福岡県で2番目に大きな面積を誇る八女市。県を代表する茶処としても知られ、市内では約70ヘクタールの広さを誇る大茶園をはじめ、お茶にまつわるスポットを数多く目にすることができます。今回は、そんな八女市で100年以上にわたって茶作りを行い、2022年度の「Japanese Tea Selection Paris」、深蒸し茶部門にて、手がけた煎茶「定庵こうき」がグランプリに輝いた「牛島製茶」の代表取締役社長、牛島啓太氏にお話を伺いました。
八女の「旨み」が凝縮! パリの日本茶コンクールで最優秀賞を受賞。
2023/02/13
株式会社牛島製茶 代表取締役社長の牛島啓太氏
―まずはグランプリ、おめでとうございます!
牛島 ありがとうございます。2022年の10月に一次審査、11月に二次審査が行われ、2023年1月16日にグランプリ審査が開催されたのですが、まさかのグランプリでした。というのも、深蒸し茶部門には54の応募があり、それがどれも各産地のトップクラスと言えるお茶ばかり。まずはその中で上位3点に絞られ、金賞を獲得したのですが、「定庵こうき」は金賞3点だけの最終審査で最も優秀なお茶とされ、1年に1点しか選ばれないグランプリを受賞しました。
「Japanese Tea Selection Paris」の深蒸し茶部門でグランプリを受賞。
©Euro Japan Crossing
―そもそも、なぜパリの品評会に出品されたのですか?
牛島 2015年、16年頃、弊社で、自分たちでも思ってもみないようないいお茶ができたのです。せっかくなので「日本茶アワード」という国内の品評会に出してみようと思ったのですが、その時は自信がなく見送り(笑)、2017年にまたちょっといいお茶ができ、今度こそ思い切って出してみたら、それがなんと日本茶アワードのプラチナ賞(深蒸し茶部門全国一位)を獲得したのです。
―すごいですね!
牛島 ところが、次の年は2位で、以降、1度も入賞できず(笑)。ただ、理由はなんとなく分かっていました。その品評会の深蒸し茶部門では、お茶のバランスの良いものが上位に選出される傾向に変化してきています。弊社のお茶は、旨みと綺麗なお茶の水色に特別なこだわりを持ってお茶作りをしていたので、審査基準の違いから、今後の入賞は難しいかも、と思うようになりました。そうしたところ、友人が「パリの品評会に出してみたら?」という提案をしてくれたのです。
パリのコンテストの審査員には、ミシュランで星を獲得したレストランのシェフや、シャンパンメーカーの経営者、ワインソムリエなど、味覚のプロでありながら、日本人とはまた違った感覚を持つ方々が揃っています。そんな彼らに審査していただくなんて、すごく面白そうだと思ったのです。
―出品されるにあたり、何か工夫をされたのですか?
牛島 お茶自体は国内の品評会に出品したものと同じです。ただ、パリの品評会では審査時の茶葉の使用量を、規定の範囲内でグッと増やしました。180ccのお湯に対して茶葉を10g。コロナ以前、たくさんの海外のお客様がご来店されていた時の経験で、海外の方は、旨みを強く感じられるものを好まれると思っていましたし、1回分の茶葉を増やしても決して苦くない深蒸し茶でしたので、少し多めの茶葉の量を指定させていただきました。
―それでグランプリを受賞ですから、生かされましたね。
牛島 そうですね。ぜひ味わっていただきたい自信作です。結納や結婚式などおめでたい席で使っていただいていますよ。1つ30gのサイズもちょうど良いとご好評をいただいています。すでに完売しているのですが、昨年「定庵こうき」のボトルバージョンを作りました。海外の方にはやっぱりお手軽に楽しめるものがあるといいのでは、と思いまして。
「定庵こうき」は30g入り。2人分で1回6〜8gを使用。
―そんなアイデア豊富な牛島社長は、4代目。ここで御社の沿革についても聞かせください。
牛島 弊社は1921年、初代の定次郎が八女に茶畑を作ったことから始まりました。その後、会社としては、茶の製造、卸、小売、通販、八女茶カフェの運営と、少しずつ多角化を進めてきた感じです。今では多くの契約農家さんともお付き合いいただき茶畑を広げ、八女中央大茶園をはじめ様々なところに茶畑が点在し、それぞれの土地に合わせたお茶作りを行っています。
―畑があって、お茶が生まれる、もしくはお茶のイメージが先にあって、畑を探されるのでしょうか。
牛島 お茶ありきが多いかもしれないですね。というのも、お茶は葉物野菜と同じで、毎年全く同じものができるとは限りません。降水量が多いと肥料が土壌から抜けて茶畑の生育に問題が出ますし、雨が降らないと病気が増えて収穫量が減ります。個人的には、桜の開花時期を目安にしているのですが、開花が早くなると、お茶の収穫が早くなり、その反対の年ももちろんあります。最近はそうした環境の変化の幅が大きく、本当に参っています。
―それでも美味しいお茶をいただけるのは、お茶農家さんのご苦労あってのことなのですね。
牛島 予定していたものが取れないことについては、お茶は自然の恵みですので仕方ないと思っています。ただし、ある程度安定して良い八女茶を提供するために1カ所で1つのお茶を作っているわけではなく、複数の茶畑で1つのお茶を作り上げています。特徴のあるお茶の個性を大事にしながら、良いものに仕上げています。なので、個性を見極めることや、ブレンドの技術向上にも力を入れていますね。
―八女には舌の肥えた方が多そうですね。
牛島 お茶が文化として根付いた土地ですからね。弊社は八女市内に本店を構えておりますが、地元のお客様は「どれがおすすめ?」といった質問をすることなく次々と手に取り、買っていかれます。このお茶にどんな特徴があって、どんな味わいが楽しめるか、そうしたお茶への理解が深いので。あとは、“我が家のお茶”を求めていらっしゃる男性のお客様が非常に多いのも八女の特徴かもしれません。
―自分好みのお茶を買いに出かける男性陣、素敵ですね!そして今回はもう1つ、「初代・二代・三代茶セット」もご紹介いただきました。こちらはどういう経緯で生まれたのですか?
牛島 2021年に、創業100年を迎えたことで作ったセットで、弊社代々のお茶の復刻版です。100年前に使っていた茶の木が残っているわけではないので厳密には100年前のお茶そのものではないのですが、弊社の工場に残っていた資料などを参考にして作りました。面白いことに、初代、二代、三代と、それぞれの時代で、お茶の製造と味が違うのですよ。
上から、初代の牛島定次郎氏、2代目の牛島英次氏、3代目の牛島敏博氏。
―どんな違いがあるのですか?
牛島 初代の頃は、釜で茶葉を炒る「釜炒り製法」です。ただこれは、20年ほどしか続かず、戦後八女地域では茶葉を1分ほど蒸す「普通蒸し製茶」が主流になります。この普通蒸し製法を二代目の英次が40年近く行い、今でもベーシックな八女茶の製法です。そして40年ほど前に、3代目が「深蒸し製法」を始めました。茶葉を2分近く蒸し上げる製法です。
深蒸しは、当初八女では受け入れられなかったと聞いています。もともと静岡で生まれた製法で、当時、都会の水道水やあまり水の状態が良くない場所でも深蒸し茶特有のお茶の味の濃さでしっかり楽しめる、ということから人気になり、その製法を八女に持ち帰りました。ところが八女では、「水が良いのにそんなもの製法は必要ない」、ということで、弊社は卸業もやっていたのですが、地元のお茶問屋さんがどこも買ってくれない状態に。自分たちで売るしかない、ということになりました。それが小売業を始めるきっかけにもなったのですけどね、三代目もなかなか頑固でして(笑)
ただ現在では、八女茶全体的に深蒸し茶製法の味わいに近くなってきています。しっかりとした味わいが好まれるトレンドもあるのでしょうし、何煎も楽しめるので経済的であるところが、支持されているのかなと思います。
―「三代茶」を作る際、ご苦労はありましたか?
牛島 八女ではお茶の木の品種改良が進んでおり、昔のお茶の再現が難しかった、というところでしょうか。そもそも初代の頃のお茶の木は、品種がどうこうと言うよりも、「山のお茶」といった野性味あふれるお茶の木だったと思います。二代目の頃は、初代の頃よりも収穫しやすい茶畑に変化しました。当時の主流は「やぶきた」という品種ですが、まだまだ在来種も多かったみたいです。三代目になると、「さえみどり」と言って、旨みと綺麗なお茶の色が叶った、いわゆる最近の八女茶らしいものとなっています。でも昔の品種も今の品種も本当それぞれ個性があり面白いのですよ。
―先日、社長がブログで、「初代の茶は朝にぴったり」と書かれていたのですが、それぞれでぴったりのシチュエーションがあるのでしょうか?
牛島 「初代」は、釜炒り茶なので香りが立ちます。なので、朝、目覚めの時にスッーと入ってくる感じです。「二代目」は、苦み、渋みが感じられるのでスイーツによく合いますよ。「三代目」は旨みが強く、“嗜む茶”でしょうか。きちんと淹れて飲みたい、という感じです。
上より左回りに、「初代 定次郎」、「二代目 英次」、「三代目 敏博」。
―それぞれの袋の後ろに、温度や抽出時間が明記してあって助かります。
牛島 お湯の温度設定に悩まれる方も多いと思うのですが、やかんなどで沸かしたお湯を1回湯呑みに移すと約10度下がる、という感じでお湯を冷まします。私たちは、お湯を入れた湯呑みが手に持てるぐらいになったら80度以下になったかな、という感じで判断しています。湯呑みの厚みにもよりますが。
加えて大切なのは、まずお湯をしっかりと沸騰させることです。お茶の美味しさを損ねるのは水の影響が大きいです。水道水なら5分ほど沸騰状態を維持させること。ミネラルウオーターは硬水だとお茶に影響が出るので軟水を選んでください。電気ポットを使われている方は、1度沸騰させた後に、再び沸騰ボタンを押して再沸騰させてみてください。
―茶葉のおすすめの保存方はありますか?
牛島 お茶は封を開けた瞬間から劣化が始まります。一般的には、密封した容器に入れて冷暗所へ、と言われていますが、加えてアドバイスさせていただけるなら、「飲み切りサイズを買ってください」ということです。「定庵こうき」は30gでまさに飲みきりサイズ。「三代茶」には袋にチャックをつけていますので、空気をしっかり抜いて冷暗所に置いて保存してください。
―最後に、今後の展望について聞かせてください。
牛島 品評会などにも出品し、国内、海外で好まれる味の違いなどを実感して、改めて自分のお茶の立ち位置を確認せねばと思うようになりました。海外に向けては、今回、グランプリを獲ったようなお茶をどんどん推進していく。国内に関しては、守るべき部分は守り新しい目線のお茶に挑戦する。弊社は100年の間で、時代背景とともにどんどんスタイルを変えてきたのですが、温故知新というか、古いものを大切にしながら新しいことをやらないといけないなと感じています。時代への順応できるスキルを上げていきたいですね。
実は私は、緑茶以外にも色んなお茶を作っていまして、国内の品評会には、八女の烏龍茶とブルガリア産のダマスクローズをブレンドしたフレーバーティーを出品し、グランプリを獲得したことがあります。その他にも、オリジナルブレンドティーのご要望でルイボスティーベースに私が作った八女紅茶、和歌山県産のレモンの皮を合わせたフレーバーティーなど、新しいお茶のブレンド依頼もお受けしています。
ちょっと違った目線での仕事を並行して行うことで、本来の日本茶の立ち位置や、お客様に喜ばれるポイントなどがわかるようになりました。お茶を使ったイベントなども行っており、今後八女の大茶園で、ティーセレモニーを行うイベントなども開催しています。詳しくは、ぜひ当社のHPや私の書く公式ブログ「八女茶のココロ日記」をチェックしていただけると嬉しいです。
今年2023年は、八女茶発祥とされる1423年から600年とされ八女茶600年祭として八女も盛り上がってます。
今年の八女茶はメモリアルな新茶になります。ぜひ2023年新茶もお楽しみに。
―三代茶のご紹介の際、「そういえば、【三代茶】には4代目のお茶が入っていませんね?」と尋ねたところ、「私が作ると、とことん美味しく作ってしまうので(笑)。4代目のお茶は、将来、5代目が作ってくれることを期待しています」と、牛島社長。どんなお茶になるのか、楽しみにしております!
「定庵こうき」(30g)
価格:¥1,080(税込)
店名:株式会社牛島製茶
電話:0943-22-4818(9:00〜17:30)
定休日:元旦、インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.yame-tea.jp/item/awrad2018/
オンラインショップ:https://www.yame-tea.jp
「初代・二代・三代茶セット」(80g×3袋)
価格:¥2,808(税込)
店名:株式会社牛島製茶
電話:0943-22-4818(9:00〜17:30)
定休日:元旦、インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.yame-tea.jp/item/100nen4/
オンラインショップ:https://www.yame-tea.jp
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
牛島啓太(株式会社牛島製茶 代表取締役社長)
1980年福岡県八女市生まれ。福岡大学卒業後、日本茶の勉強のため3年間静岡で生活して26歳の時に牛島製茶へ入社。2021年7月に代表取締役に就任。日本茶インストラクターの資格を持ち、八女茶の販売をはじめ八女茶スクール講師や八女茶オリジナルティー、茶の間コンテンツ開発、異業種との日本茶コラボイベントも行なう。
<文・撮影/鹿田吏子 MC/石井みなみ 画像協力/牛島製茶>