愛媛県の北東部。瀬戸内海に面する新居浜市に蔵を構える「近藤酒造株式会社」は、同市内で唯一の日本酒の蔵元です。創業は明治11年(1878年)、現在は、清酒、リキュール、そしてクラフトジンなどの製造を行っています。今回は、その近藤酒造株式会社の5代目蔵元であり、新居浜市観光物産協会の観光統括副会長も務める近藤嘉郎氏にお話を伺いました。
“復活の酒蔵”から生まれた、「華姫桜 純米酒」と「クラフトジン PACHI PACHI」
2022/09/16
近藤酒造株式会社 5代目蔵元の近藤嘉郎氏
―新居浜市で唯一の蔵元なのですね。
近藤 私が生まれた1970年頃は、6つの蔵元があったのですが、東京の大学を卒業して地元に戻った時には4蔵、そして現在は1蔵になってしまいました。
―家業を継ごうと思ったきっかけは?
近藤 幼い頃、蔵はとても活気づいていました。特に10月〜3月の酒造りのシーズンになると、杜氏さんや蔵人さんたちが各地から集まってくれて、朝の5時6時に、ボイラーが「ボーッ」と発する音が目覚まし代わり。朝は、蒸し上がった米の状態を確かめるために「練り餅」を作って神棚に上げるのですが、僕も1つ2つ作ってもらって、それが朝食でした。そんな日々がとても好きだったので、物心ついた頃から、将来は自分も酒造りをするだろうと思っていたんです。そして大学で醸造学を学び、経験を積むためにアルコールメーカーに勤めて地元に戻ったのですが、以前と蔵の雰囲気が違うんです。父に直接聞くのが憚られたので、社員の方に尋ねてみると、もう数年、酒造りはしていないよ、と。聞けば、卸がメインになっていました。そこで私もトラックに乗り、配達をするようになるわけですが、やっぱり腑に落ちなくて、「もう1度、酒を造りませんか」と提案するも一蹴される。それが数年続くと、自分も熱を失いそうになるんです。なので、酒造りもしていないのに、愛媛の酒造組合の青年部に入れていただいて、酒造りをする人たちに囲まれながらモチベーションを保っていました。
現在は、純米酒のほか、純米吟醸、純米大吟醸なども製造。
―そんな中、「華姫桜」が生まれることになったのは。
近藤 酒造りには米が必要で、酒を造る人は、毎年田植えが始まる前に、農家さんにオーダーしないといけないんです。酒造組合にいると、僕にも一応、どうするか聞いてくれるんですよね。キャンセルもできるということで、2年ほどは、オーダーして、キャンセルする、という感じだったのですが、3年目のある日、「今年は電話がなかったから、もうキャンセルできないよ」と。酒造組合の方も、僕が酒を造りたいと思っていることをわかってくれていて、あえてそう言って背中を押してくれたんです。それでも父は首を縦に振ってくれないので、自分の貯金をはたいて米を買い(と言っても小仕込みの為白米で400kg位でしたが)、配達の業務の前後、朝4時半から9時、夕方5時以降を酒造りに費やしました。今でこそインターネットを使えば、お酒の造り方をはじめ様々な情報が出てきますが、当時は酒造り=一子相伝みたいな状態だったので、すべてが手探り。それでも、すでに酒作りに携わっていた大学の同期や、1人で酒造りをしている地元の蔵元さんに心強いアドバイスをもらいながら、平成13年に何とか、最初の「華姫桜」を造り上げることができました。
「温度を変えながら、それぞれの味わいを楽しんで」と近藤氏。
―「華姫桜」。とても素敵な名前ですね。
近藤 真ん中の「姫」は、愛媛の「ひめ」から取りました。「桜」は、私の家の庭にある桜なのですが、僕が生まれる前、1970年の台風で、1度倒れかけたそうなんです。でも杜氏さんや蔵人さんたちが、藁で包んだり添え木をしたりして蘇らせてくれて。それからは毎年桜の木の下で宴会を楽しみました。そんな復活劇が、蔵のイメージにも重なって。そして「華」には、お酒のある風景を華やかにしたい、という思いを込めました。
―酒米は、「新居浜産 松山三井」。100%なのですね。
近藤 もともと、食米としても作られていたお米で、稲刈り時期が通常のお米よりちょっと遅め。稲穂の高さもあり、太陽の光をたっぷりと浴びているので、粒が大きく、味も乗りやすいお米なんです。私が酒造りを始めると知った農家の方が、「自分にも何かできることはないか」と連絡をくれたことがきっかけで、作ってもらえることになりました。天候的には難しい年だったのですが、物凄い研究家でいらして、1年目から1等級の酒米を仕上げてくださいました。麹も、私の好みでガツンとお米の味わいが楽しめるように、強めに作るなどして、理想の味に近づけました。
近藤社長(中)と、米作りのプロ・合田さんご夫妻。
―どんな料理に合わせるのがおすすめですか?
近藤 刺身など冷たいものと合わせる時は、冷やしていただいて。45度くらいのぬる燗にすると、白身魚の天ぷらや湯豆腐なんかにもよく合います。個人的には、パセリを素揚げして塩をかける「塩パセリ」との相性が抜群だと思っています。
―クラフトジン「PACHI PACHI(パチパチ)」についても教えてください。
近藤 愛媛に、真穴(まあな)というみかんの産地があるのですが、3年ほど前に、その真穴みかんを販売している「旬香物産」さんから、新商品の開発をしたいと相談がありました。ちょうどその頃、各地でご当地クラフトジンが作られ始めていたので、どうだろうと。ただ、弊社は焼酎やスピリッツの免許を持っていなかったので、叶えてくれそうな蒸留所をいくつかリストアップして渡したんです。ところがことごとく断られてしまったと。実は私、元バーテンダーでもありまして(笑)、スピリッツにも興味がありまたし、世界のジンについて調べてみたんです。すると、クラフトジンは、必ずしも蒸留しなければならないものではない、と。そこで、免許の申請が通ったらスピリッツ、取れなかったらリキュールとして良いなら、私が造ってみましょうか、いうことになったんです。結果、無事に免許も取得でき、スピリッツとしてリリースすることになりました。
女性からも評判だというスキットル風ボトル。
―段々畑にたわわに実るみかんの味が、口の中いっぱいに広がりました!
近藤 キャップを開けた瞬間、まずはみかんの花の香りがわっと立ち上り、口に含んだ時にはみかんの甘み、苦味が味わえる、“リアル感”を大切にしました。ジンに欠かせないスパイスのジュニパーベリーに加え、段々畑のそばの防風林で採れたコノテガシワも加えて風景が目に浮かぶように。箱も、みかん箱をイメージして作りました。
―名前もユニークですよね。
近藤 真穴のみかんを使ったジンなので「マジン」とか、新居浜のジンなので「ハマジン」とか、おじさん3人で色々考えたんですが、結果的には、12月の収穫時期になると段々畑に「パチパチ」と鳴り響く音が名前になりました。みかんを傷つけないよう、枝に2回、パチパチとハサミを入れる音なんです。素敵でしょう? ちなみに、「旬香物産」の代表は神主でもあるので、柏手のパチパチでもあるね、とか、四国八十八ヶ所の88にも通じる、とか、何かにかこつけて自画自賛しています(笑)。
みかんの花の仕分けも皆で一緒に。
―こちらはどんな風に楽しんでもらいたいですか?
近藤 一般的にジンはトニックウォーターで割るイメージですが、真穴のみかんの味をストレートに楽しみたいなら、炭酸水で割るのもおすすめです。レモンやライムをちょっと絞っても美味しいですよ。段々畑を思い浮かべながら、「飲むアロマ」を楽しんでいただけたらと思っています。
―地元への熱い思いが伝わってきました。ご紹介をありがとうございました!
「華姫桜 純米酒」(720ml)
価格:¥1,276(税込)
会社名:近藤酒造株式会社
電話:0897-33-1177(9:00〜17:30)
定休日:土曜・日曜・祝日。インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kondousyuzou.com/華姫桜%E3%80%80純米酒%E3%80%80720ml/
オンラインショップ:https://www.kondousyuzou.com
「クラフトジン PACHIPACHI(パチパチ)」(200ml)
価格:¥2,200(税込)
会社名:近藤酒造株式会社
電話:0897-33-1177(9:00〜17:30)
定休日:土曜・日曜・祝日。インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kondousyuzou.com/クラフトジン-pachi-pachi(パチパチ)-200ml/
オンラインショップ:https://www.kondousyuzou.com
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
近藤嘉郎(近藤酒造株式会社 5代目蔵元)
1971年生まれ。東京農業大学を卒業後、アルコール関連企業に就職し、近藤酒造株式会社へ入社。新居浜市観光物産協会の観光統括副会長も務める。好きなアーティストは沢田研二。
<文・撮影/鹿田吏子 MC/稲吉陽子 画像協力/近藤酒造>