吉野本葛の魅力を再確認する新旧スイーツ「葛もち」「くずの子パウンド」

吉野本葛の魅力を再確認する新旧スイーツ「葛もち」「くずの子パウンド」

2023/05/16

古来、日本で薬草や生薬、そして食材として使われてきた葛。生産地として名高い奈良県に、吉野本葛を通じた日本食文化の継承と人々の健康寄与に、本気で取り組む会社があります。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった株式会社井上天極堂 代表取締役社長の井ノ上昇吾氏に、取材陣が伺いました。

株式会社井上天極堂 代表取締役社長の井ノ上昇吾氏
株式会社井上天極堂 代表取締役社長の井ノ上昇吾氏

―創業170年の歴史をお聞かせください。

井ノ上 江戸時代中期の1854年に、初代羽衛門が創業しました。「葛村」と呼ばれた村全体が葛で生計を立てていた時代。葛を掘る「掘り子」から買い集める集荷仲買を始め、吉野本葛を生成する製造も行なうようになりました。

葛は、だいたい12月から翌年3月までの間に収穫から製造までが終了。春以降も、葛で培った山のネットワークで、野山の四季折々の産む産物を生かすようになりました。桜の花や葉に始まり、ヨモギ、笹の葉、朴葉、柿の葉、柏葉などを加工して、和菓子や和食の店で使っていただいています。

さらには同じく山の産物であるつくね芋の加工を行うようになり、同じ技術を生かしてレンコンや枝豆、カボチャなど40種類以上の冷凍野菜ペーストを製造しています。

すべては、社名の由来である「天の恵みを極める」という思いに通じます。自然が生み出す恵みをありがたくいただく、そして、山のネットワークともいえる生産者の方とのつながりを大切にしてきた歴史があります。

葛に関しては、伝統的な製法を守って吉野本葛を作り続ける傍ら、葛の魅力を発信する啓もう活動や新しい食べ方の提案、さらには知られざる葛の研究を進めています。

―どのような啓もう活動を?

井ノ上 1996年に、葛を使った菓子や料理を提供するアンテナショップ「天極堂奈良本店」を開店。現在は売店も合わせると7店舗にまで増えました。

葛文化の発展を目的とした「葛ソムリエ」活動、小学校への葛に関する出前授業も行っています。「吉野本葛研究所」を設立し、成分を分析したり効能を発見したりと、葛の研究も重ねています。

―それほど広めたい葛の魅力とは?

井ノ上 葛は、『古事記』や『万葉集』に登場するほど古くから薬草として重宝されてきました。根が「葛根」という生薬として漢方薬に使われていることはよく知られていますね。血行促進や解熱、鎮痙作用があるとされています。密教や禅宗の修行食や精進料理にも、滋養強壮や体を整える食材として使われてきた歴史があります。

花は秋の七草の1つに数えられ、甘酸っぱい香りのハーブティになるほか、「葛花」という生薬にもなります。つるは葛布、リースやかごなどの工芸品に使われるなど、捨てるところなく無限に利用できる植物です。

根から取り出したでんぷんは、日本の食文化に欠かせないものとして菓子や料理に利用されてきました。お椀のとろみづけから葛もち、葛まんじゅう、胡麻豆腐、葛きりなど、なじみ深いものが多いでしょう?

日本で伝統的に使われてきたでんぷんには、葛、米、小麦、カタクリ、わらびなどがありますが、戦後、じゃがいもやさつまいもを原料とした工業用でんぷんが気軽に手に入るようになりました。同時に、山で生計を立てる人が減り、自生する葛も減少。葛でんぷんはどんどん希少で高価なものになってしまいました。

葛粉は、濃度を変えればいろいろな食感を出すことができます。冷めてもとろみを維持できます。強い味や香りがあるものでもありませんから、食材や料理の邪魔もしません。さらには、イソフラボンやサポニンが含まれています。これらは女性ホルモンに似た働きをするため、更年期障害症状の軽減、骨密度の維持、美肌や美髪に効果があると言われています。余談ですが、私は2023年4月現在68歳ですが、調べてみると骨密度は20代相当だと言われましたし、葛製造会社の社長は皆、髪がふさふさなんですよ。

話を戻しますが、天極堂では伝統的な製法を守り、今でも丁寧に「吉野本葛」を製造しています。吉野本葛を使ったおいしい商品を開発し、使い方など情報を発信しながら、葛のすばらしさを多くの人に伝えたいと思っています。

―吉野本葛本来のおいしさをシンプルに感じられるのが「葛もち」ですね。

井ノ上 自社製造の吉野本葛で作っています。葛ならではの、涼やかな透明感ともっちりとした弾力が楽しめると思います。黒蜜ときなこをたっぷりかけてシンプルなおいしさを味わってください。

できたての葛もちの、もっちりとした独特の食感に、限りなく近づけたという。
できたての葛もちの、もっちりとした独特の食感に、限りなく近づけたという。

―葛粉で洋菓子という新しい発想の「くずの子パウンド」はどのように?

井ノ上 洋菓子は、県内にある調理専門学校の先生のレシピをヒントに開発した「くずの子ロール」が第一号。小麦粉やベーキングパウダーを使わず、吉野本葛100%で作ったロールケーキで、これが予想以上においしくて、葛の良さが活かされていて感激したのです。「ほかにもいろいろできるよね!」と、葛の可能性を改めて発見した思いでした。

「くずの子パウンド」は、本葛粉に大豆粉を合わせてあります。同じマメ科同士、相性が良いと思います。材料だけを見ると、まるで葛で固めた豆腐といったところ。大豆にもイソフラボンが豊富に含まれることはよく知られていますね。こちらも小麦粉不使用で、グルテンフリー生活をする方にも喜ばれています。

しっとりときめが細かく、くちどけが良い独特の食感に仕上がりました。食べ応えがありながら、1個当たり184キロカロリー(プレーン)とヘルシーです。非常に良い商品に仕上がったと、とても気に入っています。

バターの風味が良いプレーン
チョコチップの食感がアクセントのチョコレート
バターの風味が良いプレーンとチョコチップの食感がアクセントのチョコレートの2種。
食べ応えがありながら、1個当たり184キロカロリー(プレーン)とヘルシー
小麦粉や米粉では出せない独特の食感で、くちどけが良くしっとりとした舌ざわり。
小麦粉や米粉では出せない独特の食感で、くちどけが良くしっとりとした舌ざわり。

―斬新な葛の使い方提案をこれからも?

井ノ上 「グルテンフリー」のキーワードは、目指したわけではなく偶然にたどり着いたものですが、喜ばれる方、求めていた方が多くて驚きました。そこで「葛粉と米粉のパンケーキミックス」を開発しました。小麦粉にも、米粉100%にも出せないふんわり感で人気商品となりました。

「吉野本葛研究所」で研究を重ねてきた、葛由来の乳酸菌も製品化できました。中部大学の林京子先生と一緒に行っている研究では、免疫賦活作用や抗ウイルス作用などがマウスを使った実験で確認できています。タブレットやゼリーなど気軽に始められる商品としました。

日本の伝統的な食文化に欠かせない吉野本葛を絶やしたくないと思って始めた数々の活動ですが、葛の活用が、健康面での社会貢献にもつながることがわかり、ますます力が入っています。

―葛への想いをお聞かせください。

井ノ上 和食は、日本人のアイデンティティを作り出すものだと思います。「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、日本らしさを食で表すのに、葛は欠かせません。例えば、椀物には山海の恵みが凝縮していますよね。とろみでいえば、なめらかな舌触りと艶やかな透明感を出せるのは葛だけなのです。詫び、寂び、奥ゆかしさ、四季を楽しむ心……1300年続く日本食の歴史を脈々と受け継ぐ、葛はその一助を担っているつもりでいます。

先述したように、自生する葛は減り、山で葛を掘る掘り子さんも少なくなっていますから、自社の畑で栽培する取り組みを始めています。

まずは、葛スイーツを楽しんだり、とろみづけを葛粉に変えたりといったところから、吉野本葛に親しんでいただけたら嬉しいですね。

お茶時間のお供に、葛スイーツを。
お茶時間のお供に、葛スイーツを。

―素晴らしいお話をありがとうございました!

「葛もち 6個入」

「葛もち 6個入」
価格:¥1,296(税込)
店名:吉野本葛 天極堂オンラインショップ
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kudzu.jp/SHOP/q0007.html
オンラインショップ:https://www.kudzu.jp/

くずの子パウンド[ミックス]10個入

「くずの子パウンド[ミックス]10個入」
価格:¥3,424(税込)
店名:吉野本葛 天極堂オンラインショップ
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kudzu.jp/SHOP/J0019.html
オンラインショップ:https://www.kudzu.jp/

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>
井ノ上昇吾(株式会社井上天極堂 代表取締役社長)

1989年に家業を継ぎ、「井上天極堂」の5代目として代表取締役社長に就任。吉野晒の製法はそのままに、時代に合わせた変革を進め、品質管理課や冷凍葛切り製造ラインを新設。天極堂奈良本店などアンテナショップの開店、葛由来の乳酸菌の研究など、葛の魅力の発掘・発信にも取り組んでいる。また、山のネットワークを活かし、御所市内でも農家さんと協力して山芋やよもぎの栽培・加工にも注力。今後は、葛事業を葛地区の活性化にもつなげていきたいと考えている。

<取材・文・撮影/植松由紀子 画像協力/井上天極堂>

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