古代から続く鍛冶の技術を今に伝える堺の庖丁を使えば、料理の味が上がり、キッチンに立つのが楽しくなること間違いなし。料理研究に余念がないアッキーこと坂口明子編集長が注目するのが堺の株式会社和泉利器製作所の庖丁。メディアの料理番組に調理具を提供していることでもおなじみの同社8代目代表の信田尚男氏におすすめの庖丁を取材スタッフがうかがいました。
堺のモノづくり技術を今に伝える庖丁で、料理の味をワンランクアップ!
2024/11/14
堺刀司 株式会社和泉利器製作所 8代目代表の信田尚男氏
堺の庖丁は時代ごとに暮らしの中で使われてきた。
―堺市は庖丁づくりの街として有名です。堺の庖丁の歴史についてご紹介いただけますか。
信田 庖丁の歴史は古く、古墳時代に仁徳天皇陵を築造した際に鋳造技師が堺に集められ住み着いて、農具や刃物を作ったと言われています。その後、室町時代にはたたら製法による玉鋼を使った刀剣や武具づくりが盛んになり、江戸期にはたばこの葉を刻むために堺のタバコ庖丁が人気になったと聞いています。江戸時代には大阪湾から上がる桜鯛をさばくために出刃庖丁が開発され、料理庖丁が全国的に知られるようになりました。時代ごとにいろんな人が堺の庖丁の技術を利用し、生活の中で使っていたと言えるでしょう。
―歴史の重みを感じます。その歴史の中で御社はいつ設立されたのでしょうか。
信田 江戸時代の1805年(文化2年)に庖丁や鋏、調理用具を製造販売する店として創業しました。私で8代目になります。1987年にはプロ仕様の調理器具を一般の主婦の方にも使っていただきたいと、京セラさんと連携してセラミック庖丁を開発するなど技術革新にも努めてきました。
―社長は8代目ということですが最初から会社を継ぐ意思はおありでしたか。
信田 「継げ」とは言われませんでしたね。言われなかったけれども、継ぐのはあたりまえという空気はありました(笑)。私は学生時代、ホテルでアルバイトをしていて卒業後もそのままそのホテルに就職して、レストランでサービスの仕事をしていました。その後、バーで働くなどもしていましたが、20代中ごろになったころ、昼の仕事がしたいかなと思って(笑)、ちょうど家に戻らなくてはと思った時期でもあったので家業を継ぐことにしました。
―いいタイミングだったのですね。御社の庖丁は名だたる料理人の方に評価されているそうですね。
信田 そうです。先々代が代表だった時代ですから、まだテレビが白黒での放映だったころからNHKの料理番組から始まり、料理の名人たちが実際に料理をする様子を紹介する民放の番組、アイドルグループが料理をするビストロという形式で有名になった番組などで庖丁や調理器具を提供していました。
私の代になってからも料理が重要なテーマになっている映画に参加するなどしています。実際に撮影現場で立ち会ったり、時代劇の映画では、たとえば江戸時代にはどのような庖丁が使われていたかなど調理器具の時代考証をする仕事をしたこともあります。
当社の名前を知らない方でも、テレビなどのメディアで当社の製品を目にしていると言えるでしょうね。
―最近の若い世代の傾向はいかがでしょう。
信田 かつては嫁入り道具として結婚するときに出刃庖丁から刺身庖丁、菜切り庖丁などを一式そろえるという習わしがありました。でも最近は庖丁は1本だけ、ご家庭によっては家にある庖丁は果物ナイフ1本だけという方もいらっしゃいます。
しかし、コロナ禍になって家にいる時間が長くなって、ていねいに料理を作ってみようかなと思われる方が増え、良い庖丁をお求めになる方が増えました。
また、料理番組を見てもかつては料理のプロが腕前を披露する番組が多かったように思いますが、最近では、当社も庖丁を提供させていただいていますが、料理初心者の男性タレントさんが料理に挑戦する姿が視聴者の共感を呼ぶなど、料理が身近なものになっています。レシピも素材を生かした簡単なものが人気になっていることもあり、料理をしてみようかなと思う方が増えていると感じています。
いい庖丁は食品の繊維を潰さずに断ち切ることができ、料理の味を格段に上げる。
―いろんな方が料理を気軽に楽しむ時代になったのですね。そんなときはやはり庖丁は大事ですね。
信田 そうですね。テレビでよくトマトを薄切りするシーンなどを見ることがあると思います。トマトの繊維をきれいに切るには、いい庖丁が必要ですね。お刺身も同じです。刺身は切るというより引くと言いますが、いい庖丁だと繊維をきれいに切ることができてお刺身の味が違ってきます。たとえば巻きずしを切るときもいい庖丁ですと米粒を潰さずに切ることができるので、おいしく食べることができます。
―やはり道具は大事ですね。
信田 庖丁だけではありませんよ。すり鉢で胡麻をするときもいいすり鉢を使うと胡麻の風味が立ちますし、おろし金ひとつとってもいいものを使えば快適に料理が進むだけではなく料理の味がおいしくなるので、料理をするのが楽しくなるのではないでしょうか。
地金に鋼を合わせ炉に入れ、たたく。
何度も研ぐことで切れ味を引き出していく。
―御社の庖丁はどのような工程で製造されていますか。
信田 堺の庖丁の特徴は鍛冶、刃付け、柄付けとそれぞれの工程が独立し、各工程で職人さんたちが切磋琢磨しながら1本の庖丁を作り上げることです。鍛冶についてはわずかな温度差を見極め鋼を打ちます。堺の庖丁は念の入れ方が違うと言われています。研ぎでは鍛冶の仕上がりに合わせて研ぎます。研ぎには27以上もの工程があり、いかに研ぐかで庖丁の切れ味が変わってきます。
どの工程も代々にわたって技術を継承してきた職人さんたちの手で行われ、極上の切れ味が引き出されるのです。
使いやすい三徳庖丁「WRM三徳」。ワインレッドの柄がおしゃれ。
―ホームページを拝見するとたくさんの品があり選ぶのに迷います。今回ご紹介いただくのはどんな商品ですか。
信田 まず、どなたにも使いやすい万能庖丁である三徳庖丁の新製品「WRM三徳」をご紹介しましょう。当社では刀身にモリブデン鋼を使っているシリーズがあります。モリブデン鋼を使うと切れ味がよく、その切れ味が持続し、温度の影響を受けにくく不純物が少なくお手入れが簡単な庖丁ができます。この柄が握りやすく、力を入れやすいためどんな料理にも使えるのも特徴です。この「WRM三徳」は刀身のモリブデンのクローム含有量をやや抑えて扱いやすくしています。柄には積層合板を使っていて耐水性、耐久性に優れています。色もワインレッドでおしゃれなデザインで価格も14,300円とお手頃です。
柄と刀身が一体になった「ラ・プレミア三徳」。柄はざらざらしたブラスト仕上げになっていて持ちやすい。
―「ラ・プレミア三徳」もスタイリッシュです。
信田 もうひとつが「ラ・プレミア三徳」です。これは柄と刀身に隙間がないステンレス一層構造なのが特徴です。サビに強く切れ味の良いモリブデン・バナジウム鋼をステンレスで挟み込んだ3層構造になっていて、柄と刀身が一体なので衛生面にも優れています。
刀身に名入れもできる。
―お話をうかがって庖丁にこだわりたくなりました。
信田 今お持ちの庖丁に1本買い足すことをおすすめしたいですね。そのときは先ほどから紹介しているモリブデン鋼を使った切れ味のよい庖丁をお求めいただけたらと思います。
また、これから結婚する方へなど贈り物としてもいいと思います。建物や道路の竣工の際、テープカットをするように〝切る〟は〝新しく切り拓く〟という意味があるので庖丁を送るのはいいお祝いになると思います。当社では庖丁に名前を入れるサービスも行っています。
―今後の御社の目標は何でしょうか。
信田 世の変化に合わせたモノづくりをしていきたいと思っています。今の悩みは職人さんが減ってきているということです。長い歴史を誇る堺の庖丁の技術を後世に伝えるためにも職人さんを増やして頑張っていきたいと思っています。
―本日は有意義なお話をありがとうございました。
「WRM三徳」
価格:¥14,300(税込)
店名:堺刀司オンラインショップ
電話:072-238-0888
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://sakai-tohji.co.jp/collections/category_id-017/products/a-10325
オンラインショップ:https://sakai-tohji.co.jp/
「ラ・プレミア 三徳」
価格:¥26,400(税込)
店名:堺刀司オンラインショップ
電話:072-238-0888
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://sakai-tohji.co.jp/collections/category_id-024/products/a-10926
オンラインショップ:https://sakai-tohji.co.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
信田尚男(堺刀司 株式会社和泉利器製作所 8代目代表)
1970年大阪府堺市生まれ。ホテルニューオータニ大阪宴会サービス部、Bar classical勤務を経て、1995年和泉利器製作所入社。
庖丁製造、企画営業販売業務に携わるとともに、大学、調理師専門学校などで庖丁の歴史、製造、工程。種類などの講義を担当。
また、イタリア・ミラノ万博、食育推進全国大会などでも講義、実演を行った。
堺市技術改善功労者賞受賞。堺刃物協同組合理事を務め、大阪府グッドデザイン証選定にも携わる。
<文/今津朋子 MC/三好彩子 画像協力/和泉利器製作所>