おいしく、かつ安心・安全なものを読者のみなさんにご紹介したい……とリサーチに余念がない編集長アッキーこと坂口明子。今回、そんなアッキーのアンテナにかかったのは、大阪・黒門市場で70余年、鮮魚・淡水魚介類・くじらを扱ってきた株式会社新魚栄です。水産高校の学生たちが、農薬も抗生物質も使わずに育てた鰻やすっぽんを使った商品があると聞いて、興味津々。同社代表取締役の網干貴之氏にお話を伺いました。
農薬&抗生物質不使用で安心・安全 手塩にかけたからこその極上の味焼津水産高校「鰻蒲焼セット」「すっぽん鍋セット」
2022/12/28
株式会社新魚栄 代表取締役 網干貴之氏
―水産高校の学生さんたちが育てた鰻やすっぽんとは、どういうものなのでしょう?
網干 静岡県の焼津水産高校の学生さんたちが、授業の一環として鰻やすっぽんを育てているのです。水産系の高校や大学でも同様に育てているところはありますが、現在、商品として出荷できる量を育てているのは日本で唯一、焼津水産高校だけです。
「焼津水産高校の鰻蒲焼セット」。
80g✕5パックと蒲焼のたれ&さんしょう✕5が、冷凍の状態で届きます。
箱から出した状態。鰻はこのまま電子レンジで温めるか
(1パック、500wで約1分15秒)、沸騰したたっぷりの湯に袋のまま入れ、
ふたをせずに約5分間温めるだけ。たれやさんしょうは加熱不要です。
「焼津水産高校 すっぽん鍋セット」。
すっぽんの身(骨付)400gとすっぽんスープ360ml✕1のセットです。
こちらも冷凍の状態で届きます。
―大阪・黒門市場に店舗を構える新魚栄さんが、なぜ静岡の水産高校と?何かご縁がおありなのですか?
網干 始まりは、長年おつき合いをさせていただいている百貨店さんから、地下の食品売り場に「鰻の店舗を出してほしい」と依頼されたことです。せっかくなので、他にはない、当店ならではの鰻をご提供したいと思いました。
だったら、私の母校である近畿大学で育てた鰻がよいのではないか。近畿大学といえばマグロの養殖で有名ですが、確か鰻の養殖も行っているはずだと農学部水産学科を訪ねました。
私自身、農学部で学んでいたのでわかるのですが、同じ鰻にしても、生き物が好きな人が育てるものは状態がとてもいいのです。なぜなら、マグロにしても鰻にしても、ちょっと弱ってきたかな?と思うと餌を変えたり、環境を整え直したりと、手間を惜しまず大切に育てるからです。
ところが、近畿大学の水産学科では、鰻の稚魚であるシラスウナギが高騰したため、養殖をやめてしまったといいます。代わりに、水産学科の教授が紹介してくださったのが、焼津水産高校でした。
―実際、焼津水産高校の鰻の状態は、いかがでしたか?
網干 私たちもプロですから、商品に関して妥協はできません。すぐに現地へ行き、学生たちが鰻をどのように育てているのか見学させてもらったのですが、驚きの連続で感心しっぱなしでした。
一般的な養殖鰻は半年、長くても1年で成魚に仕上げるのが主流ですが、学生たちは2年かけて育てていました。1年生の12月にシラスウナギを飼い始めて成魚に育て上げ、それを3年生の学園祭の際に出荷すると。
学生だから要領を得ず、育てるのに時間がかかるというわけではありません。そもそも、鰻は成魚になるまで2年かかるものなのです。
つまり、学生たちは鰻を自然とほぼ同じ環境で、鰻本来の成長のスピードに従って育てているわけです。
餌は、鰻やすっぽんに与えるたびに学生たちが手作りしています。
―なぜ、一般的な養殖鰻は短期間で育てるのですか?
網干 養殖の場合、成魚になるまでの期間が長くなればなるほど、人件費や設備費、えさ代などの経費がかさむからです。ビジネスのことを考えれば、できるだけ短期間に大量の鰻を育てたい。そのため、通常は27〜30度くらいの温水プールの中で養殖します。
鰻は水温が下がると冬眠するので、いつも夏のような環境を保ち、鰻をつねに元気な状態にしておくのです。その結果、鰻は短期間で大きくなりますが、身がしっかり成長しているわけではなく、脂ばかりが多くて鰻本来の味や食感を味わえなくなってしまうのです。
その点、焼津水産高校の鰻はじっくり成長するので、鰻本来の肉質がしっかりしていて、白身本来の上品な旨みがあります。もちろん脂も適度に乗っています。
元気よく、餌を食べる鰻たち。
身は、肉をしっかり感じられ、しかもふっくら。
皮は天然もの同様、やや硬めですが、
しっかり蒸してじっくり焼いているので美味しくいただけます。
―こちらの鰻には、抗生物質を投与していないとのこと。病気で死んでしまわないのでしょうか。
網干 私も同じ疑問を持ちました。そこで、学生たちを指導している先生に伺うと、「もちろん死んでしまう場合もあります」と。でも、その時は学生たちに「なぜ死んでしまったと思う?鰻が弱っている時に、消化しやすい餌に変えたり、野菜をあげたりしましたか?」と聞くのだそうです。
すると学生は、「すみません、していませんでした」と反省し、それまで以上に鰻の様子をよく観察し、ていねいに世話をするようになる。そうやって「未病」の段階で対処するので、抗生物質を投与する必要がないのだそうです。
学生たちは生き物が好き、鰻を育てるのが好きだからと、みんなで交代しながらお正月も休まずに世話をしています。手間ひまかけるのが苦にならないどころか、手間ひまをかけたいと。毎朝、8時に餌を作って与え、それから授業に出て、放課後もすぐに養鰻場に戻って餌を作って与えるのだそうです。
一般的な餌は、キャットフードのような乾燥してカリカリしたものなのですが、彼らは鰻が食べやすいようにとやわらかいものを手作りしています。タンパク質やビタミン類などがバランスよく摂れるように、なおかつ薬や化合物などは使わずに。
そのため、時間が経つと味や栄養価が落ちてしまうからと、学生たちは餌を作ったらすぐに、走って養鰻場に向かうんですよ。
―すっぽんも、そのように手間をかけて育てているのですか?
網干 そうです。養殖すっぽんも、近年は約1年半で出荷するのが主流です。でも、焼津水産高校では鰻と同様、すっぽんの成長に合わせてゆっくりと、手塩にかけて育てています。
一般的な養殖すっぽんとの違いは、目で見てわかります。脂身が真っ白なんです。私はこの仕事を始めてからすっぽんをさばいてきましたが、それらの脂身は黄色いんです。短期間で育てるブロイラー(鶏肉)の脂身が黄色いのと同じです。身も脂っぽい。
でも、学生たちが育てたすっぽんの白い脂身は、すっきりとして美味しい。身も適度に締まっていて食べごたえがあり、甘みがあります。旨みたっぷりなので、スープも最高の味です。
すっぽんの身も肉質がしっかりして食べごたえ十分。
脂は、ご覧のとおり白くてきれい。
―網干社長が惚れ込んだ鰻とすっぽん。商品化するにあたって、ご苦労はありませんでしたか?
網干 商品には絶対的な自信があったのですが、お取引先を説得するのに少し時間がかかりました。
お店から、たとえば100kgのご注文をいただいたとしても、水産高校の鰻は農薬も抗生物質も不使用で安心・安全な代わりに、死んでしまうこともありますし、学校の行事があったり学生たちの体調次第で、60kgくらいしか揃わない可能性もあります。
この点をご理解いただくのに、1〜2年ほどかかったでしょうか。命あるものは、いつ死んでもおかしくありません。それが、自然です。絶対に死なないというのは、薬漬けにしない限り無理です。
そういうものが私たちの体の中に入ってきて、安全・安心でしょうか?というようなお話を根気よく続けました。
まずは定番、鰻丼に。新魚栄のこだわりは鰻の表面をカリッと焼き上げ、
中身はジューシーで柔らかく、脂を閉じ込めることだそう。
そのとおり、身はしっかりしていながら柔らかく、鰻本来の味と香りが堪能できます。
たれの原材料は「しょうゆとみりん、砂糖」のみで、こちらも安心!
社長のおすすめ、鰻茶漬け。
脂がさっぱりしているので、鰻の旨味をたっぷり感じながらもサラサラといただけます。
スープには、コラーゲンがたっぷり。
最後にごはんを入れ、卵で閉じておじやにすると最高に美味!
―網干社長が、水産高校の鰻やすっぽんにそこまで熱心になられるのはなぜでしょう。
網干 先代の父親はつねづね、「私たちの体は爪1つ髪の毛1本まで、食べたものからできている。われわれが提供する食材はお客さまの命を育む大切なものだから、しっかり見極めて、安心・安全なものを届けなければいけない」と言っていました。
私も従業員たちも、この父の言葉を肝に命じながら仕事をしてきました。当初、近畿大学にご相談に伺ったのもそのためですし、焼津水産高校はその近畿大学からのご紹介ですから、間違いありません。
実際、学生たちがいかにまじめに、心をこめて鰻やすっぽんを育てているかを私はこの目で見ていますから、商品には自信を持っています。
現在、天然の鰻やすっぽんは入手するのがむずかしく、ほとんどが養殖です。でも、学生たちのように手間ひまをかければ、限りなく天然に近いものが育ち、本来の鰻やすっぽんの持つ味わいや栄養を引き出すことができます。
ですから私は、1人でも多くの方に、本当においしい鰻やすっぽんを味わっていただきたい。そして、その「本当のおいしさ」は学生たちの愛情と努力によって生まれているのだということを知っていただきたい。その思いだけです。
―2013年に「学校は美味しい」という商標登録を取得されたのも、その思いから?
網干 はい。それで、今回ご紹介させていただく2品も「焼津水産高校」をブランド名にしていますし、ほかにも、近畿大学水産研究所で大事に育てられた「近大マグロ」や「近大真鯛」を使った商品を販売しています。
私は子どもの頃から、父に「農業や漁業、酪農畜産など一次産業は、日本の大事な基幹部分。自分たちで食を作れなくなったら、この国は立ち行かなくなる」と聞かされてきました。
ですから私も、漁業や農業など食に携わる人たちに「自分たちは大切な仕事をしているのだ」ということを知ってもらいたい、食をつくる人が自分の仕事に夢を持ってもらうために何かできないかと、つねに考えているんです。
学校の名前をブランド化することで、次代を担う学生たちに自信と希望を持ってもらえたら、私としてはこんなに嬉しいことはありません。
―それでは最後に、今後のビジョンをお聞かせいただけますか?
網干 繰り返しになってしまうのですが、弊社では「次世代育成」を看板に掲げています。現在、海外の水産業はめざましく発展しています。日本の水産業も過去の栄光を取り戻すために、次世代の人たちに頑張っていただきたい。
その鍵を握るのは学生たちです。彼らを通して、日本の水産業が発展していくこと、食品自給率が上がっていくことを望んでいます。
もちろん、次世代の人たちに期待を寄せてばかりではダメで、私たちも学生たちと一緒に希望あるビジョンを作っていきたい。そう思っています。
―鰻やすっぽんを通して、次代を担う学生たちのこと、そして日本の漁業についてあらためて考える機会をいただきました。貴重なお話を、ありがとうございました!
「焼津水産高校の鰻蒲焼セット」(80g✕5P)
価格:¥10,800(税込)
店名:新魚栄
電話:06-6636-0085(午前10時~午後5時 土日祝日除く)
定休日:土曜、日曜、祝日 インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://store.shopping.yahoo.co.jp/shinuoei-store/20103002.html
オンラインショップ:https://store.shopping.yahoo.co.jp/shinuoei-store/
「焼津水産高校 すっぽん鍋セット」(すっぽんの身・骨付 400g、すっぽんスープ360ml✕1本)
価格:¥10,800(税込)
店名:新魚栄
電話:06-6636-0085(午前10時~午後5時 土日祝日除く)
定休日:土曜、日曜、祝日 インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://store.shopping.yahoo.co.jp/shinuoei-store/20213010.html
オンラインショップ:https://store.shopping.yahoo.co.jp/shinuoei-store/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
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網干貴之(株式会社新魚栄 代表取締役)
1967年9月15日大阪府生まれ。近畿大学農学部を卒業後、アメリカでパイロットの資格を取得。帰国後、かまぼこメーカー大市珍味に入社し、4年の修行を経て1995年魚萬珍味堂に入社。1997年に新魚栄に入社。2000年に同社代表取締役に就任。登録商標「学校は美味しい」を取得し、水産高校の学生たちが愛情と手間暇をかけて育てる水産物の素晴らしさを知ってもらう次世代育成事業に注力している。
<文・撮影/鈴木裕子 MC/鯨井綾乃 画像協力/新魚栄>