
繊維の街・大阪から発信される伝統的テキスタイル・河内木綿の魅力
2025/03/19
アッキーこと坂口明子編集長が一目見て魅了されたのが、ストールや布で展開されている河内木綿(かわちもめん)の商品。江戸時代、大阪河内地方で一世を風靡した和のテキスタイルは400年の歴史を持ちながら現代にも通用するモダンなデザインが特徴です。河内木綿の魅力にひかれ、復刻された河内木綿商品を自社で製造している松尾捺染株式会社 代表取締役 松尾治氏にスタッフがお話をうかがいました。

松尾捺染株式会社 代表取締役 松尾治氏
―御社は創業してそろそろ100年になりますね。
松尾 当社は1926年に木版彫刻の職人だった祖父の治三郎が「松尾盛進堂」を大阪・船場で創業しました。2代目の父の正男が松尾捺染(まつおなっせん)を立ち上げ、業界に先駆けてフラットスクリーン捺染機、インクジェットプリンターなど最新のプリント設備を導入し、生地の加工を一貫して実施できる体制を構築しました。私が3代目ですが、シルクスクリーンによるハンカチーフ、スカーフの染色などを手掛けるほか、オリジナルテキスタイルの開発、アパレルテキスタイルなどのプリント加工事業を行っています。

ロータリースクリーンによるプリント工程。
―松尾社長の経歴がユニークです。
松尾 そうですね。自分でも面白いと思いますよ(笑)。私は高校卒業後に、当社の取引先があったドイツに留学しました。父から「行くからには腰を据えていっておいで。お金の心配はいらないから」とありがたい言葉を頂戴しました。まずミュンヘン(ドイツ)で5か月間ドイツ語を勉強してからバーゼル(スイス)で3か月の研修を受けました。終了後、ドイツの薬品会社・バイエルで研修を受けようとしたのですが、取引先から学校に入学するのはどうかとアドバイスをいただいたので、ドイツのロイトリンゲン繊維工科大学に入学して繊維化学の勉強をしました。父としては後継ぎの私が繊維を勉強してくれるのは大変喜ばしいことだったのでしょう、そのまま6年いて、1974年にディプローム(修士学位)を取得しました。父は帰国を希望していましたが、私は帰国するのは嫌だと言いまして(笑)、1年間、学生の身分を確保するためにドイツ文学を学ぶコースに在籍しました。その間に通訳のお仕事をしたり旅行をしたりとほとんど学校に行かずに遊んでいました。
―自由を謳歌したのですね。
松尾 20歳のときに知り合った今の家内と23歳で結婚しました。当時は70年安保(日米安保条約の自動延長を阻止しようとする運動)の頃で、日本ではほとんどの大学が学園紛争によって休校になっていました。日本の大学でドイツ文学を専攻していた家内は通学できないならと友だちを誘ってドイツに留学し、そこで私と知り合ったというわけです。もう結婚して51年になります。私は19歳から26歳までドイツにいたことになりますね。今では考えられないおおらかな時代で、1968年、国境を超えるときにパスポートを忘れたのですが大学の学生証を見せたら通してくれましたからね。いろいろな経験をさせていただいていい時代でした。

松尾捺染株式会社では洋裁、手芸用など様々なプリント生地を手掛けている。
―その後帰国して36歳のときに後を継がれたのですね。
松尾 帰国後も海外のテキスタイルを取り入れるために、年に一度は技術部長など社員を連れてヨーロッパを訪れていました。パリから車でデュッセルドルフ、南下してミラノを経由してパリに戻るなどの行程で、地方にある工場を訪ね、プリントの技術を見学するなどして勉強しました。
2000年代以降、ハンカチーフがミニタオルに取って替わられるようになりました。1990年代までは日本のプリントのハンカチの半分ほどは当社で加工していたと言っても過言ではない状態でしたが、そのシェアが少なくなりました。私はそれが見えていましたので、1995年ごろからアパレルの営業に力を入れるようにしていました。有名子ども服メーカーや日本のデザイナーズブランドの仕事、またいわゆる裏原宿系のファッションブランドとも仕事をするようになりました。パリコレクションや、デザイナーのワールドツアーでの作品のお手伝いもさせていただきました。
その後、プリント生地の受託生産事業を中心とした体制を再構築するとともに、自社企画商品事業に挑戦してオリジナルテキスタイル事業を立ち上げました。ヨーロッパの古典柄をベースにカラフルでおしゃれなデザインを開発し、百貨店の催事などで展開し、カルトナージュなどを作る手芸作家さんや手芸愛好家のみなさんの支持を得るようになりました。オンラインでの受注のしくみも作り、お客様のニーズに応えています。

河内木綿は最初、植物柄文様、鶴亀など縁起物の文様が中心だった。これは植物を模した文様。
―素敵ですね。今回、ご紹介くださる河内木綿を手掛けられたきっかけは?
松尾 2010年に大阪府が旗振り役となって大阪の繊維・ファッション産業に従事する人々が、新生を願い、交流する場として「せんば適塾」を作りました。繊維業が盛んな街・大阪をもっと盛り上げようという主旨です。私は2年目から参加したのですが、大阪府から八尾市に「河内木綿」を復刻している団体があるのでサポートしてくれないかというお話をいただきました。それがNPO法人「河内木綿藍染保存会」との出会いでした。
―河内木綿はどのような染物ですか。
松尾 大阪の河内地域では江戸時代の初めにはすでにかなりの規模で木綿栽培が始まっていたようで、江戸時代を通して木綿生産が盛んになり評判が高かったそうです。それに従って八尾や久宝寺などの周辺の村では木綿を扱う商人も増えていったと記録にあります。明治時代になると外国から綿や糸が大量に輸入されるようになり明治30年代には農業としての河内木綿の生産は終わりました。

河内木綿は長い歴史を持ちながら現代的でもある文様が特徴。
―文様は今見てもモダンですね。
松尾 河内木綿の特徴は明るくてゆったりしていて力強いと表現されます。おおらかで快活な河内の人々の人柄そのものでしょうか。初期は身近な菊、草花、鶴亀文様が中心でしたが、朝顔の栽培が流行れば朝顔、江戸幕府終焉とともにそれまで使用が許されていなかった葵文様、また有職文様などが使われるなど変化しています。
―NPO法人「河内木綿藍染保存会」初代理事長の村西徳子さんが河内木綿を復刻したのですね。
松尾 河内木綿の研究家の辻合喜代太郎博士に師事した村西徳子さんが文様の勉強を始め、同好の士とともに復元活動に取り組みました。「藍工房村西」を作り、多くの後継者を育てました。2001年にはNPO法人「河内木綿藍染保存会」を設立しました。現在、90余名の会員がいます。
―それで松尾捺染さんが河内木綿の製造をしているのですね。
松尾 村西徳子さんが初代理事長を務めている「河内木綿藍染保存会」の製造権を松尾捺染が持って作らせていただいています。実は私の母は南河内の出身なのです。村西さんと話していると母と言葉のイントネーションがそっくりで、まるで今は亡き母親と話している気がして何を言われてもノーと言えません(笑)。親孝行のつもりでサポートさせていただいています。

「とうふこし布ストール」。柔らかく肌に寄り添うような涼やかな風合い。河内木綿は藍染めなので同じ藍染めであるデニムにも合う。
―今回、紹介くださるのは3アイテムです。まず、ストールですがこの特徴は?
松尾 この生地は実はお豆腐を漉す布なんですね。日本で3社ぐらいしか作っていない珍しい布でとてもきれいな布です。お豆腐を漉す目的でしか使わない布でストールを作っちゃうというのが楽しいと思います(笑)。織が密ではなく打ち込み本数を少なくして生地が抜けるようにしてあります。

「吉」の字を文様にした縁起のよい文様のオックス生地(綿100%生地巾114㎝。10㎝単位でカット販売可)。
―雑貨を作るオックス生地の特徴は?
松尾 オックス生地は、太い糸で織られていてやや厚手なのが特徴です。丈夫で劣化しにくく手芸などによく使われます。

布巾、手ぬぐい、ストールなどいろいろな用途に使える「さらしふきん」生地。
(綿100%生地巾34㎝。50㎝以上10㎝単位でカット販売可)。
―最後は35㎝幅の布の「さらしふきん」です。
松尾 日本手ぬぐい用のさらし生地です。50㎝切って布巾にも使えますし、90㎝長さに切れば日本手ぬぐいとしても使えます。また、150㎝長さに切ってストールなどのネックウェアとしても使えるなど、自由自在にいろいろな用途で使えます。
―これらの布地を製造するときはどのような工夫をされましたか。
松尾 天然の藍を使っているわけではなく化学染料を使っていますが、一度染めない部分を糊で固めてその後、裏表をハケで紺色に塗って蒸して洗うと伏糊の部分が白く残るという手法です。できるだけもともとの手法に近い形で染めようとしています。布地は大阪の泉南地域で織っています。織物も大阪の地場産業で、村西先生に織り屋さんを紹介していただきました。
―大阪の地場産業の集大成のような商品ですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

「河内木綿藍染 とうふこし布ストール(綿100% 40×155㎝)」
価格:¥8,800(税込)
店名:松尾捺染生地通販サイト
電話:06-6782-6281
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://item.rakuten.co.jp/nassen/8298-tos/
オンラインショップ:https://item.rakuten.co.jp/nassen/c/0000000444/

「河内木綿藍染 オックス(綿100% 生地巾114㎝)」
価格:¥242/m ※50cm以上10㎝単位でカット可
店名: 松尾捺染生地通販サイト
電話:06-6782-6281
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://item.rakuten.co.jp/nassen/7613-nb/
オンラインショップ:https://item.rakuten.co.jp/nassen/c/0000000444/

「さらしふきん(綿100% 生地巾34㎝)」
価格:¥132/m ※50cm以上10㎝単位でカット可
店名:松尾捺染生地通販サイト
電話:06-6782-6281
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://item.rakuten.co.jp/nassen/fuk7169/
オンラインショップ:https://item.rakuten.co.jp/nassen/c/0000000444/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
松尾 治(松尾捺染株式会社 代表取締役)
1949年大阪府生まれ。1967年松尾捺染株式会社入社。1968年より欧州に渡り、スイスの化学薬品会社での研修を経て、ドイツの繊維大学に入学。1974年2月Diplom Ingenieur (FH)を取得し卒業。1975年3月に帰国し、再入社。1985年先代社長の死去に伴い3代目代表取締役に就任。現在、東大阪商工会議所常議員、東大阪西ロータリークラブ会員として活動。
<文・撮影/今津朋子 MC/藤井ちあき 画像協力/松尾捺染>