静岡県と言えば、日本を代表するお茶処。県内各地にお茶の産地が分布しています。今回ご紹介する「大塚製茶」は、静岡市と浜松市の中間に当たる掛川市で、明治時代よりお茶に関わってきた会社。明治、大正、昭和、平成、そして令和と、激動の時代を何度もくぐり抜けてきました。その5代目であり、今や海外にも積極的に日本茶の魅力を届ける取り組みをする大塚裕彦氏に、これからもっと、お茶を美味しくいただけそうなお話を伺いました。
海外からのラブコール多数!目利きの茶商のオリジナル日本茶
2022/11/04
大塚製茶株式会社 代表取締役の大塚裕彦氏
―御社の沿革について教えてください。
大塚 掛川市のそばには、南アルプスから太平洋へ注ぐ一級河川・大井川があります。昔はここに橋が架かっておらず、辺りには人を対岸へ渡す川越人夫が大勢いたそうです。ところが明治に入ると橋ができ、川越人夫の仕事がなくなってしまった。さてどうしようというときに、当時、輸出品として大人気だった日本茶を栽培しようと山の開墾を始めたそうです。そのメンバーの1人が、弊社の初代・大塚真平でした。
―掛川市はお茶作りに適した場所だったのですね?
大塚 そうなんです。この辺りは一級河川があるため肥沃な土壌に恵まれ、谷になっているので濃い霧が発生します。それがとてもお茶作りに適しているんです。お茶の木は半陰樹といって、日陰ですくすく育つ椿科の植物。一般的に植物は、アミノ酸を使い、光合成をし、繊維を作って樹木になりますが、光を遮るとアミノ酸の旨味成分が長期間、葉に残ります。このシステムをとことん活用して生まれたのが玉露で、芽が出るまでは日当たりのいいところで栄養分をたっぷりと吸わせ、その後、菰をかぶせて日陰で育てることで旨味の凝縮したお茶になるのです。それから、お茶はもともと熱帯雨林地方のもの。特に新芽は寒さに弱く、4月5月に寒波が来るような場所での栽培はできません。掛川はそのあたりも問題なく、白羽の矢が立ったようです。
掛川市の日坂・東山地区のシンボル・粟ヶ岳には、
大塚製茶によって大きな茶文字が描かれている。
―その後はどのように発展されたのですか?
大塚 2代目頃になると、茶の木の製造も軌道に乗ったようです。父から聞いた話ですが、2代目は髭をはやして1日中釣りする、ユニークな人だったとか(笑)。そして3代目はものづくりに長けており、特許をたくさん取りました。例えば、栽培は本家に任せ、自分は荒茶工場を造ります。生の葉を蒸気で蒸し、縒って乾燥させた状態を荒茶(煎茶の原料)と言うのですが、工場を作ったことで、お茶の葉が全国に出荷できるようになりました。さらに「深蒸し茶」を考案。これが弊社を大きく成長させてくれます。
―深蒸し茶とは、どんなお茶なのですか?
大塚 色は鮮やかな緑色。お湯を注ぐと茶葉がペーストのようにドロドロになりますが、淹れて飲むと爽やか。渋みもなく、飲みやすいのが特長です。それまでは、薄い黄色の上品な浅蒸し茶が主流だったので、深蒸し茶はとても珍しがられたと聞きました。
―製法が異なるのでしょうか。
大塚 お茶の葉は通常、蒸気で30〜45秒ほど蒸します。目的は、葉の中の酵素を死滅させるためなのですが、蒸しすぎると、料理と同じでまずくなってしまうのです。そこで3代目は、ギリギリの線を攻めるために、ドラム缶を細長くしたような形の網の下から蒸気を当て、葉っぱを右から左へと通すことで、お茶の葉をベストな状態に蒸すことができる装置を発明し、大量の深蒸し茶を作れるようにしたのです。それまでは、釜でグラグラ蒸していたようなので、非常に画期的ですよね。そして戦後生まれの4代目、私の父ですが、父は非常に商売上手。会社を株式会社化し、まだまだ珍しかった深蒸し茶を全国各地に売りまくりました(笑)。
1955年代、お茶の袋詰め作業。
―そして、いよいよ5代目です。
大塚 私は1994年に入社し、まずは工場でお茶作りに取り組みました。薬学部出身で、生薬や体の仕組みなどについても学び、実験も大好き。焙煎をさせてもらったところ、とにかく面白く、データを取るのが楽しみで、常に記録し突き詰めていった時期が10〜15年ほどあったでしょうか。その後、販売にも関わり、2000年に幕張メッセで開催された「FOODEX」という展示会に初出展した際、オランダ人の女性が弊社のお茶に非常に興味を持ってくれたことから、一気に海外への思いが募り、販路を広げていくことになりました。
整理整頓が趣味、という大塚社長のプロデュースで、
工場内も常に整っている。
―「Do YUNOMI」は、まさに海外仕様のお茶ですね。
大塚 海外での展開にも力を入れていきたい、ということになり、まずは海外対応できるスタッフの募集をかけました。それで入社してくれたスタッフを中心に、企画室を作ったんです。それまでは、「言い出した人が最後まで責任を取ること」という風潮で、新しいものが生まれにくい環境だったのですが、企画室を作ったことで、誰もが意見が出しやすく、商品化もしやすくなりました。この「Do YUNOMI」も、企画室の発案から生まれたもので、日本のお寿司屋さんで使われている湯呑みを思わせるパッケージに緑茶のティーバッグを詰めたもの。ちなみに外国の方は、苦味、渋味、そして舌にざらつきを感じるものは好まないので、このお茶は、クリアで香り豊かなところにこだわりました。
思わず手に取りたくなる「Do YUNOMI」。
―新発売の「オーガニック茶ギフトセット『縁樹』」も気になります!
大塚 こちらも企画室のアイデアで、オーガニックの玉露と抹茶、棒茶のセットです。玉露と抹茶は静岡県内産で、仲間に作ってもらっています。実は、有機栽培のお茶作りは非常に大変。なぜなら、お茶の葉が美味しいということは、葉の中に養分がたくさんないといけないのですが、そうすると虫がつきます。虫がくると病気になるので消毒しないといけません。何もせず、ほったらかしにしているとおいしいお茶はできませんので……。ということを踏まえると、オーガニックのお茶というのは、自然環境や食物連鎖のバランスを美しく整えられる人でないと作れないんです。なので企画はしたものの、原料を揃えるのが非常に大変でした。棒茶は九州の仲間から。通常なら、煎茶やかぶせ茶が入るラインアップのところ、僕が棒茶好きなもので(笑)。棒茶って、お茶の幹と葉を繋ぐ柔らかい茎の部分なのですが、甘くていいお茶ができるんですよね。この3点セットは自信作です。パッケージも素敵でしょう?小紋柄を取り入れつつ、おしゃれなものに仕上がりました。これまで弊社のお茶は、デザインにこだわったものがあまりなく、それでも「大塚さんのお茶は美味しいからね」と購入いただいていたのですが、インターネットの時代になると、やはり見た目が大事です。なので、自信作をこのデザインで発表できて、本当に良かったと思っています。
玉露、抹茶、棒茶、それぞれの美味しさが
堪能できるスペシャルセット。
―「ペットボトルのお茶がつくれるティーバッグ」も画期的ですよね。
大塚 1996年に、夏に売れる日本茶はないかと考えて、当時、水出しのお茶が出始めていたことから、うちでも「利久」という商品を作ったんです。これがお客さまに好評で。これはその応用編ですね。ティーバッグを縦長の形にして、ペットボトルに入れられるようにしました。緑茶と抹茶のブレンドで、色もきれいだし、味もいい。ぜひバッグに忍ばせて、気軽においしい日本茶を味わっていただきたいですね。
ティーバッグを入れて数回振れば、おいしい緑茶の出来上がり。
ティーバッグを入れたままでも苦くならず、いつまでもおいしい。
―今後の展望についても聞かせてください。
大塚 世の中の面白い日本茶をどんどん供給していける会社でありたいですね。弊社は今、茶商として全国各地の一級品を厳選し、紹介できる会社であるとともに、全国各地のお茶を独自でブレンド、焙煎することで、これまでにないお茶を生み出すこともできる会社です。その好奇心、探究心を忘れずに、お茶作りに精進していきたいと思います。
―プレイヤーであり、プロデューサーでもある立場から、日本茶への興味をぐんぐんと広げてくださるお話、ありがとうございました!
オーガニック茶ギフトセット「縁樹」(玉露40g、棒茶40g、抹茶30g)
価格:¥3,240(税込)
店名:大塚製茶株式会社
電話:0537-27-1113(9:00~18:00 土日祝日・特別休暇除く)
定休日:土日祝日 インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.cha8088.com/products/detail/273
オンラインショップ:https://www.cha8088.com
「ペットボトルのお茶が作れるティーバッグ」(3g×12p)
価格:¥486(税込)
店名:大塚製茶株式会社
電話:0537-27-1113(9:00~18:00 土日祝日・特別休暇除く)
定休日:土日祝日 インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.cha8088.com/products/detail/31
オンラインショップ:https://www.cha8088.com
「Do YUNOMI」(3g×10p)
価格:¥—(税込)
店名:大塚製茶株式会社
電話:0537-27-1113(9:00~18:00 土日祝日・特別休暇除く)
定休日:土日祝日 インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:—
オンラインショップ:https://www.cha8088.com
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
大塚裕彦(やすひこ)(大塚製茶株式会社 代表取締役)
1970年静岡県掛川市生まれ。名城大学薬学部卒。薬剤師、日本茶鑑定士。
大学卒業後に静岡県立茶業試験場に在籍したのち、1994年に大塚製茶株式会社へ入社。2010年に代表取締役に就任。静岡県茶業青年団団長、掛川青年会議所理事長などを歴任。社員教育に注力し、特に整理-整頓-清掃-清潔-躾の「5S活動」は社長就任以来、積極的に社内に取り入れている。
<文・撮影/鹿田吏子 MC/石井みなみ 画像協力/大塚製茶>