地元大豆の在来種で豆腐を作りたい。その情熱で人が繋がり種を発掘し、甘みと旨みをたっぷり感じる豆腐作りに成功。その立役者は、生まれながらの豆腐屋……ではなく、意外な経歴の持ち主でした。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった有限会社三木食品工業 代表取締役社長の近藤正洋氏に、取材陣が伺いました。
奈良県在来大豆の甘みと旨みを堪能できる「大鉄砲の贈り物」
2023/06/20
有限会社三木食品工業 代表取締役社長の近藤正洋氏
―「大鉄砲」とは大豆らしからぬインパクトの大きい名前ですね。
近藤 そうでしょう?名前の通り、豆のサイズが大きいのが特徴です。大粒でも味はびっくりするほど甘くて濃いんですよ。それでいて脂肪分が少ないので後味はすっきり。豆乳にしても豆腐にしても、他に類を見ない味わいだと自負しています。
一般的な大豆に比べて格段に大きい大豆「大鉄砲」。
―大鉄砲豆腐第1号完成までには、発案から4年もかかったとか。
近藤 発端は、2016年に奈良県産食材を使うことが条件のフードイベントに出店したことです。揚げ出し豆腐とスンドゥブを出したのですが、三木食品は奈良で豆腐を作っているので奈良県産豆腐は条件を満たしてはいる。しかし原料である大豆が奈良県産でなかったのが引っかかりました。
そもそも奈良は豆腐伝来の地とされています。案外と知られていませんよね。その奈良で豆腐屋を営んでいるからには、奈良県産の大豆で豆腐を作りたいと考えました。
大鉄砲寄せ豆腐。
奈良の在来種「大鉄砲」の上品な風味と甘みをストレートに感じられる。
―三木食品の歴史と近藤社長のことをお聞かせください。
近藤 三木食品は、私の妻の祖父がアイスクリーム屋として1948年に創業しました。しかし祖父は早くに亡くなって義父が後継。時代を見据えて豆腐屋へと転換したようです。その義父が60歳になろうという頃、後継者問題が持ち上がり、三姉妹の長女である妻の夫(私)に白羽の矢が立ちました。
私は大学まで野球一筋。けがを機に野球を諦めたころ、妻と出会いました。結婚し子どもも生まれ、スーパーマーケットの会社でやりがいのある仕事に就いていました。豆腐屋の娘として育った妻は、しんどい面も知っているので、継ぐことに大賛成というわけでもなかったようです。
1年悩みました。決め手は、商売やものづくりへの興味ですかね。新しいことへの挑戦にワクワクする気持ちもありました。豆腐に関しては全くの素人でしたので、入社後は勉強と修業の日々でした。昔からいる職人たちに認めてもらうまで必死でしたが、これと決めたらまっしぐらの性分、野球で培った根性も手伝って、苦労とは感じませんでした。
―経営面の課題は?
近藤 豆腐業界全体が厳しい状況にありました。戦後は全国に5万軒ほどあった豆腐屋は、9割以上が淘汰され、大量生産を行う大手と、できたてを届ける個人商店の二分化が進行。うちのような中堅どころが生き残る道を探る必要があると感じました。そんな頃ですね、奈良県産大豆で豆腐作りをしたいと思い立ったのは。
―どのような行動に移されたのですか?
近藤 まずは協力してくれる農家さん探しです。伝手はまったくありませんから(苦笑)、直談判したり、関係施設へ問い合わせをしたりと、手あたり次第。しかし、県内ではあまり大豆を育てておらず、環境的に難しいかもしれないということが分かったくらいでした。
あるイベントに参加した際、野菜ソムリエ上級プロとして活動する西野慎一さんに、初対面ながら藁にもすがる気持ちで「奈良で大豆を作ってくれる農家さんを知りませんか?」と相談。西野さんを通じて、「鎌田ファーム」の鎌田淳さんと出会うことができました。広い農地をもち、新しいことにも意欲的な鎌田さんは、私の話を快諾。アドバイザーの西野さん、農家の鎌田さんと、体制が整ったところに、魅惑的なワードがもたらされました。
大挑戦の協力者、鎌田淳さん(左)。
―というと?
近藤 どの品種を作ろうかと思案していたところに、「奈良には『大鉄砲』という在来種の大豆がある」という情報。見たことも食べたこともない大豆ですが、「大鉄砲」「奈良の在来種」この2つのワードに、一目ぼれにも近いようなときめきを感じて、「これで行くぞ!」と決めました。
しかし、どこにも種がない。栽培している農家さんも見つからない。もちろんあきらめずにリサーチを続けたところ、なんと、岐阜県の種苗会社に10kg残されていたのです。担当者は、奈良県の在来種であることも知っていました。
すべて買い取り、すべてを植えたのが2017年の6月でした。
念願かなって栽培を始めた奈良県の在来種「大鉄砲」。
―すべて植えたのですね。
近藤 早生か晩生かもわかりませんでしたが、勢いを止められませんでした。幸運なことに、11月末には360kgもの収穫に成功しました。豆腐にしてみたら、驚くほど甘くておいしい。滑り出しは上々でした。
栽培方法を試行錯誤する中で失敗もすれば、天候不良や雑草(外来種の朝顔等)の影響を受けることもある。順調ではありませんが、2反(約0.2ヘクタール)からスタートし、現在は100反(約10ヘクタール)に広がり、2021年で12トン、2022年は8トンの収穫量。想いだけで突っ走ってきましたが、協力者の輪は広がり、ひそかに大鉄砲を作り続けている農家さんと出会ったりもできました。「甘くておいしいこの種を、親の代から繋いでいる」「味噌にするとおいしい」「煮豆で食べる」など、自家用に作って消費している人が多くいました。
まだ安定して大量生産はできませんが、2020年からはECサイトで販売できるくらいの豆腐を作れるようになり、県内の蔵元にお願いをして味噌や醤油も作ってもらっています。
最初は畑面積の単位さえわからなかなった農業素人の私も、経験を積む中で随分と詳しくなり、多くを学びました。
大鉄砲を使った醤油・味噌を製造する蔵元、
豆腐を使う県内飲食店のシェフや料理長などを招いて
播種祭や成長を祝う枝豆収穫祭を行っている。
―大鉄砲の未来は?
近藤 もちろん、協力農家さんが増え、収穫量が上がることも大切ですが、もっと奈良県内に浸透して、県民食文化の1つにしてもらえたら嬉しいですよね。大豆製品自体が日本の伝統的な食文化ですし、奈良は中国から豆腐が伝わった地なのですから。
奈良の伝統品種として大切にすべく、「一般社団法人大和大鉄砲大豆振興協会」を設立し、「大和大鉄砲大豆」として商標登録しました。いろいろ野望はありますが、できることから1つずつ。
―大鉄砲豆腐の味わい方を教えてください。
近藤 「大鉄砲の贈り物」は、豆乳、寄せ豆腐、木綿豆腐、充填絹ごし豆腐、濃厚な充填豆腐に醤油ときな粉がセット。それぞれに味わいが違い、大鉄砲のおいしさを余すことなく味わえます。でも、まだまだ貴重な大豆のため、週1回(毎週金曜日)しか作ることができません。ですから、発送は金曜日限定でできたての豆腐を発送しています。
大鉄砲ならではの甘み、奥行きのあるうまみがありながら
すっきりとした後口の豆乳。
そのまま飲むもよし、デザートに使うもよし、
いつもの豆乳スープも格段においしくなる。
できたてをすくった生の寄せ豆腐。
そのままでも、塩だけでもいいが、「大鉄砲醤油」との相性は格別。
表面はしっかり、中身はふんわり柔らかい木綿豆腐。
煮崩れしづらく、麻婆豆腐や湯豆腐などにして食べ応えも十分。
「大鉄砲豆腐」は充填タイプの絹ごし豆腐。
キッチンペーパーに包んで5~6時間置くと旨みが凝縮されて一層美味に。
まったりと濃厚な食感と大豆の甘みをたっぷり感じられる「濃いとろ」。
冷奴ではとろりとした甘みが際立ち、
電子レンジで軽く温め塩とオリーブオイルをかけると
大豆の風味が強くなるなど、それぞれ全く別の味わいとなる。
中には日持ちのしない商品もありますので、贈り物には乾燥湯葉、きな粉、醤油の「手みやげセット」がおすすめです。
大鉄砲はどんな製品にしても本当においしい。大鉄砲にほれ込んだ私の主観ではないと思います。大鉄砲豆乳が、農林水産省料理人顕彰制度『料理マスターズ』によって、2021年のマスターズブランドに認定されたんですよ。
―御社の展望をお聞かせください。
近藤 「おいしさあなたへ」を基本理念として、中堅どころとしての豆腐づくりを続けていきたいと思っています。豆腐は職人の五感を大切に手作りし、でき上った豆腐を切って詰める作業は機械で効率よくといった具合です。実は、あまり知られていませんが、県内の学校給食用の豆腐の多くも作っており、妻も子どももそれで育ちました。安心安全に注意して真心こめて、時代に即した挑戦も試みながら実直に大豆と向き合いたいと思っています。
―これと決めたら直球勝負の情熱が縁をつなぎ、運を引き寄せたと感じられる素晴らしいお話をありがとうございました!
「大鉄砲の贈り物」(冷蔵/大鉄砲うすくち醤油200ml×1本・大鉄砲きな粉100g×1袋・大鉄砲豆冨(絹)400g×1丁・大鉄砲木綿350g×1丁・大鉄砲寄せ豆腐×1丁・大鉄砲濃とろ150g×2丁・大鉄砲豆乳500ml×1本)
価格:¥3,240(税込)
店名:三木豆腐
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付(毎週金曜日発送)
商品URL:https://mikitofu.official.ec/items/61862734
オンラインショップ:https://mikitofu.official.ec/
「手みやげセット」(常温/大鉄砲うすくち醤油200ml×1本・大鉄砲乾燥湯葉25g×1パック・大鉄砲きな粉100g×1パック・紙袋)
価格:¥2,000(税込)
店名:三木豆腐
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付(発送は随時)
商品URL:https://mikitofu.official.ec/items/69175583
オンラインショップ:https://mikitofu.official.ec/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
近藤正洋(有限会社三木食品工業 代表取締役社長)
1973年大阪生まれ。2008年に先代社長の娘婿として入社し、2021年代表取締役社長に就任。現在、奈良県在来大豆「大和大鉄砲大豆」の普及活動に奔走している。
<取材・文・撮影/植松由紀子 画像協力/三木食品工業>