都会の喧騒や忙しい毎日に疲れたとき、行きたくなるリゾート地といえば、軽井沢。「軽井沢」という名前を聞くだけでも、なんだか癒される気がします。今回、アッキーが気になったのは、ジャムでおなじみのセルフィユ軽井沢の大人気商品、「スイートプリンジャム」。セルフィユ軽井沢 創業者の長澤宏治氏に、プリンジャムの開発秘話や、おいしさと人気の理由を、取材陣がお聞きしました。
食卓に爽やかな軽井沢の風を届けてくれる セルフィユ軽井沢のスイートプリンジャム
2022/12/08
セルフィユ軽井沢 創業者の長澤宏治氏
―食品関係の仕事に携わるようになったきっかけは。
長澤 ベースにあるのは高校から大学まで喫茶店でアルバイトさせていただいた経験だと思います。当時の喫茶店はメニューにも雰囲気にも、その店ならではのオリジナリティがありました。アルバイト先のマスターに命じられてスタッフの賄い食を作りながら、ちょっと変わったメニューの開発もさせていただくのがとても楽しかったんです。といってもサンドイッチやトーストくらいですけれど、おいしい組み合わせを考えて、メニューに採用されたときは嬉しかったですね。
その後大学を卒業して一般企業に勤めたのですが、思うところあり長野県白馬にIターンして、お土産物屋さんで住み込みのアルバイトを始めたんです。ちょうどバブル前夜、1986年の秋でした。当時はまだ私の中に明確なビジョンはありませんでしたが、思い立ったが吉日ということで。見知らぬ土地で何かできないかな、何かできるんじゃないかという淡い期待と若者にありがちな根拠のない自信だけは持っていましたが(笑)。
―バブル期だとお土産屋さんも忙しかったでしょうね。
長澤 はい。まさに団体旅行の全盛期でもあり、スキーブームも始まりましたし。「旅行に行ったらお土産をたくさん買って帰らなければ」という習慣、文化もありました。言葉は悪いですけれど、何か出せば売れる、並べておけば売れるという状態でした。
なので、なかにはあまり質のよくない商品もありました。名前だけは「信州名産」と入っているけれど、生産地は県外だったり。そのため、お土産物業界を揶揄する言葉もよく聞きました。「上げ底商法」とか、「土産物にうまいものなし」とか。質が悪いのだから値切るのは当たり前、みたいな……。
僕らは会社が問屋さんから仕入れた商品を店で販売するわけですが、お客様に直接声を掛けられる立場でもありましたので、そういったお声を聞くたびにアルバイトながらに忸怩たる思いがありました。良い商品は自分が探してくるか、もしくは自分たちで作るしかないと思い始めたのがこの頃です。
―その時の苦い経験が今につながっているんですね。
長澤 はい、その通りです。今はさかんに6次化(生産者が加工と流通・販売も行い、経営の多角化を図ること)ということが言われていますが、当時はそんな言葉もありませんでした。その後、地元の小さい食品会社で商品の開発や購買を任せていただけるようになり、良い商品になる原料を求めて長野県内全市町村を探し回りました。あの頃はインターネットも普及していませんから、役場や商工会に電話をかけたり、車で探し回るしか方法は無かったのですけれど。
その頃「ふるさと創生事業」で市町村に地方創生資金が1億円ずつ配られ、長野県内でも各地に食品加工施設が建設され、ジャムやジュース、しょうゆ、豆腐などが作られていました。しかし作ったはいいけれど売る場所がないという事例が相次いでおり、また、小規模の製造者さんたちにおいては流通再編や産業構造の変化と共に自社商品の販売力が低下し、大手メーカーの下請け的な製造を続けざるを得ないという状況であることも知りました。せっかくおいしい農産加工食品を作る技術や素材があるのに、あまり活かされていないなと感じました。
―それは生産者さんのモチベーションに関わりますよね。
長澤 そうなんです。しかも生産や製造に携わっている人たちは皆高齢化していて、後継者がいないなど様々な問題も顕在化しています。であれば、裏付けのある加工技術や素材を活かした商品たちをブランド化して、商品の価値を皆さんに知っていただき、見合う値段で提供するという売り方をするべき。その市場を自分がつくろうと思いました。それが、この事業を立ち上げたきっかけです。
のちに、ある農家さんが、自分たちが生産した柚子を使った加工品が弊社ブランド商品となって百貨店に誇らしげに並んでいるのをご覧になって、本当に嬉しそうな顔をされていたんです。その表情を拝見したときは本当に嬉しかったですね。
おいしさを長く保存できるのがガラス瓶の魅力。
大切な人へのギフトにもぴったり。
―生産者の顔が見えるのは、消費者にとっても嬉しい取り組みです。ところで、なぜ瓶詰食品にこだわられたのでしょうか?
長澤 かつて勤めていた会社で食物販や飲食店等様々な業態の立ち上げと運営に関わらせていただいたのですが、共通していたのが「食品廃棄」という問題でした。パン屋さんやお総菜屋さんなど、夕方になると値引きを始めますよね。労力に見合う定価で販売できない、その悲しさ……。かつて、土産物は値切って当たり前と言われたこととも重なりましたし、更に、せっかく作ったものを廃棄しなくてはいけない辛さもあります。
でも、瓶詰食品であればおいしいものをキレイなまま長持ちさせられますよね。今日の価値と明日も同じ価値がある。その価値を感じていただけるような物を作りたいと思いました。
とはいえ、ガラス瓶産業って斜陽産業ともいわれています。ペットボトルに比べると重たいし、割れるし。しかし回収されたガラス瓶はほとんどが成形し直され、きちんと再利用されているんです。逆に言えば、落すと割れてしまうからこそ、大切に扱っていただけるガラス瓶。もっともっと大事にしたいと思います。
―会社創業時の理念はどんなものでしたか。
長澤 セルフィユ軽井沢は2002年「軽井沢から皆さんに心地よい風を送りたい」という気持ちで始まった会社です。でも実は会社をつくろうと決めたときには、理念がカチッと定まってはいなかったんです。「瓶詰食品を皆さんに届けたい」という想いだけで、漠然としていました。
そんなとき(創業の前年)に起きたのがニューヨークの同時多発テロです。それまでの価値観や安全神話がひっくり返されて、世の中の空気がガラッと変わりました。とくに都会では不安や負の要素が渦巻いていることを強く感じました。こんな時だからこそ、都会の人たちにリゾートの心地よさや豊かな食文化を感じていただきたい。「食」や「食空間」による癒しを提案したい。Iターンしてきた自分だからこそそれができるんじゃないか、という勝手な使命感を抱いたんです。
ですから創業当時は瓶詰食品だけでなく、フランス製のルームフレグランスやテーブルウエア、ボディオイル等も販売していました。おいしいものはもちろんだけれど、フルーツの香りが漂う心地よい空間で癒されることもありますよね。
日本ですと香りと食を一緒に提供するのはタブーと言われ、フロアも売場も明確に区分されがちですが、のちにパリやニースに行く機会があり、街のエピスリーでフルーツ由来のフレグランスとコンフィチュールが同じ棚に一緒に並んでいるのを見たときに、自分がやっていたことは間違いじゃなかったなと思いました(笑)。
—セルフィユという社名はどのように生まれたのでしょうか。
長澤 セルフィユは、みなさんご存じのようにハーブの名前で別名チャービルともいわれます。繊細でやわらかく、優しい香りがして、料理の味を引き立てるだけでなく、プレートの上を飾るのにも使われます。
その爽やかな印象と、主役ではなく脇役だけれども食卓にさりげない彩りを与えてくれる存在であるということが、「これから私たちが開発していく商品で、皆さんの食のシーンをさりげなく豊かにしていけたら」という思いに重なりました。
―長野県には、ジャムのお店がたくさんありますよね。どんな差別化を考えられたのでしょうか。
長澤 長野県は昔からその風土が生みだす野菜や果実を用いた加工食品づくりが盛んなところで、生活の知恵からうまれた保存食の文化もあります。長い冬を乗り切る為の漬物も有名ですし、夏秋に収穫した果実を砂糖と一緒に煮てジャムにすることで保存したり。4月20日は「ジャムの日」というのをご存じですか? 長野県小諸市(当時の三岡村)で製造したイチゴジャムを明治天皇に献上した日だそうです。
そういう歴史的な背景もあってか、おいしいジャムのお店がたくさんあります。そのなかで僕らが目指した商品開発は、まずは素材の味をしっかりわかっていただけるような、いわば直球勝負のジャムです。創業時の第1号商品として世の中に送り出したフルーツジャムは、「デザートジャム」といって糖度は35度、原料はフルーツとグラニュー糖のみ。レモン果汁さえ使わずに作り、まるでデザートとしてフルーツを食べているかのような味わいのジャムになりました。
そこから派生して、フラクトースという結晶果糖(果物に含まれている糖分)やハチミツを使ったシリーズを出したり、フランスのコンフィチュールのように果実やスパイスを重ね合わせて作る味わい深いジャムをつくったり、いろいろな選択肢を提供できるように商品開発を進めました。
余談ですが、もしフルーツジャムに果実を生で食べているようなおいしさを求めるなら、そのままフルーツを生で食べればいいと思うんです(笑)。そうではなく、加工したからこそ生まれるおいしさを追求していきたいと考えています。他方、フルーツジャムに代表される直球だけでなく変化球も投げようと思いまして。世の中に「ありそうでなかったもの」を商品化しようと。その代表的なものが、「スイートプリンジャム」です。
ぽってりとした瓶も魅力。
軽井沢ギフトの定番として愛されている「スイートプリンジャム」。
―「スイートプリンジャム」はどんなふうに開発されたのでしょうか。
長澤 「世の中に広く知られている食べ物で、まだ世の中に存在していないジャム」を考えていたときに思いついた商品です。当時、ある協力工場でミルクジャムを作ってもらっていたんです。みなさんが想像するミルクジャムはタラーッと垂れる練乳タイプだと思いますが、当時僕らが作っていたのは、プルプルのムースのようなミルクジャムでした。そのミルクジャムを眺めながら「この中にカラメルが入っていたらプリンかも!」と閃いたんです。
試作したら、なんと、これが、まさにプリン風だった。更に工場の方々と試作を重ねて、よりプリンに近い味のジャムができあがりまして。でも、確かにプリンの味がするジャムなのではあるけれど、プリンジャムと呼ぶには、当時使っていた瓶ではなんとなくしっくりこなかったのですが、たまたま瓶メーカーさんが新作のアイデアを持ってきてくれたのが、プリン型の瓶だったんです。プリンジャムを開発していることは内緒にしていたので、偶然でした。色々なタイミングがぴったり合って、「この勝負、勝ったな」と思いましたね(笑)。
2006年「スイートプリンジャム」が販売開始となり、同年の「ガラスびんデザインアワード」で特別賞を受賞しました。さらに有名人の方々が「ホワイトデーのプレゼントにぴったり」などと言ってくださって一気に認知が広がりましたが、発売から16年経過した今でも、旧軽井沢銀座通りの店におりますと「え? プリン? ジャム?」と喜びや驚きのお声を耳に致します。
現在では全国数多くのメーカー様でそれぞれに「プリンジャム」が作られていますが、世界に「プリンジャム」というカテゴリーを創りだしたのは私たちだと自負しています(笑)
パンに塗ったりサラダに乗せたり、色々使えて料理がランクアップする「デリディップ」。
―「デリディップ」シリーズはどのように生まれたのですか。
長澤 創業時に、おかずのような感じでパンに塗ってそのまま食べられるものはないかな、と考えていたときに思い出したのが、子どものときにパンにマヨネーズやケチャップを塗って焼いて食べたことです。「こども心に、シンプルだけどぜいたくに感じた、あの時のおいしさを商品にできないかな」と。
更にはパンに塗るだけではなく、いろいろな用途に使えるようにしたいと。パスタソースにしたり、卵料理にかけたり、ひと瓶あるだけで色々使えるようなものを工場の方々と一緒に考えたんです。会社がスタートする前、試作品のディップたちを我が家に持ち帰り、パン・野菜・ハム・たまご等の素材たちと一緒に庭のテーブルに並べて家族全員で食べましたが、あの時の、自分たちが創りだした美味しさによる感動は今でも忘れません。
試食販売を行っても、すごくお客様の反応がよいです。この瓶詰たちがテーブルにあるだけで、いつものパンが全然違うものになる。いつものオムレツがレベルアップする。なかには、パンでなくご飯にのせて食べているというお客様もいますし、使い方は無限に広がると思います。まさに「キッチンにリゾートの風」が吹くような商品です。
目玉焼きやソーセージにもぴったりの「デリディップ 和風梅カツオマヨ」。
―今後の目標や計画などありましたら教えてください。
長澤 以前、プルプルタイプのスイートプリンジャムとは別に、なめらかタイプの「プレミアムプリンジャム」というのを作っていたんです。現在はスイートプリンジャムがなめらかタイプにリニューアルして、プレミアムとの差があまりなくなってしまったので今は販売をやめているのですが、もう一度きちんと差別化できる「プレミアムプリンジャム」を復活させたいと思っています。食べてはっきりと差がわかるようなものでないといけないので、とても難しいのですが。そのために、特別感のある素材を探しているところです。
また5年ほど前から「軽井沢のおやつ」というブランドをつくってお菓子を販売し始めているのですが、ようやく昨年、商標登録ができました。これは単にお土産ギフトという括りではなく、たとえば旧軽井沢銀座の街歩きをしながら食べたいなと思っていただけるお菓子、都会の方々が「そういえばあれ食べたいな」と軽井沢の風景と共に思いだしていただけるようなお菓子、そういったイメージです。
このブランドを共鳴してくださる企業やお店の方々と一緒に世の中に広めていきたいというのが現在の夢です。今は多様化の時代、価値観もいろいろです。マスマーケティングからニッチマーケティングへと言われて久しいですが、小規模だからこそできること、小規模でないと創りだせないもの。これからもそういったモノやコトを、軽井沢から皆様へ提案し続けていきたいです。
—これからも楽しみにしています。今日は素晴らしいお話をありがとうございました!
「スイートプリンジャム」
価格:¥735(税込)
店名:セルフィユ軽井沢
電話:0120-76-8188(10:00~17:00 土日祝除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.cerfeuil.jp/fs/cerfeuil/jam/cfpjsw-110
オンラインショップ:https://www.cerfeuil.jp/
「デリディップ 和風梅かつおマヨ」
価格:¥702(税込)
店名:セルフィユ軽井沢
電話:0120-76-8188(10:00~17:00 土日祝除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.cerfeuil.jp/fs/cerfeuil/dip/cfyduk-100
オンラインショップ:https://www.cerfeuil.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
長澤宏治(株式会社セルフィユ軽井沢 代表取締役・株式会社セルフィユ 取締役)
1964年岩手県生まれ。小学校入学と共に千葉県へ。学生時代の喫茶店アルバイト経験から【パンに塗るもの】を開発する愉しさを覚える。大学卒業後、リース会社勤務を経て長野県の食品販売会社へIターン就職。長野では2社に在籍した15年間に様々な業態開発、店舗運営、商品開発を手掛ける中で、瓶詰食品に魅せられ2002年同社を設立。
<文・撮影/臼井美伸(ペンギン企画室) 画像協力/セルフィユ>