徳島県の東北部、紀伊水道に注ぐ吉野川に程近い上板町に本社を構える「日新酒類株式会社」。その歴史は江戸時代に遡ります。現在は、徳島県のアルコール業界をリードする一社として、日本酒、焼酎、リキュールなど、幅広い製品を製造。さらに地元の農産物とのコラボレーションにも積極的に取り組んでいます。
そんな同社が生んだ2つのヒット商品について、代表取締役社長の前田康人氏にお話を伺いました。
2023/01/11
徳島県の東北部、紀伊水道に注ぐ吉野川に程近い上板町に本社を構える「日新酒類株式会社」。その歴史は江戸時代に遡ります。現在は、徳島県のアルコール業界をリードする一社として、日本酒、焼酎、リキュールなど、幅広い製品を製造。さらに地元の農産物とのコラボレーションにも積極的に取り組んでいます。
そんな同社が生んだ2つのヒット商品について、代表取締役社長の前田康人氏にお話を伺いました。
―御社の沿革について教えてください。
前田 弊社は江戸時代、1857年に創業しました。明治・大正は「前田酒造」として営業し、それを母体に1948年、私の祖父が、日本酒とはまた別の酒を作ることを目的に、「日新酒類」を設立しました。
祖父はさまざまな方とコネクションを作ることにも長けており、自社で酒を作る一方、四国内の酒蔵様に酒の原材料を供給する役割も担うようになりました。
そして父、私と続いていくのですが、父は、「日新酒類」が目指した「他の酒蔵では作らないお酒」をいかに作るか、非常に苦労したと言います。
―前田社長は、どんなことを託されたのですか?
前田 私は県外で化学メーカーに勤めた後、2005年に徳島へ戻って「日新酒類」へ入社しました。入社後すぐは、自社のお酒について完全に把握できているわけではなかったので、まずはそこをしっかり学んで。ちょうど、現在の上板町への移転が決まる時期でもありましたので、父とふたり、右往左往していたように思います(笑)。
工場の移転は2007年に行いました。元の工場は、戦前の紡績工場跡を利用したもので非常に古く、震災などもありましたので、新工場は、工場自体の安全性や、食品の安全性、衛生面にしっかり対応できる設備・工場を目指しました。
その後2011年に代表に就任したのですが、私はこの新しい設備を活かした商品作りを託されたという感じですね。
―そんな御社を代表する商品と言えば、「すだち酎」ですね。
前田 「すだち酎」は父の代に生まれた商品で、私は小学生だったのですが、オレンジの輸入自由化があり、日本全体で柑橘の生産をどう切り替えていくかが課題となった頃でした。その中で、徳島県はすだちをしっかり作っていこうとし、県もすだちを使った商品開発を奨励したのです。それに対応した弊社が製造したのが「すだち酎」でした。
―様々なタイプのお酒を製造される御社で、なぜ「酎」になったのでしょうか。
前田 当時は焼酎タイプのすっきりとしたお酒が好まれていて、飲食店でも酎ハイやサワーがよく出ていたので、すだちを使い、スッキリと飲めるものを作ろうと考えたようです。酸味に加えて程よい甘味もあるので、女性にも好まれました。
―香りが爽やかでとても飲みやすかったです。パッケージもかわいいですね。
前田 ありがとうございます。誕生当時からラベルはほとんど変わっていないのですが、徳島のお土産物としても親しまれることを考えて作られたようです。
―アメリカやアジア、海外にも輸出されていますね。反応はいかがですか?
前田 アメリカのように、人々がお酒に強い国では、実は20度という度数は微妙で、サワーよりロックで楽しんでいただいているようですね。カクテルベースとしても使っていただいているのですよ。アジア圏では、日本料理店に置いていただいているので、食事に合わせて水割りやソーダ割りで。どんな料理にも合わせやすいのが魅力です。
―前田社長はどんな時に楽しんでおられるのですか?
前田 私は和食なら日本酒、洋食ならワインなど、料理からお酒を考えることも多いのですが、「すだち酎」は、何も考えていない時に手が伸びます(笑)。それくらい馴染みがある、ということなのですが、特に夏場は飲みたくなりますね。冬場は、お湯で割ってもおいしいです。
―前田家には欠かせない存在なのですね!それでは、次に「AWA GIN」について聞かせてください。
前田 こちらは私が手がけたお酒でして、出発点は、工場を移転したくらいの頃です。
当時、すだち酎が誕生してから20年ほど経っており、「日新酒類」の次なるお酒を考えていました。その1つがフレーバーをつけた蒸留酒で、ジンが候補に上がったのですが、その時は特にアクションを起こすことはありませんでした。
でもその後、ヨーロッパでクラフトジンブームが起きている流れもあり、当社でも本格的に取り組んでみようと。社内で試験開発担当の社員を中心にテストを進めました。
―レシピがとても個性的ですよね。特に、「阿波晩茶」が使われていることに驚きました。
前田 徳島の素材をピックアップしてテストをしていたのですが、阿波晩茶は早い段階でレシピ入りが決まりました。特徴としては、味わいのバランスを非常によく取ってくれて、香りに深みを出してくれるところですね。これがないと、すだちやゆず、山椒の風味が尖りすぎると感じました。
―お米も使われていますよね。ジンなのに日本酒のような風味を感じました。
前田 ベースのお酒も県内産で取り組みたい、と考えた時、米が1番徳島らしさを出せるのではと思いました。
ところが使い方にはかなり苦労しましたね。実は京都の方に、お米を使った完成度の高いクラフトジンを作っているところがあるのですが、そちらはお米の風味を全面に出さないタイプ。
なので弊社は、逆に風味を前面に出すタイプを目指したのですが、これが非常に大変で。もし、ここに製造担当者が同席していたら、話しても話しきれないほどの苦労話をしたのではないかと思います(笑)。
―蒸留方法も、単式蒸留器と連続式蒸留器の2種類を使っておられます。
前田 小規模の工場で連続式蒸留器を使っているところは少ないのですが、当社は移転のタイミングで連続式蒸留器も導入したので、使ってみてはどうだろうと。
まず単式蒸留器を使ってベースのお酒を作るのですが、それだと米の特徴が強くなります。連続式を使うことで、他の素材とのバランスがとりやすいベースを作ることができました。
―「AWA GIN」は、どんなふうにいただくのがおすすめですか?
前田 スッキリ飲むならソーダ割りで、ちょっと甘みが欲しい場合はトニックウォーターで割っていただくといいですね。ちなみに私は、ソーダとトニック、半々で割っています。単体で楽しんでいただく以外に、食事と楽しむなら、豚の角煮やあら炊きなど、味が濃いめの和食などに合うのかなと思います。
―「AWA GIN」には、他に「クリアボトル」と「クラシック」というシリーズがありますね。特徴を教えてください。
前田 実は「AWA GIN」には、ジュニパーベリーが入っていません。ジンには欠かせない素材の1つですが、非常に特徴的というか、クセがあります。開発当時、日本では、ジュニパーベリーを使わないものでもジンと名乗ることができましたので、私の方で無茶を言って、ジュニパーベリーなしのジンを作りました。
ただその後、コンテストに出品するにはジュニパーベリー入りのものが必要だったり、バーテンダーの方から「ジュニパーベリー入りのものが欲しい」というお声をいただいたりして、「AWA GIN」をベースにジュニパーベリーを加えた「AWA GIN クリアボトル」を作りました。
「AWA GINクラシック」は、他の素材を加えず、ジュニパーベリーの個性を出したものですね。3種類も作るのは大変でしたが、おかげで多くのニーズに応えることができるようになりました。
―今後の展望についても聞かせてください。
前田 今後も、いろんなタイプのお酒を、弊社の設備や技術を駆使して作っていけたらと思っています。今までとは違う徳島の「いいもの」をPRすることにも力を入れていきたいですね。
また、海外に行くと、お酒は日本以上に、土地の文化であるという意識づけが強いのです。私たちも、酒を1つの文化として理解してもらうための筋道を、今後作って行けたらと考えています。
―今後は、「ゆこう」や「阿波すず香」といった徳島の柑橘を使った新しい酒造りにも挑戦したいと語る前田社長。「すだち酎」「AWA GIN」に続くヒット商品の誕生を楽しみにしています。お話、ありがとうございました!
「阿波の香りすだち酎」(720ml)
価格:¥950(税込)
店名:日新酒類株式会社
電話:088-694-8166(9:00~17:00 平日)
定休日:土日曜、インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://nissin-shurui.com/?pid=22372494
オンラインショップ:https://nissin-shurui.com
「AWA GIN アワジン」(720ml)
価格:¥5,500(税込)
店名:日新酒類株式会社
電話:088-694-8166(9:00~17:00 平日)
定休日:土日曜、インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.nissin-shurui.co.jp/awagin.html
オンラインショップ:https://nissin-shurui.com
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
前田康人(日新酒類株式会社 代表取締役社長)
1973年、徳島県生まれ。帝人株式会社に入社し、6年間勤めたのち、2005年に日新酒類株式会社へ入社。2011年に同社代表取締役社長に就任。徳島県で生産される農産品を活かし、ジャンルにとらわれない製品開発・お酒造りを心掛けている。
<文・撮影/鹿田吏子 MC/根井理紗子 画像協力/日新酒類>