていることを教えてください。
和田 日本の伝統文化を引き継いでいるという自負があり、需要が減ったからやめようとはまったく思っていません。子どもが生まれて節句のお祝いをするのは、祖父母や親戚など愛情を持ってる人に囲まれる最初の機会です。そういった経験があるからこそ、日本人は非常に民度が高いのではと言われています。節句のお祝いには自己承認力を育てる力があり、我々がそれを商売にできるのは幸せなことだと思っています。
―雛人形を作るにはどれくらいの時間がかかるのでしょうか。
和田 すべて分業なので1年ほどかかります。胴体、顔、道具、用具、台を作る方が、それぞれ全部違う職人さんなのです。
―今回ご紹介させていただく「偕楽園雛」の特徴を教えてください。
和田 日本三名園の一つである水戸の偕楽園はある程度知られています。じつは水戸には弘道館という藩校があり、そこでしっかり学んだ後、偕楽園で緊張を緩めるという役割がありました。徳川斉昭が重んじた一張一弛という思想です。節句の穏やかな空気と偕楽園の役割がぴったり合ったので、名前に付けました。また、偕楽園は梅の名所でもあるので、梅で染めた生地を使ったり、梅の柄を配置したりしています。人形の生地には桜が描かれることが多いので、梅は珍しいです。販売を始めたのは5年ほど前で、今では定番となってきました。
正絹生地を梅の木の枝等を煮出し染め上げた「梅染め」のお雛様。
職人手描きの筒描き金彩の梅が華やかで可愛らしい。
―「水戸黒兜」の特徴を教えてください。
和田 青みがかった水戸黒は、何度も染めて完成させるので手間がかかっています。水戸光圀が好んだ色で、重厚で気品のある兜になりました。長年構想しておりましたが、今年やっと発売になりました。
本物の兜のように鉢の部分に板を一枚一枚重ねて鋲で止めて再現しており、細かい部分も見ていただければと思います。
鎧や兜を飾ることは、武家社会から生まれた風習。
現在は鎧兜が“身体を守る”ものという意味が重視され、
交通事故や病気から大切な子どもを守ってくれるようにという願いも込めて飾る。
―どんな方に商品をご購入いただきたいですか。
和田 お嫁さんの実家から贈るのが慣例ですが、お子さんが生まれたご夫婦が商品を選んで、両家のご両親が購入されることが多いです。
ライフスタイルの変化により、雛人形と兜も年々、サイズが小さくなる傾向がありますが、質のいいものが好まれ、この2つの商品は節句のときだけでなく、お部屋のインテリアとしても飾っていただけます。雛人形は早く片付けないと婚期が遅れるという話がありますが、迷信ですので気にする必要はありません。
―今後の展開、目標をお聞かせください。
和田 昔の節句における願いは現代のものとは多少違う部分もありますが、子供が健やかで幸せな人生を送ってほしいという親の願いは一緒です。節句の行事は家族愛の象徴であってほしいですし、根底に流れる尊い思いが雛人形や兜によって伝わればいいなと思います。
また、我々はお祝いする機会を創出していく「お祝い企業」を目指しています。三月と五月の節句に限らず、人生の節目のお祝いに使えるものを開発し、マーケットを作っていきたい。それが節句文化の継承にもつながっていっていくと考えています。
地域とともに育っていくことも非常に大事です。節句という文化をその土地になじむように広めていく責任があると考えており、あらためて地元である茨城・水戸に目を向けていくことも意識しています。
―貴重なお話をありがとうございました。
「偕楽園雛」
価格:¥161,700(税込)
店名:祐月本店
電話:029-222-1117(9:00~18:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://yugetsu.co.jp/doll/hina-doll/post-4204/
オンラインショップ:https://yugetsu.co.jp/
「水戸黒兜」
価格:¥130,900(税込)
店名:祐月本店
電話:029-222-1117(9:00~18:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://yugetsu.co.jp/doll/may-doll/post-4364/
https://yugetsu.co.jp/doll/may-doll/post-4363/
オンラインショップ:https://yugetsu.co.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
和田幾久郎(株式会社祐月本店 代表取締役)
1967年水戸市生まれ。1991年、大学卒業後、総合商社のトーメンに入社。1994年、実家の創業134年のひな人形製造卸の祐月に入社し、アウトドア事業部を新設しアウトドア用品店「ナムチェバザール」オープン。2001年、アウトドア事業部を分社化し株式会社ナムチェバザール発足、代表取締役に就任。2009年、特定非営利活動法人WaterDoors設立、理事長に就任。2010年、株式会社アクアクララ水戸代表取締役就任。同年、株式会社祐月本店代表取締役就任、現在、水戸商工会議所副会頭、(一社)水戸観光コンベンション協会副会長の公職に就いている。
<文/垣内栄 MC/伊藤マヤ 画像協力/祐月本店>