編集長アッキーこと坂口明子が今回注目したのは、日本最初の国際都市であり、日本清酒発祥の地といわれる古都奈良。奈良市内にある株式会社今西清兵衛商店は、「春鹿」の銘柄で知られ、国内外にファンを持っています。「超辛口」と掲げた人気商品の開発や、近年力を入れているスイーツ作りについて、代表取締役社長の今西清隆氏に、取材陣がお話をうかがいました。
キレのある味、「超辛口」という名の奈良の名酒。しっとり「バームクーヘン」も。
2022/10/21
株式会社今西清兵衛商店 代表取締役社長の今西清隆氏
―銘柄は「春鹿」。ぱっと奈良が思い浮かびますね。
今西 「春日大社の神様の鹿」ということで「春鹿」と命名致しました。創業は1884年。「ならまち」と呼ばれる旧市街で酒造りを始め、蔵元として私で5代目です。「ならまち」には、国宝で世界遺産の元興寺や創業800年を超える漢方薬局さんもあり、古い町並みが残っています。今でこそ旅行者の方がたくさん来られますが、先代の頃の奈良町エリアは観光地ではありませんでした。
―代々大切にされてきたことは?
今西 品質を重んじた酒造り、でしょうか。いま「米を磨く・水を磨く・技を磨く・心を磨く」という基本理念を酒蔵に掲げ、酒造りを行っております。かつては心の中でこの言葉を唱えていたのでしょうが、私が継いでからは、当初は週1回でしたが、いまは毎朝のミーティングでも話すように変わってきました。
―今西社長は東京でも修業されたとか。
今西 日本各地で頑張っている名酒蔵のお酒を取り扱う、「日本名門酒会 株式会社 岡永」様で修業させていただきました。その後、「国税庁の醸造試験所」
4代目と杜氏が二人三脚で造り上げ、
5代目が進化させる「超辛口」。春鹿を代表する逸品。
―家業を継がれてからのご苦労は?
今西 どちらの蔵元もそうだと思いますが、人材の問題は難しいかと思います。大昔は政(まつりごと)に欠かせなかったお酒はその都度造るという状態でした。夏よりも寒い時に造った時のお酒は発酵が安定しやすく、おいしかったと思われます。そこで、江戸時代以降、冬季を中心とする時期に雪深い地域から杜氏をはじめとする技術集団がやって来て酒造りを行うようになりました。春鹿でも、限られた酒造期間中に酒造りのトップである杜氏と、思いや技術について、じっくり意思の疎通をはかり、即実行にするのが難しいというのがありました。杜氏をはじめとする出稼ぎの造り手が病気等で急に来られなくなったり、若い人がいなかったりということもあり苦労しました。現在は社員が杜氏となり、通年を通して醸造部の社員達と意思や情報を話し合い、新しい挑戦をやりやすくなりました。
―蔵元ならではのご苦労があるなかで、先代が造られたのが「純米超辛口」ですね。
今西 岩手県の南部杜氏の中で実力のある方が他の酒蔵を辞められた時に、父が3日間かけて「こんな酒が造りたい」と夢や思いを語ったそうです。3日目にこの杜氏さんに気持ちが伝わって、うちに来てもらえることになり、父とその杜氏と2人で造り上げたのが「純米超辛口」という商品です。
冷や、燗酒、どちらもおいしく、魚介類との相性抜群。
―すっきりとしながらも軽快な旨味とキレのある日本酒です。
今西 お酒は、原料である米の甘みを糀で引き出し、その糖分を酵母がアルコールに分解して造ります。糖分をたくさん残すと甘口に、少しにすると辛口ができるわけです。しかし、アルコール度数が上がると酵母は影響を受け、減ったり弱ったりしてしまいます。純米で超辛口にするために2人で試行錯誤しながら最後まで元気な酵母を育てる事、そして発酵の限界に挑戦していました。1983年に『純米超辛口』を発売。春鹿を代表する商品となりました。私の代では、昭和、平成、令和と食文化が変化し、個人の嗜好も変わるなか、「超辛口」の根本を変えずにいかに進化させるかが大きな仕事で、今も研究を続けています。原料米や酵母を変えたり、江戸時代の生酛系の造り方を再現したり、生酒を安全にお届けできる技術も磨いて、開発時から進化した形の「超辛口」のシリーズを展開しております。
―原料もその時々に応じてお選びに?
今西 水は地元の布目川の水系の上水を磨き、使用。現在の酒米はさらさらとして切れ味のよいお酒に向く五百万石を契約栽培で。社員杜氏と1つ先のことを考えながら、毎日話し合いをして造っています。
―おすすめの飲み方、合わせるお料理は?
今西 白身魚が最高です。鯛や鮃の昆布締めやイカのお刺身などいいですね。料理の個性が10あれば、お酒は少し控えめな9。酒が料理を超えないことで、料理がよりおいしくなると思います。飲み方は自由。冷やだけでなく燗もいい。お好みの温度の燗酒と煮物、おでん、焼きとりなども旨い。夏は酒8:ソーダ2で割っても。アルコール度数が下がり、炭酸の爽やかさで、料理の幅も広がります。
―早速飲みたくなってきました(笑)。そしてスイーツも気になります。
今西 「バームクーヘン」は、海外出張などの時に奈良のお土産を持って行くのですが、春鹿オリジナルのスイーツが欲しいなと思ったのが開発のきっかけです。地元の展示会で「たっくんのバームクーヘン屋さん」というバームクーヘン専門店と出会い、コラボレーション。1998年に開いた酒蔵ショップで2013年6月から販売を始めました。
奈良の鹿を描いた上品なパッケージ。
手土産として喜ばれる。
密封されているので、
しっとり感とほのかなお酒の香りはそのまま。
―しっとりしていて、ほのかにお酒の香りが。
今西 口の中でパサつくようなバームクーヘンは作りたくなかったので、しっとりとした食感は意識しました。そして、アルコール分は0ではないけれど、お子さんが召し上がる可能性も考えて1%未満にすること、酒の香りがすること、おいしいこと、これを開発の3つの柱にしました。純米酒と酒粕を生地に練りこんでいます。バームクーヘンといえば周囲に砂糖がついていますが、しっとりした食感、ほのかに香るお酒の風味を楽しんでいただきたいので、うちはプレーンで勝負。当初はなかなかうまくいかず、私だけでも20回以上試食を繰り返しましたし、発売した頃は、賞味期限の3週間のうちに売れるのか心配もしましたが、1年間の販売目標を半年間で達成でき、現在も、お酒が得意でない方にもご好評をいただいています。
やわらかく、口に入れるとお酒がほんのり香る。
1%未満ながらお酒が含まれているので、
お子さんが食べる場合は保護者の方がくれぐれもご注意を。
―今後の目標をお聞かせください。
今西 「口に入るものは、人を大きく感動させる力があります」。挑戦を続けていきたいと思います。毎年変化する酒造りはもとより、夏仕込みのお酒やスイーツなど、新しい春鹿を楽しんでいただけるよう、常に挑める会社でありたいと思います。
―思いが伝わってきます。ありがとうございました。
商品名:「春鹿 純米 超辛口」【720ml】
価格:¥1,661(税込)
店名:春鹿公式通販サイト
電話:0742-23-2255(8:15~17:15 土日祝を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.harushika.com/fs/harushika/type03/gd13
オンラインショップ:https://www.harushika.com/shopping/
商品名:「HARUSHIKA SWEETS バームクーヘン」
価格:¥1,512(税込)(来年初春に販売再開予定)
店名:春鹿公式通販サイト
電話:0742-23-2255(8:15~17:15 土日祝を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.harushika.com/fs/harushika/baum/
オンラインショップ:https://www.harushika.com/shopping/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
今西清隆(株式会社今西清兵衛商店 代表取締役社長)
1960年奈良県生まれ。大学卒業後、酒類問屋 日本名門酒会 株式会社岡永で勤務後、1987年に入社。2005年に同社代表取締役社長に就任。 酒蔵SHOPのオープン、酒蔵イベントの開催、料理と春鹿とのマリアージュの会を各地で主催、また、オリジナルスイーツの企画商品化も手がける。品質を磨き、 日本国内はもとより、アメリカ、韓国、中国、シンガポール、フランス、オーストラリア等、世界10数カ国に輸出も広げている。
<文・撮影/大喜多明子 MC/鯨井綾乃 画像協力/今西清兵衛商店>