斬新で可愛い「西陣織なごや帯・ルリモンハナバチ」で和服デビュー
2024/11/08
今回編集長アッキーが注目したのは、西陣織のなごや帯。鮮やかな黄色に瑠璃色の蜂の柄が、センスあふれる印象です。この帯を生み出したのは、西陣織の老舗「岡文織物」。普段キモノを着ない人や、西陣織には手が届かないと思っている人にも、高品質で低価格の帯を手に取ってほしいと新たに製作されました。職人の高齢化、人材不足に悩みながらも、伝統を受け継ぎ、より良いモノづくりをしようと奮闘する岡本就介社長に話を聞きました。
岡文織物株式会社 代表取締役社長の岡本就介氏
―333年の歴史を持った老舗でいらっしゃいますね。
岡本 町人文化が花盛りだった元禄時代、1690年の創業です。初代が僧侶の衣服である法衣を織り始め、六文字屋という屋号を名乗ったのが始まりです。六文字は「南無阿弥陀仏」を指しており、法衣専門の織物業でした。明治の廃仏毀釈によって法衣の需要が無くなる可能性があったため、織るものを帯へと変えました。現在では帯はもちろん、キモノ、インテリアやアパレル向けの生地などにも事業を広げています。社会の変化に合わせて、変えるべきところは変え、守るべきところは守ってきました。
創業当時の面影を残す織り機。
―長い間生き残ってきた強みはなんでしょうか。
岡本 「変化を恐れつつも恐れない」という、矛盾しているようでバランスの取れた姿勢でしょうか。法衣から帯へ、僧侶から大衆へ、そして洋服の時代の織物のあり方を、その都度考えながら、技術を核に事業を広めてきたことが良かったのだと思います。
たとえばバブル経済で皆が浮かれていた時にも、当社は本業をおろそかにしませんでした。株や不動産で本業の何倍も稼げてしまう時代でしたから、本業そっちのけで投資にかまけた企業も多かったと思います。しかし当社は織物業をけっして疎かにしませんでした。
必要な変化か、してはダメな変化なのかの判断は難しいです。それでも最善の選択を続けることで生き残ってきたのだと思います。経営者は臆病であるべきですが、何もしないというのはダメですよね。
本社・ショールームは、築112年の京町家・榎邸。
―社長は昔から家業を継ぐ意思があったんですか。
岡本 全くありませんでした。次男だったこともあり、学生時代から洋服が大好きだったので東京のアパレル企業に就職しました。どんどん新しい商品が出て、どんどん売れて、楽しい仕事でした。バブル時代前夜で、皆の羽振りも良かったのだと思います。しかし、仕事を続ける中で矛盾を感じるようになります。流行を作る側に回りたいと思い入ったアパレル業界でしたが、翌年のトレンドは、ここではないどこかで決まって行く。流行を作るのではなく追っているだけなのです。さらに洋服というのは、誤解を恐れずに言えば“どうやって去年のものを着られなくするか”という世界なんですよね。業界の本質に虚しさを感じることも増えていきました。
そんな折に、当時社長であった私の父が、西陣織とは別にもう一本の事業の柱を作るために私を呼び戻しました。私が企画したのは商品をソファだけに特化した、輸入ソファの専門店です。当初順調に滑り出した事業でしたが、バブルの崩壊とともにピタリと注文が止まり、やる事が無くなった私はそれまで全く興味が無かった帯の営業に走り回ることになりました。
―改めて家業に戻られて、どう感じましたか。
岡本 キモノに興味を持てないまま、ただ商材とみなして帯の営業をしていましたが、全国の小売店へ出張して直接お客様と接するようになって、いっぺんにキモノが好きになりました。キモノを着たお客様の表情がぱっと明るくなり、鏡の中のご自身の姿に見惚れ、自信と喜びが溢れてくる。そんな体験を繰り返してどんどん和服の魅力にはまっていきました。
こだわりにあふれた和服の魅力を伝えたい。
―西陣織の伝統を受け継いでいく中で、担い手不足が深刻だと聞きました。
岡本 西陣織は分業制で成り立っています。各々の技術に熟達した職人によって、レベルの高いものが早く作れるという利点があるんですね。下絵を描く職人、糸を染める職人、織物をする職人、織り機を調整する職人などなど、数十種近い職種の人が関わり合っています。
しかし、どの伝統工芸でもそうだと思うんですが、職人さんが高齢化し、人材不足が大きな問題になっています。70代以上が多く、私なんて若手だと言われます(笑)。体調を崩す方も多く、過去には3人の織り職人さんがほぼ同時に手術されることになり困り果てたこともありました。
―職人の高齢化や人材不足による問題を、どう乗り越えようとしていますか。
岡本 当社では自社内に職人を抱え、自社一貫でスピーディーに製造できる体制を整えてきました。もちろん、工程は多岐に渡るので全てではないのですが、意思の疎通もしやすくなり、安定してモノづくりがしやすい環境を整えています。
また古い力織機はメンテナンスが大変で、そのための職人を必要としていましたが、壊れにくく、メンテナンスがほとんど不要なヨーロッパ製の織機を導入し、安定した生産を目指しています。
全て手作りで織る「手機」に関しては、やりたいという若手も多いんですよ。学校などで織物を学んできたアーティスト気質の人は、全て自分で仕上げたい気持ちが強いので。そこで当社にも70代の名人と言われる職人を招き、今後は採用した若手の指導をお願いしていきたいと考えています。
新しい感覚を持った若手職人の育成にも尽力。
―伝統を守りながら新しい感覚を取り入れた商品も素敵ですね。
岡本 店舗設計やプロダクトデザインなどをしている女性デザイナーを迎えて「ROKU -六-」というブランドを立ち上げました。そもそも和服や帯などのデザイナーは男性が多いのですが、顧客は圧倒的に女性が多い。性別だけで考える訳ではありませんが、女性が使うものを男性が考えるのには、難しい部分があると思うのは当然ではないでしょうか。また、若い世代にも和服の魅力を知ってもらうには、ターゲットに比較的近い世代の起用が起爆剤になると考えました。そこで生まれた一つの商品が、ルリモンハナバチの帯です。
サステナブルにも配慮した新ブランド。
―ルリモンハナバチのなごや帯について教えてください。
岡本 ルリモンハナバチは、名前の通り鮮やかな瑠璃色の体の蜂です。絶滅危惧種を取りまとめた京都府のレッドデータブックにも掲載されており、その希少性から“見つけると幸せが訪れる”とも言われています。これほど美しいのに、もしかしたら無くなってしまうかもしれないという点では、西陣織も同じですね。日本でも最大級の規模を持つ伝統工芸の西陣織でさえ存続の危機が危ぶまれています。こうしたメッセージを込めて、この蜂をデザインしました。
鮮やかな色とモダンな柄が絶妙な組み合わせ。
和服の世界には伝統柄があり、色合わせにも定石があります。着物デザイナーはここから発想するのですが、今回のデザイナーはそうした前提を取っ払った柔軟な発想でデザインしてくれました。強烈な黄色の色出しにもこだわって、何度もやり直したくらいです。
同柄のブルーはシックな雰囲気。
この斬新なデザインで、今まで着物に興味がなかった方や、西陣織には手が届かなかった方にも帯を手にしてもらおうと、商流を直販に絞って価格を抑えました。ただし、品質に一切の妥協はしていません。天然繊維にこだわり、着物に詳しい人が見ても良いものだと言っていただける自信作です。手が届くエレガンスをうたっています。
―天然素材へのこだわりなど、サステナブルも意識しているんですね。
岡本 天然繊維はもちろん、再生ポリエステルも採用し、土に還るポリエステルの開発・導入も進めています。染料についても環境負荷の少ないものを選び抜いて使っています。世界の高級ブランドも、オーガニックシルクなど環境に配慮した繊維を使うのがマストになっていますから、もはやサステナブルな意識なしに事業は進めていけませんよね。
そもそも和服はSDGsな服なんですよ。染め替えをしたり、仕立て直したりして長く着ることができますし、着られなくなったらお手玉を作るまで使い倒します。
―環境に配慮して、余り布を活用して小物入れを作ったとお聞きしました。
岡本 実は帯の製造工程では余分は出ないのですが、試し織りをするので、それを活用しました。六角形の小物入れはひねるようにして開くと、結構大きいものもしまえます。アクセサリーケースにぴったりだと思います。見る角度によって虹色に光るダイヤ銀の布なども使っています。和装に縁がない方でも普段使いできるアイテムです。
―今後の展望を教えてください。
岡本 とにかく若い人に来てもらって、西陣織の伝統を繋いでいくことが自分の任務だと思っています。でも、先細りで稼ぐこともできない業界だと思われてしまうと、誰も魅力を感じないと思うんですよ。素晴らしい技術と積み重ねた伝統と新しい息吹がある、西陣織の魅力を世界に打ち出して、新たな世代が夢を持てる業界にしていきたいですね。
―貴重なお話をありがとうございました!
【BEE】西陣織なごや帯「ルリモンハナバチ」(イエロー・柄大)
価格:¥99,000(税込)
店名:ROKUMONJIYA ONLINE STORE
電話:075-411-9800(月〜金曜日 10:00〜16:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:【BEE】西陣織なごや帯「ルリモンハナバチ」イエロー・柄大
オンラインショップ:https://rokumonjiya.shop
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
岡本就介(岡文織物株式会社 代表取締役社長)
1963年京都府生まれ。同志社大学を卒業後、株式会社メンズビギに勤務。1988年に家業である岡文織物に入社。2021年に代表取締役社長に就任し元禄3年より続く「六文字屋半兵衛」14代目を受け継ぐ。西陣織の伝統を守りつつ、その技術とセンスを広く知らしめるべく呉服以外の製品にも挑戦。世界市場も視野に入れている。
<文・撮影/鈴木満優子 MC/石井みなみ 画像協力/岡文織物>