太平洋に面し、風光明媚な海山に恵まれた千葉県いすみ市。その中央部に位置する大原漁港は、水揚げ種類が豊富なことで知られています。その大原で「旨い干物を作り続けている”がんこおやじ”がいる」と聞きつけた、編集長アッキー。おいしい干物に出会うべく取材陣がお話をうかがいました。
素材、味、加工にこだわり抜いた がんこおやじの「板付きとろほっけ開き」 「大原産 板ふぐ一夜干し」「たこのやわらか煮」
2022/07/26
株式会社山尾食品 代表取締役社長の山口栄治氏
―山口社長は、なぜ「がんこおやじ」と呼ばれているのですか?
山口 ははは。「がんこおやじ」というのは弊社の直営店の名前です。正式には「匠のひもの魚匠 がんこおやじ」といいます。なぜ、がんこおやじなのか説明するために、まずは直営店の話をしましょう。私は、全国のみなさんに本当においしい干物を食べていただきたいので、「これなら間違いなし」と自信を持っておすすめできるものしか、商品にしません。ですから、ちょっと傷があるだけでも私にとってはB級品なんですね。
―つまり、こだわればこだわるほど、B級品が出てしまうと?
山口 そうです。でも、それを捨ててしまうのはもったいない。B級と言えど味は特級です。ならばこれを、リーズナブルな価格でお客様にご提供しようと、平成21(2009)年に直営店をオープンしたのです。素材選び、味付け、加工とすべてにがんこにこだわり、しかも、がんこにこだわってベストな商品を作り、だからこそB級品が出るのだ、という意味の「がんこ」、そして、見てのとおり私が「おやじ」だから、店の名前を「がんこおやじ」としたわけです。
「匠のひもの 魚匠がんこおやじ」の外観。
ほっけをはじめ、あじ、さば、鮭など脂の乗った絶品干物が揃っています。
―なるほど!大正5年の創業以来、110年余りも干物作りにこだわっていらっしゃるのですね。
山口 私の親父が創業してからしばらくは、煮干しを作っていました。ところが、だんだん煮干しにするいわしが獲れなくなって、さあこれからどうするかと考えていた頃、さんまが大豊漁で大原にもたくさん揚がったんです。私が入社して10年、昭和53(1978)年のことです。大量のさんまを前にして「これを開いたらいいんじゃないか」と。でも、親父もお袋も私も干物を作ったことがない。3人でいろいろなところへ見学に行き、それこそ見よう見まねで始め、今に至ります。
―それが今や、干物界を代表する存在に。看板商品は「ほっけ」だとうかがいました。
山口 さんまも徐々に獲れなくなりましてね。それで、さんまに代わってほっけを扱うようになったのです。平成2(1990)年にアメリカからいい縞ほっけが届いて、先代が「これでいこう」と。当時、北海道では、少なくなった真ほっけに代わって縞ほっけを加工していたのですが、本土で縞ほっけを加工したのは弊社が初めてです。
山口社長おすすめの「板付きとろほっけ開き」
「大原産 板ふぐ一夜干し」「たこのやわらか煮」
―ほかに山口社長のおすすめは、ふぐの一夜干しとたこのやわらか煮ですね。
山口 ふぐは、大原産のシロサバフグです。ふぐの加工には免許が必要で、弊社では工場長が免許を持っているからこそできる一夜干しです。たこのやわらか煮も、大原産の真だこを使っています。大原のたこは日本でいちばんというくらい大きいんです。小さくて2kg、大きいものになると4kgぐらいでしょうか。この、たこのやわらか煮は、思いがけず生まれた商品なんです。ある日、市場で思うような魚が手に入らなくて、代わりにたこを買って帰ったんです。親父はたこが大好きなので、お袋に煮てもらおうと。その晩に食卓にたこの煮付けが出たんですが、お袋はうっかり鍋にたこを1匹忘れていたんですね。それが一夜明けたら、ものすごくやわらかくなっていて。たこをやわらかく煮るのは邪道だと考える人もいるでしょうが、やわらかければご高齢の方や、小さな子どもさんにも食べていただける。そう考えて商品化し、直営店で販売するようになりました。おかげさまで、「今まで食べたことがないくらいやわらかい」とご好評いただいています。
「ふぐ一夜干し」は、焼くと身がプリッとして美味!
焼いた身をほぐし、きゅうりと三杯酢で合わせて。
スキッとした酢の味で、ふぐの旨みがより引き立ちます。
「たこのやわらか煮」は冷蔵庫で解凍し、そのまま器に。
やわらかくて、ついつい食べすぎてしまいそう。
「たこのやわらか煮」を汁ごと入れて炊き込みご飯にしても。
ふわんと、甘いいい香り。
たこのだしがごはんにしみこんで、しみじみおいしい。
とてもおいしいです。文句ありません!
―干物を作るにあたって、どのような点に「がんこ」にこだわっているのですか?
山口 まずは素材です。ほっけでもさばでも、もっともおいしい旬の時期に現地で買付けをして、その中から鮮度のいいもの、脂が乗っているもの、そして姿形がよいものだけを選びます。そしてそれを新鮮なうちに職人の熟練の技と冷風乾燥機で干物にし、最新技術の密着型真空機で旨みをぎゅっと閉じ込める。これによって、生臭みやパサつきのない、ふっくら脂の乗った美味しい干物ができるのです。
―魚をただ干すだけでなく、ほんのり味つけもしているんですね。
山口 そうです。その魚の本来の味をより引き出すために、ミネラル分たっぷりの赤穂の塩と昆布だし、純米酒などを使って味つけをしています。
大きいので2つに切ってから焼いた「とろほっけ」。
身に脂が乗っていて、ふっくら。
―商品をすべて冷凍にしているのには、何か理由があるのでしょうか。
山口 魚の旨さを冷凍にして閉じ込めてあるわけですが、スーパーなどでそれを解凍して常温の状態で売っていると、お客さんはそれを買って帰って冷蔵庫に入れるでしょう?冷凍庫に入れる人もいるかもしれません。そして、それを食べるときに解凍する。つまり、2回解凍することになるわけです。一度解凍したものを再度、冷凍して解凍すると、味がガクンと落ちます。まったくおいしくなくなってしまうんです。ですから、弊社では直営店でもオンラインショップでも冷凍のものを販売し、スーパーさんなどにもなるべく冷凍での販売をお願いしています。
―「板付」も大きな特徴ですね。
山口 ただ袋に入れているだけだと、保存中に干物が型崩れしてしまいます。姿形もおいしさの一つですから、弊社では板トレーを独自に開発し干物をしっかり受け止め、さらに真空包装しています。板は発泡スチロール製ですが、しっかりしているのでこの上で魚が切れます。まな板を汚さないですむと、好評なんですよ。
干物をトレイに乗せ、上からラップをかけて真空密閉。
ラップは板の四隅、どこからでも指えつまんでラクラクはがせます。
板が硬いので、まな板代わりに。
まな板に魚のにおいがつかないのがうれしい。
―消費者、それも台所に立つ人が料理しやすいように、そして誰もがおいしく、食べやすいようにと考えて、いろいろな工夫をなさっているのですね。
山口 おいしい干物を、ひとりでも多くの人に召し上がっていただきたい。ただその一心でやっているだけです。私のモットーは、「人を裏切らない商品を作る」。見かけ倒しだったり、ブランド魚だけどおいしくない、というものは絶対に商品にしません。たとえば、さばで言うと豊後水道で獲れる関さばと三陸の金華さばが2大ブランドで、たしかに味がいい。弊社は長く金華さばを扱っていたのですが、近年漁獲量が少なくなってきていて、とくに昨年、今年はまったくダメ。獲れたとしても、ものがあまりよくありません。おそらく、地球温暖化によって三陸沖の海水温が上昇していることが原因でしょう。ならばと私は金華さばの干物をやめ、その代わりに韓国の済州島近くで獲れるアジを扱うようになりました。これが大きくて立派で、味もすばらしいんですよ。
―貴重なお話を、ありがとうございました。とくに「人を裏切らない商品」という言葉、とても心に響きました。
山口 そうですか、うれしいです。3年前から大原漁港では毎週日曜日に「港の朝市」を開いていて、新鮮な海産物、加工品、地元産のとれたて野菜がたくさん並びます。新型コロナの影響でなかなか思うように開催できない時もありますが、落ち着いたらぜひ、いらしてください。私も売り場に立っています。
―おいしい干物と山口社長にお目にかかれる日を心待ちにしています!本日はお時間をいただき、ありがとうございました!
※最新情報はInstagram(https://www.instagram.com/uosho_gankooyaji/?hl=ja)をチェック。
「板付きとろほっけ開き」
▶価格 ¥650(税込)
▶店名 匠のひもの魚匠がんこおやじ
▶電話 0470-64-0823(9:00~17:00)※営業時間が変更になる場合がある為、
▶定休日 火曜日(火・水連休の場合あり ※インターネットでの注文は24時間365日受付)
▶商品URL https://uosho.shop-pro.jp/?pid=59126485
▶オンラインショップ https://uosho.shop-pro.jp
「大原産 板ふぐ一夜干し」
(サイズにより枚数が変わります)
▶価格 ¥620(税込)
▶店名 匠のひもの魚匠がんこおやじ
▶電話 0470-64-0823(9:00~17:00)※営業時間が変更になる場合がある為、
▶定休日 火曜日(火・水連休の場合あり ※インターネットでの注文は24時間365日受付)
▶商品URL https://uosho.shop-pro.jp/?pid=149576010
▶オンラインショップ https://uosho.shop-pro.jp
「たこのやわらか煮 100g」
▶価格 ¥500(税込)
▶店名 匠のひもの魚匠がんこおやじ
▶電話 0470-64-0823(9:00~17:00)※営業時間が変更になる場合がある為、
▶定休日 火曜日(火・水連休の場合あり ※インターネットでの注文は24時間365日受付)
▶商品URL https://uosho.shop-pro.jp/?pid=59182520
▶オンラインショップ https://uosho.shop-pro.jp
<Guest’s profile>
山口栄治氏(株式会社山尾食品 代表取締役社長)
1950年千葉県生まれ。大正5年に創業した家業の3代目として、1995年に同社代表取締役社長に就任。2009年には直売所がんこおやじを開店。
<文・写真/鈴木裕子 MC/隅倉さくら 画像協力/山尾食品>