肉、そして最近では魚も”熟成”が話題です。多くの人を惹きつけている理由は、肉や魚の身がやわらかくなり、うまみ成分が増えて濃厚な味になること。その虜になった1人、編集長アッキーが「エイジング(熟成)コーヒー」というものがあるとの情報をキャッチ。日本で唯一、エイジングコーヒーを提供し続けている株式会社コクテール堂の代表取締役、林道男氏に、その魅力をうかがいました。
おいしさの秘密は熟成&ブレンドにあり。 1949年創業のコーヒーロースター自信作、 「コクテール堂 オールド5ブレンド」
2022/08/18
株式会社コクテール堂 代表取締役の林道男氏
―コーヒーの焙煎メーカーでありながら「コクテール堂」と、お酒を思わせる社名ですね。
林 その昔、弊社が創業する前に、親戚が東京・六本木で「コクテル堂」という輸入食品やお酒を扱う店を営んでいたんです。しかし、戦争が始まると外国の製品は一切、売ってはいけなくなったので店を畳まざるを得なくなってしまった。なので、弊社の創業者であり私の父親でもある林玄が、その名前を引き継いだというわけです。
―お父様が、コーヒーを扱う会社を立ち上げられたのは、どういう理由からなのでしょう。
林 父親の父親、つまり私の祖父である林二九太はユーモア作家だったのですが、戦争中は新聞社の特派員として満州に派遣されたんです。当然、家族も一緒です。現地ではしばらくロシア人の家に滞在していたのですが、そのロシア人一家はいわゆる「白系ロシア人」で、ロシア革命によって国を追われて満州にたどり着いた人たちでした。白系ロシア人の多くが貴族や知識人で、彼らも優雅でぜいたくな暮らしをしていたそうです。その彼らが毎朝、飲んでいたのが、後のエイジング・コーヒーにつながるオールド・ビーンズのコーヒーでした。当時、ヨーロッパの人たちが飲んでいたコーヒーはおもにアフリカ産の豆で、彼らは生豆の状態で買い、自分で焙煎していたそうです。豆は1度にある程度の量を買うので、彼らの家の棚には生豆の入った瓶が並んでいた。最初は薄緑色をしていたコーヒー豆が、時間が経つにつれて黄色くなってくる。その豆で淹れたのがオールド・ビーンズコーヒーです。祖父も父も彼らと一緒に毎朝、そのコーヒーを飲んでいました。父は日本でもコーヒーを飲んでいたのですが、ロシア人宅で出会ったコーヒーの味は格別だったらしく、すっかり虜になってしまったんですね。終戦後、日本に帰ってからもそのコーヒーの味が忘れられず、昭和24(1949)年に「コクテール堂」を創業したというわけです。
左が生豆のまだ新しい、青い状態。右が熟成を経て、色づいた状態。
―ということは、創業当初からオールド・ビーンズコーヒー、つまりエイジングコーヒーを扱っていらしたんですね。
林 父親にとっては、コーヒー=オールド・ビーンズコーヒーだったのでしょう。それで、あらためて豆の寝かせ方や焙煎方法を学び、現在のエイジングコーヒーが完成したのです。
―コーヒー豆のエイジングは、どのように行われるのでしょう。
林 まず、世界有数のコーヒー産地から選りすぐりのコーヒー豆を、生豆熟成倉庫で数十ヶ月もの時間をかけてじっくり熟成、乾燥させます。
世界中から選び抜いたコーヒー豆が山梨県・韮崎で数十ヶ月の眠りにつきます。
どの程度エイジングが進んでいるかを、確認。
―数十ヶ月も! そうなると温度管理など、大変ですね。
林 そうですね。コーヒーの主成分は渋み成分のタンニンですが、豆をじっくり寝かせている間に渋みがやわらぎ、やわらかくなる。そうした変化=エイジングに最も適している場所として、山梨県韮崎市を選びました。韮崎市は標高500mに位置し、年間の降水量が少なく日照時間が長いことで知られています。その環境が生豆のエイジングに向いていると考え、生豆熟成倉庫を建設したのです。仕入れた豆を数十ヶ月寝かせるわけですから、正直なところ、商売としては効率はよくありません。おっしゃるとおり、生豆をただ保管すればいいというわけではなく、しっかりエイジングさせるためには温度や湿度を管理しなければなりません。さらに、ここで焙煎も行っているのですが、焙煎も熟練の職人が天候や気温、温度などを考慮して、いかに豆の美味しさを引き出すか、毎日微妙な調整をしながら行っています。
焙煎機の火力を手動でコントロールしながら、ゆっくり焙煎します。
季節ごとに変化する天候や気温、湿度を調整しながら、
焼き上がった豆が安定した品質になるよう焙煎します。
日本には四季があるので、1年中、気も手も抜けません。
―豆のエイジングには時間だけでなく、手間もとてもかかるのですね。
林 はい。だから、エイジングコーヒーを扱おうという会社は、弊社以外はありません(笑)。世界でも、ほとんど類がないんじゃないでしょうか。それでも弊社がこの製法にこだわるのは、「おいしいコーヒー」をつくるため。満州で父が感動したエイジングコーヒーのおいしさを、多くの方にお届けしたいからです。
ロングセラーにしてベストセラー「オールド5ブレンド」(深煎り)
粉の量は1人分=10g、水の量は1人分=100〜120ccが目安。
―エイジングのほか、ブレンドにもこだわっているそうですね。
林 いま、スペシャルティコーヒーの人気が高まっている中で、たとえばブラジル産でも、1ヶ所の農園で栽培された品種が他の品種とブレンドされることなく、1つの銘柄として販売される「シングルオリジン」が注目されています。生産地によって、また同じ品種でも農園によって味が違う、という面白さ、珍しさが人気を集めているのでしょう。ただ、コーヒー豆は農作物ですから、気候の影響を受けます。近年、みなさんも実感されていると思いますが、世界規模で気候が変動しているので、当然、豆の味も変わります。それも、おいしく変化するとは限りません。弊社としては、おいしいコーヒーを安定してお届けしたいと考えていますから、シングルオリジンにこだわることよりも、その時にいちばんいい状態の豆を選ぶことを優先したい。そうやって選んだ豆を何種類か組み合わせることで、「本当においしいコーヒー」をつくる。それが弊社の考え方です。幸い、日本は世界中からコーヒーを輸入できるので、「こういう味のコーヒーにしたい」という設計のもと、ブラジル、グァテマラ、コロンビア……とそれぞれ厳選した豆を輸入して組み合わせ、その味に仕上げることができます。つまり、ブレンドコーヒーというのは、輸入国の特権なんです。弊社では、目指す味わいに合わせて、そのパーツとなる各産地のコーヒー豆の特徴を引き出すべく、産地ごとに焙煎してからブレンドしています。
―社長が考える「おいしいコーヒー」とは、どういうコーヒーなのでしょう。
林 ひとことで表すなら、飲み飽きしないコーヒーです。具体的には、香りがよく、口に入れた瞬間の飲み口がよくて、味にはコクがあり、それでいて後味がすっきりしている。1杯飲み終えて、「もう1杯飲みたい」と思うようなコーヒーです。それにはやはり、豆のエイジングが必要なんです。先にもお話ししたとおり、生豆を熟成させることによってタンニンの渋みがやわらぎ、代わって甘みが増します。それでいて、透明感がある。「コーヒーはおいしいけど途中で胸焼けがして、飲み残してしまう」という声を耳にすることがあるのですが、それは、タンニンが豆から抜けていないからでしょう。そういう方こそぜひ、エイジングコーヒーを味わっていただけたらと思います。
―コクテール堂さんでいちばん人気は「オールド5ブレンド」とのこと。どのような特徴があるのですか?
林 エイジングコーヒーならではの、甘みを含んだコクと苦味のバランスのよい、深煎りタイプのコーヒーです。コーヒーの魅力が十分引き出され、どなたが淹れてもおいしいコーヒーになる弊社の自信作です。ぜひ、たっぷり淹れて、ゆっくり飲んでいただきたいと思います。
本当に久々の、友との時間。
おしゃべりが弾んで席を立つ時間も惜しいはず……なので、コーヒーをたっぷり用意。
―淹れてから時間が経つと、味が落ちる印象があるのですが……
林 エイジングコーヒーがすごいなと思うのは、時間が経っても味が崩れないこと。むしろ、味がよくなります。淹れたてももちろんおいしいのですが、30分くらい経つと苦味がやわらいで、まろやかな味わいに。最後の1滴までおいしく飲んでいただけるはずです。
本を読むのに夢中になると、コーヒーが冷めがち。
でも、エイジングコーヒーなら冷めてもなおおいしいので、安心して読書に耽ることができます。
―まさに、もう1杯飲みたくなるコーヒー、ですね。
林 これを言うと、みなさん驚かれるのですが、1度にたくさん淹れて、残ったら捨てずに取っておいて温め直してもいいですし、翌日、新たにドリップしたコーヒーを足すと香りが蘇り、コクや甘みがさらに増します。雑味が消えて、味がまろやかになりますよ。
―そうなのですか! コーヒーは淹れたてがいちばんおいしい、とばかり思っていました。ゆっくり飲めるのは、うれしいです。では最後に、今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか?
林 エイジングとブレンドにこだわり、「いつでもおいしいコーヒー」「どなたが淹れてもおいしいコーヒー」をお届けするというのは、この先も変わりません。世界各地から厳選したコーヒー豆を、日本の水で洗い、日本の空気を吸わせ、日本人の手でていねいに焙煎する。それでこそ、日本のみなさんに「おいしい」とよろこんでいただける、日本独自のコーヒーがつくれるのだと信じています。そのために、これからも労を惜しまず、努力し続けたいと思っています。
―お話をうかがって、コーヒーとのつきあい方が、大きく変わりそうです。本日はありがとうございました!
「オールド5ブレンド 」(深煎り)(200g・粉/豆)」
価格:¥1,080(税込)
店名:コクテール堂
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:http://www.cocktail-do.co.jp/item_indivisual/1336.html
オンラインショップ
コクテール堂 Yahoo!店:https://store.shopping.yahoo.co.jp/cocktail-do/121052.html
コクテール堂 楽天市場店:https://item.rakuten.co.jp/cocktail-do/121052/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
林道男(株式会社コクテール堂 代表取締役)
1951年東京生まれ。 学習院大学サッカー部卒業後、コクテール堂に入社。1991年代表取締役就任。
<文・撮影/鈴木裕子 MC/栗原里奈 画像協力/コクテール堂>