名古屋名物の1つ、ういろ。土産物の定番として不変かと思いきや、原材料の見直しなど伝統手法に立ち返る一方で、デザインやアイデアの力で若者へのアプローチに成功した老舗がありました。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった株式会社大須ういろ 代表取締役社長の村山賢祐氏と同副社長の村山英里氏に、取材陣が伺いました。
米粉の蒸し菓子ういろ本来のおいしさを現代風に追求する「ウイロバー」と「ういろモナカ」
2022/10/14
株式会社大須ういろ 代表取締役社長の村山賢祐氏
―東海地域では「ういろとないろ」でなじみ深いですね。
村山 1947年に祖父が創業しました。その祖父は早くに亡くなりましたので、私は3世代目の6代目となります。ういろは漢字にすると「外良」。「外郎」と書いて「ういろう」と呼ぶ地域やメーカーさんもありますよね。ういろは、米粉と砂糖を蒸した「白」が基本となり、黒砂糖や抹茶などを加えてフレーバーを広げます。うちは、小豆こしあんを加えたものを「ないろ」と呼び、商標登録しています。漢字で書くと「内良」。内に良し、外に良しという縁起物として、また、ういろとないろと語感が軽やかなので、ペアでお使いいただくことが多いのではないでしょうか。
―名古屋はもちろん、全国にういろメーカーがある中、大須ういろさんならではの特徴は?
村山 うるち米の風味や味わいを大切に守っている点だと思います。米は温度変化の影響を受けやすい食材です。特に低温に弱い。炊きたてのごはんはもっちりしておいしいのに、冷めるとポソポソしたり食感が硬くなったりしますよね、それと同じです。土産物として幅広い温度帯に対応できるよう、様々な添加物を入れていた時期もありますが、ないに越したことはありません。数年前から原材料や製法を見直して、余計なものを1つずつ減らしてきました。長年愛されている商品を見直し、国が許容している添加物をなくしていくという挑戦を、愚直に続けています。
―社長就任後に取り組まれているのですか?
村山 正確に言うと、添加物の見直しは妻である村山英里副社長が主導です。子どもが生まれ、「いくらでも食べていいよ」と言える商品であったほしかったそうです。
英里(村山英里氏 以下英里) 工場に積まれた添加物の一斗缶を見て驚き、「絶対に子どもには食べさせたくない!」と思ってしまいました。当時はういろづくりの素人でしたから、始めは「全部抜いてください!!!」と無茶を言いました(笑)。根気強く話すうち、工場長をはじめとする製造現場のスタッフも少しずつ意識を変えてくれました。
―具体的には?
英里 例えば、うちの代表的なういろは、白、ないろ、桜、抹茶、黒(黒砂糖)の5種類ですが、桜はショッキングピンク。自然界にはありえない色を着色料で出していましたが、それがおいしそうだと勘違いをしていたのです。原材料をすべて見直してリサーチして、配合や製法を見直しながら1つ1つ減らしてきました。まだゼロではありませんが、現状での最低限になったと思います。
以前は香料と着色料から作っていた「桜」。今は桜の葉から抽出したエキスを加え、自然な色合いに。
―まったく違う製品になったのですか?
村山 もちろん、大須ういろの伝統や、和菓子屋としてのプライドは譲れません。ういろが、米粉ならではのもっちりとした食感や懐かしい風味を失うわけにはいきません。大須ういろのおいしさと安全性の両立を目指して取り組んでいます。
英里 工場で蒸気立ち上るせいろの蓋を開けた瞬間の、蒸し立ての甘くやさしい香りは何物にも代えがたく、きっと創業から変わらない風景だと思います。守り継ぐべきものと、だからこそ攻めるべき部分のバランスを取りたいと思っています。
―そんな中生まれたのが「ウイロバー」ですか?
英里 ういろ本来のおいしさを取り戻したので、今度は広くういろのおいしさを知ってほしいと思いました。ういろはもっちり食感が身上ですが、だからこそ切り分けづらく食べづらい。若い世代に食べてもらうため、気軽に食べられるものを目指してあれこれ考えました。ふと、アイスキャンディーのようにしてみることをひらめいたのです。
手を汚さず手軽に食べられる利便性とSNS映えする見た目が両立。
―パッケージも斬新ですね。
英里 私はもともとデザインの仕事をしていたので、その重要性を理解していたつもりです。本物のおいしさやアイデアに富んだ食べ方があっても、目に留めてもらわなければ伝わらない。駅の売店に並ぶたくさんのういろ商品の中で「なにこれ!?」と人の足を止めるパッケージを目指しました。信頼を置くデザイナーに、「今までのういろの概念を覆すもの」「クラフト感」「カタカナ」「レトロで新しい感じ」と、思いつくキーワードをリクエストして、それを形に落とし込んでもらう感じで仕上げていきました。
カタカナの商品名やナチュラルなパッケージなど、デザイン力も認知度向上に一役。
―発売後まもなく、SNSなどで話題になりましたね。
英里 期待通り、若い層が買ってSNSにアップしてくれるようになりました。「かわいい!」「これがういろ?」という声に喜ぶとともに、「おいしい」という声が聞きたい! と願っていました。一過性でなく、おいしいからまた買いたい、おいしいから人に勧めたい、そうありたいと思っていましたから。
レトロモダンなういろとないろ。子どもの手にも持ちやすい形状。
―2015年の発売以後、売れ続けていることで証明されたのでは?
英里 おかげ様で、もっと安価なういろがある中、工場が悲鳴を上げるほど購入いただいています。味のバリエーションを求められていることも感じていますが、職人が1本1本棒を刺すなど非常に手間のかかる商品なので、現状では工場にこれ以上の負担を強いることができません。ですが、間を開けず新商品を送り出す必要もありましたので、工場の工数を考慮しながらも、新しいういろの食べ方を求め生み出されたのが「ういろモナカ」です。
モナカ皮、あん、ういろがセットになった「ういろモナカ」。
―食べる人が自分で仕上げるアイデア商品ですね。
英里 実はそこはまったく意識をしていませんでした。モナカ皮のサクッ、ういろのもっちり、あんのしっとり、3種食感の楽しさを最大限生かすようにと考えていたら自然とこの形になり、発売後お客様の声を受けて「あ、そこ、珍しいんだ」と気づかされたんです(笑)。むしろ意識したのはデザインです。モナカにういろを挟むというのはそれほど斬新な発想ではない。ここにこそデザインの力を借りようと。
村山 立体的なパッケージが特徴です。しかも、商品名や会社名が正面にない。「何だろう?」と足を止め手に取っていただきたい、そんな狙いがありました。
手を汚すことなく気軽ながら、ういろの新しい味わいを感じられる。
商品名は箱の側面に表記。個包装は八角柱で積み重ねやすく。
―温故知新、レトロモダンな商品がこれからも期待できそうですね。
村山 2021年には、グルテンフリーの生ういろ「初(うい)」ブランドを立ち上げました。そもそも米粉の蒸し菓子であるういろに小麦粉が必要だろうか? という疑問が出発点。長年愛されたないろもリニューアル予定です。その他の商品についても、工場では「もっとおいしくできないか?」と常に試作やブラッシュアップを続けています。
―今後の展望をもう少しお聞かせください。
英里 ういろのリニューアルを始めた頃は、工場と意見の食い違いがありました。「この色はおいしそうじゃない」「鮮やかでなくても自然な色こそ“おいしそう”であるはず」というような。対話を重ねるうちに、今ではむしろ、製造スタッフの意識の方が高いと感じることもあります。提案してくれる味がとてもやさしくなりました。私たちは組織ですが、会社でも工場でも、まして土産物屋でもなく、和菓子屋としておいしいういろを提供していきたいと思っています。
和菓子としてはもちろん、コーヒーや紅茶でも楽しめるういろ。
村山 商品の開発やブラッシュアップにゴールはありません。うちの試食はすべてブラインドなんです。製造方法や原料などの前情報に踊らされることなく、本当においしいと感じるものを採用していきます。最近は私でさえ違いがわからないほどマニアックな改良を提案してくれることもあり、心強い思いです。継承すべき大切な伝統があるからこそ、それを守るために、現代に即した製品づくりへの挑戦を続けていきます。
―素晴らしいお話をありがとうございました!
「ウイロバー」(桜×1、黒×1、白×1、ないろ×1、抹茶×1/1本32g)
価格:¥756(税込)
店名:大須ういろ
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://shop.osuuiro.co.jp/items/28775728
オンラインショップ:https://shop.osuuiro.co.jp/
「ういろモナカ 3個入」(ういろ 桜×1、白×1、抹茶×1)
価格:¥810(税込)
店名:大須ういろthe shop
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://shop.osuuiro.co.jp/items/28775900
オンラインショップ:https://shop.osuuiro.co.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
村山賢祐(株式会社大須ういろ 代表取締役社長)
1976年愛知県生まれ。大学在学中より自社工場にてアルバイトをはじめ、卒業後の1999年に入社。2011年より現職。1947年創業のういろ屋「大須ういろ」の6代目として、ういろの美味しさを守り抜くとともに、 伝統にとらわれない新しいういろの楽しみ方を模索。名古屋のういろう文化を未来につなげるべく、宝である同社スタッフとともに奮闘中。
<文・撮影/植松由紀子 MC/柴田阿実 画像協力/大須ういろ>