日本を代表する観光地として有名な東京・浅草。全国からの旅行客はもちろんのこと、日本を訪れる外国人観光客の間でもとくに人気の高いエリアです。今回、編集長アッキーこと坂口明子の目に止まったのは、浅草は雷門の横に店を構える常盤堂雷おこし本舗の「生おこし」。おこしと言えば、米やナッツなどを飴で固めた、カリッとしたお菓子が一般的ですが、「生おこし」は柔らかさを追求。新感覚のスイーツとして人気急上昇中です。商品誕生までのお話を、製造販売元である株式会社常盤堂雷おこし本舗、代表取締役社長の穂刈久米一氏にうかがいました。
雷おこしのイメージが変わる!新感覚スイーツ 常盤堂雷おこし本舗「生おこし」
2023/02/24
株式会社常盤堂雷おこし本舗 代表取締役社長 穂刈久米一(ほかりくめかず)氏
―創業は今から228年前、江戸時代だそうですね。
穂刈 寛政7年、1795年です。「家を興(おこ)す、名を興す」にかけた縁起菓子として、浅草寺の観音様詣でのお土産にと「雷おこし」を作り始めました。当初は独立した店舗ではなく、浅草寺の僧侶の住まいの一角を借りて商いをしていたそうです。
ただ、228年ずっと穂刈の家が店をやってきたわけではなく、いろいろな人が常盤堂に携わってきました。創業時は内田家、その後は坂口家が常盤堂を守り続け、そして戦後、私の祖父である穂刈恒一が店を引き継いだのです。祖父はもともと、雷おこしの原料となる「おこし種」(米を蒸して餅にしたものを焙煎、パフ状に膨らませたもの)を常盤堂に納入していた業者でした。浅草が空襲で丸焼けになり、浅草寺も消失。坂口さんに「穂刈さん、店を続けてくれないか」と声をかけられ、浅草を、そして雷おこしを人一倍愛していた祖父は二つ返事で引き受けたと聞いています。
浅草のシンボル、浅草寺の山門・雷門。
火災により3度消失し、現在のものは4代目。
両脇の風神・雷神像も火災にあい、
首だけ残ったため、その胴体を先々代が寄贈。
雷門横に建つ常盤堂雷おこし本舗本店。
―220余年にもわたって守り継がれてきた常盤堂雷おこし本舗の看板を、「重い」と感じられたことはありませんか?
穂刈 子どもの頃から、店を継がざるをえないように育てられましたから、重いも何も、店を継ぐのが自分の任務だと思っていました。大学に行かせてもらい、友人たちが就職活動をしている中、自分もやっぱり一度は外に出たほうがいいんじゃないかと就職活動をしていたら、親父に「お前には、どこか会社に勤めても辛くなったらウチの会社に戻ってこられるという逃げがある。そんな社員を抱える社長が可哀想だから、やむなく俺が雇ってやる」と言われ(笑)、卒業後は4年間、工場勤務となりました。
―常盤堂雷おこし本舗を続けていくために、大切にされていることはありますか?
穂刈 私のモットーは「伝統は改革である」。220年前と今の人が、同じ食材を口にしているとは思いません。やはり、その時代、その時代の人々の好みに合うおこしを作っていかないと、求められなくなってしまう。だから、220年前に生まれたおこしに固執するのではなく、今に合う味や食感をどんどん改革していく必要があるんです。
たとえば、先々代のおこしは、すごく甘かった。というのも、当時は甘いものが高価だったので、飴のような、甘みを長く感じられるものが求められていたからです。そして先代の時代は、カラフルなお菓子が好まれていたので、弊社の雷おこしもピンクや緑などの色をつけたものが多くなりました。
私が社長になったのは今から27年前、36歳の時ですが、そのあたりから柔らかいものが好まれ始め、「おこしは硬いから」と敬遠されるように。そこで私は、おこしのソフト化を図りました。先代の番頭には「硬いからこそ、おこしなんです」「若は、おこしをスナック菓子にするつもりですか」と言われて大喧嘩になりましたが、私が社長になったのだから私の意見を通させてください、と説得して。
また、私の代になってからは、なるべく人工的な色を使わず、素材そのものの色を活かすようにしています。
「黒蜜にきなこを混ぜたら、おいしいはず」との社長のアイデアで生まれた
「黒蜜きなこ玄米おこし」¥500(税込)。こちらは本店限定販売品。
黒糖のコクときなこのまろみが絶妙にマッチします。コーヒーとの相性もばっちり。
―今回ご紹介する「生おこし」は、どのような経緯で誕生したのでしょう。
穂刈 実は、「生おこし」は1987年から販売しているんです。当時、京菓子の「生八ツ橋」が流行っていて、「雷おこしで、同じように柔らかい食感は出せないだろうか」という先代の思いから生まれました。もち米を使ったおこし種と水飴、卵白、あんこを混ぜ、柔らかな食感を出しています。
昨年、この「生おこし」のリニューアルを図り、より今の時代の方たちのお口に合うよう、味を新しくし、季節限定の味も開発しました。通年で販売しているのは「白蜜あずき味」と「黒蜜きなこ味」、春・夏限定(3〜8月)の味としては「梅味」「抹茶味」、秋・冬限定(9〜2月)の味として「栗味」「いちご味」をご用意しています。おかげさまで、従来の雷おこしのファンの方だけでなく、雷おこしを召し上がったことがなかった方たちにも新感覚のスイーツとしてご好評いただいて、弊社の新たな定番になりつつあります。
2022年9月にリニューアルした「生おこし小(秋冬)」。
水飴に卵白、ショートニング、あんこなどを混ぜ、独自の技術で特製の蜜を作り、
おこし種と混ぜることで硬くならず、柔らかい食感が実現。
左上から右回りに、栗、黒蜜きなこ、白蜜あずき、いちご。
栗は、洋菓子で使われる栗ペーストを使用しモンブランのような味わいに。
いちご味はドライフルーツのいちごを使用。
いちごの甘みと酸味がしっかり感じられます。
見た目も、従来の雷おこしにくらべるとふんわりした感じ。
手のひらサイズで、緑茶はもちろん紅茶やコーヒーのおともに最適。
ちなみに、常盤堂雷おこし本舗の雷おこしはハラール認証を取得。
浅草にはムスリムの観光客も多く、とても喜ばれているそうです。
―「改革を続けてこそ伝統は続く」のですね。今後は、どのような展開を考えていらっしゃいますか?
穂刈 つねにリフレッシュしていきたいと考えています。味に関してのこだわりは、ほとんどありません。次はどんな味にしようか、いつも考えていろいろ試していますし、息子の代になったら息子のおこしをどんどん作っていけばいいと思っています。ただ、パッケージに関してはこの先も、浅草のシンボルである雷門や風神雷神のイラストを使ってほしいと息子にお願いしているんですよ。
そして何より、この浅草を盛り上げていきたい。コロナ禍は、この浅草にも大きな影を落としました。ただ、最近ようやく、観光のお客様も増えてきて賑わいを取り戻しつつあります。うれしいですね。
私は、根っから浅草の人間。現在の雷門は4代目で、1960年5月に再建されたのですが、その3か月後に私が生まれました。そう、私は雷門と一緒に育ってきたんです。だからこそ、浅草を愛する気持ちは誰にも負けないと自負しています。
浅草は、春には三社祭、夏は隅田川の花火、冬は羽子板市に初詣と、暮らしの中で四季が感じられる町です、全国の、そして世界中のみなさんにぜひ一度、訪れていただいて、季節感を肌で感じながら観光を楽しんでいただきたいと思います。その後で、浅草土産として弊社の雷おこしを持ち帰っていただけたら、これ以上の幸せはありません。
私には「ギフトはデイリーから始まる」という考えがあります。自分が食べて、おいしいと思ったから、大好きだから大切なあの人にも贈りたい。ギフトって、そういうものだと思うんです。
ですから私は、お客様にはまず味わっていただきたいと、毎週末、店頭に立って実演販売をしています。できたての、温かくてほわっとした雷おこしも、おいしいですよ。試食販売も再開しました。ぜひ一度、本店にいらして召し上がってみてください!
穂刈社長考案「黒蜜きなこ玄米おこし」の実演。
鉄鍋に、おこし種(玄米パフ)ときなこ、ピーナッツを入れ、
140度に熱した黒蜜を加えて混ぜていきます。
冷めると固まってしまうので、時間との勝負。
おこし生地を平台に移して木枠をはめ、
厚さが均等になるように伸ばしていきます。
伸ばした生地を菓子包丁で切って、一口サイズに。
大阪のおこしは大きな「板おこし」が多いのですが、
浅草の雷おこしはこのように一口サイズの大きさが特徴だそう。
―浅草が活気を取り戻したら、日本全体も元気になりそうです。貴重なお話、ありがとうございました!
「生おこし 小(秋冬)」
価格:¥972(税込)
店名:常盤堂雷おこし本舗
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kaminari-okoshi.co.jp/item-detail/1256841
オンラインショップURL:https://www.kaminari-okoshi.co.jp
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
穂刈久米一(株式会社常盤堂雷おこし本舗 代表取締役社長)
1960年東京都台東区浅草生まれ。学習院大学を卒業後、株式会社常盤堂雷おこし本舗に入社。工場にて4年の修業期間を経て、1989年副社長に就任、1996年代表取締役社長に就任する。趣味はサーフィンと日本舞踊。
<文・撮影/鈴木裕子 MC・撮影/鯨井綾乃 画像協力/常盤堂雷おこし本舗>