手軽に本格だしがとれる「だしパック」が人気です。顆粒だしより風味がよくて、旨味も栄養分も豊富なので、調味料をいろいろ使わなくても料理がおいしく仕上がるからとっても便利。今回、アッキーが気になったのは、焼津の老舗、ちきりのだしパックセット「KOGANE」。パッケージデザインも、思わず笑顔になってしまう可愛さなんです。ちきり清水商店株式会社 代表取締役社長の清水喜市郎氏に、おいしさやパッケージへのこだわりを、取材陣がお聞きしました。
もらって嬉しい、誰かにプレゼントしたくなる。ちきりの「KOGANE」だしセットはしみじみ幸福を感じる味
2023/02/01
ちきり清水商店株式会社 代表取締役社長の清水喜市郎氏
―創業は241年前に遡るそうですね。
清水 天明2(1782年)に清水善蔵が創業し、私で19代目になります。昔からカツオ漁が盛んな焼津市の港で、最初は半農半漁で商売を始めたそうです。祖父の代までは、焼津港に水揚げされたカツオをさばいて鰹節をつくっていました。鹿児島の枕崎や山川など、あちこちのカツオ産地から子どもたちが丁稚奉公に来て、自宅兼作業場の長屋に寝泊まりをして、鰹節づくりの技術を学んでいたものです。その時代にはどの家でも、鰹節を削る習慣があったのです。
しかし祖父が、「これからの時代、鰹節を手間をかけて削る人は少なくなるだろう」ということで、カツオパックづくりに挑戦することになりました。できあがった鰹節を焼津から仕入れて削るという、加工の事業へと転換したのです。
カツオ産地から見習いの職人たちが丁稚奉公にきて、鰹節の作り方を学んでいた。
―「ちきり」という名前にはどんな意味が込められているのでしょうか。
清水 ちきりには、「つなぐ」「つなげる」という意味があります。家を建てるときに、木と木をつなぐために埋め込む木片のことを、「ちきり締め」というそうです。
家族の味を代々繋いでいくという意味もあるし、家族のきずなをつなぐという意味も。そして、鰹節を通じて、お客様と我々をつなげるという意味もあります。
カツオパック「本枯節」は定番の人気商品。
手作業でていねいに作られている。
―ちきりの鰹節の特徴は?
清水 鰹節には大きく分けて2種類あります。荒本節と、本枯節です。
荒本節にカビ菌を噴霧して熟成させ、発酵させてつくったものが本枯節です。カビ菌をつけることによって、鰹節のもつ水分を吸わせ、鰹節の中に旨味をさらに凝縮させるのです。ですから荒本節と本枯節には大きな違いがあります。安価な荒本節を使っている会社が多いなかで、うちは昔から本枯節にこだわっています。本枯節という言葉が世の中にまだ浸透していない2004年頃から、父が商品を差別化するために、カツオパックにも「本枯節」という名前をつけて販売を開始しました。
本枯節を作っている会社でも、カビ付けの回数は2〜3回が一般的です。でもうちは4回カビ付けをしています。旨味がさらに凝縮されておいしくなるからです。といっても、カビ付けの回数が多ければ多いほどいいというわけではありません。5回、6回やったものも試食してみましたが、やはり4回やったものがおいしかったのです。
―本枯節は手間がかかるんですね。
清水 そもそも鰹節を作るって、すごい大変な作業なんですよ。生切り(カツオをさばく)、煮熟(しゃじゅく)(煮る)、骨抜き(骨を抜く)という工程も手作業です。骨を抜くと身に穴が空いたり、割れたりするので、それをカツオのすり身で埋める(修繕)作業も必要です。それを、急蔵庫と呼ばれる乾燥設備でゆっくり水分を抜き、約4週間火入れします。本枯節の場合は、表面のタール分を除去し、カビ菌を噴霧して2週間ほど表面にカビを生やします。天日干しで乾燥させ、もう一度多湿のカビ倉庫で寝かせる。このサイクルを繰り返すことで、1番カビ、2番カビと生えていき、4回繰り返したものを出荷するので、トータルで、約5カ月くらいかかります。さらに気象状況の変化などで、カツオが獲れないとか、サイズが小さいとかいろいろな苦労もあります。
そう考えると、スーパーで売っているカツオパックは安すぎると思っています。生産者の方が減っていくのもしょうがない。だからこそ、私たちが本枯節の価値をきちんと伝えなくてはいけないと思いながら、モノづくりをしています。
―しかし最近は、だしをとって料理をする人が減っていますね。
清水 はい。だしは「花かつお」でとるのが基本ですが、それが面倒だということで、近年はだしパックが出回るようになりました。しかし今では、だしパックを使うことすら面倒だということで、手軽な顆粒タイプのだしが売れています。でも、鰹節でとるのとはやっぱり香りも味も違います。それに、鰹節をとることで、血糖値を下げたり、高血圧に効果があるなどいい効果もあると言われています。現代は塩分過多な食事になっているので、だしをしっかりとれば、煮ものもみそ汁も、余分な塩分を入れなくても旨味が凝縮されるので十分おいしくなります。だしの旨味が満腹中枢を刺激するともいわれ、ダイエット中の方が空腹感をしのぐのにも役立つと言われています。
旨味を感じる器官を「味蕾」といいますが、味の濃い食事やジャンクフードを日常的にとっていると、味蕾が鈍感になってしまい、薄い味をおいしく感じなくなるのです。でも、1週間程度積極的にだしをとりつづけることで、味がわかるようになってきます。かつおだしのふわっと立ちのぼる香りを嗅ぐと、何かホッとしますよね。若い人にも、鰹節やかつおだしのおいしさをぜひ知ってもらいたいです。
だしセットとは思えないデザインの「リサ・ラーソン×ちきり」。
―若い人たちに向けた企画のひとつが、「コラボ商品」ですね。
清水 おっしゃる通りです。たとえば「リサ・ラーソン&ちきり」という商品は、うちの「NEKOMANMA」という猫のパッケージのセットをご覧になった(株)トンカチさんが、昨年「リサ・ラーソン生誕90周年」のイベントを行うにあたって、お声がけくださったのがきっかけです。(※注:(株)トンカチは、日本におけるリサ・ラーソンの著作権を管理している会社です)その他にも「中川政七商店×ちきり」とのコラボ商品も展開させて頂いております。今の若い人たちに、可愛いとかきれいといった見た目の第一印象でまずは手に取っていただきたく、パッケージデザインにはこだわっています。
縁起の良い魚「鯛」のだしも入っている「KOGANE」。
鯛の出汁はスッキリとした味わいで風味豊か。
―「KOGANE」のパッケージも素敵ですね。
清水 ありがとうございます。「KOGANE」は漢字で書くと「黄金」と書きます。だしの色をイメージして名付けました。ブライダル市場では鯛は縁起物ということもあり、鯛煮干しを使った鯛だしも入っています。だしパックは、社内でいろんな配合を試して、カツオや昆布を始めさまざまな材料を混ぜたときのバランスを考えながら作っております。お客様からは「鯛だしは珍しいね」と言っていただけて、おかげさまで好評です。
炊き込みご飯にだしパックを入れて炊くと、香りと風味がアップ。
―おいしいだしをとるコツはありますか。
清水 だしパックをグラグラ煮立たせないで、沸騰したらちょっと中火くらいにするのがコツです。また、だしパックを取り出すとき、もったいないからとギューギュー絞ったりするとえぐみが出てしまいます。そっと持ち上げて、水滴が垂れなくなるまで待っていただくのがいいですね。味噌汁だけでなく、ぜひ炊き込みご飯などにも使ってほしいですね。ゴボウや油揚げ、鶏肉などお好きな具材を入れて、しょうゆやみりん、だしパックを一緒に入れて炊飯器で炊くと、簡単で、香りと旨味が出ておいしいんですよ。うちではお好み焼きやたこ焼きをつくるときは、かつおだしをしっかりとって、だし汁でたねを溶いて焼きます。
―今後の展望をお聞かせください。
清水 鰹節やだしは地味なものです。ですが、日本の食文化にはなくてはならない存在です。鰹節やだしにも色々な味があり、おいしさにも香りにも違いがあるんだということを、若い人たちにももっと知ってもらいたい。そのなかで、自分が食べ続けたい、家族にも食べさせたいと思えるものを見つけてほしいですね。
ちきりのだしも、実際に代々ご家庭で使い続けていただいているお客様が多くいらっしゃいます。それぞれの家庭に、母から子、子から孫というふうに受け継がれていく「我が家の味」があるもの。その味のベースとなるのが、我々が提供させてもらっているだしであってほしいと思います。そのためには、ブームで終わるようなものではなく飽きの来ない味、ずっと使い続けてもらえる味を守り続けていく必要があります。もちろん時代に合わせて新しいものもつくらなくてはいけませんが、やはり鰹節が基本。おいしい鰹節やだしをつくり続けるための研鑽に、終わりはないと思っています。そして、私の代に焼津で水揚げされたカツオを使ってもう1度鰹節をつくること、最高の本枯節をつくることが私の夢です。
―今日は楽しいお話をありがとうございました!
「KOGANE-C9」(和風だし、鯛だし、あごだし、各6g×3袋入り)
価格:¥1,080(税込)
店名:ちきり
電話:0120-629-355(9:00~17:00 土日祝除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.chikiri1782.com/products/8043
オンラインショップ:https://www.chikiri1782.com/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
清水喜市郎(ちきり清水商店株式会社 代表取締役社長)
1977年静岡県生まれ。大学卒業後、2001年にリゾートトラスト株式会社に入社し、リゾート会員権販売に携わる。2008年1月、家業であるちきり清水商店株式会社に入社。2012年同社専務取締役、2013年同社19代目代表取締役に就任。これまでの歴史や伝統を引き継ぎつつも、斬新なデザインパッケージを取り入れた商品開発や新しい販路、顧客獲得に努め、これまでにないさまざまなコラボを展開している。
<文・撮影/臼井美伸(ペンギン企画室) MC/橋本小波 画像協力/ちきり清水商店>