料理大好きなアッキーこと坂口明子編集長。常においしい調味料探しに余念がありません。今回見つけたのがきれいな水と澄んだ空気に満ちた兵庫県の養父市で作られているお酢とゆず山椒。「お酢はお寿司に、ゆず山椒は肉料理に使って…」と料理プランをあれこれと練っています。地域の特産品を使って作られた調味料3品のおいしさの秘密を、但馬醸造所代表の片井伸明氏に取材スタッフがうかがいました。
米、山椒、ゆず……兵庫県但馬地方の特産品で作られた調味料3品。使えばお料理の味が格段にアップ!
2022/08/19
日の出ホールディングス株式会社食品カンパニー 但馬醸造所代表 片井伸明氏
―廃校になった小学校を利用して商品を製造されているのですね。
片井 当醸造所はみりんや清酒の製造会社であるキング醸造株式会社(日の出ホールディングス株式会社)が、地産地消で調味料や加工食品を製造する新規事業として2008年に立ち上げました。醸造には養父市の廃校になった旧西谷小学校跡を利用しています。体育館が醸造所になっていて、体育館ステージは杉材で覆って発酵施設に、理科室は研究開発室になっています。
兵庫県養父市の旧西谷小学校跡の自然に囲まれた環境下で醸造が行われている。
―なぜ新規事業を立ち上げられたのでしょう。
片井 キング醸造は主にスーパーマーケットで販売される調味料、清酒などを製造販売しています。一般家庭向きの商品として愛用いただいていますが、これらとは別にこだわりを持った商品を開発、製造したいと考えたのです。少し大げさかもしれませんが、こちらから売りに行くのではなく、消費者の方から選ばれて買っていただく商品を作りたいと思ったのが立ち上げの理由です。少子高齢化、過疎化が進む町に工場を作ることで地域を活性化する目的もありました。行政の廃校利用の制度を利用したのですが、候補の学校が数校あった中で1番不便な場所にあったのがここです(笑)。しかし、その分、澄んだ空気ときれいな水、自然の産物に恵まれています。醸造には良質の水と空気は欠かせない条件ですからね。
―兵庫県の但馬地方は食材に恵まれているのですね。
片井 そうです。たとえば、「コウノトリ育むお米」です。但馬地方では特別天然記念物・コウノトリを野性に復活させる取り組みを行っていますが、コウノトリが住みやすい環境を作るために農薬、化学肥料を使わずに育てているのが「コウノトリ育むお米」です。やわらかくて粘りが強いとてもおいしいお米です。また、朝倉山椒も特産品です。兵庫県養父市が発祥で江戸時代には徳川家康に献上されていたという文献が残っているほど古くからある特産品です。やさしい辛味の一方で柑橘系の爽やかな香りが特徴の高級品です。
まろやか味が特徴の「コウノトリ育むお米の純米酢」。
―今回紹介くださる調味料はそんな素材をふんだんに使っているのですね。「コウノトリ育むお米の純米酢」はどのように開発されましたか?
片井 純米酢というのは米だけで作った酢という意味です。「コウノトリ育むお米」を蒸して麹と酵母を加えて酒を造り、種酢と酢酸菌を加えて発酵させます。大量生産品ですと空気の細かい泡を送り込んでかき混ぜながら約1週間で工業的に発酵させますが、ここでは酢酸菌がゆっくりと時間をかけてアルコール分を酢にかえていく「静置発酵法」という昔ながらの製法で約2か月間かけて発酵させています。雑味がなくすっきりして風味のあるおいしいお酢ができます。
「コウノトリ育む純米酢」を使ったすし飯で作ったてまりずし。
「コウノトリ育む純米酢」の売り上げの一部は兵庫県豊岡市の「コウノトリ基金」に寄付されている。
―これを使えばお料理上手になれそうです。どんな使い方がおすすめでしょう?
片井 やはりすし飯を作っていただけたら。手軽に本格的なおいしいお寿司が作れますよ。すっきりした味なので酢のものにもいいですね。
「但馬の赤酢」。
3年熟成した酒粕を原料にお酢を作るとするとこのような赤褐色になる。
―「但馬の赤酢」はどのように作られていますか。
片井 赤酢は酒粕を原料にしたお酢です。キング醸造は清酒「播州錦」を製造しているので良質の酒粕が出ます。純米酒の酒粕だけを用い、約3年熟成させるとちょうど八丁みそのような赤い色になります。赤酢はこの熟成酒粕を原料に「静置発酵法」でゆっくり熟成させて作ります。温度管理などとても手間がかかる製品ですが、酢特有のツンツンした尖った風味がなく、うまみ成分・アミノ酸がたっぷり含まれています。アミノ酸含有量は黒酢よりも多いそうです。
1日大さじ1杯の「但馬の赤酢」で健康に。
りんごジュースに加えても(手前)、水に混ぜて飲んでも(奥)。
―どのように利用したらいいでしょう?
片井 赤酢は江戸時代に作り始められ、主に関東地方ですし飯に使われました。江戸前ずしは赤酢の酢飯が多かったようで、まろやかな味のすし飯になります。また、そのまま飲んでいただくのもいいと思います。水に入れたり炭酸で割ったり、酢が苦手な方はりんごジュースに混ぜると飲みやすくなります。アミノ酸にはダイエット効果などさまざまな健康効果があるといわれているので1日大さじ1杯を目途に飲んでいただきたいですね。
「但馬のゆず山椒」。
さまざまな料理を引き立てる人気の薬味だ。
―ぜひやってみます。「但馬のゆず山椒」はどのように作られていますか?
片井 さきほども申し上げたように養父市は朝倉山椒発祥の地です。また、2008年に当醸造所を立ち上げてすぐから近隣の農家と協力して地元の休耕田を利用したゆずの栽培を始め、ゆずポン酢の製造を始めていました。年々ゆずの収穫が増え、冷凍保存していた皮を利用して何かできないかと思ったのが始まりです。柚子胡椒がブームになりましたが、唐辛子を朝倉山椒に代えたら料理の味を引き立てるスパイスができるのではと考えました。ゆずと山椒と塩分の配合が難しく、試行錯誤の末、ちょうどいい配合を見つけ製品化しました。やさしい辛味と爽やかな香りの朝倉山椒とゆずの爽やかな風味が合わさったスパイスができました。おかげで現在、原料調達が追いつかないほどの当所の人気ナンバーワン商品です。
「但馬のゆず山椒」は冷奴の薬味としても、ローストビーフに添えても。
―おすすめの使い方がありますか?
片井 冷奴にのせたり、ローストビーフに添えたりして使っている方が多いようですが、肉料理に合うと思います。ざるそばのつゆにワサビの代わりに使うのもお薦めです。私が今、はまっているのは保存袋に一口大に切った鶏もも肉、「但馬のゆず山椒」、少々の酒を入れて揉み込んでおき、フライパンで焼いて食べる方法で、ビールにぴったりです(笑)。近頃私は妻にお弁当を作ってもらっているのですが、「但馬のゆず山椒」を肉料理に使ったおかずを入れてもらうことが多いですね。
片井代表おすすめの「鶏もも肉の但馬のゆず山椒焼き」。
ゆず山椒に塩味がついているので焼くだけで完成!
―ごちそうさまです(笑)。山椒には防腐効果もあるのでお弁当に適していますね。最後にこれからの展望をお聞かせください。
片井 当初、地産地消、地域おこしを目標に立ち上げた醸造所ですが、一昨年「但馬の赤酢」がスペインの「CINVE2020国際コンテスト」で金賞を受賞しました。「但馬の赤酢」はフランスなど海外にも輸出されレストランなどで使用されているようです。フランスからバイヤーが醸造所を見学に来て、原料にこだわり、豊かな自然の中できちんとした製法で作っていることを評価してくれました。この地でていねいに製造してきたことが間違ってなかったとうれしかったですね。ゆず、山椒の栽培に地域の中学生や住民の皆さんと当社の社員がいっしょに作業するなど、醸造所が地域に密着できていることもうれしいことです。今後も兵庫県の但馬地方・養父市に品質の高い特産品があって、調味料などの食品を作っていることを国内外に発信していけたらと思っています。今回、紹介した以外にもたくさんの商品があるので、オンラインショップを覗いてみてください。
但馬醸造所では多彩な商品が製造されている。
―有益なお話をありがとうございました。
「コウノトリ育むお米の純米酢」(360ml)
価格:¥400(税込)
店名:日の出ホールディングス株式会社食品カンパニー 但馬醸造所
電話:079-669-1100(土・日・祝日を除く9:00~17:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL・オンラインショップ:https://tajimajozo.co.jp/add_product/t0318/
「但馬の赤酢」(200ml)
価格:¥880(税込)
店名:日の出ホールディングス株式会社食品カンパニー 但馬醸造所
電話:079-669-1100(土・日・祝日を除く9:00~17:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL・オンラインショップ:https://tajimajozo.co.jp/add_product/t0309/
「但馬のゆず山椒」(90g)
価格:¥500(税込)
店名:日の出ホールディングス株式会社食品カンパニー 但馬醸造所
電話:079-669-1100(土・日・祝日を除く9:00~17:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL・オンラインショップ:https://tajimajozo.co.jp/add_product/t0317/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
片井伸明(日の出ホールディングス株式会社食品カンパニー 但馬醸造所代表)
1961年兵庫県生まれ。1984年キング醸造株式会社入社。2008年新規事業として但馬醸造株式会社が兵庫県養父市に設立され、廃校となった小学校の校舎を借りて食酢の醸造を開始。2011年代表取締役に就任。2013年日の出通商株式会社の事業部となり、以後、但馬醸造所の代表として天瀧ゆずや朝倉山椒の栽培にも取り組み、こだわりの食酢や関連商品の製造販売を行っている。
<文・撮影/今津朋子 MC/鯨井綾乃 画像協力/但馬醸造所>