今回、編集長アッキーこと坂口明子の目に止まったのは、更科そばの元祖・総本家更科堀井の「半生そば冷凍かけそば」です。「お店でいただく打ち立てのそばに限りなく近い味を楽しめる」とのウワサを聞きつけ、興味津々。そんなアッキーに代わって取材陣が、株式会社更科堀井 代表取締役社長の堀井良教氏にお話をうかがいました。
更科そば元祖の”本物の味”を おうちで堪能!「半生そば冷凍かけそば (更科そば)2人前セット」
2022/11/18
総本家更科堀井9代目当主・株式会社更科堀井 代表取締役社長の堀井良教氏
―家に居ながらにして老舗名店の更科そばを、それも生に近い状態のものをいただけるなんて、夢のようです。「半生そば冷凍かけそば(更科そば)」の開発、そしてそれをオンラインで販売するようになった経緯を教えてください。
堀井 オンラインショップを開設したのは、コロナ禍がきっかけです。お店を開けられなくなり、なんとかしてお客さまに弊店のそばをお届けしたいと。半生のそばに関しては、実はコロナ禍前に開発を進めていました。お土産として多くの方にかわいがっていただいている弊店のそばを、手軽に召し上がっていただけたらと1年以上試作を繰り返し、ようやく納得のいくものが完成したのが、オンラインショップを始めた頃。この、半生のそばを冷凍すれば、味も食感もそのままの状態でお客さまのもとにお届けできると、さっそく商品のラインナップに加えました。
販売開始から大人気の「半生そば冷凍かけそば(更科そば)2人前セット」。
セットの内容は、そば100g×2、そばつゆ400g×2。
そばの茹で時間は約3分、そばつゆは鍋で温めるだけ。作り方が記されたカードがついているので安心です。
―お店でいただくそばと同等のクオリティを実現するのは、さぞや大変だったことでしょう。
堀井 半生そばは、創業以来伝わっている弊店独特の更科そばを科学的に再現したもの。完成までに少し時間は必要でしたが、特段変わったことはしていないんです。課題は、いかにして麺がボロボロになるのを防ぐか。そこに工夫が必要でした。
ご家庭でそばを気軽に楽しんでいただく方法としては、現在、どちらのお店でも乾麺の状態でのご提供がメインかと思います。もちろん、弊店でも乾麺を扱っています。
ただ、乾麺ですとそば粉の割合がどうしても少なめになります。というのも、そばにはグルテン(小麦粉に水を加えてこねるとできる成分)が含まれず水溶性のタンパク質が多く含まれているので、水気が少なくなると切れやすくなるんですね。ですから通常、そばの乾麺はそば粉より、グルテンをたくさん含む小麦粉の割合が高いんです。でも、そばのよさを味わっていただくと思えば、そば粉の割合を増やしたい。そこで、つなぎ役としてグルテンを加えれば、そば粉7〜8割で小麦粉3〜2割の乾麺ができます。
ただ、グルテンを加えるとどうしても麺の弾力が強すぎてしまったり、グルテン独特のにおいもして、そばの香りが負けてしまうんです。
麺の切れやすさを防ぎつつ、そば独特の食感や香りの残る麺をつくりたい。私はずっとそう考えていました。
―グルテンに代わるものは見つかったのでしょうか。
堀井 新たに見つかったのではなく、弊店に伝わる技術の中にヒントがありました。
弊店の人気メニューのひとつに、そば粉をそのまま水で練った「そばがき」があります。そば粉を掻くうち、そば粉がアルファ化をして練りが出て、もっちりします。そのことを思い出し、アルファ化したそば粉はグルテンの代わりになるんじゃないかと考えました。試してみたところ、大正解。そば本来の食感や甘み、香りを残したまま、そば粉7小麦粉3の麺ができました。ですから、半生そばは新たに生まれたというより、弊店伝統の技を科学的に再現した、といったほうがいいかもしれません。
―そばのつゆについて、こだわっていることはありますか?
堀井 「半生そば冷凍かけそば(更科そば)」におつけしているかけつゆは、毎日、店でつくっているつゆをそのまま瞬間冷凍し、真空にしています。つまり、店でお出ししているつゆ、そのものです。材料は、サバ節とカツオの亀節、醤油と砂糖でよけいなものは入れていません。カツオの亀節には血合いが少し入っているので、カツオ独特の香りとコクを活かすために使用しています。
―おすすめの食べ方は、ありますか?
堀井 更科そばとつゆの味を楽しみたいなら、シンプルにかけそばを。ほかにはお好みの食材を使って、おかめそばや卵とじそばにしていただいてもいいですし、市販の天ぷらをのせてもおいしく召し上がれると思います。
ありあわせの具をのせて「なんちゃっておかめそば」に。
スーパーで購入したかき揚げをのせて。麺が伸びにくいのか、最後までするするといただけます。
かけつゆはカツオがきいていて、しみじみ美味しい。
―半生そばは「伝統の技を科学的に再現した」とうかがいました。あらためて、貴店の歴史についてお聞かせいただけますか?
堀井 創業は江戸時代の1789年です。店の祖である布屋太兵衛はもともと信州の反物商だったのですが、地元ではそば打ち名人として知られ、信州の領主だった保科兵部少輔に「江戸でそば屋をやったらいい」と勧められ、保科家の江戸屋敷に近い麻布永坂町に店を構えました。店の名前は、太兵衛の出身地である信州更級郡の「更」と、声をかけていただいた保科家の「科」をとって「信州更科蕎麦処 布屋太兵衛」としたと伝わっています。
そばが一般的に食べられるようになった江戸時代初期は、麺の色は黒くて舌ざわりもボソボソとしたものだったようですが、太兵衛の打つ更科そばは、そばの実の芯の部分だけを
使うため、色は白く上品な甘みがあり、将軍家や大名屋敷で評判となったようです。明治に入ってからも、皇室や宮家などに出前を届けていたといいます。
私の祖父にあたる7代目の時代には、昭和大恐慌の影響もあって廃業の憂き目に遭いましたが、地元のみなさんのご支援をいただいて営業を再開。あちこちに支店を出し、業績も盛り返しましたが、8代目である私の父は、太兵衛から続く堀井家の業として、よりきめ細やかな商売をしたい、お客さまに本物の更科そばをご提供したいと考えました。そこで、私が大学を出た1984年に独立し、「総本家更科堀井」を立ち上げました。私自身はそれまで、そばづくりに携わったことはなかったのですが、父親の熱意に共感し、2人で新しい道を歩み始めたのです。
―そば打ちには技が必要だと聞きます。経験がないなかでお店を始めるとなると、ご苦労があったのでは?
堀井 はい。多くの方々に助けていただきました。他の老舗などにご支援いただいて、伝統の、そして一流の技術を学びました。とはいえ実績がないので、開業から2、3年は大変な思いをしましたが、それでも応援してくださる方々のおかげで、少しずつ売上げが上がっていき、現在に至ります。
ひとつの転機となったのは、「手打ち」を始めたことでしょうか。機械打ちでもおいしいそばができるのですが、私は原点回帰というか、祖先がやっていた昔ながらの本格的なそばつくりをしたいと思ったのです。手打ちそばは、機械打ちのものに比べると表面が少しざらついているので、つゆの乗りがいい。適度なコシがあり、そばの香りも立つのです。
ただ、手打ちを始めると自分で粉を挽きたくなり、店に石臼を入れて自家製粉することに。そうやって、1つ手間をかけると次の手間が生まれるわけですが(笑)、日本一おいしいそばをつくってお客さまに味わっていただきたいという一心で、今日までやってきました。
麺の白さ、甘み、香りの高さ、するするっとのどごしがよいのが更科そばの特徴。もりそばはその特徴を存分に味わえます。
―原点回帰しつつ新しい技術を取り入れていく。それでこそ伝統は続いていくのですね。今後はどのような展開をお考えですか?
堀井 弊店にわざわざ足を運んでくださるお客さまのためにも、慢心せず、ますます技術を磨いていく所存です。加えて、お客さまに、お取り寄せならではのそばの楽しみ方もお伝えしていきたいと思っています。
今、一般的には、そばは打ちたて、そばに添える天ぷらも揚げたてがおいしいとされています。もちろんそうなのですが、弊店はもともと、将軍や大名のお屋敷にそばをお届けしていました。つまり、打って、ゆでてから少し時間が経つわけですが、それでこそ更科そばの本領発揮。更科そばは少々時間が経ってもボソボソせず、するするっと召し上がっていただけるのです。
天ぷらにしても、朝に揚げておいて、お持ちする直前に少しつゆにつけて温めていたんですね。そうすると余分な油が切れて、もともと脂っこいものをあまり好まない江戸っ子たちに大変好評だったそうです。
それを考えると、もりそば、かけそばだけでなく天ぷらそばや鴨南蛮なども冷凍にすることで、お取り寄せの一品として楽しんでいただけるのではないか。そう思って商品開発を進めています。冷凍の鴨南蛮、鴨せいろについては昨年、販売を開始し、おかげさまでご好評をいただいています。天せいろ・天ぷらそばも、もうすぐご提供できると思います。
―ニューヨークにも出店されたそうですね。
堀井 アメリカの方たちにも本物のそばを食べていただこうと。国内外にレストランを展開している、クリエイト・レストランツさんと共同で、昨年7月にオープンしました。現地の方々には、弊店が230年もの歴史を持っていることや「将軍が食べたそば」ということで興味を持っていただけたようです。今後はさらに、更科堀井の伝統をベースにしながらも、よりニューヨークのみなさんに喜んでいただけるものを展開していきたいと考えています。
―ニューヨークではヘルシー志向がより高まっていると聞きます。健康食でもある日本のそば、それも”本物のそば”はきっと大人気となりますね! ワクワクします。素敵なお話を、ありがとうございました。
「半生そば冷凍かけそば (更科そば)2人前セット」
価格:¥1,600(税込)
店名:総本家更科堀井
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.sarashina-horii.jp/SHOP/SHF-SS-K.html
(商品をリニューアルし、2022年12月以降販売開始予定)
オンラインショップ:https://www.sarashina-horii.jp
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
堀井良教(株式会社更科堀井 代表取締役社長)
1961年東京都生まれ。1984年大学卒業後「更科一門」にてそばの技術を習得したのち、同年更科本家8代目の父とともに「更科堀井」を開業。2002年同社代表取締役社長に就任。「全日本・食学会」「日本料理アカデミー」などで理事を務め、食文化の発展に注力している。
<文・撮影/鈴木裕子 MC/橋本小波 画像協力/更科堀井>