甘さと塩味のバランスがなんともおいしい「塩大福」。さらに生クリームが加わった「クリーム大福」は、今や人気デザートの定番になりました。今回、アッキーが見つけたおいしいお取り寄せは、菓輪舎の「東京クリーム大福 天と塩」。代表取締役社長の松下智子氏に、開発エピソードや、商品づくりへのこだわりを、取材陣がお聞きしました。
ふんわりとろけるような柔らかさ、まろやかな塩味と甘味のハーモニー。 菓輪舎「東京クリーム大福 天と塩」のファンが増え続ける理由
2022/06/28
株式会社菓輪舎 代表取締役社長の松下智子氏
―会社の沿革を教えてください。
松下 今年の7月で、創業から10年になります。もともと私は、福岡で直営店を持っているお菓子の製造会社で、営業の仕事をしていました。その会社が営業所を東京に作るということで赴任したのですが、途中で事業を縮小することになり、東京の事務所も閉じることになったんです。そうすると、今まで開発してきた商品が扱えなくなったり、取引先、仕入先などとの関係もなくなったりしてしまいます。「ぜひ続けていきたい」という思いがあったので、その事業を会社から譲ってもらい、今の会社を立ち上げました。
「東京クリーム大福 天と塩」は菓輪舎を立ち上げた当時に作った商品なので、もうすぐ販売から10年になります。ネット通販のほか、サービスエリアなど東京のお土産を扱っているお店と、生協の宅配サービスで販売をしています。大福以外に、冷凍のケーキなども扱っています。
―お菓子の仕事に携わるようになったきっかけは。
松下 前の会社には、最初はアルバイトで入りました。どんな会社かも知らずに事務の仕事に応募して、たまたま受かったのがその会社でした。でも、働くうちに「お菓子って奥が深いな」と感じるようになり、そのまま正社員になりました。正社員になったことでお菓子の開発に携わるようになり、さらにやりがいを感じるようになってきたのです。お菓子って、食べる人を喜ばせたり、笑顔にする力があるものですよね。そして、ハレの日とか、楽しい場に出てくるものです。そういう現場に携われるのは、すごく素敵なことだなと思ったんです。その思いは、最初からずっと変わっていません。今は、自分が開発した商品がお客様に支持されることが嬉しいですね。
―「菓輪舎」という名前の由来について教えてください。
松下 「菓」は菓子の菓、「輪」はお菓子を通して人と人とのつながり、コミュニティを広げられたらという思いがあります。「舎」は学び舎の意味で、お菓子を通して自分も社員たちも会社も、ともに成長していきたいという気持ちがあります。
「東京クリーム大福 天と塩」。冷凍で届くので、できたての味が楽しめる。
―ヒット商品の「東京クリーム大福 天と塩」はどのように誕生したのですか。
松下 東京のお土産品として販売できる商品の開発にあたって、やっぱり地元、東京で採れたものを使いたいと思っていました。でも、東京産で有名な農産物とか名産品って、多くはありません。しかもある程度の量を販売するので、安定して仕入れられるものでないといけません。一生懸命探したけれど、なかなか見つかりませんでした。どうしようかなと思っていたとき、たまたま塩の専門店に立ち寄って、伊豆大島の伝統的な塩である「海の精」を見つけたんです。海水を汲み上げて作っている「海塩」ということで興味を持ち、その場で購入して料理に使ってみました。そうしたら、塩でしか味付けしていないのに、驚くほどおいしかったんです。普段通りの目玉焼きでも、この塩に替えるだけでランクアップしたので、衝撃を受けました。まろやかなだけでなく苦みもあるんですが、料理に入れるとそれがちょうどよくなって、とてもおいしいものに仕上がるんです。「これを商品に使ったらどうなるんだろう」と思ったのが、始まりです。
でも、塩を使うお菓子って少ないですよね。「塩を入れておいしいものって何かな」と考えて、塩豆大福が思い浮かんだんです。この「海の精」をあんこに入れてみたところ、絶妙にマッチして、奥行きのあるおいしさになりました。クリームと合わせることで、さらに魅力のあるデザートにできると考えました。そのほかの原料も国産にこだわっています。小豆は十勝産で、エンドウ豆は北海道産、抹茶は宇治抹茶。もち米は九州産100%です。日本のおいしいものを、日本の人だけでなく、海外の人にも食べてほしい、もっと知ってほしいという思いをこめました。商品名に「東京」が入っているのは、「東京土産を作りたい」というこだわりがあったからです。
包丁でなかなか切れないほどのお餅の柔らかさも魅力(写真は抹茶)。
―甘さと塩味のバランスもさることながら、お餅が柔らかいのにも感動しました。
松下 一般的にスーパーで売られている大福は、常温や冷蔵なので、柔らかいと形を保てません。でもやっぱり、お餅は柔らかめのほうがおいしいですよね。だから、できたてのフレッシュなものを瞬間冷凍してお届けすることにこだわりました。解凍すれば、いつでも食べたいときにできたての味わいが楽しめるように、というコンセプトで作っています。
―販売してすぐ、反響があったのですか。
松下 それが……開発したのはいいけれど、当時はお土産屋さんで冷凍商品の売り場ってほとんどなくって。だいたいの商品が常温の箱菓子で、賞味期限3か月とか半年と長いものが主流だったんです。今でもそうです。最初のころはお土産屋さんに持っていっても、「売り場がないから無理」と言われることが多かったですね。それでもやっぱり「おいしいものを出したい」というのは譲れませんでしたから、冷凍にこだわりました。試食していただくと「これはおいしいからぜひやってみたい」とか、「じゃあ1回試しにやってみようか」というお土産屋さんが何か所かあって、だんだん扱ってもらえるようになりました。正直、今も「すごく売れている」というわけではありませんが、買い続けてくれるお客様がいるので10年続いています。
お菓子の業界は、トレンドの入れ替わりが激しいと思います。ちょっと見た目がいいと一時的には売れますが、またすぐに新しいものが出てくるので、商品の寿命が短いのです。そのなかで長く支持されているということは、お客様に味の評価をいただけているんだなと自負しています。
―お土産屋さんも、コロナ禍で打撃を受けましたよね。
松下 コロナ禍の社会になって観光客がすごく減ってしまい、売り上げは一時ほぼゼロになりました。取引先からは「商品が売れないから、とりあえず数を絞りたい」「取り扱いを一時休止したい」という話もたくさんありましたが、しょうがないことだと思っていました。でもそんな状況下でも「この商品を買いたいっていうお客様がいるから、やっぱりもう1度始めたいんだよね」というお声をいただいたんです。それはすごく嬉しかったですね。お客様が以前東京出張にきたときに買ったのを覚えていてくださって、「今、東京に来ているんだけど、どこで買えるかな」「妻からこの商品を買ってきてと言われているんだけど」、といったお問い合わせをしてくださることもあります。
また、コロナ禍の社会でお土産屋さんではほとんど売れなくなりましたが、生協の宅配サービスでの売り上げはすごく伸びたんです。「旅行には行けないけど、そういう気分を味わいたい」という方がたくさんいらしたのでしょう。
テオブロマの土屋公二シェフ監修の「マダガスカルカカオのケーキ」。
―テオブロマとのコラボ商品は、どのように開発されたのですか?
松下 テオブロマの土屋公二シェフとは、前の会社のときから20年近いおつきあいなんです。もともと私がテオブロマのファンで、つてをたどって知り合いの方からシェフに紹介していただいたのがきっかけです。最初にお会いしたときはすごく緊張したのですが、シェフはすごく気さくな方で、色々お話を聞いてくださり、「やるならやってみれば」と言ってくださいました。そこから商品開発がスタートしたのです。実はそのときの商品は、名前と仕様が若干変わっていますが今でも販売しています。
今回発売した「マダガスカルカカオのケーキ」には、マダガスカルのアンバンジャという地域の小規模農家で生産されたカカオ豆を使用しています。アンバンジャはカカオを作るのにすごく適した地域で、とても良質なカカオ豆を栽培することができますが、貧困問題が深刻で、10歳前後の子どもたちも労働に駆り出されているんです。ここで採れたカカオは現地の商社に安く買いたたかれるため、どれだけ良質なカカオを沢山栽培しても農民たちの生活はいっこうに改善しないという現実があります。その仕組みをなんとか変えたいということで、JICA(ジャイカ=独立行政法人国際協力機構)とテオブロマさんが組んで、プロジェクトを進めているのです。内容は、良質なカカオを収穫するためのノウハウを教え、発酵技術を指導して、適正価格で質のいいカカオをテオブロマさんが全量買い取るというものです。その取り組みを土屋シェフから聞いて、「うちでもぜひ協力させてほしい」とお願いしました。2017年から3年をかけて、ようやく昨年の2月にプロジェクト第1号のカカオ豆が日本国内に入りました。そのカカオ豆で作ったチョコレートを使用しているのが、「マダガスカルカカオのケーキ」です。売上金の一部はアンバンジャ地域に物資として寄付されることになっています。パッケージデザインにも現地とのつながりがわかるような工夫をしています。
カカオの風味が豊かで、しっとりしたケーキ。生クリームと合わせるのもおすすめ。
―このケーキは、箱を開けた瞬間から、カカオの香りがすごいですね。
松下 そうなんです。ケーキって小麦粉が主体のものが多いのですが、このケーキは小麦粉の量を最小限に減らして、低温でじっくり焼くことで、カカオの風味を残し、しっとり感を保ったまま仕上げています。冷たいままでもおいしいですが、温めるとふんわり柔らかくなって、よりピスタチオの香りが立ちますよ。甘さ控えめなので、ホイップクリームと一緒に食べるのがおすすめです。チョコレートの価格が高いのでなかなか大きなサイズにできないのですが、ひと口が濃厚ですし、小麦粉の配合が少ないので、チョコレートそのものを食べているような食感で、少量で満足できるケーキだと思います。
うちが得意とするのはケーキなので、ケーキとしての楽しさや美味しさを味わっていただきたい、そしてできるだけフレッシュなものを食べていただきたいという思いで、チョコ本来のおいしさが消えてしまわないように気をつけながら開発しました。
「東京クリーム大福 天と塩」(上が豆つぶあん、下が抹茶)は、発売から10年近く愛され続けている。
―会社として大切にしていることはどんなことですか。
松下 一時的に売れる商品を作るのではなく、長く支持される商品を作ることです。それは何かというとやっぱり味。見た目より味だと思います。1度だけでなく、「また買いたいな」と思ってもらえる商品を作りたいですね。
とはいえ、まず手に取ってもらうためには値段と見た目も大切です。おいしいものを追求すると値段も高くなってしまうので、そことのバランスが難しいところです。
―これから作りたい商品はどんなものですか。
松下 今、有名なシェフとのコラボ商品で、低糖質のケーキの開発をしているんです。
健康上の理由や太りたくないという理由で、「好きだけど食べられない」という方もたくさんいますよね。どんな方でも召し上がれるケーキを作りたいと思います。今後は、もっと種類を増やしていきたいと思っているジャンルです。でも、健康系のスイーツって世間になかなか認知されないんです。「あまりおいしくないんでしょ」というイメージがあるんだと思います。今回は「低糖質でもおいしいもの」を追求して企画している商品です。甘味料の味が舌に残ることもないし、「これって普通のケーキじゃないの?」といわれるくらいのクオリティのものを作っているので、乞うご期待です。
開発した商品は、どの商品も自分の子どものようなものなので、ずっと大事にして売り続けていきたいと思っています。買っていただいた方に「おいしかったよ」と言ってもらえるのが何より嬉しいですし、売り場の方からも「この商品おいしいですもんね」と言ってもらえると、やっぱり嬉しい。お客様を裏切らない商品づくりを、今後も続けていきたいです。
―これからも楽しみにしています! 本日はありがとうございました。
「クリーム大福・天と塩(豆つぶあん/抹茶)」
価格:¥490(3個入)、¥1,100(6個入)(いずれも税込、送料別)
店名:東京 菓輪舎
電話:0120-140-180(10:00~17:00土日祝日を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付※店頭販売の直営店はありません
商品URL:
豆つぶあん https://karinsha.thebase.in/items/39563068
抹茶 https://karinsha.thebase.in/items/39562412
オンラインショップ:https://karinsha.thebase.in/
「テオブロマ マダガスカルカカオのケーキ」
価格:¥1,280(税込、送料別)
店名:東京 菓輪舎
電話:0120-140-180(10:00~17:00土日祝日を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付※店頭販売の直営店はありません
商品URL:https://karinsha.thebase.in/items/61339022
オンラインショップ:https://karinsha.thebase.in/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
松下智子氏(株式会社菓輪舎 代表取締役社長)
1979年 福岡県生まれ 福岡県内の菓子製造卸会社に10年間勤務を経て、2012年に前代表取締役と共に株式会社菓輪舎を設立、2020年4月に代表取締役就任。プライベートでは1児の母。
<文・撮影/臼井美伸(ペンギン企画室) MC/栗原里奈 画像協力/菓輪舎>