心穏やかに、紅茶の抹茶を点ててたしなむという、ありそうでなかった新発想の「紅抹茶」が注目を集めています。ただ紅茶を挽くのではなく、碾茶(てんちゃ)を石臼で挽くという抹茶のセオリーを守っているからこその香りと泡立ち。開発までの道のりと味わいはいかに……。
斬新な発想、紅茶の抹茶で香り豊かなティータイム「紅抹茶(あかまっちゃ)」
2022/04/27
缶を開け内袋の封を開いたときは、ほんのかすかに紅茶が香る程度。温めた茶碗に茶杓一杯の紅抹茶を入れ、お湯を注いだその瞬間、芳醇な香りがぶわーっと広がります。
嫌味のないふくよかな香りで、従来の紅茶と別物であることは歴然。茶筅で点てると、瞬く間にクリーミーなフワフワな泡が立ちます。おそらく、お点前の上手下手は問われません。
緑色の抹茶と同じように点てていただくのが基本。
目を閉じていただく一口目。濃厚な味わいは緑色の抹茶さながら、苦味とうま味のバランスが良く、ほのかに甘みも感じます。
しかし鼻から抜けるのはリッチな紅茶の香りで、なんとも不思議な感覚。和の甘味にも、濃厚な洋菓子にも合いそうです。
日本の伝統文化と融合してるからか、新感覚ながらどこか懐かしさも。
斬新な発想で新感覚のお茶文化を生み出したのは、荒茶生産量全国第4位という宮崎県※の茶葉メーカー、薩摩園 鎌田茶業株式会社です。
1976年創業で、炭火仕上茶を筆頭に緑茶一筋だった同社。2019年に、国産茶葉を使用した和紅茶の製造販売に着手し、すっかり魅了されたことがきっかけとなりました。
豊かな香り、美しい琥珀色、えぐみや渋みのない透き通った味……原料を同じくしながら、緑茶とは全く嗜好の異なる和紅茶を、抹茶の文化と融合させようと、紅茶の抹茶の製造に乗り出したのです。
※農林水産省発表・2021年実績
国産茶葉を使った和紅茶は、エグ味や渋みのない独特な味わい。
しかし、緑茶、抹茶、和紅茶製造の技術や実績を持ち合わせながら、紅抹茶の製造は簡単ではなかったそう。
抹茶の大まかな製造工程は、被覆して栽培した茶葉を蒸し、揉まずに乾燥させた「碾茶」を挽くという流れ。「抹茶」を名乗るからには、まずは和紅茶の碾茶を作る必要がありました。
しかしどんなに調べても紅茶を抹茶にする資料は見当たらず、試行錯誤の連続。茶葉の生育環境や摘採のタイミングから見直し、発酵や乾燥工程の工夫、選別、粉砕、焙煎方法など、3年がかりで確立しました。
紅茶の碾茶を石臼で丁寧に挽いてできる紅抹茶。
世界初の紅抹茶として胸を張れる品質に仕上がったものの、まったく新しい商品がどの程度認知され受け入れられるのかが未知だったため、クラウドファンディングでの受注生産からスタート。
すると、385人の支援者から、目標額の1487%が集まったのです。満を持して、2021年夏より一般発売となりました。
茶筅と茶筅立て(くせ直し)とセットになった商品(¥4,454)もある。
新しいお茶の世界を拓いた紅抹茶。雑味のない味と豊かな香りで、甘味や乳製品との相性が良いのも特徴のひとつです。
温めた牛乳と合わせた紅抹茶ラテや、紅抹茶ガトーショコラや紅抹茶シフォンケーキといった洋菓子にもアレンジが可能。
2022年春には、全国展開するブーランジェリーから、紅抹茶のバゲットや紅抹茶パン・メロンなどのコラボ商品も発売されました。安らぎの一服はもちろんのこと、心豊かなお茶時間のお供に活躍してくれそうです。
泡立てたミルクと合わせて
カフェオレボウルでいただくもよし。
粒子が細かいのでスイーツの材料としても使いやすい。
<文・撮影/植松由紀子 画像協力/薩摩園 鎌田茶業>