京都・南座のすぐ隣にある「総本家にしんそば松葉」は、160余年の歴史を誇る老舗の蕎麦屋。明治15年に発案された「にしんそば」が名物として知られています。骨まで柔らかく煮て甘辛く炊きあげた鰊棒煮、奥深い出汁のうまみが感じられるそばつゆ、ほどよい喉ごしと香りが楽しめる蕎麦。それらが渾然一体となった伝統の味わいを守り続ける株式会社松葉の5代目・松野博氏にお話を伺いました。
変わらぬ味を守り続ける京の名店・松葉のにしんそばをおうちで味わう贅沢セット「鴨川」「にしん&カレーセット」
2022/10/13
株式会社松葉 代表取締役社長の松野博氏と会長の松野泰治氏
―創業160年以上の歴史を持つ松葉さん。これまでの歩みをお聞かせください。
松野 文久元年(1861年)に初代・松野七郎兵衛が創業しました。当時は蕎麦だけでなく、色々なものをお出しする茶屋のような形だったと聞いています。明治15年(1882年)に2代目・松野与三吉が「にしんそば」を発案し、そのときに屋号を「松葉」としました。蕎麦屋としての形を確立したのはその頃です。その後、祖父である3代目が各地の物産展などに出店したことで、にしんそばが広く知られるようになりました。父の代では世界一周のクルーズ船で披露するなど、新しい取り組みに挑戦したりもしましたね。そして2022年2月、5代目として私が継承していくこととなりました。
昔ながらの製法で炊きあげた鰊棒煮を温かな蕎麦にのせた「にしんそば」。
―にしんそばの誕生には、どんな背景があったのでしょうか?
松野 京都は元来、食材が乏しく、ものが集まりにくいところなんです。海から遠くて、新鮮な魚を食べることも難しい。そんな土地で、大切なタンパク源となっていたのが身欠きニシンでした。それをどうおいしく食べるか、どう蕎麦と組み合わせるかと考えた末に出来上がったのがにしんそばです。
―そこから今にいたるまで、長く愛されてきた理由は何だと思いますか?
松野 何よりも、お客さんのおかげだと思っています。何世代にもわたって通ってくださる方がいて、私たちがその気持ちを裏切らない。醤油の濃さなど、時代時代で素材の味が変わっていったりもしますけど、それでもお客さんに提供する味は変わらないように努力することが大切だと思っています。なので「おいしい」もうれしいですけど、「変わらへんね」って言ってもらえたときが1番うれしいですね。
にしんそば4人前が入った「鴨川」。
―若い頃は東京で修行されていたそうですね。
松野 24歳から2年弱、東京・日本橋の室町砂場さんにお世話になりました。向こうの蕎麦屋さんには、蕎麦前がありますよね。まずはお酒を飲みながら一品料理を楽しんで、〆に蕎麦を食べるのが粋なんだという。そういう江戸前の蕎麦に憧れて、いろんなお店を食べ歩いていたんです。江戸前の蕎麦屋にはつゆのもとになる甘辛いタレ「かえし」を使った卵焼きがあるのですが、京都ではかえしを使わないので出汁巻きなんです。卵焼きを色々食べ比べてみて、この味を覚えたいと思ったお店が室町砂場さんでした。
―東京で修行に励むなかで、印象に残ったことは?
松野 修行先のお店でも非常に良くしていただきましたが、私の中で強く印象に残っているのは、向こうで知り合った方々との会話なんです。東京ってみなさん色んな地方から来られているじゃないですか。関西出身の方も多くて「京都でにしんそばを食べてから東京へ向かったのが良い思い出だ」とか、「小さい頃、おばあちゃんにご馳走を食べに行こうと連れられて行ったのが松葉だった」とか思い出を語ってくださるんですね。遠く離れた場所でもそうやって覚えていてくださる人がいるということに、身の引き締まる思いがしました。
家業を継いだ今も、江戸前そばをお出ししたいという想いは変わりません。でも、やっぱり変えてはいけない部分はあると思うんです。それがうちにとっては、にしんそばなのだろうなと思います。
とろろをかけてうずらの卵を落とした「冷やしにしんそば」にしても◎。
―関東と関西では出汁の取り方も違いますよね。
松野 そうですね。私たちが取る出汁で最も大事なのは昆布なんですよ。ここが江戸前と違うところで。昆布でしっかり出汁を取って、ブレンドした削り節のうまみを加える。昆布に含まれるグルタミン酸と鰹などのイノシン酸があわさることでよりおいしい出汁になるので、それぞれをバランス良く配合しています。
京料理のお店でも必ずと言っていいほど昆布が使われていますが、そういったお店では“出汁をひく”と表現するんです。一方で、私たちは“出汁を取る”と言います。京料理では花鰹を入れて1分ほどしたらスーッとあげてしまうんですけど、私たちはどちらかというと西洋で言うブイヨンのような出汁の取り方をするので。そうしないと蕎麦の味に負けちゃいますから。しっかりとうまみを出そうと思ったら、二番だしが取れなくなるくらい煮出さないといけないんです。
にしんそばとカレーそば、それぞれ1人前ずつ味わえる「にしん&カレーセット」。
―カレーそばにもその出汁がいかされているわけですね。
松野 やっぱり“ひく”出汁ではカレーに負けてしまうんですけど、しっかり煮出して取った出汁とカレーをあわせると、うまみが増してすごく蕎麦に合うんです。このカレーそばのように、にしんそば以外にもおいしいものがたくさんあるので、ぜひ楽しんでもらいたいと思っています。
ほどよい辛さと甘みの奥に出汁のうまみが感じられる「カレーそば」。
―最後に、今後の展望をお聞かせください。
松野 先代、先々代の頃は、対外的に広く宣伝していった時期でした。でも、1度ここで改めて地盤づくりをしていきたい、というのが私の展望でして。どんな状況のなかでも揺るがないような松葉をつくっていけたらなと思っています。そのためには技術も大事ですけど、やっぱり人ですね。松葉の空気やあり方を伝えていってくれるような人を育てていきたいと考えています。
―貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
「鴨川」
価格:¥3,715(税込)
店名:総本家にしんそば 松葉
電話:075-871-4929
定休日:日・月曜日と祝日は定休日のためご注文は翌営業日からの対応となります
商品URL:https://sobamatsuba.shop/items/5e8152a5e20b046ef3dcb6aa
オンラインショップ:https://sobamatsuba.shop/
「にしん&カレーセット」
価格:¥2,062(税込)
店名:総本家にしんそば 松葉
電話:075-871-4929
定休日:日・月曜日と祝日は定休日のためご注文は翌営業日からの対応となります
商品URL:https://sobamatsuba.shop/items/615fa142a1027522620c1f32
オンラインショップ:https://sobamatsuba.shop/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
松野博(株式会社松葉 代表取締役社長)
1985年京都生まれ。19歳の時に松葉へ入社。24歳から2年間、東京の老舗蕎麦屋でお世話になる。2022年代表取締役社長に就任。
<文・撮影/野村枝里奈 MC/鯨井綾乃 画像協力/松葉>